【さぁ、悪役令嬢のお仕事を始めましょう 元庶民の私が挑む頭脳戦】  緋色の雨/みすみ PASH!文庫

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妹を、そしてこの世界を救うため庶民の私、悪役令嬢はじめます。

余命わずかな妹を持つ庶民の少女・澪。
しかし、ある取り引きから澪の人生は一変する。

「わたくしの代わりに悪役令嬢になりなさい。そうしたら貴女の妹を助けてあげる」

財閥御用達の学園に入学し、良心と葛藤しながらも悪役令嬢を演じると決意した澪。
ところが、自分を断罪するはずの雪城財閥の子息・琉煌には、なぜか澪の素性がバレているようで……!?
全てはみんなの幸せのため。泥臭く走り回る澪に、破滅の日は訪れる……のか?



破滅するのがお仕事です。

悪役令嬢が主人公となる物語ではその多くが原作ゲームのシナリオ通りに進むと破滅してしまう運命を覆すため、悪役令嬢に転生してしまった主人公がシナリオをひっくり返していく、というストーリーとなっていますけれど、中には様々な理由から原作のシナリオ通りに悪役令嬢として破滅しようとするお話も結構あるんですよね。
一つの物語のジャンルが隆盛を極めてスタンダードが確立してくると、そのスタンダードを踏まえた上でそこから外すことで新味を出す流れが出てくるんですよね。そうして分派した流れもいつしか太さを増していき、派生として新たな枝を生やしていく。

本作は悪役令嬢として転生した主人公が、敢えて原作シナリオを遵守して自らの破滅を目指す物語の枠に属する作品なのですけれど、他と決定的に異なるのが主人公となるのが原作のゲームの存在を元々知らなかった庶民の娘であるということ。その彼女が、本来の悪役令嬢の依頼によって代役を引き受けて、ゲームのシナリオ通りに破滅するまでを演じきることを求められているのですね。
三年間の悪役令嬢の代役を引き受ける報酬は、難病で余命幾ばくもない妹を最新の治療法の治験対象にしてもらうこと。なにしろ、最愛の妹の命がかかっているので、主人公澪の覚悟はガンギマリである。
なんとしても、本来の悪役令嬢、紫月お嬢様のオーダーを達成しなければならないと、上流階級の人間として相応しい教養や最高峰の学舎に通うに足る学力を身につけるための詰め込み教育にも耐えきり、財閥子女としての振る舞いを……それも悪役令嬢として他を圧倒する威風を身に着けた令嬢としての振る舞いを身に着けていくのである。
しかし本来は善良で心優しい少女だ。原作のシナリオ通りに振る舞うからにはゲームのヒロインとなる少女をイジメ、追い詰めていかなければならない。ともすれば、自分と似た境遇であり努力家で前向きで善良で、とどう見てもイイ子でしかないヒロイン、乃々歌に辛くあたるのは澪自身も辛いなんてもんじゃなく、ひどく傷ついていっちゃうのが、読んでいるこっちまでつらくなってくるんですよね。
幸いにして、澪を悪役令嬢にした紫月お嬢様は単に自分の身代わりとして澪を人身御供にしたわけじゃなく、明確な理由があって澪を代役にして、彼女にシナリオ通りに破滅するまでをやり通すように依頼しているので、決して澪を苦しめるのは本意ではなく、ゲームについてもちゃんと澪と情報共有してくれているし、サポート体制も全力で敷いてはいてくれている。
どうやら、シナリオ通りに破滅したからといって、澪の将来未来が本当に破滅するわけではないようで、その代わりになにか自身にまつわる不穏な台詞を漏らしているので、むしろ紫月お嬢様の方が微妙に心配ではあるんですけれど。
澪としても、シナリオが破綻して自分が破滅しない場合。正確にはヒロインの子が攻略対象とちゃんとハッピーエンドを迎えないと、とてつもない金融不況が発生してしまい妹の治療法の確立にまで影響が及んでしまうという事情があるので、澪自身としてもシナリオのオーダー達成は至上命題なんですよね。

しかし、そもそも悪役令嬢を演じる人物が入れ替わっている、という所に無理があったのか、入学式初っ端からイレギュラーな事態が発生しまくってしまう。これ、決して澪のミスと言えないものも多く、ちょっと澪のアドリブでも修正しきれない破綻が次々と起こっちゃうんですよねえ。
紫月お嬢様も頭を抱える事態である。最終的にヒロインと攻略対象が結ばれればイイ、と結末さえ良ければ、と判断してしまうのも危険なだけに、難しい事態が続くんだけれど、それでもどうやってもシナリオ通りに進まなくなっている以上、臨機応変に対処していかなくなり、紫月お嬢様と側近のメイド・シャノンさんとともに必死に相談しながら対処していく日々。
何しろヒロインの乃々歌がメンタルおばけ。澪が何度も突き放すように辛辣に当たっても、全然めげないし好意的に解釈して余計に懐いてしまう始末。いやまあ、澪の方も厳しく辛くあたりながらも理不尽だったり不必要に貶めるような物言いはしてないので、好意的に解釈できなくはないんだけれど、それでも全然堪えてないあたりメンタルおばけだよなあ。むしろ、言った方の澪の方が毎回心にダメージ受けてるんですよね。どれだけメンタルすり減らしてイジメようとしているのか、わかってくれないんですよねえ。いや、わかってもらってはそれはそれで困るのですけれど。

お仕事として悪役令嬢を引き受け、与えられたオーダーをクリアしながら、ゲームの世界だというこの世界でも特異な空間である上流階級の学校の中で、愛する妹のために全霊をかけて破滅を目指す元庶民の主人公。
実は悪役令嬢の代役を引き受ける前に知り合ってしまっていた攻略対象の人が居たり、実は偶々紫月は澪に目をつけたわけではなく、何がしかの思惑あって澪を見つけ出したのではないか、という疑惑があったり、とまだまだ面白い要素が燻っていて、ここからの展開も面白そうなんですよね。