【売れ残りの奴隷エルフを拾ったので、娘にすることにした】  遥 透子/松うに 電撃の新文芸

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不器用なパパと純粋無垢な娘の、ほっこり優しい疑似家族ファンタジー!

エルフの少女が奴隷として売られているのを目撃した主人公・ヴァイス。
その少女が、単なるエルフではなく絶滅したはずの希少種【ハイエルフ】であることに気付いた彼は、少女を購入し、娘として育てることを決意する。
はじめての育児に翻弄されまくりのヴァイス。それでも、奮闘の甲斐あって、ボロボロで言葉も話せなかった少女は元気な姿を取り戻す。名前は初めて喋った言葉にちなんで「リリィ」に決定。
すっかり親バカ化したヴァイスは、リリィを魔法学校に通わせるという目標のために奔走する!
「きょーはにゅうがくしきー りりーまほーつかいになるー♪」
「…………悪くないな、こういうのも」
不器用なパパと純真無垢な娘のほっこり疑似家族ファンタジー、はじまります。




幼くして人生に絶望しきって心を閉ざし人形のようにただそこにあったハイエルフの幼女。
奴隷として売られていたそんな彼女が特別な存在だと見抜き、興味本位から買い付けたヴァイス。そんな二人が本当の父子同然の仲良し家族になるまでには紆余曲折あったんだろうけれど……。
冒頭でさわりだけちょこっと幼女にリリィという名前をつけるまでをやっただけで、一年経過して既にヴァイスは親ばかになり、リリィの方は男をパパと呼んですっかり懐いていて、となんか一番むずかしい時期であろう、そしてお互いの関係が育っていき心が結ばれていく感動の時期を、あっさりすっ飛ばしちゃいましたね。
いや、そこダラダラやってても話が間延びしてしまうのかもしれませんけれど。そこをダラダラやってしまうか、じっくり丁寧に心に届くように描くかは書く人次第だからなあ。

ともあれもうなんやかんやで親子同然となった二人は、暮らしていた悪徳の街ゼニスはリリィの育つ環境としては悪すぎるという事もあって、ヴァイスの故郷でもある帝都へと戻ることになったのでした。
って、ヴァイスがそこを飛び出した理由がけっこう酷いなあ。なんか悪事をやらかしてしまったとか、問題を起こしたとか、追い出される羽目になったとかそれ相応の理由があったら良かったんだけれど、この男魔法学校での成績が良すぎて実力もあるために魔法使いエリートのトップが集う魔法省にしつこくスカウトされたのを鬱陶しがって、親にも友人にも何も告げずに飛び出して悪徳の街でぐだぐだやっていたという……能力はあっても人格的に相当問題あるんじゃないのか、こいつ。
実際、身内以外には凄まじく冷たい、というか基本的な人の心がないタイプなんじゃないだろうか、この主人公。両親に普通に愛されて育ったわりに、妙にサイコパスなところがあるぞ。その分、身内認定した相手には情も厚いし面倒見も良いのだけれど、それ以外に対しては冷酷無情な側面が強く伺えるんですよね。
だからこそ、リリィという子供への溺愛っぷりがギャップになってるんでしょうけれど。愛される環境にいながら愛というものを実感したことのなかった男が初めて感じた無上の愛。それがリリィへの父性だったわけですね……。異性への愛情とか、こいつ実装してないよね、多分。
学生時代から不器用ながら好意を見せ続けていたジークリンデに対して、あのトンチンカンな対応は鈍感という言葉で括って良いものなんだろうか。
事情あって自分に人生を預けてきたホロに対しても、普通に他人寄りの友人って感じの距離感だったしなあ。
いや、ホロさんの素性に関してはマジでびっくりしたんですよね。この二人の関係って、ゼニスでの様子を見る限りまるで熱量感じられなかったし。いや普通、あそこまでして一緒にこれまで歩んできた人生の道を盛大に飛び降りてしまった二人が、なんでこんなさっぱりした関係で落ち着いちゃったんだ? と。これ当初からヴァイスの方が徹底してそっけないとか冷たいとかじゃなくて、無だったんだろうなあ。ホロの方がいったいどんな風に感じていたのか、思っていたのかはちょっと知りたいところ。でも、ヴァイスがリリィ連れてゼニスを出て故郷に戻ると告げてきた時の、寂しそうにしながらもとっくの昔に違う道を歩むようになっていた、という感じのあっさりした別れ方は、ホロの素性を知った後だと色々と想像してしまうものがあります。
最初登場してきたときは、ゼニスの街で知り合ったもの同士だと思ったからなあ。まさか、ヴァイスがホロをこの街まで連れてきた、ってかほぼ逃避行じゃね? という感じだとは想像もしとらんかった。

十年ぶりに再会したジークリンデさんてば、今度こそ逃すまいと必死に彼のパートナーとしての立ち位置を確保しようと頑張っているのですが、彼の養女であるリリィとの初顔合わせで初対面の幼女に何を聞いてるんだ? と唖然としてしまうほどの不器用っぷりに、ちょっと気が遠くなってしまった。これ無理じゃね? リリィ完全にこの人なんか怖い、になっちゃったじゃないか。
子供が苦手にも程があるだろうに。
でも、それでも根気よくリリィの方に向き合おうと頑張っている姿は好感が持てるところです。これでヴァイスの方ばっかり顔色見てたりしてたら、リリィの母親になりたいと名乗りをあげた事が嘘まみれになってしまいますもんね。子供を出汁にして親に粉かけるって最低な振る舞いになってしまいますし。
実際、ヴァイスって恋愛感情実装してるかかなり怪しいので、学生時代からどれほどアプローチしても全く意識してもらえなかったジークリンデとしては、今更彼に女として見てもらうよりもリリィの母親として認識してもらった方が手っ取り早いんですよね。ヴァイスの気持ちはどうあれ、正式にリリィの母親になったら自動的にヴァイスと法的には結婚しました、という関係に収まることが出来るわけですし。
なにげに狙いどころは的を射ているんじゃないだろうか。ジークリンデがそこまで打算的に考えられるほど器用な娘さんではないんですけどね。ヴァイスはリリィに母親が必要だと思い、リリィも母親を求めるようであれば娘優先第一主義からして、リリィが選んだ人と結婚することに何のためらいもなさそうですし。
やっぱり人の心とか大分なさそうだよなあ、この男。リリィの方はまだ幼すぎて、自覚的に父親の異質な部分を変化させていく事は難しいでしょうし。
しかし、リリィってハイエルフらしいけれど成長速度とかどうなってるんだろう。エルフ種と人類種の流れる時間の違いみたいなものはファンタジーの定番みたいな設定だけれど、果たしてリリィが大きくなるのか、成長するのかどうかによって話の流れも全然変わってくるでしょうし。まさか永遠に幼女だとはならんだろうけれど。
魔法学校に通う以上は、周りの子たちと同じように成長していくということでいいんでしょうかね?