【俺と妹の血、つながってませんでした 2】  村田 天/絵葉 ましろ 富士見ファンタジア文庫

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秘密を知ってしまった、夏。私は、妹から一歩先に踏み出す。

最近、妹の久留里の様子がおかしい。いつもベタベタしてくるのに、家族の危機でも、一緒に海に出かけても、変に大人しいのだ。だが、理由は簡単だった。知ってしまったのだ。俺達の血が、つながってないことを。



日々勉強だな、というのとは少し違うかも知れないけれど。渡瀬や七瀬後輩から光雪が今まで持ち得なかったもの、理解し得なかったものを改めて学んでいっている様子を目にして、ふと人は学んで成長していくものなんだなあ、という当たり前のことを再認識した気になりました。
学んだからといって、それを活用できるかは定かではないのだけれど。

衝動のままに生きる少女、本能に従って生きる妹。まあそんな風にしか見えないくらい、思うがままに走り出しぴょんぴょん跳ねて転がりまわっている久留里ですけれど、この子だって何も考えてない訳じゃないんですよね。
それどころか、この巻においては久留里は常に理知の下に遭ったと思います(時々ぶっ壊れましたが)。
思いつきでとった戸籍謄本で自分と光雪が連れ子同士で血が繋がっていないという真実を知ってしまったあと、あれだけ兄の事を好きだ好きだと公言してやまない久留里のこと。それこそ結婚したいと言って憚らない妹である。すぐさま圧倒的なまで強烈的なほどのアプローチを開始するのかと思っていました。
しかし、あの1巻のラストシーンのいつもの彼女と裏腹のどこか静謐さすら感じる穏やかな思いにふける様子は決して一時の呆然ではなかったのでしょう。
丁度、両親の喧嘩によって突然当たり前に思ってきた家族のカタチが時として一瞬にして脆くも崩れ去ってしまう可能性を目の当たりにしてしまったこともあり……いや、ここの小さな四葉も含めた子供たちの動揺と、三人で固まって特に小さな四葉の心を守り慰めるために遊園地に遊びに連れていきながら、みんなどこか上の空で不安を隠しきれない様子の描写は、真に迫っていて素晴らしかったなあ、と思ったのですが。
ともあれ、このエピソードがぶっ込んできたものだから、久留里も動揺のまま兄に問いただすという機会を失い、改めて色々と兄と自分の血が繋がっていない事について考え出すんですね。
とても思慮深く。
思えば、久留里の身からすると光雪がこの事実を知っているか知らないのかわからないわけですよ。4月から急に態度がおかしくなったのはこの件を知ったからではないのかと疑うのは当然なんだけれど、あくまで疑い。もし兄が知らなかった場合安易にこの真実を突きつけてしまえば果たしてどうなってしまうのか。
直近で家族という枠組みが壊れる可能性を目の当たりにし、また誰よりも光雪の心の脆さを知っている久留里である。兄に対して秘密を持ちずっと黙っている事は本来の久留里からするととても不自然な事で辛いことだったはずなのだけれど、それでも彼女は慎重に問うか問わないか、兄が知っているのか知らないのか。言うとしてそのタイミングは? など、慎重に焦らず欲求を抑え込み吟味を重ねていく。
思った瞬間に口に出し行動に打って出るような子が、本当に思慮深くあったと思う。それだけ、家族が大事であり兄が大切であったのだろう。
それでもずっと黙っている、という結論にだけは一切顔を向けないのがこの子の強さであり潔さであり素直さなんでしょうな。
その思慮に費やした時間は、同時に久留里の中の光雪に対する感情が具体的にどういったものなのか。曖昧でもやもやとしたあやふやな感情に過ぎなかったものに、長い熟慮の時間は解析に費やされ彼女の想いを具体化していく。形にしていく。言葉にしていく。
或いは、この熟考の時間こそが彼女の恋を本物にしたのかもしれない。衝動と本能の少女が真剣に考えに考えて出した結論だ。常に自分の恋と家族に対して真剣で真摯であったが故の結論だ。
本気だったし覚悟もあっただろう。
兄・光雪が勝てる要素が見当たらないんだよなあ。
まあ勝ち負けの話じゃないんだけれど。そんな彼女の告白に、真正面から向き合えずに勝手に決めつけて知らんふりをしてしまった光雪は、まああかんやろうというダサさであった。
彼の場合、自覚的ではなく頭の硬さ硬直性故の無自覚さが原因なんだが。助言を求められて光雪の思考に方向性を与えてしまった父の責任は、そこはそれちょっと責任追及するのは可哀想な気もするが。ある意味妥当な判断ですしね、父の考察は。それを鵜呑みにしてしまって、むしろ縋ったのか。それをベースにしてハナから決めつけてしまったのは光雪の責任であろう。
さすがにあれは、久留里でなかったらダメージ大きすぎて、人によっては比喩じゃなく致命傷に成りかねないくらいの話の通じ無さではあった。めげない久留里は偉いし、兄のことがよくわかっていたなあ、と。
ちゃんと全部まるっと理解していて、光雪にもわかるように話してくれた母親は、普段はあれだけれどちゃんと親してるじゃないですか。

まあこれ、どうあっても久留里の負けはないんですよね。どう考えても光雪が妹離れできるわけがないのですし。一生物の関係である。それを十全わかった上で長期戦も辞さずの構えでどんと腰を据える妹。もう他人である、と同時に妹である、という良い所取りで自然な形で異性としての関係性を手繰り寄せるつもりの久留里。これだけ刹那的というか眼の前のことにすぐに飛びつく常時フルスロットルな娘さんが、これだけ揺るぎなく理知的に待ちの姿勢を固持してきたら、そりゃあ勝てませんぜ。
……とはいえ、光雪の方に渡瀬さんのような強力極まる相手が仕掛けてきた日には、果たして久留里が黙っていられるのかは怪しいところなのですが。
怪しいどころか黙っていられずに全校放送をジャックして絶叫するくらい黙ってられない実績がすでに積まれてしまっているのですが。
これ結局、久留里の方はしっかりと結論出てやるべき事も決めて、将来について恋も家族も覚悟してやり遂げた感もあるのですけれど、答えはいずれその先でという形で決着はついてないんですよね。渡瀬さんも、まだラインの手前で踏みとどまっていて、宣戦布告までは行ってないですし。何より、光雪の方は久留里に覚悟しとれよ、と宣言されてそれを受け止められるのかどうするのか、わからないまま徐々に意識も変化中、というあたりで定まってないんですよね。
ここで終わってもいい雰囲気でもあるし、なんかまだ終わってない気もするし、ちょいとじれったくもなるラストでありました。
続くのか続かないのかはっきりしてないので何とも言えないですけれど、願わくばもう少しこの物語の登場人物の先を描いてほしいなあ。