【ロード・エルメロイII世の冒険 6.フェムの船宴(上)】  三田誠/坂本 みねぢ TYPE-MOON BOOKS

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「つまり、神明裁判(オーディール)の一種ということですか」

 海底のアレクサンドリア大図書館で、ついにエルゴの正体を知ったエルメロイII世たち。
 しかし、その直後、自らの教室の最古参フラット・エスカルドスと、彷徨海の魔術師ジズが接触していることを知らされ、急遽モナコへと飛ぶことに。ついに対峙したジズが持ちかけてきたのは、死徒ヴァン=フェムが運営するギャンブルのイベント――フェムの船宴(カーサ)で勝負をつけよう、というものであった。
 一方、モナコでとある捜索を続けていた遠坂凛とルヴィアは、思わぬ人物と遭遇することになるのだが――!

 恐るべき死徒の豪華客船を舞台に、幾多の魔術師やマフィアたちの陰謀と欲望が交差する、『ロード・エルメロイII世の冒険』第六巻!


ついにFateシリーズの主人公である衛宮士郎が登場。
長かった。このロード・エルメロイII世シリーズの二期である「冒険」シリーズが始まって、第五次聖杯戦争が終わって遠坂凛たちが留学してくる時期となりましたからね。この二期シリーズから凛と士郎の二人も登場するのかと思ったら、凛だけがなんか横殴りみたいな感じで参加はしてきたけれど士郎の方はというと全然音沙汰なかったですもんね。
最初の一時期は同じ赤毛の青年ということで、エルゴが士郎なんじゃないかと予想したこともありましたっけ。

とはいえこの巻、衛宮士郎という存在が現れはしたもののなかなか姿は見せてくれないのね。どうやら士郎がこのモナコに来ているらしい、という話にへーー、となってたら。
なんか知らんうちに今からロード・エルメロイII世たちが挑もうとしているフェムの船宴でつい先日勝ったやつがいる。その名も衛宮士郎!
その名前が登場したと思ったらいきなりなにやってんの衛宮くん!?
別に勝ってしまっても構わんのだろう? でほんとに勝っちゃうやつがあるか!
と、思ったら報酬も受け取らずに行方不明になってるし。お陰でルヴィアと凛がゲシゲシ蹴り合いながら一緒に探すわ、ヴァン・フェムも彼のことを探しているわ、かのフェムの船宴の久々の勝者にそのギャンブルの勝ち方などの情報を得るためにあらゆる勢力が彼を追い回しはじめることに。
で、消息を立ってしまった、と。
ほんとなにやってんの衛宮君!?
こいつ、作中に未だちゃんと登場していないにも関わらず、思いっきり場を、モナコを引っ掻き回しまくっとる。マフィアと地元の魔術師たちとも抗争まがいの争いが始まってて大騒ぎじゃないですか。
その地元の魔術師家の有力者がフラットくんの実家だというのはまた縁と言えば縁なのでしょうけれど。
って、最後の最後についに衛宮士郎当人が登場したんですけれど、姿を現したというか、シーンに御本人がお出ましになったんですけど……。
いやほんとマジでお前なにしてんの衛宮くん!!??

さすが、放課後に高跳びの練習をしているだけで名だたるヒロインたちを複数人落としてしまったという名うてのジゴロだけあるというべきか。
名作フェイト・ステイナイトで各種ルートを駆け抜けたギャルゲ主人公だけ在るというべきか。
この男、また無自覚に女の人陥落させてるじゃないですかーー。順当に正義の味方ルートを歩んでいるのはそのご様子というか行状を見るとわかるんですけれど、仮にも相手魔術師にも関わらず完落ちさせてやがる。エピローグ見てひっくり返りましたわw
凛もルヴィアもこの男放置してたらあかんでしょ、ほんとに。本気で。

そんな正義の味方の道を着々と歩みだしている衛宮士郎を追いかけるように、或いは士郎の方が追いついてきてしまったのか。
まさかの「魔術師殺し」衛宮切嗣の残像がこのモナコの地で垣間見えることに。
確かにキリツグはこの世界線でも死んではいるんだけれど、彼の魔術師殺しのために培われた独自技術は、消えてはいないんですよね。
ってか、キリツグ、やっぱりあれだけむちゃくちゃやらかしてたんだから、魔術界にも大きな影響及ぼしているよなあ。この男のもたらした被害だけで時計塔の護身術のカリキュラムが書き換えられた、というのはこれ相当じゃないですか?
それに第四次聖杯戦争でも猛威を振るった彼の切り札である「起源弾」。これの仕組みって強力な魔術師であればあるほど致命的な損傷を受けてしまう、という意味で真実必殺の魔術師殺しなんですよね。むしろこれまでキリツグ以外使うケースが今までなかった、という方が意外ですよ。キリツグ独自の製法によるものだとしても。あれって弾さえあれば使えてしまうものですからね。そうでなくても、誰かが概念として再現してくるかとも思っていたけれど。
ついにここで現れたか、「起源弾」。

にしてもですよ。その使われ方、使われた相手が相手ですよ。まさかまさかのまさかですよ。てっきり、この冒険シリーズのラスボス候補だと思っていたし、少なくともこの上下巻でエルメロイ二世とがっつりやりあって決着をつける相手だと思っていたジズがその犠牲者になるなんて。
まさかのジズ殺人事件の謎がこの幕のメインだったとは。

月姫ファンとしても、ついにあの二十七死徒の一人であるヴァン・フェムが堂々とメインキャラクターとして登場して、しかもフェムの船宴をメインでやるということで主催者として振る舞ってくれて、興奮しっぱなしだったのですけれど。
まさかまさかの展開だわなあ。いやーー。
あとはやはりフラット・エスカルドスというエルメロイ教室最古参の生徒の強烈な存在感でしょう。いつも笑って好き勝手に暴走している教室一番のトラブルメイカー。Fakeシリーズでもメインのキャラクターの一人として暴れまわる彼ですけれど、そのフラットくんの持つ異質さを最新の生徒であるエルゴとの会話掛け合いを通してようやく掴めてきた気がします。
エルメロイ先生、一見まったくフラットを制御できていないようにも見えますけれど、この子を生徒として枠の中に収めているだけでも凄いですよ。ロード・エルメロイ2世と出会わなければ、果たして彼はどんな怪物に成り果てていたんだろう。少なくとも、人の枠組みからはどうしたってはみ出てしまっていたように思えます。でも今の彼は手取り足取り先生が見ていなくても、自分で友達を見つけて人としての情緒情動を手に入れ身につけていってるんだよなあ。

さても物語はフェムの船宴(カーサ)が本格的にはじまるまでの準備回というべきところでしたけれど、その準備段階でこれでもかこれでもかとネタを詰め込んできて、なんかどんどん飽和して張り詰めて今にもドカンと弾けそうな緊張感になってきました。既にドッカンドッカン爆発している気もするんですけれど。
エルゴの記憶飽和や、グレイのタイムリミットの解決の糸口が、少なくとも「ある」と提示された事は特に大きいポイントのはず。
士郎の方も、キリツグの息子である以上現状起こっている魔術師殺しと重ねられても不思議ではない状況に追い込まれてたりとこっちもえらいことになってるんですよね。彼が歩もうとしている正義の味方の道が、果たしてかつて衛宮切嗣が辿った道とどう重なり、どう相容れぬのか。それが見えてくる展開にもなりそう。
はからずも、エルゴと士郎の二人、亡き父の過去に迫られてるんだなあ。