【灰原くんの強くて青春ニューゲーム 1】  雨宮和希/吟 HJ文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
大学4年生→高校入学直前にタイムリープ!?

高校デビューに失敗し、灰色の高校時代を経て大学4年となった青年・灰原夏希。社会人目前だった彼はある日突然、7年前――高校入学直前まで時を遡っていた!!
後悔しかなかった高校生活の「やり直し」の機会を得た夏希は、過去の経験を活かして見事クラスカースト最上位な美男美女6人グループの一員となることに成功!
しかもそこにはかつて片思いしていた美少女・陽花里の姿もあって……!?
無自覚ハイスペック青年が2度目の青春をリアルにやり直す、強くてニューゲーム学園ラブコメ!

7年ってついこの間じゃん、と思ってしまうのは年寄りの悪いクセである。
とはいえ、タイムリープするにしても大学卒業して就活して社会人になろう、というタイミングで高校入学前に戻る、というのは結構中途半端な時期なんじゃないだろうか。社会人を経験しているのとしていないのでは、やっぱり精神面で違いが出てきますからね。……いや、大学での過ごし方次第でもあるのでここでガンガンばりばり勉強やら研究やら、あるいは遊びやら海外旅行でも何でもイイけど、本気で取り組んでたら心の持ちようというのはそれ以前と違ってくるんでしょうけどね。
ともあれ、この灰原くんは高校での失敗を引きずりながら大学は無難にこなしていたみたいで……いや、ほんとにかなり無難にというかちゃんと普通には大学生活送ってるじゃないですか。深い付き合いの友人関係は出来なかったみたいですけれど、普通に交友関係は広げてたみたいですし大学での勉学も就活もしっかりやってますし。
高校時代のことで深い後悔を抱いていながらも、それがその後の日常生活対人関係に支障が出るまでのものではなかったのか、或いは何だかんだと自力で立て直していったのか。
自分なら、もう二度と就活とかやりたくないので、就活が終わった段階でタイムリープとか正直死にたくなりますけどね!!
何にせよ、この灰原くん。ニューゲームとはいえ、言うほどスペックあがったり経験豊富になってたりってわけでもないように見えるんだよなあ。中学卒業から高校入学までの短い間に体鍛えたり身だしなみ整えたりと基本スペックをあげて高校デビューに挑んでますけれど、彼の回想を聞いているとどうも彼って元々基本的な能力高そうなんだよなあ。いわゆる一周目でも、高校で初めて入ったバスケ部で普通に上手くなってたみたいだしなあ。
そもそも、彼が一周目で失敗したのはどうも対人コミュニケーションにまつわるものっぽいんですよね。どうも詳しい事情、実際いったい何があったかについて語られないので灰原くんの独白や一周目での竜也の台詞から推察する他無いのですが、空気を読めなかったとか、他人の気持ちを察せられなかったとか、独りよがりになってしまったとか、そんな雰囲気なんですよね。
そのせいか、高校デビューのあと仲良くなったグループで灰原くんは、特に友人達の振る舞いや彼らの発言を常に注視していて、考察を欠かさず、自分の発言が与える影響やなにやらを常に意識し続けてるんですよね。
いや、これはまだ知り合ったばかりの相手に対してはむしろ常套。当たり前のことだと思うのですし、灰原くんの気持ちの根底には竜也たち含めて彼のグループの面々と本心から仲良くしたい、彼らと青春時代を過ごしたいという真っ直ぐな思いが籠もっているのもあって、慎重に的確にでも上っ面だけじゃないコミュニケーションで、ちゃんと竜也、怜太、星宮、七瀬、佐倉というクラスのハイエンドグループの仲間の一員になっていくわけだ。
ただでもね、気をつけただけでもう一度やり直した時すんなりと行くかというと、そんな簡単なもんじゃないんですよね。何より灰原くん、高校時代何が悪くて大失敗をやってしまったのかの自己分析をしてない……のかはわからないですけれど、自分の何がいけなくて周囲から嫌われてしまったのか、その原因をピックアップして克服あるいは修正している様子は見受けられなかったんですよね。あくまで基本スペックをあげているだけでしたし。
大学時代の四年間で灰原くんが明確に自己変革した、とか成長したとか、経験値が増えて前よりも人間的に成長した、という話はありませんでしたし。つまるところ、灰原くんの根本的なところはタイムリープする前とまだ何も変わってないんですよね。
変わったものがあるとしたら、あの後悔をやり直したくないという強い思いとその為に今度こそうまくやりたい、というよりも竜也と今度こそ本当に友達になりたいという願いからくる決心。前に進む勇気こそが、前回との相違点なのだろう。
でも、灰原くんの欠点というべき部分、また本来の陰キャとしての性質や一度失敗している事からくる自信の無さ、明確な弱さが常に彼には付きまとってるんですよね。
それが危うさとも脆さともなって、二度目の高校時代で万能超人みたいになりながら、どうしようもない下手くそさ危なっかしさをともなって、ハラハラさせられてしまうんですよね。そのあたりが、灰原くんに嫌味を感じないところなのかもしれませんが。
そんな彼を陰から支え続けるのが、中学時代は疎遠だった幼馴染の美織なのである。ギブ・アンド・テイクの協力関係を謳いながら、彼女の果たした役割はあまりにも大きく一方的だ。前回の高校時代との最も大きな相違点は、彼女との交流が復活したことで間違いないだろう。
本来のあまりにも弱い灰原という少年の素を知っている彼女だからこそ、灰原くんがどれだけ頑張っているのかも無理しているのかもわかるんですよね。ってか、灰原くん、あんまりにもあんまりにも自分の脆弱なセンシティブな部分を美織にさらけ出しすぎなんじゃね? さらけ出すどころか、思いっきり触らせてすらいるんですよねえ。美織の方も、励ますにしても支えるにしてもその踏み込みというか距離感はちょっとエグいくらいだと思うんですけど。
はたして、恋人同士でもここまで繊細な部分まで触れるかという所まで詰めちゃってましたからね。あなたたち、本当に中学時代疎遠だったんだろうか。
ちょっとびっくりするくらい、あの灰原くんが挫けそうになった時の美織のシーンでのこの二人の特別感が強くて、将来的に一番大きな波乱の種って、灰原くんに恋しはじめている佐倉詩よりも、まさにここなんじゃないだろうか、と思えて仕方がない。
いずれにしても、現状では灰原くんも美織も、お互いのことを異性として意識は全くしていないのは間違いないのは理解しているのだけれど。
最後、色々と自分のこと、自分の素の部分をみんなにぶっちゃけたことで、美織だけが灰原くんの本当の顔を知っている、という要素は急速に消失していくんだろうけれど、ちょっとそれだけではこの幼馴染の関係には消えない距離感がこのあともずっと残りそうなんだよなあ……どきどき。