【異世界のすみっこで快適ものづくり生活 ~女神さまのくれた工房はちょっとやりすぎ性能だった~】  長田 信織/東上文 電撃の新文芸

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転生ボーナスは趣味のモノづくりに大活躍――すぎる!?

ブラック労働の末、異世界転生したソウジロウ。
「味のしないメシはもう嫌だ。平穏な田舎暮らしがしたい」と願ったら、魔境とされる森に放り出された!? しかもナイフ一本で。
と思ったら、実はそれは神器〈クラフトギア〉。何でも手軽に加工できて、趣味のモノづくりに大活躍!
シェルターや井戸、果てはベッドまでも完備して、魔境で快適ライフがスタート!
神器で魔獣を瞬殺したり、エルフやモフモフなお隣さんができたり、たまにとんでもないチートなんじゃ、と思うけど……せっかく手に入れた二度目の人生を楽しもうか。

何気にこれ、女神様さいごに残っていた力を使ってソウジロウのこと、異世界に送り出しているんですよね。
それも使命を与えたり何かやって欲しいとお願いするわけでもなく。かつて打ち捨てられていた自分の神像を綺麗に磨いて祠に戻してくれたソウジロウに、この人生ではついには食べ物にも味を感じなくなるような辛いばかりの人生を送った彼が報われるように。
今度は楽しく伸び伸びと、幸ある人生を過ごしてね。と、自分の神としての最後の力の使い道をただの一人の人間に与えて笑って送り出してくれたわけですよ。
こういうの、なんだかジーンと来ちゃうんですよね。

思えば本作って、笑顔が絶えないアットホームな作品である。いや、ブラック企業の隠喩じゃなくて実際の話として。
その笑顔の牽引力となっているのが、メインヒロインであるエルフのミスティアである。ソウジロウより先に前人未踏の魔境とも言われる「神樹の森」でサバイバル生活を送っていた彼女。
バイタリティの塊である以上に、とにかく笑う娘なんですね。思いがけぬ事に驚いても爆笑し、ソウジロウの神器の存在に仰天して大笑い、わりと食べ物の調理法が壊滅的で美味しい料理が殆ど存在しないこの世界でソウジロウのサバイバル飯を食べて美味しさの余りに笑って笑って、と兎に角リアクションが素晴らしく大きくて、何にでもウケてくれるわけですよ。
コミュニケーション能力も非常に高く、グイグイとくるようで非常に礼儀正しくて距離感の図り方もうまくて気遣い上手なんですよね。その上で距離詰めてくるんですよね。
何より、こうやって大笑いしてウケてくれるとソウジロウの方だって一緒に楽しくなってきますし、一人でサバイバルやっているよりも意欲がグングン湧いてくる。ミスティアを驚かせてやろう、もっと便利にして彼女が過ごしやすい環境を作ってみよう、ってやっぱりリアクションがいいとやる気もマシマシになるんですよねえ。
こういうキャラクターがいると、物語そのものが明るくなっていくんですよね。ワイワイガヤガヤと賑やかで雰囲気そのものが楽しいに染まっていく。
いわゆるモノ作り系サバイバルスローライフな作品としては突飛な内容ではなく、オーソドックスなくらいなのですが、ミスティアを筆頭とした登場人物全般のテンションの高さが物語を華やかで躍動的にしてくれていたような気がします。
森の奥でサバイバル生活なので、あんまり都市部にはいかないのですけれど、森の中生活では手に入らない生活必需品を手に入れるために一番近隣の神樹の森に隣接した街に出向く話があるんですけれど、そこで出会うおっちゃんたちも終始テンション高く二人でドツキ漫才めいた掛け合いをしてたので、あんまり人間登場してない本作ですけれどこの異世界おおむねみんなテンション高いんじゃないだろうか疑惑がw
このおっちゃんたちも、出番少ない割にその出てるシーンだけでやたらと面白くてキャラ濃い存在感のある人達だったので、なんかあんまり森の奥に引っ込んでるのももったいなく思えてくるほど。いや、街拠点にしてても街の人達巻き込んで結構ガヤガヤ楽しくなりそうですけど。

さて、本作にはヒロインというべき人がもうひとり居るわけで。ミスティアが徳のある陽キャラだとしたら、もう一人は完全汚れ系陰キャJK(成人)である。
元日本人、ってかソウジロウと同じ転生者……転移者? どっちだ? まあ日本に居た当時の年齢と服装でこっち来ちゃった娘で、既に異世界で四年の月日を過ごしてきたベテラン異世界サバイバー。
いや、あんまりちゃんと生き残れてないな。陰キャ中二病で「ぐへへ」とか「ふひひ」と笑っちゃうタイプのコミュ障な娘さんである。コミュ障であるからして、普通の日本でもちゃんと対人関係構築できてないのにいきなり異世界に放り出されてちゃんとコミュニケーション取れるわけがないんですよね。
かなりガチで苦労してきたらしく、でもしぶとくへばりついて生きてきたが故に苦労の割にコミュ力とかは成長していない! この陰キャ方向でテンション高くて卑屈で自己肯定感低くて、その割に厨二病抉らせていて闇魔法使いとして色んな意味でヤバいヤツ扱いになっちゃってる……うん、可哀想な娘ですね、色んな意味で。
そして、転移してから四年も経ってるのにセーラー服着続けているからまだJKと言い張る、何気に図太い娘さんである。
この千種がまた不憫可愛い系のヒロインでねえ。ほら、すぐブサイクな泣き顔になっちゃうタイプですよ。ミスティアが「あははは!」と笑ってリアクションするタイプなら、千種はみっともなく大泣きしながら感動したり凹んだりするタイプである。
ほら、まともな味付けの料理だよ、お食べお食べ。ちゃんとしたベッドだよ。社会的な尊厳が守られるトイレだよ、ほらお使いよ。などとその度にべそべそ泣いちゃうのをついつい優しくお世話してあげたくなるやつw
ふへへ、と卑屈そうに笑うのも妙に可愛らしいんですよねえ、千種。この子はこの子で陰の方向ではありますけれど、ずっとテンション高いのもあるんでしょうけれど。彼女の存在で空気が淀むんじゃなくて、ミスティアと千種でテンション高いまま空気の質感が激しくアップダウンするわ、時に一緒になって陰陽のハイブリッド状態になるんで、妙に面白いんですよねえ。

モノづくり系の作品としては、主人公のソウジロウが「クラフト」、工具での工作に専門性が寄ってるので……いや、工具判定できるもんなら何でも変身する神器なんで異様に汎用性は広いんですが。それでも出来ない事も多いわけですけれど、そういうソウジロウが直接アプローチできないものは専門家の精霊が住人として加わってくれて、そっちに丸投げしてしまうのはなかなか割り切ってるなあ、と。
土地の改造から水の供給、農作物の育成などこれはこれで専門性が必要なものは地属性のウカタマちゃん。
これまた個人では製作が難しい布系は蚕蛾系のムスビちゃん、ときっぱり見切って預けちゃってるんですよね。全部主人公が自分でやろうとしないあたり、むしろ好感が持てるところです。

トドメに毒舌とやたらソウジロウの世界の知識にも精通した、イイ性格をした妖精サイネリアがさらに場を引っ掻き回すことで愉快度もマシマシ。
うん、ストーリーそのものに紆余曲折はなく素直なものですけれど、とかくキャラクターが楽しいのでそれに引っ張られるように終始楽しく読むことが出来ました。
終盤、ミスティアがある一件に前がかりになってしまい、視野狭窄に陥って勢い余って一人であれこれしなくちゃ、となって一杯一杯になりそうになった時に、さり気なくずっとソウジロウが助けてくれていたこと。他人事じゃなくて、自分達の事だと一緒に悩んでくれたことに、あとで冷静になってから改めて飲み込んで、そんなソウジロウを個人として意識しちゃってからのミスティアの女の子としてのワチャワチャした慌てっぷりはしゃぎっぷりが、またテンションの色が変わってて……うんうん、ラブコメよーラブコメよー、はい眼福でした。

ともあれ、ひたすら楽しいづくしの作品でしたね。ちょっと元気でた!