【化物嬢ソフィのサロン 〜ごきげんよう。皮一枚なら治せますわ〜】  紺染幸/ハレのちハレタ マッグガーデンノベルズ

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皮一枚だけの癒しの力ですが……その傷、全力でお治しいたします! 元オカンの少女が贈る 心ぽかぽかハートフルファンタジー

裕福な商社を営むオルゾン家の一人娘ソフィは、生まれつき皮膚の奇病にかかっていた。その異様な容姿により周囲から『化物嬢』と呼ばれ、学園ではいじめられる毎日。ついには退学し、屋敷で皮一枚しか治すことができない微妙な光の力の習得と勉学に励むことになる。そんなソフィは、ある日自らの病気を苦に命を絶ちかけ思い出す。自分がかつて日本に生まれ死んだアラカンのオカンだったことを!化物嬢ソフィが、今日もお客様の皮をお治しいたします!

皮一枚というと、鶏皮とか思い浮かべちゃってあれだけれど、皮膚をきれいに治癒できるとなると、それはめちゃくちゃ需要ありますよね。
ただでさえ、美容整形なんて存在しない異世界。それを外科手術ではなく、外から魔術をかけたらきれいに治るとなると、これはとんでもないことですよ。

しかし、そんな治療を施せ得る当の癒者ソフィは、自らの魔術で幼い頃から自らを犯す皮膚病を治せない。化け物のような見た目。寝るときには自ら手を縛って無意識に掻き毟らないようにしなければならないほどの痒み。岩のように皮膚が固くなる角質化。
幸いにしてアトピー性皮膚炎ほど重度の皮膚病は掛かったことはないのですけれど、それでも手や脚の一部で長らく皮膚病を患ったこともあるので、あの痒さは多少なりとも理解できる。手足の一部分だけでもあれだけ辛かったのに、顔を含めたほぼ全身となると想像を絶する。
そんな自らの症状を癒せないまま、しかし他人の外観や古傷、火傷の痕などを治療するソフィの気持ちは如何ばかりか。しかし、彼女は自ら望んで自らに似た苦しみを持つ人達に手を差し伸べようと志してるんですよね。しかも、自分のような化け物みたいな見た目をしているものになら、己の引け目ともなりかねない部位をさらけ出せるだろうと、途中から自らの症状を隠すどころかむしろ曝け出して、訪れる人々の素顔を見せるのである。
そんなソフィの前世はアラカン……アラウンド還暦、つまり60も目前のおばちゃんでシングルマザーとして一人娘、それも皮膚病で苦しむ子を立派に育て上げたオカンだったのである。
この人の前世の述懐を聞いていると、若くして夫をなくして子供は病気。自分は学なく貧乏ぐらしで働き詰め、とひたすらつらい人生で子供にも全然良い思いをさせてあげられなくて申し訳なくて、それでも結婚しないと思われた娘が四十路間際になってついに相手の男を連れてきて、ようやく幸せを掴めたと思ったら脳卒中で倒れて、変に後遺症を残したまま娘に迷惑を掛けたくなくてそのまま助けも求めず亡くなってしまった、という壮絶とも報われることのない人生、とも言える何とも暗い息の詰まるような回顧だったのですけれど……。
語り口のわりにソフィ自身はそんな前世に、娘にしんどい思いをさせてしまったという心苦しさはあっても、辛かった苦しかったという想いはあっても、自分の生き方そのものには後悔とかはなさそうなんですよね。
それに、彼女の回想からは息を殺して身を潜めて苦しい人生を耐えてきたという雰囲気が漂っているのですけれど、実際のソフィの前世のオカンって、自分でオカン力!とか言ってるように実は相当にバイタリティある肝っ玉母ちゃんだったんじゃないだろうか。
ソフィのあのメンタルのタフさとか、図太さを見ていると苦しい時期でもうつむかずに胸張ってガンガン行こうぜ!的な勢いで頑張ってたんじゃないだろうか。笑顔を絶やさず娘にも負い目を感じさせないように明るさを失わないようにしてたんじゃないか、と思えてくるんですよね。
少なくとも幸薄そうな、じっとりと忍耐忍耐と我慢して背筋曲げて生きてたような人だったとは思えないんですよねえ。我慢強くはあっても、忍耐強くはあっても、それは前向きで胸を張った我慢強さというべきか。

しかし、ソフィの患っている皮膚病。一時的に治癒術をかけてもとに戻っても秒単位ですぐに元の状態に戻ってしまうのは、さすがに異常すぎるんですよね。免疫系の異常とかにしても、一旦治ったら少なくとも一晩くらいは状態保つだろうに。

ともあれ、そんなソフィの開いたサロンですが、面白いことに最初と二番目の来客にはその皮膚を治す治癒を使うこと無く話が終わってるんですよね。
いや、初手ワニってさすがにそれは想像の埒外なんですけど!? 
まあ流石に鰐に変身した人を治せるか、というのはそれもう皮膚一枚の範疇じゃないでしょう、って話なんですけれど。
このワニの王女様と次のハナクソ夫人については基本、本来コンプレックスや精神を弱らせる要因となる皮膚の以上に関して、二人共それを乗り越えて人生を歩んできた人だったんですよね。
ソフィのサロンを訪ねてこようという理由を持った人たちというのは、健康を損なうような重篤な病を得ている、というわけじゃないのだけれど、その古傷や火傷などによって見た目を損なうことで、他者から人格攻撃を受けたり尊厳を踏み躙られてたり、人として持つべき誇りを傷つけられていた人たちである。
それは当人を傷つけるものだったり、その傷跡があることで大切な人を傷つけてしまうものだったり。
最初の二人が結局それを治すことをしなかったのは、彼女たち二人は既にその特徴を自分の誇りを損なう要因ではなく、自分の尊厳を支えるものにそれまでの人生で昇華していた人たちだったんですよね。しかし、今後もそれを持つ事で自分自身ではなく、自分が大切にしている家族などを傷つけたり悲しませてしまうのではないか、という弱気がソフィのサロンへと足を運ばせるきっかけになったわけですけれど。
ソフィとの対話の中で今までの自分を肯定され、自分の誇りの在処を見つめ直すことが出来て、だからこそ直接の治癒は必要なかったわけだ。詰まる所、ソフィの治療って単純な外見の治療じゃなくて、対話による心の治療だということを最初に治癒しない2つの短編を持ってくることで示していたんじゃないでしょうかね。……女優スカーレットはこれまた特別というか、俳優の化身みたいな感じで話は別でしたけれど。
ともあれだからこそ、それ以降の実際に治癒を必要とする人たちの話に、よりソフィの言葉が深く届くように聞こえてくるのである。
自ら自分の人生を歩んで乗り越えてきたワニの王女と、ハナクソ夫人と違って……この二人もソフィと話すことで今まで以上の見地を得て、乗り越えるだけじゃない幸せを掴み見つける確信を得るわけだけれど。それ以降の人たちはけっこうギリギリまで自分の人生行き詰まってしまっていた人たちなんですよね。ソフィによる皮膚の治療は、彼らの人生を切り開く大きなきっかけであり、閉ざされた扉を開く鍵ではあったんですけれど。開いた扉の向こう側をどう歩いていくか、について今までの自身では得られなかった知見を、ソフィの親身な助言が示してくれたのである。きっと、ただ単に火傷や痘痕や傷跡を治してもらっただけでは、彼らの行き詰まりは解消されなかったでしょう。一度拉げてしまった心は、なかなかシワ無く伸ばすことは難しい。それを、ソフィは丁寧にしっかりと無理やりではなく相手の心に届くようにささやきながら伸ばしていったのである。
単なる客ではなく、時に親しい友人となって、彼らが本当の幸せを掴めるように手を差し伸べ、送り出す。決して重々しくなりすぎず、それどころか偶に素っ頓狂な対応なんかしながら、ソフィは明るく労るように寄り添って、来客たちと一時を共にしていく。実に心に響くお話の数々でした。
巻末には、それぞれの話の来客たちのアフターが描かれていて、どれも前向きでグッと来てしまう話なんですよねえ。
特に好きなのはやっぱりイザドラとアラシルの話でしょう。特にアラシルの方は、嫁いだ先の北の地の家での話。あれはほんと素敵だったなあ。今までずっとつらい思いをしてきたアラシルが、極寒の地ながら本当の家族の温かさを手に入れたのだと分かる話。悲しい別れに凍りついていた家が、働き者の不器用なお嫁さんの訪れによって温かな春の日差しが注ぎ始めたのだとわかるお話。
ここだけでももうちょっとその先の様子見てみたいくらいでしたねえ。

ソフィ自身にも、その見た目も病気も気にしない、というか意識する感性を持たない、でも癒者として人を労る事を知り心を癒やすことについて思い巡らせている一人の男性との出会いがあったんですよね。
うん、ここで終わりは勿体ない。何より報われるべき人がまだ報われていないのだから。まだ続きもあるみたいで、楽しみです。