【チュートリアルが始まる前に ボスキャラ達を破滅させない為に俺ができる幾つかの事】  高橋 炬燵/カカオ・ランタン 電撃の新文芸

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
この世界のボスを“攻略”し、あらゆる理不尽を「攻略」せよ!

目が覚めると、男は大作RPG『精霊大戦ダンジョンマギア』の世界に転生していた。
しかし、転生したのは主人公でもなく、ましてやそのモブですらない。

能力は控えめ。性能はポンコツ。口癖はヒャッハー。
チュートリアルで必ず死ぬ運命にある、クソ雑魚底辺ボスに転生していた!
もちろん、自分はそう遠くない未来にデッドエンド。さらには、最愛の姉まで病で死ぬ運命にあることを知った男は──。
「姉さん。俺決めたよ。──この世界の理不尽なお約束なんて全部まとめてブッ潰してやる」
故に男は、持ち前の膨大なゲーム知識を活かし、正史(シナリオ)への反逆を決意する。
そうして、最強の裏ボス、ゲーム屈指のトラウマルートボス……この世界のボスたちを“攻略”していく彼は、やがて──!

『第7回カクヨムWeb小説コンテスト』異世界ファンタジー部門《大賞》受賞作!
ボスキャラ達が織りなす“もしも”の物語が、今始まる!

うははは、主人公の清水凶一郎、この顔のなんか微妙!ぷりは素晴らしいですね。いや、決して顔悪くはないんだけれど、絶妙にパチもんっぽいじゃないですか。よく主人公とか勇者の偽物としてデザインされるようなあの偽物っぽさ、偽物というよりもパチもんっぽさ! 加えて、一歩ズレると世紀末のヒャッハー系モブチンピラ荒くれ者になりそうな造作。キャラデザイン。
ただ特徴のないモブ顔なんかよりも濃度の濃い雑魚っぽさが燦々とにじみ出る顔つきになってるじゃないですか。
絵師のカカオ・ランタンさんは暁なつめさんの【戦闘員、派遣します!】などの挿絵でも有名ですけれど、女性キャラをちゃんと可愛く描く一方で男キャラも非常に濃く描かれるので好きだなあ。

と、そんな主人公の清水凶一郎ですが、序盤に適当に倒されて終わりのモブボスキャラのわりにえらい設定が濃かったんですなあ。さりとて転生チートなどなく、ゲームの知識を利用してもそうそう簡単には強くはなれないハードモード。
まあ初手で裏ボスであるヒミングレーヴァ・アルビオン…通称アルを仲間に引き入れることが出来たのは間違いなく知識チートですし、それを利用して姉の消せない呪いを一時的にも停止させる事が出来たのですから、何も持たずに転生というわけではなかったのですけれど。
それでも、凶一郎当人が強くなるのは地道な努力のみ。まずは体力づくり、大事なのは筋力! とばかりにひたすら地道なトレーニングに励むのは好感度持てますよ。借り物の力よりもやはり自分の努力で積み上げていったものこそがいざという時裏切らないものです。
とはいえ、幾ら地道にトレーニングした所でパワーアップも地道にしかあがらない。というわけでここで裏ボス様の登場である。彼女が用意してくれたのは安易に能力を増しまししてくれるドーピングなどではなく、環境。努力し続けられる環境というべきか。
すなわち逃亡できない地獄である。おまけに、精神と時の部屋付きw
一日96時間トレーニングしたら強くなれますよ? ってそりゃそうだよ!!
1時間の小休止を挟んで夕食まで「三日間」訓練します、には嗤ってしまいましたがなw
才能がないなら無いだけ時間を掛ければ良い。努力し続けることも才能だろうけれど、本作の場合は逃げようにも裏ボス様が徹底的にトレーナーとして鞭握って逃してくれない状況ですからね。否応もなく伸び伸びの死ぬ寸前まで鍛え上げられるというものである。
実際の時間としてみっちり一年以上修行したわけですから、強くなるにも説得力があるってもんです……この一年って食事や就寝時間抜いて文字通りトレーニングしていた総時間がってことになるのか?
おかげで精神的な負荷もあって白髪まみれになり、顔も老けた、というのには重ねて嗤ってしまいましたが。いや凶一郎、実際の年齢おっさんになりかけてないか? お姉ちゃんより年上になっちゃってないか?
さらにそのあと普通に流れる表の時間でも一年以上が経過する中、アル監修で修行を続けていたのですから、最近ここまでしっかり時間かけて強くなろうとする主人公、珍しい方なんじゃないだろうか。そこまでしてなお、裏ボス様のアルには全然太刀打ちできず、最強とは程遠いというのも面白い。
しかし、ただのチュートリアル中ボスという雑魚でチンピラな能力しかなかった頃と違って、努力に裏打ちされた本物の力を身に着けた凶一郎。
それでも、ソロでのダンジョン攻略は難しいんですよね。今はアルによって停止しているものの解呪は出来ていない姉の呪いを解くためのアイテムを手に入れるため、慢心暴走は以ての外。地に足がついた考え方で、一緒にダンジョンの深層に潜ってくれる仲間を見つけるため。
何より、原作ゲームでゲーム開始より以前に起こるはずの悲劇を止めることが出来る立ち位置にいることに気づいた凶一郎は、いざ冒険者への道を歩み始めるのである。
ここで助けようとする本作のヒロインも、本来の正史では悲劇に見舞われて志半ばに亡くなり、逆に主人公パーティーと悲しい戦いを繰り広げる事になるボスキャラになるので、タイトル通りボスキャラ救済のための一歩となるわけね。
いやでもこのヒロインの蒼乃遥、運悪く初見殺しに引っかかっただけで実力的には全然ここで死ぬレベルのキャラじゃなかったんだなあ。ってか、これ強すぎない? 
元々強すぎて、このおもしろきこともなき世は退屈なりよ、と成りかけてたくらい訳わかんないくらい強いんですけど。少なくとも今の凶一郎より強いですよね。これ、原作で主人公パーティーと対決する時の状態より、今の方が明らかに強そうなんですけど?!
そのくせ、世に膿んでいた部分を胸に秘めながらも表向きは明るく過ごしていたときより、エピローグの時の心から楽しげに笑って、助けてくれた以上に退屈を吹き飛ばしてくれた、夢を現実にしてくれた凶一郎への感謝と好意を隠さない遥の天真爛漫な明るさは、ちょっと破壊力高かったですねえ。
クールで大食らいでやたらと口が悪くてイイ性格している裏ボス様のアルと二人で、これはかなり強力なトップヒロインですよ。

まだ物語としてはここがスタート地点、という感じなのでこれからのストーリー展開の転がりっぷりには期待したい所。素直に楽しみであります。