【狐と戦車と黄金と 1 傭兵少女は赤字から逃げ出したい!】  柳内 たくみ/叶世 べんち KADOKAWA

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『ゲート』柳内たくみが贈る圧巻の異世界マネー×ミリタリーバトル!

傭兵として戦っても、赤字にしかならないことに虚しさを覚える狐娘フォクシー。大金が手に入るらしい伝説のプレートを追うフォクシーと仲間達は、交易でカネを稼ぎつつ戦車に乗って旅をしていた。訪れた街で、誘拐されていた少女レオナを偶然助けた一行は、彼女がプレートの情報を持ち、かつ商売に長けていることを知る。救出の礼としてレオナのキャラバンに招待されるフォクシー。しかし突然、傭兵集団の襲撃を受け、キャラバンが壊滅してしまう。復讐に燃えるレオナは、武力では敵わない敵をカネで倒すことを決意。商品取引所を舞台に緊迫のマネーバトルが展開されるなか、別行動のフォクシー達も、相場を動かす重要な情報を入手していて――

ナナヨンこと74式戦車はいい戦車です。めっちゃイイ戦車です。なにより見た目がカッコいい!! まずもって見た目がカッコいい!! あれって戦車というデザインにおける理想形なんじゃないか、と思うくらい機能美の粋で、美しいんですよね。
もう好き。
正直、戦車の中で一番見た目好きです。惚れ込んでますねえ。

そんな74式をお手馬として乗るなんてお目が高い!

さても、鉱山から旧時代の戦車が発掘され、それを魔改造キメラ補修されたものが世に出回り、戦車傭兵と呼ばれる連中の愛馬として運用される世界。
いや、仮にも近代兵器の技術の塊である戦車を個人で所有して運用するって、どんだけ金掛かるんだよ!って話である。実際、戦車を駆る傭兵たちの大半が運用コストでヒーヒー悲鳴をあげているようで。自転車操業が普通になっちゃいますよね、これ。
はじめは稼ぐために戦車に乗って戦っていたのに、いつの間にか戦車を維持するために戦車に乗って戦って稼ぐ、という手段と目的が逆転してしまっていて、それに気づいていても足抜けできなくなる、という戦車傭兵たちの悲哀が語られる。
戦車ってものはただ走らせるだけでも壊れるもの、と知られるのに、戦車傭兵ってその戦車を使って戦車同士で戦うんだぜ。戦車運搬車で移動するわけじゃなく、戦車そのもので移動してるわけだし、維持費想像するだけっで変な笑いが込み上げてくる。これ、個々人の給料手取り分とか出るんだろうか。
話聞いているだけでも、元々の戦車の性能を維持することも出来ず、劣化部品で代用して体裁だけ整えるチームの多いこと多いこと。そんな中で、部品などもできるだけ正規品に厳選して、オリジナルのナナヨンに近い状態を維持しようと拘っている主人公チームの意識の高さがうかがえる。
他の戦車傭兵の大半が単に自分達の乗る戦車を振り回す武器として扱っているど素人の延長なのに対して、フォクシーたち三人は「師匠」と呼ばれる人物の薫陶もあるんだろうけど、間違いなくプロの戦車兵としてナナヨンを兵器として運用する技量と見識の持ち主なのである。ただまあ、その分お高く付きますよ、てなもんで維持運用コストはガンガンあがって、その仕事のクオリティの高さに対していつも資金不足でヒーヒー悲鳴をあげているのですが。
傭兵仕事の報酬だけじゃなくて、相手の戦車ぶっ倒して、その残骸を売っぱらって資金を回収の足しにするのが戦車傭兵の常識になっているのが、世知辛いというべきなのかたくましいというべきなのか。
戦車傭兵が容易に盗賊崩れになる、というのもこの資金繰りが常識となると宜なるかな、ですわなあ。
そんな自転車操業を続けながら、フォクシーたちは自分達に戦い方を教えてくれて、ナナヨンという戦車を残して姿を消してしまった「師匠」を探してその行方を負う日々。ただ、支障がフォクシーたちの前から去ってしまった時の状況を鑑みると、その師匠を探し出してもとても戻ってきてくれる風には見えず、フォクシーたち自身も師匠に会ったとしてそれからどうするのかちゃんと考えているか、というとちょっと怪しいというかそこまで考えてないようにも見えるんですよね。
惰性、というほどネガティブではないにしろ、縁に縋って未練を追っているようにも見える。それは決して、彼女ら自身の未来将来への展望ではないのだ。
だから、師匠を知らないレオナという女性の存在は、何気にフォクシーたちの行く先に新しい風を吹き込ませるようにも思える。レオナ自身、なんていうかこうガツガツした性格で肉食系というかワイルドというかなんというか、アクティブな金持ちらしい牽引力と上流階級出身ゆえの視野の広さが相まって、フォクシーたちに指針みたいなものを示してくれそうなんですよね。
とはいえ、それは次回以降のお話。今回は陰謀により拉致られていたレオナをたまたま救出したフォクシーたちが、仲良くなったレオナの陰謀によって潰された実家の復讐にお付き合いする話だ。もちろん、戦車傭兵として。報酬もたっぷり貰って。友達のピンチも救えて、お金もわんさともらえる、なんて素敵なお仕事でしょう、てなもんである。
ただまあ悪者やっつけてはいめでたし、とはそうは問屋が卸さないわけで。
相手が野心をたぎらせ陰謀を企み、悪事を働いていたのは事実なんでしょうけれど、このご時世そんなのは当たり前、と言っちゃあなんですけれど、生き馬の目を抜くような連中が自分の命と全財産をBETしてさらに成り上がろうとしているのも珍しくもないのがこの世知辛い世界だ。
実際、レオナと金で殴り合うことになったマ・ゼンタのみならず、現場で小狡く立ち回り生き残るだけじゃない、利益を掻っ攫おうとする連中の多いこと多いこと。でもそいつら、決して小物然とはしていなくて、むしろたくましくどんな状況でも生き延びて稼いでやるというバイタリティに溢れていて全然モブって感じではなかったんだよなあ。でも、そんな奴らでも本当にあっさりと、この世になんの傷跡も残さず有象無象と変わらず死んでいく。「あれ?そこで死んじゃうの?」と思わずびっくりしてしまうくらい。
フォクシーたちも、そんな世知辛い戦車傭兵の一人というのを忘れちゃいけないんだろうなあ。死ぬ時は本当にあっさりと死んでしまうのだろう。そして、殺し合いをしている以上、恨みだって買う。ヒドい話だねえ。
とはいえ、大金稼いでそれで悠々自適のセカンドライフだー、とはならないんだよなあ、この娘たちは。大金が手に入ったら、そのお金でさらにちゃんと自分達の戦車を整備して、弾買って、仕事は選ぶけどやっぱり戦車は降りないのよ。死ぬまで戦車、それが彼女達戦車傭兵。それ以外の未来が彼女たちにはあるんだろうか。
そんな戦車傭兵以外の生き方を知っているレオナの加入というのは、やっぱり大きいと思うんですけどね。

本作の戦車戦以外のもう一つの見せ場である、取引所を舞台とした仕手戦。いや、これは確かにお金を使った殴り合いではありましたけど……ほんとに棍棒握った同士の殴り合いって感じの仕手戦だったな。一番シンプルで原始的な、複雑な取引のルールがまた成立していない時期における現金と物資を使った駆け引き無用の耐久戦。仕手戦の規模としては、戦争というほどではなく、街のみならず周辺地域の市場を混乱させるほどのそれでもまた個人同士の殴り合い。でもその分シンプルで仕掛けも複雑ではなく、ってか仕掛けというより外では戦車同士の殴り合いという物理の暴力によって趨勢が決まっているわけですから、やっぱり殴り合い✕殴り合いだよなあ、これw