【魔王2099 3.楽園監獄都市・横浜】  紫 大悟/クレタ 富士見ファンタジア文庫

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伝説の魔王――絶海の監獄島と化した“横浜”に降臨する!

統合暦2099年――奇怪なる未来世界にて、霧消した旧家臣の行方を追う魔王・ベルトールが降り立った次なる大都市は……
「判決――横浜市にて、被告人を、懲役2099年の刑に処する」
地殻変動によって陸地から切り離され、絶海の孤島と化した『横浜市』。外界からの干渉を拒絶し続ける“楽園”とも称される疑惑の島に、囚人として潜入したベルトールだったが……
「ここは神が管理する箱庭――世界平和を成す、最後の聖域」
魔王が辿り着いたのは“楽園”という名の“監獄”の支配者《父祖》が推し進める、想像を絶する最悪の計画だった――。
狂乱怒涛の楽園監獄都市に、魔王の新たな神話が刻まれる!


この作者さんの文章はよっぽど相性がいいのか、それとも本作特有のテンポが自分のリーディングのリズム感に合致しているのか、読み始めた冒頭から相変わらずのベルトールと彼の仲間たちの愉快な近未来ライフを見ているだけで、うふふと笑いが込み上げてきて楽しくなってしまった。
導入からこれだけ、うはは、なんかいいなあ、このまま一気に読みたいなあと思わせてくれる作品は気力が減衰してきた昨今ではなかなかお目にかかれないだけに、なんだか嬉しかったです。
でも、本作って2巻の発売からもう2年経ってるんですよね。2年ぶりの続刊ですよ!? 正直、もう続き出ないんじゃないかと思ってた。作者さん、新シリーズも出してるし。そっちも10ヶ月くらい前に一巻出してから音沙汰ないのですけれど。
せっかくの新人賞大賞作品なのにもったいないなあ、と思っていたんですが、なんとアニメ化という吉報を携えての帰還だったようで。いや、既刊2巻の段階でアニメ化決まったの!?
確かに映像化の素材としては世界観にしてもキャラクターにしても特一級のものがあると思うので、料理次第では相当な作品に成るんじゃないか、と期待しちゃうじゃないですかー。
まあ、料理次第でどんな作品でもすごい作品に成るのがアニメ化なんですけどね。その逆もしかり。

さて、本作3巻ですが……監獄編!! 前巻では学園モノになってたのに、今度は一点監獄都市への侵入ですか。この表紙の拘束具に包まれたベルトールだけでウキウキしてくるんですが。ビジュアルも映える魔王だなあ。
そして、魔王の牢獄への収監というお務め に今回付きそうのはマキナ、でも緋月、でもなくて高橋! 高橋って何気に毎回ベルトールについていってるので、これ皆勤? 現代に蘇ったベルトールが最初に出会った未来人であり、エーテルハッカーとして際立った腕前を持つ彼女を、ベルトールってちょっとびっくりするくらいリスペクトしているし、本人の偉そうな態度で霞がかってますけれど全幅の信頼を置いてたりするので、この監獄都市横浜に彼女を連れていったのも、まあタイミング的に高橋が側にいたというのが一番大きいんだろうけれど、いつでもどこでもどんなヤバい場所でも高橋連れて行くというのはそれだけ見込んでるんだろうなあ。
しかし、今回の一件は高橋にとっては試練となる事件でした。どこかふわふわと楽しさ優先でベルトールにくっついて魔王の配下となって彼の巻き起こす、或いは巻き込まれる事件にクビを突っ込んでいた高橋ですが、ある意味仮想ではない現実と、現実に生きる人と向き合う覚悟を突きつけられた事件だったんですよねえ。
誰かと親しくなること、友達になることは楽しいことだし、親身になって友情に寄り添うのは心地よいことだ。でも、誰かと親しくなるということは、時としてその人と別れなければならなくなったときに、その悲しみを痛みを辛さを受け止めないといけなくなる。直面したネガティブを、しかし相手を想うからこそ蔑ろにはできない。
世界を支配しようという魔王の配下となるのなら、ベルトールの心意気についていくのなら楽しいことだけを味わってはいられないのだろう。この世の理不尽と戦うにしろ、違う価値観と争うにしろ、その過程で失われるかもしれないものを直視しなければならない。大事に思ったからこそ、目を背けられない。
高橋はこれからも、楽しさを心情にベルトールについていくだろう。でも、この横浜で得た出会いと別れを彼女は一生忘れないはずだ。わずかな時間だけの交流であり、ほんの少しだけ交わった姉妹だったかもしれないけれど、それは高橋にとっての宝物のような思い出になるのだろう。傷として膿まずに済みそうなのは、あの妹ちゃんの健気さと高橋の強さと、黒竜候シルヴァルドのお姉ちゃん力のおかげなのだろう。……シルヴァルドってわりと真面目にベルトールそっくりですよね。姉弟とはいえ義理であり、血の繋がりなんてないのに。性格というか、優しさと言うか面倒見の良さというか。面倒臭さとか往生際の悪さとかしょうもないところも似てますがw 
なんにせよ、今回のお話の主人公は高橋だった、と言い切ってしまうには他の面々も自己主張強いのであれですけど、高橋ちゃんの大舞台だったのはまず間違いなく。
ちなみに、他者と向き合うという意味では高橋のみならず、ベルトールも今までの自分の在り方に対して自問自答せざるを得ない、意識の変化を促される一件だったんでしょうね、今回。
ベルトールって味方身内は元より、敵であろうと称賛と尊重を厭わない男なんだけれど、支配者側のものとして長きにわたり君臨しつづけた魔王であるからこそ、自分の耳目に引っかからないような有象無象に対しては、それこそ意識すら傾けない空気のように扱ってきてたんですよね。それが自分の支持者であり、恩恵を与えてくれる相手であろうと。
しかし、この横浜で神となろうとした男の、自分の信徒たちへの無体を通り越したモノ扱い以下のそれを目の当たりにし、その男の目指す方向性が或いは自分が魔王として世界を救うために目指していた境地と合致していたがために、その男の在り方の醜さ、おぞましさ、浅はかさ、見下げ果てた愚かさには思うところがあったんでしょうね。こんな男の望みによって、大切な仲間となった少女が夢見た未来も希望も友情も何もかもが踏みにじられてしまったのを、目の当たりにしてしまった以上、尚更に。
すべての事が終わったあと、ベルトールが自分の配信を見てくれて恩恵を与えてくれている視聴者たちに、長い長い思索の果てに放った一言は……うん、胸に響くものがありました。
ベルトールという人物がさらに好きになってしまう深みでありましたなあ。

やっぱり、ベルトールって魔王なんだけれど、むしろ侠の人だよなあ。だからか、本来はライバルであるはずの勇者グラムとも実はめちゃくちゃ相性いいんですよね。グラムくんもあれ、義侠の人ですし。
今回、同じ牢屋に放り込まれてほぼ最初から共闘となってましたけれど、魔王と勇者にも関わらず…まあ二人共思春期の男の子じゃなく修羅場を何度もくぐり抜けた大人なだけに感情的な対立なんてやらないくらいには大人なんですが……そもそもその感情的な反発とか生理的に相容れないとかいうところが生まれないんですよね。ベルトールも変に嫌味言わないしグラムも変に反発しない。というか、ベルトールってグラムのこと相当に気に入っている風ですしグラムの方もベルトールはかつて敵だったけれど、別に感情的に嫌っているわけでもないので……いや、普通に仲良くないですか? まあグラムの方は馴れ合わないようには律してますけれど。……いや、二人共めちゃくちゃ大人気なく取っ組み合いの喧嘩してるな。しょうもないことで喧嘩してるな。感情的に反発してるな。めっちゃ嫌味言ってるな。……全然ガキだな、この二人w
まあ、戦闘での相性もピッタリなようで……なんか相棒感すら生まれていて、この魔王勇者コンビって見てるだけで眼福だったんですが!?

と、監獄サイドのワチャワチャしながらドタバタした騒がしさも楽しかったのですけれど、残されたマキナと緋月の方も結構ドタバタといろんなことに遭遇することになってて面白かったんですけど。
特に混雑したラーメン屋で、次々と1巻・2巻のそれぞれの敵だった子と相席になり、一触即発の雰囲気になりながらも、それはそれとしてまずはラーメンを食べなくては。この修羅場というべき状況に備えるためにもまずはラーメンを食わねば、というひたすらにラーメン優先の錯綜した緊迫感がなんかもう面白くて面白くて。こういうシーンさらっと書けるの、素晴らしいセンスだと思いますわよ。
もう大好き。

そして、クライマックスのみんなが同じ感情を共有して、マキナと緋月は外に居て蚊帳の外でしたけれど、彼女たちも巻き込んでど迫力にして大スケールの総力戦という展開の大盛りあがりっぷりですよ。実にテンションあがりました。

あんまりシルヴァルドについては書けなかったけれど、この子もいきなりどーんと凄え存在感で並み居る面々のど真ん中に居座ってきただけに、今後色んな意味で活躍してくれそう。
しかし、これで話に関わってくる主だったメンツは揃った感じなんだろうか。バックで動いている勢力もそれぞれ見えてきた感もありますし、こっからシリーズ、ガンガンエンジン吹かして加速していって欲しいんですけれど。ちゃんと続き出てほしいなあ。アニメ化ですから、その放映に合わせて新刊出してきますよねえ、これ?