【シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する】  紙城 境介/しらび MF文庫J

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真実を、競い合え──!

増加する凶悪犯罪に対抗し、探偵という職業の必要性が飛躍的に高まった現代。
日本で唯一「国家探偵資格」を取得できる超難関校・真理峰探偵学園に今年、とある少年と少女が入学する。
一人はかつて〈犯罪王〉と称された男の孫・不実崎未咲。
もう一人は〈探偵王〉の養女・詩亜・E・ヘーゼルダイン。
宿敵同士の末裔二人が、ここに邂逅したのだ!
そして始まる学園の日々。早速入学式から模擬事件が発生!?
しかも、一番先に正解したはずの詩亜よりなぜか不実崎の方が点数が高くて──
「私は──あなたに挑戦します!」
「後悔すんなよ、お姫様」
これは、真実を競い合う新たな学園黙示録。最高峰の知的興奮がここにある!


わははっは、こいつはとんでもねー承認欲求モンスターだぁ!

ミステリーである。

【継母の連れ子が元カノだった】でキレッキレの青春劇を描いている紙城境介さんですが、その他の著作・シリーズはわりとミステリー調の作品が多かったりスルんですよね。ただ、それらはあくまで本筋の中にミステリー、謎解きの要素が多分に盛り込まれていたり話の根幹に関わっていたり、なんて感じではあるのですけれど、ミステリーそのものを主題とした話ではなかったのでした。
いやデビュー作の【ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件】はあれはファンタジー世界ですけれど、ミステリーだった気もしますが。
ともあれ、紙城境介さんが本格的に現代を舞台としたミステリー作品として送り出してきたのが星海社 e-FICTIONSから出版された【僕が答える君の謎解き】でした。これもめちゃくちゃ面白い作品だったので特にオススメ。
そして、改めてこの本作が送り出されてきたんですが、いわゆる日常ミステリーの範疇だった【僕が答える君の謎解き】に対して、この作品の世界観はまさに大探偵時代という探偵が世界を廻しているかのような世界……なんか、往年のメフィスト系のちょっとトンチキ入った新本格の波動を感じるぞ!w 
真面目に探偵学園なんてシステムが機能してるとか、どう考えてもトンチキな世界じゃないですか。それ以上に、この探偵学園の運営方針というかやり口がまたぶっ飛んでいるのですが。いや、そこまでしますか!? というような内容を実施するのは元より……ちょっと逆転裁判の世界を思わせるような仕組みなんかもあって、あのゲームの裁判中に鳴り響く特徴的な効果音が作中でなんどもアタマの中で鳴ってたんですよねえw
なんか特別に開発された探偵道具なる未来アイテムまで普通に存在していて、いやマジでどんな未来を生きてるんだ、この世界の人達は。
この探偵学園という突拍子もない学校の、途方もなく巨大で強大で権威と権力を持ち、しかしその中で生徒たち誰もが自由でありしかし常に研鑽を要求される、どこか自立を余儀なくされるこの箱庭の造形って、紙城さんの作品の中で今まで培われてきたものでもあるんですよね。
【最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ】の百空学園であり、【転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?】での王立精霊術学院であり。
力量の満たない者は容赦なく削ぎ落とされていくシステムは、これも紙城さんの作品の中でよく垣間見えるんですけれど、将棋の奨励会を想起させられるんですよね。
【最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ】のヒロインである真理峰桜なんか、元女流棋士だったりしますしね……って! この探偵学園の名称、真理峰探偵学園じゃねえか!!?
今気づいたよ!!

本作が非常に面白いのは、本文中で事件のヒントとなる文章はフォントが太字で書かれている、というところでしょう。これ、明確に読者も謎を解いてみませんか、という挑戦状になってるんですよね。謎の方もあくまでロジカルに、そのヒントを辿って謎を紐解いていくと答えにたどり着くようになっている。若干、ロジカルに寄りすぎて推理のダイナミックさよりも、パズルのピースを埋めていくような、或いは犯人の言い逃れの余地を消していくだけの穴埋めになっているので、事件の真相に対して「な、なんだってーー!?」と度肝を抜かれるタイプのミステリーにはなっていないんですけどね。
こればっかりは、学園のシステム上の問題、というべきか。実際、論破合戦という学校行事の範疇から外れた「真実」には、正直頭の片隅にもなかったんで驚きにぶっ飛びましたもんね。
それはともかく、このフォントを太字にというやり方はミステリーを楽しんで欲しい、という思いがダイレクトに込められているようで、実にワクワクしてしまいました。いや、全然解けなかったんですけど。
フォントを変える、というのは【僕が答える君の謎解き】の方でもやっていた試みなんですが、あっちはまたアプローチの仕方が全然違っていて、うんそりゃ答えから逆算して推理の過程を推理していくという内容でしたから、違って当然なのですが、ともかくこういう試みは作者の労力大変かかると思うんですけれど、だからこそ素直にすげえなあ、と思います。

さて、そんでもってやっぱり物語が躍動するのは登場人物に魅力あってこそ。
犯罪王の孫として、幼い頃から周囲の偏見と差別に苦しんだ果てに、自らが探偵となって世界の不実に立ち向かおうとする主人公・不実崎未咲と。
探偵王の過酷な試練を乗り越えて幼女…じゃなくて養女の座を勝ち取り、【クイーン】と呼ばれる世界的名探偵の指導を受けたエリート中のエリート探偵として探偵王女と呼ばれる詩亜・E・ヘーゼルダイン。
いやー、未咲くんはともかくとして、シアちゃんですよ。王女様、お姫様と呼ばれるに相応しい気位の高いお嬢様キャラなのかと思ったら……その内面が暴露、そう暴露である、地の文でもって明らかになってしまったときの衝撃たるや。
思わず冒頭の叫びである。
うはははは、すげえポンコツ臭。初っ端、未咲に鼻っ柱を折られて泣きながら逃げていったシーンは芸術点非常に高かったですw
ただ、彼女が決して上っ面だけの名探偵ではなく、本物…まさに本物のライトスタッフであり、既に探偵学園に入学する前から事件現場に立つ本物の名探偵であることを、度々ごく自然にその能力を閃かせることで見せつけてくれるんですよね。
むしろ、変に考えずに瞬発的に事件を嗅ぎ取ったり、観察眼を働かせたり、推理を閃かせたり、とした時のほうが冴え冴えと詩亜・E・ヘーゼルダインという少女の凄味が垣間見えるんですよね。
お陰で、一旦こいつホントに大丈夫カ? とポンコツにしか見えなくなったところからの挽回に圧倒されたくらいで。未咲も、入学式の推理でこいつに勝てたのは偶々だったんじゃないか、とあっけに取られ、戦慄するほどにシアの本物としての凄味は伝わってきたのである。
だからこそ、未咲が一方的に助けるんじゃない。探偵として論理的な推理の王道をゆくシアと、犯罪者の側から探偵には見えない視点から事件を紐解いていく未咲の、お互いに得意な分野を、手の届かない分野を補い合う息ぴったりのタッグが誕生したんですよねえ。
それは、探偵学園の基本理念?なんだろうか。探偵は、事件に一人いればいい。これに真っ向から立ち向かうような、片翼同士の探偵二人。
うふふふ、いいなあこの二人。

しかし、それぞれ探偵に渾名みたいなのがあるのはいいんですけれど、黒幕探偵とか完全に探偵じゃなくて犯人サイドなんですけど!? そして、なんか思っていた以上に本格的に渾名通りのガチだったじゃないですか。
いや、正直この生徒会長さん? ちょっと遠いところからメインの二人の動向を見下ろしながら眺めている、というポディションの人だと思っていたのですけれど、完全に正面に居たのにそれが死角になっていて、急所を一突きされたような不意打ちでしたよ。
これ、場合によってはダブルヒロインになってもおかしくないんじゃないですか?

まだ序の口も序の口、導入編でありプロローグであり、入学試験であり、新入生歓迎会であり、つまりまだまだ始まったばかり。この物語は、この世界は、そして彼ら登場人物たちは、

これだ!!

というのを示したばかりの第一巻なんですよね。だから、本当に物語が動き出すのは、この探偵学園という庭の本当の姿が見えてくるのは、次からなのでしょう。いやー、ドキドキしてきますね。