【ブラックガンズ・マフィアガール】  扇 友太/tatsuki MF文庫J

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イタリアマフィアの少女と日本の男子高校生の次世代ボーイミーツガール!

極限のリアリティを実現した仮想世界内で、他者と交流を深めるサービス『VRSNS』が現れた未来。そこで誕生した仮想の闇社会では、次世代マフィア・電賊が蠢めくようになった。普通の高校生・日野ナオトは偶然にも――
「日本人、のようですね。あなたが“運び屋”ですか?」
マフィア〈ウルヴズ・ファミリー〉の一員、マーリアに遭遇、関係者と誤解されただけでなく、彼女の仮想兵器L・O・S・Tをインストールしてしまう。二週間以内に事態を解決しなければ組織から処刑されるマーリアと、命の保証を受けたいナオト。イタリアマフィアの少女と普通の男子高校生は、一つの契約を結ぶことになり――!


第9回MF文庫Jライトノベル新人賞の最優秀賞作【MONSTER DAYS】。またその改訂版である【人魔調停局 捜査File】を手掛けた扇友太さんの7年ぶりくらいとなる復帰作。
この作品がまたむちゃくちゃ骨太のハードボイルドアクションである、異世界を舞台にした警察バディものであり、内容も人種差別や悪徳、人の可能性などを深く掘り下げた硬骨とした内容と縦横無尽のアクションに魅力的なキャラクター達によるエンターテイメント性の高さがハイブリッドされた、控えめに言ってもめちゃくちゃ面白かった作品なんですよね。

しかして久々の新作となる本作は、というと……。
正直に申しまして、序盤からあまりの読みづらさにちょっとへこたれそうになってしまいました。
つまるところ驚異的に発展した仮想世界内で現実とリンクして繰り広げられる電賊と呼ばれるようになった新世代のマフィアを主体とした話だったんだけれど、とかく世界観の説明が要点が掴めずに全然頭に入ってこない。その用語の説明ちゃんとされてたっけ? というような単語がいきなり飛び交って、これって具体的にどういう意味だったっけ? と何度か前のページに戻って読み返したりすること度々。んでもって、説明されてるのかされてないのか読み返してもよくわかんないこと度々。
自分の場合、いつもは多少意味わかんなくても大体の雰囲気で何となくわかった感じでそのまま流してしまうんですけどね。読み進めると大半は意味合いが理解に馴染んできて、引っかからなくなってくるんだけれど。本作はそれが出来ずに単語だけじゃなくて全体何の話をしているのかまでわかんなくなってきたので、序盤は本当に読み進めるのが大変でした。
アクションも最初の方からグリッチャー同士……このグリッチャーも具体的にどういうものかわからず、中盤以降にかけてようやく集まってきた情報を纏めた結果こういうもんなんだろうとわかってきたくらいで。とかく世界観や設定の説明の要点がぼやけてほんとわかんなかったんですよ。
アクションの方も、特に最初の方は派手にドンパチやっているのだけれど、なにがどうなっているのか仮想世界とかグリッチャーについて頭に入ってきてないので、やっぱり何が起こってるのか曖昧にしか理解できず、かなりしんどかった。
マーリアというヒロインのキャラクターについても、いまいち最初の方はその子のカラーが定型以上に見えてこず、ようやく個性というか色が見えてきたのが主人公のナオトの学校に転校してきてから。そこで日常を過ごす事でそれまで見せてきた色々と欠けてしまった少女という定型以外の違った顔が見えてきてようやくキャラが立ってきたって感じだったんですよね。
そうした側面は、育ての親であるトージョーや仕事の相棒であるアーロンと一緒の普段の時も見せていたようなので、転校してきてようやくマーリアという子がどんな子かわかってくるというのは若干遅すぎるくらいだったんじゃないだろうか。
見えてくるとこれはこれで非常に面白い子だな、というのがわかってくるんですけどね。
一方で主人公のナオトの方もいまいち彼の寄って立つ者というべきかパーソナリティというべきか。彼がどういう人物か。どういう思想信念過去経験意思迷いがあって、今の彼を形成しているのか。彼の芯ともいうべきものが殆ど描かれないまま、どこか臆病で内向的な性格のようなものが薄っすらと見え隠れするくらいで存在感が感じられなかったんですよね。ぼんやりと焦点が合わなかったというべきか。
そんな彼がマーリアと出会って電賊というアンダーグラウンドと関わり命のやり取りを目の当たりにして、またマーリアという少女と自分の住まう表の側でも一緒に過ごすことで段々と変わっていった、というのが彼を見てきた人物たちから語られるのだけれど……彼になにがあって変化が生じたのか。彼の他人の死に対する強烈な拒絶感の根拠や、自分の人生をなげうってまで光当たる世界に背を向ける覚悟がどこから生まれたのか。壁を乗り越える、一線を画する、その境界がよくわかんなかったんですよね。元の彼の実像が曖昧だったので、どう変化したのかも曖昧で、動機やなんやもちょっと伝わってこなかった。彼以上に部長のカンナの方が、いきなりナオトと真っ当な人生踏み外してるのでこっちの彼女もいったいなにがどうなったんだ? と、訳わかんないまま一線超えちゃったのは面食らったなあ。

終わってみると、そもそもこの話、この物語ってマーリアの話でもナオトの話でもなく、トージョーの物語だったんですよね。一人の不器用な男の人生の物語。友情と後悔と拙い愛情を捧げる物語。総じて彼が黒幕であり主役であり置いていかれた迷子であり、過去から逃れられなかった男の話であり、娘と思う自分がすべてを奪った少女に自分にはない未来を与えたかった物語だったんじゃなかろうか。
マーリアも、そして利用するはずだったナオトも、トージョーの書いた筋書きをいい意味で超えてくれたわけだけれど、それでも彼が描いた盤上、彼が書いた筋書きの上にあったのは間違いなく、終盤に示したトージョーの強烈な存在感にナオト含めてみんな押しやられた感があるんですよねえ。
ちょっと全体的にこなれが足りてなかった感がある。書きたいものを表現しきれず、掘り下げきれず、長編となる文章そのものを書くのが久々だったんだろうか、と思ってしまうくらいには。
後半行くほど尻上がりに読みやすさ、文章のリズム感、登場人物の躍動感や情景描写内面描写の解像度があがってきたんですよね。着実に勘所みたいなのは戻ってきてたんじゃないだろうか。次回を楽しみにしておきたいです。

扇友太・作品感想