【男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2.じゃあ、ほんとにアタシと付き合っちゃう?】  七菜 なな/Parum 電撃文庫

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ある男女が永遠の友情を誓い合い、2年半の歳月が過ぎた頃――二人は今さら、互いへの恋心に気づき始めていた……!
散々積み上げてきた黒歴史から目を背け、「恋愛って何?」な態度を装い続ける悠宇と日葵、だったのだが――。
「悠宇。中間試験、全部白紙で出しちゃったの……?」
降って湧いた悠宇退学の危機! 加えて悠宇の初恋相手・凛音の「一番になるね」宣言に、学校での“you”の身バレと、そこから巻き起こる恋するリア充たちのフラワーアクセブームが、二人の心をさらなる混沌へ突き落とす!! 果たして恋と向き合った日葵は〈真の親友〉へ前進なるか?


1巻読んでから間が空いてしまいましたが、面白い、面白いなあ。
こうして読んでみると、もう悠宇も日葵もそれぞれ相手のことは異性として好き、と自覚ないし整理がついて自らも認めるところに至ってるんですよね。
まあ相思相愛ではあるわけだ。
ところが、お互いに一番と言って憚らないくせに「親友」という建前は外せない。悠宇なんて、夢として目標として努力し積み上げてきたフラワーアクセサリーのデザイナーとしての道を自ら捨て去る覚悟をしてしまうほどに、日葵最優先だ。
もう付き合っちゃえばいいのに、と思うのだけれど、そう簡単な話ではないんだよなあ。
なんでだ? なんでなんだろう。それぞれに躊躇があり、はっきりとした恋人になる事に対しての及び腰があり、ここで安易に恋人になるのって、妥協……になっちゃうのかな。
さて、何が問題なんだろう。
日葵の方はこの娘、俗物のくせに理想は高い。日葵って悠宇ならどんな悠宇でもいいってわけじゃなくて、アクセ職人として魂を滾らせ自分の世界に入っちゃうほど没入している、そんな彼に惚れ込んじゃっている。そんな悠宇じゃないと満足できない身体になってしまっている……のか?
所が面白いことに、1巻だとフラワーアクセサリーという作製の世界に魂までのめり込み他の何も顧みない、一種の天才の世界に住んでいるようだった悠宇だったけれど、彼にとってアクセを作る事それ自体に妄執や執着は意外と無いっぽいんだよなあ。悠宇自身、自覚がなかったみたいだけれど。
アクセ作りにハマってそれを夢にして人生そのものを捧げようとした最初期は他に見向きもしていなかったのかもしれないけれど、現在では明らかにアクセ作りすらも日葵のためになってきている。
もちろん、顧客のために悩み答えをひねり出してその人のための最高のアクセを作り出す職人としての技術、意思、意識、理念はあるとしても、その情熱だけはただ一人に注がれている。
なるほどなあ、これ自覚したときに自分でちょっとヤバいよなあ、と思ったからこそ一旦高校卒業まで製作やめるって言い出したのか。こうして整理してみると、確かにヤバい。これでは顧客に失礼だし、これで金取るのって大丈夫なの? と考えるのもまあわかる。
とはいえ、既に将来のアクセサリーショップを開いて二人で店やっていく、という夢に向かって具体的な事も踏まえて進んでいる段階で、いきなりやーめた、というのはなるほど日葵兄の言う通りビジネスパートナーとしては日葵に甘えすぎ、だわなあ。
その日葵の、悠宇と将来アクセサリーショップをやりたいという夢が、彼女の欲望と邪念にまみれていたとしても、だ。
作中で、たとえそれがどれほど美しく見えても、それが清いものであるとは限らない、というふうな言葉が撒かれていたけれど。
まあ、日葵も悠宇も汚いとまでは言わないけれど、その情念、清くはないよね。日葵は欲望まみれな分汚い!と言っちゃってもいいかもしれないくらいだし。
ただでも、二人共それがいいんですよね。悠宇なんて日葵が一番でそれ以外はどうでもいいと心の底で規定しちゃっているの、相当エゴイストな側面があると思いますし、日葵も散々兄貴に説教食らってましたが、常に逃げ道確保しておいて都合が悪くなるとさっさと逃げちゃう所なんざ、卑怯! 卑劣! 卑賤!! わりと性根がいい感じに腐ってるところあると思いますよ?
でも、それがいい。そこがいい。二人共、そういう汚いところがにじみ出ちゃっているのが、素晴らしく魅力的。
面白いことに、えのっち……リンちゃん、榎本凛音というこの物語における第三柱。この娘ってば、悠宇と日葵のこの汚いところが大好きっぽいんですよねえ。汚いところというか、清濁併せ呑むというか、そういうエゴだのも引っくるめて、二人のことが大好きっぽいんですよねえ。
上辺だけとか表層だけじゃなくて、この二人の本質を捉えた上で丸ごと好きでたまらない、という顔をしていらっしゃる。
それでいてこの凛音、美しくも清いまま、って感じなんですよね。悠宇は自分を美化して観ている、自分はもっとだらけてるしやる気ないし欲望に素直だよ、というふうなことをのたまっていますけれど、いやー美化して観なくても十分清らかだと思いますよ、えのっち。なんかもう心に薄汚れているところがなくてピカピカに光っているようにすら見える。
しかも抗菌バリアーでも張っているかのように、ネガティブを弾く弾く。メンタル最強かよ!? というくらい、前向きでめげなくて純真無垢な素直クールだよ。
いやまじで、1巻の時ってえのっちここまで存在感なかったと思うんですけれど、この巻でちょっと魅力解禁しすぎじゃないですか、これ? ちと幼い感じすらする喋り方から繰り出される率直でまっすぐな好意が、もろに防御貫通してくるんですよね。
これ、悠宇が人生棒に振るレベルで日葵狂いでなかったら、まず転んでたんじゃないでしょうか。
いや、恐るべきはこれだけ素直に好きという気持ちをぶつけてきながら、日葵の領域を侵食していくのではなく、悠宇と日葵の二人の世界を自分の存在で包み込もうとしているところか。
1巻で不用意に悠宇にだけ踏み込んだら、戦艦並みの装甲板だと思ってたら実はダンボール並でしかなかった日葵のメンタルガードをあっさりぶち抜いてしまい、日葵が一瞬でぶっ壊れてしまったので、えのっちの対処法は多分大正解なんですよねえ。おそらく、これを完全に本能だけでやっているあたりがえのっちの器のデカさと鋭さよ。何気にこじれる二人に対して適切な助言を与え続けたのがえのっちですからねえ。

そう言えばもう一つ面白いなあ、と思うのが。彼女らの関係、二人ないしは三人の世界で完結していなくて、三人それぞれに助言者、アドバイザー、サポーター? もしくはフィクサーか黒幕かというべき人が控えている所でしょう。
それは日葵兄だったり、凛音の幼馴染だったり、悠宇の姉だったり。咲良姉ちゃんはそこまで介入してきていませんけれど。
あと、彼らはそれぞれ自分の推す娘の味方ではあるんだけれど、彼女らの意思や意向を尊重はしないんですよね。めっちゃ介入してくる。場合によっては平然と彼女らの意向を無視すらしてくる。謀略を張り巡らせ、強烈な指導をかましてくる。
とはいえ、折々に繰り出される彼らフィクサーの動きや指摘が、煮詰まり停滞し腐っていきかねない関係や情勢をうまいこと引っ掻き回し、或いは推進させて常に前へと進ませているのは間違いないんですよね。
……日葵と悠宇の二人に任せて放っておいたら、あっさりと腐りそうだもんなあ。
彼らは将来、外に出て社会に出て、店を開き人生をともにして生きていこうと考えている。今まで彼らが育んできた世界は、小さな箱庭で、そこで育つには限界がありタイムリミットも存在する。
必然、二人の世界だけではやってけない。えのっちが加わって三人になっても、そこに拡張性はなく将来性もない。となると、どうやったって外の介入を受けなければならず、早々に大人の見識に頼っている、というのはそれだけ未来を具体的に捉えている、という証左でもあるんだろう。
まあそのわりに、日葵と悠宇のグダグダっぷりはヒドいけれど。ヒドいよね? というか自覚を得れば得ていくほどに、露呈してしまったというべきか。そこがこの二人の可愛い所なんですが。
なんか駄目っぽさが見えてくればくるほど、愛おしくなってきますよこの二人。
でもそういうもんだけどね。まだ二人とも学生で子供なんですから。とはいえ、そう言ってられない未来を自分達で選ぼうとしているのですから、日葵兄さんの助言の数々はまじで天の声だよなあ。日葵は既に頭あがってないけれど、兄貴に対してこれもう一生頭あがらないよ?
あと、二人揃ってこの感じだと、本気で榎本凛音に二人揃って貰ってもらった方がいいんじゃないだろうか。