【クセつよ異種族で行列ができる結婚相談所 ~看板ネコ娘はカワイイだけじゃ務まらない~】  五月雨 きょうすけ/猫屋敷 ぷしお 電撃文庫

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『自由とは、エルフとドワーフが愛し合っても咎められないことである』
種族間戦争終結後──十七の種族はすべてのヒトが平等に暮らすための実験都市・ミイスを設立。それから数年、この街で『相談者満足度100%』を謳う結婚相談所には、今日もたくさんの異種族が訪れる。見習いスタッフ・猫人族のアーニャは謎多き美人所長・ドナのもと、クズな指導係・ショウとともに、相談者たちの縁を結ぶために日夜奔走していた。
アーニャが憧れたのは、この自由な街で、異種族同士の幸せな出会いをサポートできる素敵な仕事……しかし現実は、ワケあり相談者の対応に追われる日々だった! 理想がハイなエルフ女子(彼氏いない歴三世紀)、厄介能力でSクラスパーティを崩壊させた優男──って、いくらなんでもクセが強すぎるんですけど!? ドタバタ婚活ファンタジー、はじまります!!!!

これはストライクぅぅ!! 来た来たど真ん中ズドンと来ましたよ。
とかくコメディタッチな明るいノリと、テーマ性メッセージ性を色濃く伝えるシリアスで真剣なパートとが素晴らしく調和して、一つの物語を形成している。これは良い書き手さんです。土台しっかりしてるから、書けば書くほどどんどん伸びるタイプですよ。

最初はねー、タイトルからしてかるーい感じの可愛い女の子がたくさん出てきてワチャワチャとラブコメするタイプの、まあ気楽に読めるタイプの作品かな、と思いながらページを捲ったわけですよ。
しかしこれがどうしてどうして。
ガツンと来るストーリーじゃないですか。結婚というテーマに対しても、それまでずっと異種族間で戦争をしていた者同士の周囲に祝福されるかどうかわからない以前に、当人たちの価値観が未だ変化しきれない中。戦争という血塗られた記憶が色濃く残っている中のことですからね。決して安易容易に叶うべくもない。
しかし、同時にそれは戦争という過去を過去に押し流し、未来を志向する象徴ともなるべき事でもあると。何よりこれまでのただ種族の人数を増やすだけという大きな括りに寄って成立していた婚姻ではなく、当人同士の自由な恋愛感情によって結ばれ、幸せになるために成立するモノとして、すごく重要な扱われ方をしているテーマなんですよ。
そんな結婚の橋渡しをする相談所の受付嬢として働く主人公が、猫人族のアーニャ。
この娘は、若い世代なだけあって直接戦争を知らない世代なんですよね。一方で、その戦争の渦中に築かれた古い価値観の中で産まれ育った世代でもある。
もし戦時に産まれていたならば英雄の一人ともなっていただろうという恵まれた資質を持ちながら、戦争が終わってしまったが故にその力を持て余し、平和な時代に必要ない力にむしろ劣等感すら抱いてしまい、周囲から爪弾きにされがちだった彼女が、新しい土地に来て新しい価値観と出会い、古い価値観の中では想像すらしていなかった幸せのカタチを見つけるのである。
自分も、そんな幸せの景色を作る一人になりたい。そうやって、結婚相談所の門を叩いた彼女の存在こそが、戦争をやっとの思いで終わらせてしかしなかなか変わろうとしない各種族の未来を憂いて、本当の平和、本当の融和、誰もが希望を抱ける未来を作るためにこの実験都市ミリスを作り上げた先人たちの思いの、一つの結実でもあり、正当な後継者の現れでもあり。
この娘、結婚だけじゃなくて過去と未来の橋渡しも担ってるんだよなあ。
そもそも結婚とは一族の長老が決めるもので、好きあって結ばれるものなんて頭の片隅にもなかったアーニャ。それが、旧時代には絶対に有り得ないとされた天敵同士の種族であるエルフとドワーフの結婚式を目の当たりにしたことで、新しい価値観を知り、しかし恋愛というものに関しては全く無知のまま、その恋愛の集大成とも言える結婚をお手伝いする結婚相談所の相談員になろうとしたのですから、そりゃもう痛い目も見ちゃうのですけれど……。
この娘ってずっと辺境の村に居て世俗に汚れていないからか、その純真さ故にある種のやさぐれたりひねくれちゃったり頑なになってしまった人たちの心にグサッと刺さる言葉を、ほんと無意識に発することがあるんですよね。
偏見もなにもないが故に、思うがままに発せられた言葉はスッと胸に沁みるのである。
……この娘、ほんとに戦争時代に産まれてたら凄いカリスマになってたんじゃないだろうか。シンプルにその特異とも言える突出した種としての先祖返り的な能力だけを評して、英雄になっていただろう、なんて言われてたし。実際、大戦時の英雄たち相手に引けを取らないどころか圧倒するようなパフォーマンスを見せるエピソードもあって、その評価には一切の偽りもなかったのだけれど。
アーニャの真価はもっと違うところにあったんじゃないだろうか。
そんでもって、今彼女は結婚相談所の相談員として、存分にその力を振るっている。そりゃ、あっという間に看板娘にもなるよなあ、という勢いで。

こうして見ると、本作って実に読み応えのある戦後復興の物語なんですよね。それも、皆が力を合わせて過去の痛みを乗り越えて、希望の未来を一緒に作っていこうという。
そんなテーマの上にドタバタとしたコメディタッチの結婚にまつわる騒動を盛り込んで仕上げたこの物語は、すごく楽しく読めると同時にしっかりとしたメッセージ性を味わえる、いやこれブレンド難しかっただろうなあ、いやそれともセンスでこれだけ見事に調和させたのか、いずれにしても面白さと上手さと完成度と拡張性が素晴らしく合わさった良作となって仕上がってきてるんですよ。
イイものを読んだなー、という充実感を読後に存分に味わわせてくれた良作でした。

しかし所長と副所長の正体は序盤で薄々察してはいたけれど、ゲスでペラペラたるゲスペラーズな副所長はもとより、完璧美女に見えたドナ所長の実は隙だらけ穴ぼこだらけの素の顔には笑ってしまった。この人、こんなに人との距離感下手くそなのに、結婚相談所の所長なんて良くできたなあw いや、下手くそなのプライベート限定なんだけれど、ポンコツというのも酷いぞw
とはいえ、その出来まくる女性の姿とこれはアカンというへっぽこな姿が二面性というほどくっきり別れていなくて、これがドナさんという人なんだなあと伝わる感じにハイブリッドされてるキャラデザイン、ほんとイイですわー。
副所長のショウの方も、表向きはクズでしかないけれど本当の彼はこっちも完璧超人なアレ、かと思ったら何気に結構人の心がわからない系のガチクズムーブも噛ましてしまって、アーニャの劣等感を踏み躙ってしまい、ガチめに怒られてしまってたあたりダメ人間なのもマジなんだなあ。とはいえ、ちゃんと反省してフォローもちゃんとやろうとしているあたり、本当のクズ野郎ではないんですけど。
何にせよすごく面白かった。ちょっとタイトルなどから勝手に中身想像して、何も考えずに読めるだろうから、そういうの読みたいタイミングで読もうと思って読むの後回しにしてしまっていたのを後悔してます。
ほんと、本って実際読んでみないとわからんよなあ。



いたのですけれど、