【帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中】  佐伯 庸介/きんし ガガガ文庫

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女司書が抗う、戦場の魔導書ファンタジー!

「クソみたいな図書館だ」と、女司書は吠えた。

《連合軍》と《魔王軍》との戦いが続く世界。
長い時が過ぎるなかで、人がかつて持っていた魔力はそのほとんどが喪われ、人類は鉄と火を主力とした軍隊と『勇者』『魔導具』といった数少ない神秘の力をもって魔族に相対するようになっていた。

戦況を打破するため、帝国皇女は過去の遺物たる『魔導書』の管理運用を狙い、最前線には似合わぬ『基地図書館』を試験的に配置。魔導書の修復・活用をその主任務とする『魔導司書』がその運営を行うことになった。
半信半疑だった帝国軍部は魔導書の力を見、その兵器としての本格的な運用を図り始めるのだがーーそこに、ただひとり、抗う女がいた。

それは軍基地図書館の『司書』の任を受けた女。
本を愛し、愛しすぎたゆえに職を失いまんまと戦場まで連れてこられてしまった女。
筋金入りの司書ーー魔導司書カリア・アレクサンドル。
眼鏡で八重歯で巨乳にソバカス、朗らかに良く笑い、すぐに手が出るいい女ーーそして誰より本を愛する女!

本を愛する司書の誇りが、戦争という現実に抗い始める。


すげえ作品でした。情緒をぐちゃぐちゃに揺さぶってくる物語でした。戦場という死が当たり前に誰もを平等に飲み込んでいく場所において、本という存在を通じて人間のあるべき姿を浮き彫りにしていく、胸を打つ戦争小説でした。
だってさ、図書館ですよ、図書館。そんな施設がある場所、いくら前線基地と言っても実際に敵と戦火を交えている戦場を支える場所にある基地だと思うじゃないですか。
いやここ、まじもんの最前線じゃないか。
確かにこの基地の外には塹壕が張り巡らされて防御陣地が敷かれて、第11前線基地はその後方にあって最前線を支えているのですけれど、その距離感が全然想像していたのより近い近い。戦う兵士は頻繁に基地の内と外を行き来していても、基地にまでは砲火は届かず戦場の空気とはある程度隔離されてるかな、くらいの感覚だったのですけれどこれだと城下まで攻め寄せられて必死に防戦を繰り広げてる城。或いは中華の戦記に度々登場する函谷関みたいなもんか。

お話としても読む前は戦場で戦う兵士たちが、一時戦いから遠ざかって基地の図書館で様々な本に出会い、というどこか戦争の中の日常を垣間見るみたいな感じで短編が幾つもあるオムニバス作品かな、という感じでどこかしっとりとした雰囲気の想像していたんですよね。
いや本当に、それどころじゃなかったよ。死が当たり前に隣にあって兵士なら誰もが平等に肩を叩かれて生と決別させられるという、精神を削りに削り人が人らしさを失っていく場所で、主人公のカリアさんが豪腕をもって立て直した図書館という場所は、そこで貸し出される本は兵士たちにとってはまさに日常との繋がりであり、自分が人間であることを思い出させてくれる尊厳回復装置であり、借りた本の続きを読みたいというとても素朴な生き残るための目的が生きる意志となって、彼らをつなぎとめていく。
仲間たちとまだ読んでない本を貸し借りすることで連帯を強め、本を書いた人を思うことで外との繋がりを感じ、自分たちが守ろうとしているものへの実感を得る。
本が、生きる原動力になっていく。本というものの意義を、実感とともにこれでもかと教えてくれるんですよね。本っていいよね。素晴らしいよね。
将来になんの展望も持てず、流されるように生きてきた男が本を読んで初めて自分が成りたいと思うものを見つけて、そこにたどり着くための展望を抱き、未来を望む。
読み書きも出来ず難民として生きるために兵士となり今を生きるためだけに生きてきた子供が、本を通じて初めて自分の中に芽生えた願望を知り、夢を抱いて将来に思いを馳せる。
戦いのさなかで、戦争の渦中で、彼らは確かに希望を失わず、ただの殺戮者にならず、自分や自分以外の誰かの未来を守るために戦う、そんな原動力を本は与えてくれた。そんな本を、カリアさんの図書館は惜しみなく貸してくれた。生きて戻ってきてちゃんと返せよ、次の本が待ってるぞと励ましながら。
でも、同時に戦争はあくまで冷徹で非情で、誰もを平等に平らにしていく。
本を、返しにこれない兵士たちは当たり前にいるんですよね。え、そんなあっさり、と思えるほどに作中で登場した人たちが本当にあっさりと簡単に、戦場で屍となって倒れていく。彼らが抱いた希望も未来も何もかもを奪い去って、無にして。
カリアさんは、図書館司書として本を管理していて戦場に実際に立つことはない後方の人……ではなくて、魔導書と呼ばれるものに関わることで敵の魔族の軍勢と直接相対することもあるし、戦場のただなかに立つこともあるので、後ろで兵士たちの生き死にをただ見守り、ただ待つという立場でもないんだけれど。それでも、仲良く声を交わし、本を読んだ兵士たちの感想を聞き、親身になって本の面白さを伝えた相手が、次の日には亡骸となって戻ってくるのを何度も何度も何度も味わうんですよね。
ときに、彼女自身可愛がっていた少年兵や幾人もの親しくした兵士たちの死地を目の当たりにして、憎しみに駆られて動いてしまうこともありました。どれほどつらく苦しい思いを抱えながら、この前線基地で図書館を守り続けたのか、この人は。
その上、魔導書絡みで自分の決断によって多くの兵士たちの死を、知り合いたちの死を左右する立場にすら立たされるんですよね。
しかし、彼女はめげない。折れない。挫けない。諦めない。いつだって大声を張り上げ、本をぞんざいに扱う不届き者に一発食らわし、大きな声で笑い、みんなをどやしつける頼もしいおっぱい大きな司書のお姉さんをやり続けた。かっこいいですよ。むしゃぶりつくなるほどかっこいい女性だ。
戦闘マシンの権化みたいな勇者が、どうしてこの人に魅入られ惹かれていったのか、ちょっとはわかろうというものです。アイドルなんてものとは程遠いけれど、この前線基地においてカリアさんは確かに兵士たちみんなの女神で姉御だった。

この基地、人類連合軍側には僻地すぎて軽視されているのですけれど、人間じゃない魔族の機動力を鑑みると、連合国の主力をなす大国の一つの首都にダイレクトで攻め寄せられる要衝地なんですよね。
カリアをスカウトしてこの地に派遣した王女様のように、僅かな人間だけがその価値に気づいているものの、連合軍の首脳部はそれを頑として認めず、他の激戦地からなかなか兵力を動かそうとしない。
その重要度とは裏腹の過小の戦力しか置かれていない前線要塞基地なわけだ。
そんでもって、ここを攻める魔王軍の部隊長グテンヴェルが……これがまたむちゃくちゃ有能で優秀な智将なんですよね。むしろ、魔族らしい脳筋で力こそすべての能力だけ高いバカならやりようはいくらでもあったのですけれど。実際、初戦では力こそ図抜けている武闘派の将軍が派遣されてきて、指揮を取るのですけれどわりとあっさりと首を取ることに成功してるんですよね。これは、ちょうど王女が要請して派遣されていた人類決戦兵器たる勇者が基地に居た、というのも大きかったのですけれど。
しかし、再びグテンヴェルが指揮権を取り戻してこの地を攻める魔王軍の指揮を取り始めてからは、ほんともう全然油断も隙もないんですよ。着実に相手が嫌がることを推し進めて、第11前線基地を追い詰め押し込んでいくのである。ここらあたり、第11前線基地側にミスとか失敗とかがあったわけじゃないんですよ。確かに援軍なんかは遅れてましたし、支援も滞ることはありましたけれど、後ろや上から足を引っ張られるほどの事はされてない。
にも関わらず、ジワジワと戦力を削り落とされ、死角と思っていなかった死角を突かれ失地していくこの絶望感は凄まじかったです。圧倒的な力に押しつぶされるんじゃなくて、真っ当な戦力差と真っ当でミスのない行き届いた指揮によって、なすすべなく押しつぶされていく絶望感ってまた一味違いますわ。おまけに、この時代においては絶対不可侵だった空を制圧されて、常に上空を気にしながら戦わなくてはならないという不利まで背負いながらですよ。
こういう戦争においては、勇者のような超絶的な戦力ですらたった一個のユニットに過ぎず、いやもう理不尽なくらいに暴れ回ってくれるんですけれど、それでも決戦の行方そのものを一騎でひっくり返せないんですよね。
最終盤のあの後のない籠城戦。防衛陣地を踏み越えられ、城門を突破され、要塞の奥にまで追い詰められながらも、兵士の一人ひとりに至るまで決死の思いで戦い続ける最終決戦。
ここで仕掛けた起死回生の作戦が、敵将グテンヴェルとのギリギリの攻防でほんと手に汗握るものがありました。これ、グテンヴェル側から見ても、勇者アリオスなんていう無敵ユニットに、魔導書なるいつ発動してくるかわからない戦略兵器が揃ってる相手。しかも一兵卒に至るまで死んでも引かないという壮絶な士気の高さを壊滅するまで保っているという精強すぎる軍勢ですからね。向こうからしても余裕なんて一切ない、限界まで振り絞っての戦いだったんですよね。いやもう読んでる間中、グテンベルさんすげえ、と唸りっぱなしだったもんなあ。

この戦争、人間側の追い詰められっぷりも凄まじくて。魔王雷と呼ばれる威力を全開で発揮すれば都市が一つまるごと消し飛ぶような戦略魔法が、三ヶ月に一度、距離を無視して降ってくるんですよ。
戦略核がICBMで三ヶ月に一度打ち込まれるようなもんですよ。実際、この魔王雷によって都市が幾つも消し飛び、集結していた大軍勢が壊滅したり、と人類連合軍側はとてつもない被害を負ってきたわけです。こんなん、前線も後方も銃後もないですよ。よく、人類側パニックになって社会崩壊しなかったもんです。さらに、早々に対抗策も編み出して、被害を軽減するための魔導具を設置する部隊。魔法が打ち込まれる場所を、魔力の焦点が合わさっていくのを察知して一ヶ月前くらいだったかな、かなり早くに特定する検出法も確立してるんですよね。
とはいえ、結界を作るという感じの魔導具を運用する部隊は、その設置や起動がかなり難易度高いらしくて魔王雷を完全に防げるわけではなく、度々もろとも吹き飛んでいるらしくて、魔王の魔法が降り注ぐ地に留まる事も含めてガンギマリの決死部隊でもあるんですよね。この人らがまた凄いのよ。
ともあれ、この魔王雷の脅威、そして被害がジリジリと人類側の自力そのものを削っていて、前線は辛うじて維持しているにも関わらず、人類側の敗勢はもう決壊寸前のダムみたいな状態なんですよね。

……いや、改めて見ても凄い世界観だ。文明レベルでもちょうどこれ第一次世界大戦……よりはちょっと前か。設置式の重機関銃が最新兵器としてようやく配備されだした、というくらいだし。それでもあの壮絶な塹壕戦は既に常道の戦術として確立されてるし。その分、人死の数は加速度的に増えて、血で血を洗う地獄がもう現れ出してもいる。
文句なしに本格的な戦争小説でした。戦場で塵芥のようにくたばって行く兵士たちの物語でした。夢や希望を抱く普通の人間を無惨に引き裂いて、殺していく戦争の無情さを語り尽くすような物語であり。そんな人の夢や希望を守るために兵士たち一人ひとりが覚悟と想いを抱いて戦うのもまた戦争だというのを語るお話でした。戦争というものを止めるにはどうすればいいのか。その余りにも高い壁、あまりにも深い溝を実感させるお話でもあり、そんな絶望を乗り越えて地獄の終わりを手繰り寄せようとする人の可能性を見るような話でもありました。結局、カリアさんも力を示さなければ交渉すらも出来なかったんですよねえ。
でも、繰り返しになりますけれど、この主人公のカリアさんのバイタリティにはほんと心救われました。どこまでも彼女を信じ抜けた。最後の最後まで彼女を見つめ続けることで、ゴールまで引っ張ってもらえた。あらすじさんのおっしゃるとおり、文句なしにイイ女でしたよ。生き様が、カッコよかったぁ。
はぁ……読み終えて少し脱力しております。魂持ってかれるような作品でした。とてつもない戦争小説で、これ以上ない本という存在への讃歌であり応援歌でした。本はいいぞ。イイものだ。まさに、この本が示すように。
大満足です、うはー。