【百花宮のお掃除係 9 転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。】  黒辺 あゆみ/しのとうこ カドカワBOOKS

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雨妹講座ですくすく育つ静。その弟・宇はもしや、もう一人の転生者……!?

東国の半支配下にある苑州から逃げてきた静(ジン)を引き取り、生き抜く方法を伝授するよう使命を受けた雨妹(ユイメイ)。

貧しく過酷な環境で育った静に必要なのは、「おいしい」と「楽しい」という感情!

雨妹講座のおかげで静も次第に笑顔が増えていく。静が健やかに成長する一方、静の双子の弟であり苑州大公に据えられた宇(ユウ)のもとには、かつて雨妹の髪を狙った皇子・大偉(ダウェイ)が派遣されていた。彼は皇帝から「無血で苑州から東国を排除せよ」という任務を受けていて……。

ええっ!? 大偉皇子ってあの髪切り魔ですよね。皇帝と皇后の息子でありながら、ちょっと頭のおかしい風情の。ってか、雨妹の髪に一目惚れして無理やり切ろうとしたヤバい人でしょ? パパ陛下にボコボコにされてたあの頭のおかしい皇子。
皇太后閥である皇后の息子、という事で志偉陛下とは実のところ政敵側になると思ってたのですが、この皇子、母親とはあんまり情が繋がっていないのか。志偉とも親子の情があるという訳でもないのだけど、家族の情はなくても皇帝陛下の事はわりと素直に敬意を持っているみたいなんですよね。
というか、あんまり自分の皇族としての血筋に重きを見出していないというか。そういう野心はあんまり持っていないというか。
むしろ、外で自由にやってる方が好きなのか、この人。明らかに後宮にいるときよりも外に出てるときの方がいきいきしてるのだけれど。それ以上に破天荒に歯止めが効かなくなっているけれど、皇子とは思えない外界の馴染み方。皇帝陛下の寝所に忍び込むわ、自分から工作員、細作めいた仕事を提案して隣国の浸透を許している半ば敵地と化している地から、何宇少年大公を連れ出してこいなんて任務を引き受けて、従者一人連れて気ままな潜入の旅に出てしまった大偉皇子。行商人に変装しての旅なんだけれど、ほんとめっちゃ馴染んでるんですけど!? 子供のころは下町に暮らしてた、と言われた方が不思議じゃないくらい庶民が馴染んでるんですけど!?
それに、こうして外に出て自由に振る舞っているとそんなに性格悪いわけじゃないというのがわかってくる。昔から仕えている従者くんは振り回されっぱなしでヒーヒー言ってるんだけれど、普通に情もあるし武勇にも優れていて決断力もあり、好奇心と自由奔放な心ばえは魅力的でもあり。傍若無人と思われた性格も、後宮で皇后の息子という立場の強さゆえに阿諛追従されていたせいで、率直かつちゃんと道理や情理を伝えて諭せば、善悪の区別もついて素直に言う事聞いてくれるし、悪いことをしたと反省もしてくれるんですよね。
……あれ? この皇子相当に面白い人物じゃね?
これは、自分からさっさと逃げ出してきた何宇……何静の弟であり苑州公に祭り上げられた少年、彼と合流してからさらに賑やかになって、破天荒な二人の変人とそれに振り回される二人のお付き、という面白珍道中となって、めっちゃ面白かったんですけど。
ってか、静静から伝え聞いていた何宇って、幼いながらも苑州のために責任を引き受けて自分は残って、静は逃してくれた健気な弟、というイメージを勝手に抱いていたのだけれど……いや、全然違うじゃん! 全然まったく違うじゃん!
こいつ、ヤバいやつだー。相対的に大偉がやんちゃだけど常識人に見えてしまうくらいのヤバいヤツだー! さらに、実は雨妹同じ前世持ちということがここに来て発覚したわけだけれど、いやそういうの関係なしに人格が相当歪んでいるというか、姉が好きすぎて他になんの価値も見出していないあたりサイコパスの資質がありそうとか、うんヤバいね。
ただ、妙に大偉と息があってしまい、妙に仲の良いコンビになってしまったのはご愛嬌というべきか。大偉皇子も、何宇の身柄を確保した以上それで任務達成なのに、まあ宇がついてくと言ったからだけれど、このわずか四人で苑州の中枢に乗り込んでいくなんて、それなんて世直し? というような大胆な行動に出るわけで。
いやー、この行動力と無茶苦茶さは周囲からスルと勘弁してほしいけれど、これは人を惹きつけるカリスマもあるよなあ。とはいえ、これって自由にやらせてこそ輝く才であって、宮廷に縛り付けると燻るか鬱憤貯めそうだし、気分で無茶苦茶始めそうだしやっぱり皇帝にはなって欲しくはないタイプだ。
そういう意味ではやはり太子である明賢に頑張ってほしいんだけれど、当初は落ち着いた智者で皇帝の後継者として十分の深みがあると見えていた太子兄様もここに来て荒事に対しての経験不足や、実は人見知りで幼馴染の立彬に頼ってしまうことが多く、人脈を広げる事もおこたり気味だった事がわかってきて、意外と人物がこぢんまりしてたことがわかってきたんですよね。
自分の妃たちともまだ胸襟開けてないし、妃たちの実家筋ともうまく協力関係が取り付けられていなかったり、大丈夫か? と心配になってきた。
ここに来て大偉がめちゃくちゃ派手なスケールの持ち主である事が突きつけられただけに、尚更、明賢兄様大人しすぎない? となってきたんですよね。
その辺の問題点は明賢も自覚していて、立彬にあまり頼らないようにしたりと努力しはじめているし、妃との関係も、ね。
雨妹が黄美蘭の花嫁修業的なことも手伝ってたけど、美蘭みたいな自由人が伸び伸びと明賢の前でその素顔を見せられるようになったら、また色々と変わってきそう。美蘭はすでに努力重ねているし、これも明賢の方頑張れって感じだなあ。
志偉陛下もわりと厳し目に課題を出すようになってきたので、なんか本格的に明賢兄様への後継者教育が本格化してきた風で、もうここは兄様頑張れ、という感じなんだよなあ。

何静を雨妹に預けたことも、彼女の素性も含めて明賢には伝えないようにしているし。
ちなみに、秘密にしているようにと言われた雨妹の方が考えすぎてガチガチになっちゃってたのを、変に追求問い詰めずにむしろ雨妹を気遣って落ち着かせた立彬は、ほんとこういう所なんですよねえ。わりとメンタルがおばちゃんなところのある雨妹が、小娘になって甘えてしまうのも無理からん懐の広さなのよねえ。普段はわりと口うるさい方なのに。
だからこそ、明賢も信頼しているし、パパもグヌヌと危険視しながら娘のそばをうろちょろしているのを許してるんでしょう。なんか真面目に婿候補として考えられはじめてるよなあ。

その雨妹は、親身になって静を教育中。偽装で宮女として匿うだけじゃなく、宮女としての仕事を教えるだけでもなく。
そう、これ情操教育というべきか。
静って、公主であるにも関わらず、生きるのに精一杯の村に押し込められて生きてきた幼子である。
そのため、過酷な環境で歪な価値観で固まっちゃってるんですね。我慢することが当たり前になり食べ物もろくにない環境で料理云々どころじゃなく、美味しいという概念すら持っていない。未来に希望持たずにただ諦めて耐えることだけを強いられてきた環境に生きてきて、喜びや楽しいという感覚を小さく押し込められてしまっている小さな子ども。
そんな窮屈に固められてしまった幼子の情緒を、大きく伸び伸びと広げていく。それを強引にではなく、徐々に楽しいや美味しいを教えてあげながら、きっちりと仕事をする事を教えつつ労働のあとの開放感を感じさせながら。周りの親しい人たちの協力も得ながら、静静をどんどんと普通の良く笑う子供へと柔らかくほぐしていく雨妹、今までになく良い先輩、良い姉役をやっていたように思います。こういう所、人生経験感じるよなあ。一方で、若々しい前のめりな意気もあって、周りの落ち着いた大人にどうどうとなだめられてる部分もあるので、こういう年の功と若いせっかちさの感性が入り混じってる雨妹ってやっぱり面白い。
それ以上に、今回はお茶入れ修行回が面白かった。近衛の明永さん所の家人であるあのやたら強烈なお婆さん。洪雪という名前だったんだけれど、どうやら先代皇帝の頃の伝説の女官だったらしく、その武勇伝がまあ面白いのなんの。先代皇帝ぶん殴った、というエピソードは雨妹と一緒にひっくり返りましたがなw 笑った笑った。すげえ婆さんだ。そりゃ伝説にもなりますわ。