【薬屋のひとりごと １１】 日向 夏／しのとうこ ヒーロー文庫
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戌西州を襲った大蝗害。
過去の蝗害を知る者は少なく、人々は混乱する。
西都や国境近くでも、食糧の強奪や暴動が頻繁に起きていた。
猫猫は何もできない自分を歯がゆく思いつつも、できる限りのことをやっていた。
それは中央からの客人である壬氏も同様で、身の安全のためという名目の軟禁生活を強いられながらも、蝗害を予見していたことで、中央からの支援物資を早く受け取ることができた。
だが、その手柄は壬氏ではなく西都の領主代行・玉鶯のものとして扱われてしまう。
手柄の横取りに猫猫は腹を立てるが、当の壬氏はどこ吹く風で、皇弟という立場を最大限に利用して
戌西州への支援要請を行う。
また、物資が不足する中、猫猫にさまざまな問題が火の粉となって降りかかる。
謎の腹痛に苦しむ玉鶯の孫娘。変人軍師・羅漢が連れてきた棋聖と呼ばれる老人。同僚の医官・天祐の奇行。
そして、消息不明だったあの人が帰ってくる⁉
一方、西都では皇弟に対する不満が高まっていく。蝗害による飢えや病に苦しむ民衆は、とうとう皇族である壬氏へ怒りの矛先を向けることに。
守り支えていたはずの民衆に恨まれてしまった壬氏の決断は?
不審な動きを続ける領主代行・玉鶯の狙いとは?
そして、猫猫は無事、危機を脱することができるのか?
西都に来てから猫猫が壬氏を心配したり蔑ろにされる彼のために怒ったりする事が多くなって、これは猫猫の態度が甘くなったと言うよりも、壬氏…月の君がそれだけ大変な思いをし続けている、という事なんでしょうね。
蝗害を発端にした飢餓が実際に起こり始めてましたし、西都の玉鶯の態度はどんどんとあからさまになってって実質監禁状態みたいな形で屋敷に押し込められてしまいましたし。
救援物資を手配したり支援の手を厚くしたりと月の君が行った対応は、それを受け取って民衆に配る玉鶯の手柄になってしまい、月の君いい面の皮って感じになっちゃってるんですよね。
猫猫もなんだこれ、と月の君が蔑ろにされてる状況に憤っていたけれど、猫猫だけじゃなくて月の君に近しい人はみんな怒ってたわけである。
ただ手柄を奪われて玉鶯の評判が上がっていくだけじゃなくて、市民や兵士たちからは屋敷に篭っている皇弟は何をしに来たんだ。何もせずに引きこもって遊び呆けている無駄飯ぐらい、みたいに思われて噂話として広がってしまっているのですから、そりゃ月の君の近くの人はみんな怒るよ。
とどめに、蝗害は皇弟が来たせいだ、なんて迷信めいた噂話まで流れる始末。
これも考えたら玉鶯が流した流言だったんだろうなあ。
いまいち何を考えているか何を企んでいるかわからずに不気味な感じだった玉鶯の本性が明らかになってくると、これが思っていた食わせ者とかくせ者という感じと少し違っていて……ただのたわけ者じゃないですか。
今は後宮で陛下の御子を産んで中枢に立とうとしている玉葉后。その兄という事もあり一目置くべき人物かとも思っていたのですけれど、玉葉と微妙に仲良く見えない様子も独自に西都を発展させるための指針を持っているから、と思ってたんだけどなあ。玉葉に嫌がらせするみたいに、別の妃を送り込んできたのも、玉葉とある種の権力争いみたいなものが発生しているのかと見てたんだけれど。
なんか真実は想像していたよりももっとくだらなくて、玉鶯という男の感情の問題だったわけだ。
しかもこの男、戦略家とか謀略家というような遠大な策謀を張り巡らせているタイプのくせ者でもなんでもなくて、アジテーター……煽動家タイプだったんですよ。
だから、目の前のことを煽り立てて自分の都合の良いように雰囲気を仕立てているだけで、所詮行き当たりばったりで深く物事を考えてない。蝗害の被害で西部がどんな事になるかもちゃんと考えてるように見えない。自分の名望を高めることしか考えてない。おかげで、国家単位での外交的観点からしても国防から見ても無茶苦茶なこと仕出かそうとしてたんですよね。
ところが、アジテーターってつじつま合わせばかりはうまいものだから、理屈や感情を都合の良いようにつなぎ合わせて、それが正しいものだという雰囲気に持っていってしまうからたちが悪いんだ。
月の君、なまじ裏方に徹して手柄取られても実を取る、西の民に支援が届くならそれでも構わない、自分が泥をかぶってもいい、なんて心構えで主導権を握ろうとしてこなかった事が余計に裏目に出て、神輿に担ぎ上げられそうになってしまう。
月の君、決してこの手の駆け引きとか、後宮で番張ってたように苦手じゃないはずで、実際玉鶯にも言質与えないようにして釘刺したりもしてたんだけれど、西都という土地の雰囲気ごと月の君を飲み込んでしまって、戦の流れを生み出したあげくその流れの中に乗せてしまったものだから、裏に徹して表に意思表示をしてこなかった月の君としては、完全に後手に回ってしまったんですよね。
この流れを押し止めるのはかなり難しい、どころかちょっと対処の仕方が思いつかないくらいで、これどうするんだ？ と読んでて思ってました。
月の君、玉鶯の兄妹などと接触して支持を取りまとめようとしていましたけれど、西都での玉鶯の政治的権力と権限は圧倒的で、他の兄妹たちは各分野の事業を取りまとめていてその道では力を持っていても、政治的な対抗馬とはなり得なかったのである。
今から西都での発言権を握って玉鶯に対抗するのは手遅れすぎましたし。これ追い詰められたどころか詰んでない？ どうするんだ！？ と、ハラハラしていたらまさかまさかの展開ですよ。
り、陸孫、あんたそんな立ち位置だったの！？ ってか、どんな重要な立場だったの！？
羅漢軍師の副官で、まあ苦労人って感じでしたけれど、どちらかというと脇役であんまり存在感感じてなかったんですよね。前回、猫猫に声かけてきたことも殆ど意識してませんでしたし。西都編では名前すら読んでもらえない羅半兄がやたらと強烈なキャラしてましたからね。
それがまさかの陸孫の素性ですよ。
うわー、この展開は予想外ってか頭の片隅にもなかった。
玉鶯が話の通じる相手ではなく、くせ者どころか極めて問題有る人物であるとわかった時点でどこかで敵対する他ないなあ、とは想像しましたけれど、仮にも玉葉さまの兄ですからね。玉葉の方にトバッチリが行かない形でこの兄を排除する方法があるのか、とは考えはしましたけれど。あんまりダーティーな方法を月の君が取るとは思えなかったし。
玉鶯や玉葉の父である玉袁という人物、ほんとに大した人だったんだなあ。いや、大した人物だったなら長子がコンプレックスでこんなに歪んでしまう前にどうにかしろ、って話なのかもしれませんけれど。戌の一族の族滅を図った時点でもう一線超えちゃってたわけだしなあ。
逆に玉袁をして、こういう最終手段を準備しておかないといけないくらい、西都における玉鶯の権力は揺るぎない、一種の集権状態になっていたって事なんでしょうね。一族の長をして穏便に排除できるような構造ではなくなってたってことですし。
でもこれ、最終手段であるだけあって、やっちゃったとのこと考慮に入れてなかったんじゃないだろうか。玉鶯がやらかしすぎてまさか勝手に他国と開戦寸前になるなんてそこまで想定してなかっただろうし、そこに蝗害まで絡んでますからね。ここまで緊急事態になってる中でトップを排除するはめになるとはさすがにねえ、想定してなかったよねえ。まあ、それだけの状況だからこそ、陸孫も強行したんだろうけれど。タイミングも丁度良い機会が訪れたわけですし。
でも、結果として緊急事態のさなかに突然状況を一手に握って動かしていた人物が消えてしまったわけで、あとに残った人どうすりゃいいの！？ ってなりますよねえ。
まあ、皇弟という存在がちょうどそこにいる以上、彼にやってもらわないとって話になりますよねえ。これ、皇弟の使節団派遣ってどこまで意図されたものだったんだろう。いや、下手したら戦争の旗頭に祭り上げられたことを考えると、やっぱり想定外だよねえ。
月の君の疲弊っぷりが、前巻の段階でけっこう酷かったのに話が進むに連れてさらに悪化の一途を辿っていて、彼が猫猫捕まえて猫吸いーとばかりに猫猫成分摂取しようとするのもこうなると仕方ないよね、と思えてくる。猫猫さん、大人しく吸われてあげて。
とはいえ、猫猫の方も昔みたいに死んだ虫を見るみたいな冷めた目で対応するんじゃなくて、手を恋人つなぎされただけで顔火照っているように、なんか女の子らしい反応するようになってるんですよねえ。いやあ、あの猫猫がねえ。
あと、一貫して蝗害から飢餓に入ろうとしている西部地域を縦横無尽に走り回って、様々な施策や救済方針を手掛ける、とてつもない功績をあげてるのに、全然本人自分がやってる事の自覚なくぶつくさ言いながら愚痴と嘆きばかりこぼして鬱陶しい羅半兄が、凄まじい強烈な存在感でほんとなんなんだろう、この人ｗ やってることだけみたら間違いなく今回の一件の勲一等のはずなんだけど。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
