【不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で】  零雫/美和野らぐ GA文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
GA文庫大賞《銀賞》受賞!
私を殺した犯人を見つけて下さいね――探偵さん。


七月■日。謎の美少女・冷堂紅葉(れいどうもみじ)が転校してきた夏の日、
クラスメイトが殺された。密室殺人だった。
「私達で事件を解決しましょう、天内くん」
「まるでミステリ小説の名探偵みたいだな」
廃部寸前の文学研究会に所属する俺・天内晴麻(あまないはるま)は、なぜか転校生に事件の調査を依頼される。
そして冷堂も殺された――はずだった。誰にも解かれることのない究極の密室で。
「私を殺した犯人を見つけて下さいね――探偵さん」
不死探偵と“普通”の相棒。再現不可能な殺人事件に挑む学園ミステリー、堂々開幕!

事件の真相に迫る時、君と最後の××をする。


Marvelous!!

随分久々にこのフレーズを使いたくなってしまうほど、読後の満足感が素晴らしかった作品でした。
とはいえ、ミステリー部分は自分でもあれ?と思う部分とかはあったんですけどね。それでも、非常に正攻法で突き詰めてくる謎解きになっていて面白かった。
主人公のハルマくんとヒロインとなる冷堂の二人にはそれぞれ特別な異能、時間の逆行と不老不死というとんでもない異能力を持っているのだけれど、これらの能力のゴリ押しによる謎解きにはなってはいない。それでいて、真実にたどり着くまでの重要な鍵でもあり、謎を混迷に導くファクターにもなっていて、とてもおもしろい使い方をされている。
ハルマくんの時間逆行なんて使いまくってたらどんな謎でもヴェールを引っ剥がせそうなんだけれど、ちゃんと多用できないようになっていますしね。もっとも、その多用できない理由の一つであった、他人とキスしないと発動しない、という案件に関しては途中から開き直ったハルマくんと冷堂の二人が、開き直ったというか積極的になってしまったというか、もうチュッチュッとちゅ〜するようになっちゃったので、全然ブレーキにもリミッターにもなっていなかったのですけれど。

そういう意味でもやはり一番本作で興味深かったのが、冷堂紅葉というキャラクターの解体でしょう。
転校してきた当時、表情も変えず感情の動きも見せず人形のようにクラスメイトに対応していた様子から伺えた、クール、或いは冷徹、容易に人に本心を見せない凍りついた心の少女、みたいな印象があったわけです。不死探偵、なんてタイトルがつけられているように、彼女こそ不老不死の存在。という情報もありましたしね。
そういった特異な存在感を持つ少女とどう触れ合っていくのか。どんな風にコミュニケーションを取って、彼女と行動をともにしていくのか。など色々と想像を巡らしていたわけですけれど。
いざ、彼女の学内の案内係に指名されたハルマくんが、普通に雑談しながら学校を巡っていると、他のクラスメイトへの凍りついた、或いは固い態度とは裏腹に、やや緊張気味ではあっても案外と普通な反応を見せてくれるし。ハルマくんが所属している、どちらかというと駄弁るのがメインみたいな各自が好き勝手に読書しているだけの部活に案内すると、普通に興味を示して普通にじゃあここに入ろうかな、なんて特に裏の思惑とかもあるように見えないまま、普通にコミュニケーション取れたのである。
この時点で事前の印象からくる、特殊な反応、硬かったりえぐりこむようだったり弄ぶようだったり切って捨てられたり、まあそういう相手としても反応に困るような対応は一切見られなくて。
そう、冷堂紅葉って子、案外と普通の子だったんですよね。彼女の事情や内面を知れば知るほど、彼女が普通の学生生活を送ることを望んでいたことがわかってきたわけです。もちろん、彼女の父の謎の死の秘密を解き明かしてくれる名探偵を探していた、という理由もあるのでしょうけれど、それ以上に彼女の行動規範は亡くなった恩人の遺言である、普通の学校生活を送ることを第一に考えていたんですね。
だからこそ、その目的が無茶苦茶に破綻してしまったとき、なりふり構わず縋るようにハルマくんに助けを求めたのでしょう。それだけ冷堂紅葉は追い詰められていたと言えますし、わずか数日でハルマのことを信頼したという事でもあるのでしょうが。
いずれにしても、あのシーンこそが転換点。事件においてもそうだし、冷堂紅葉にとっても運命の分岐点だったんじゃないでしょうか。少なくとも、彼女の必死にハルマくんはそれ以上に必死に応えてくれて、全力で彼女のことを助けてくれたのですから。
彼がじぶんのトラウマ、怯え傷となっている部分をさらけ出してくれたことも含めて、ここらへんでもう冷堂もだいぶキュンキュンきてたんじゃないだろうか。
ちなみに、冷堂紅葉は不老不死であるとはいえ、成ったのはそれほど昔でもないので実年齢はまだ24歳……24歳ってまた微妙というか絶妙な年齢攻めてきましたよね。少なくとも、不老不死故に見た目若いけれど精神は老成している、なんて事は一切ありませんし、なんなら結構引きこもっていたらしいので精神面はハルマくんたちとそれほど変わってないんじゃないでしょうか。
でも年上。まあハルマくんも実年齢知ってからも別に彼女を年上として扱ってりもしていませんし、冷堂の方もお姉さんぶったりはしていないのですが。自称永遠の16歳ですし。
ともあれ、自分の秘密も何もかもをさらけ出したあとの冷堂は、ほんと可愛いしかない子でした。
やたらと腹ペコなのは不老不死の能力が起因しているのかもしれませんけれど、ハラペコ属性は問答無用で可愛いしなあ。それに案外と気になることがあるとやたらとグイグイ押す問答無用なところとか、妙にお腹を見せるのを恥ずかしがるところとか、その為人が分かればわかるほど可愛らしい面が押し出されてきて、こういう子に全面的に信頼されて頼られるハルマくんが妙にやる気になってしまうのも、まあわかりますわかります。
一方で、ハルマくんに任せっきりではなく、彼女は彼女で自分で考えて動いており、一連の事件の中でも最初の殺人事件の殺害方法については彼女が謎を解いてみせたように、決してハルマくんのサポートしてるだけじゃないんですよねえ。
また、トラウマに引きずられて止まってしまったハルマくんの心情を理解したうえでその背中を押してくれた、その怯えた心に活を入れてくれたように、この短期間で凄く心が通じ合った様子も見せてくれて。身体の頑丈さを活かして、錯綜するクライマックスでハルマくんに代わって颯爽とヒーローめいた活躍も見せてくれましたし。
実に息のあった、支え合い助け合う相棒同士……まあそれ以上に随分と甘酸っぱさを感じさせるコンビになってくれていて、そのあたりの関係性の醸成が実に満足感高かったんですよねえ。

彼らメインの二人以外の、友人となる同級生たちもなかなか濃いというか、ジワリと存在感を杭打ってくるキャラクターで、特に宮川愛と芦原伊代は話が進めば進むほど違う一面、魅力が見えてきて実に良かった。芦原の方は頭の良さ以上に察しのよさというか人を見る目がある上に情が厚く距離感が大人びている人物なので、居れば居るだけ印象に残るキャラなんですよね。今後もレギュラー格になってくれればいいのですが。

あと、どうしても気になったんだけれど。最初のカラー口絵での倒れた冷堂紅葉。あれってお腹見えてないとダメなんじゃ……お腹は大事ですよ、大事。
……ちょうど作中の季節も夏なんですし、プールイベントとか海イベントは在って然るべきでしょうし、そうなると冷堂のビキニは是非というか必然ですよね?