【宮廷医の娘 2】  冬馬 倫/しのとうこ メディアワークス文庫

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高額な治療費の代わりにどんな病も治す凄腕の闇医者・白蓮。宮廷医の家系に生まれながら、白蓮に弟子入りした香蘭は見習い医として、後宮と診療所を行き来していた。
ある日、かつて白蓮が救った武芸者の青年が、治療費を払いに訪ねてくる。だがその胸の内には、亡き父の仇討ちの炎が燃えていて――。7年前の人斬りの夜、壮絶な手術、子に命をつないだ父の想い。
切なすぎる禍根は、やがて後宮を揺るがしかねない復讐劇となって、香蘭をのみこんでいく――。

黒衣まとうその闇医者はどんな病も治すという――凄腕の闇医者×宮廷医の娘が後宮を変える!
大注目の中華医療譚、第2幕。


今回は二編の話がありました。
貧民街に療養所を構える白蓮ですけど、その高度な医療を維持するために治療費はかなり割高に取っている。一方で、もう一箇所貧民街には患者が集まる療養所があり、そこの医師は殆ど治療費を取らず白蓮のような化外の技術に通じているわけではなく、この国の医術を収めているに過ぎないのだけれど、それでも丁寧で行き届いた治療を施してくれる人物だ。
白蓮が神医だというのなら、その医師・夏侯門は仁医というべき人物なのだろう。
もちろん、霞を食って生きるわけにも行かないし薬や医療器具の入手にも金がかかる。そういう資金をどうやって捻り出しているのかと思えば、その人後宮でなかなか悪評高い妃と第二王子の専属として勤めていて、そこで得た金を市井での医療に注いでいるのだという。
怪しい人物かと思えば、これが実際大した人物で本当に全身全霊を普通なら医療の恩恵を受けられないような階層の人々の救済に費やしてるんですね。
そんな仁医に傾倒してしまったのが、白蓮の弟子となった香蘭……ではなく、昔白蓮に腕を移植してもらって助かったという武侠の青年胡備師だったのですが。
香蘭、師匠のことアコギアコギというわりには心から心服してて、今更他の医者に目移りとかしないんだよなあ。白蓮の方もこの娘には随分と入れ込んでいるみたいだけど、口は悪いが。

話の方は、どこか鬼気迫るくらいの様子で人を救う夏侯門と、彼を師として慕う胡備師の関係が、実はかつて親の仇を討つために人生を捧げていた青年と無為に殺した命を贖うための贖罪に人生を捧げている男との決して相容れぬはずの間柄だった、という話。
これ、ぶっちゃけ香蘭も白蓮も傍観者であり、踏み込めない話であったんですよね。一方で、これ幾つもの人知を超えた奇跡が垣間見える話でもあり……。
片腕を斬られて失った息子に、今から死ぬ自分の腕を移植してくれと遺言して果てた父親の願いを叶えて、別人の腕をまだ子供だった胡備師に移植した白蓮。親子でも拒絶反応あるだろうし、他にも諸々リハビリに際しても常識では考えられない奇跡があったり。
夏侯門の素性を知ってしまった胡備師の赫怒に、父の腕を通して彼のものでない意思が介在したり、と。これ医療の範疇じゃないだろう、という奇跡があったわけだけれど、白蓮先生わりとこういう不可思議なことに関しては肯定的なのは意外だった。現代人である白蓮先生、迷信なんかは信じないけど、実際に起こったことに関してはわりとそういうもんだとそのまま受け入れるんですねえ。むしろ、香蘭の方が頭固い反応してたような感じ。

二話目は、香蘭と春蘭の姉妹のお話。1巻でも触れられていたけれど、お姉さんの春蘭は目を患っていて殆ど視力を失ってたんでしたっけ。それで家に閉じこもっていて、香蘭があれほど治療の技術の拾得に貪欲なのは、いつか姉の目を治したいという願いもあったんですね。
しかし優しくいつも香蘭を慈しみ妹を応援してくれていた聖人みたいな春蘭も、その心の片隅に劣等感、妹への羨望や嫉妬を秘めていて、それがどうしようもなく闇を生んでしまった、というお話。
とはいえ、妹への愛情は本物で、愛する妹を憎んでしまう自分に対しての懊悩で余計に病んでいくという悪循環。そこに、春蘭や香蘭の本当の出自、皇族の血を引いてるんではないかという疑惑が厄介な人物として知られる第二王子の介入を生んで、色々とややこしいことに。
そもそも、香蘭と春蘭の間に血の繋がりがなかったどころか、二人共養女であって家族全員血の繋がりがなかった、という衝撃の事実が。それでも、家族全員が必死に春蘭を助けるために奮闘し、また春蘭の目の光を取り戻すために、彼女の闇に沈んでしまった心をすくいあげるために尽力する姿に、血の濃さだけが繋がりではない家族の像が浮かび上がってくる。
白蓮先生も、秘蔵のDNA検査キットを持ち出してくれたり角膜の手術で手を尽くしてくれたりするのだけれど、香蘭に対しては春蘭の心の闇をどうやって晴らしてやれるのか考えろ、と医療の技術ではなく心のケアの方を課題として与えてるんですねえ。
先生、この弟子の飲み込みの速さ、技術の拾得の練度について大変一目置いている様子なんだけれど、医術は仁術というか患者のメンタルケアまでも含めて全部まるごと仕込んでやろうと入れ込んでるようにも見えるなあ。
だからこそ、後宮とか宮廷に勤めて伏魔殿の足の引っ張り合いや悪意による妨害、政治的な駆け引きにかまけることも潰されてしまうことも、無駄だし無為だと危惧してるんだろうかなあ。
……いやそれはそれとして、香蘭の出自は結局謎のままなの!? 両親は知ってるのよね??