【憑きものさがし〜九十九字ふしぎ屋 商い中〜】 霜島けい 光文社時代小説文庫
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
古道具屋で買った枕が、夜な夜な赤子のように大声で泣き喚く。八幡様の祭りの絵に描かれた人物がいつの間にか増えていた――。「不思議」を売買する九十九字屋には、今日も怪しい品々が持ち込まれて……。るいは、憑きものの正体を求め、気はいいがちょっと迷惑な『ぬりかべ』の父親らとともに奔走する。切なくてほっこりとあたたかい、新感覚時代小説シリーズ第二弾！
久々に続きを読んだ。たびたびこのシリーズ続きを読もうかと思い立つことがあったんですけれど、２巻目がどの本かわからなくていちいち調べて探すの面倒くさくて読み始めるのを止めちゃったことがしばしばあったんですよね。おかげで五年近く積むことになってしまいました。
巻数表記無い本ってこういう事があるのでホント困るんだよなあ。
今回は頑張っていちいちあらすじまで全部調べて、どの巻が２巻目か探しだして読んだんですよ。読み始めるまでに結構疲れた。
とはいえ、久々にも関わらずどんな話だったかは印象深くて覚えてたんですよね。何しろ、事故で死んだ左官のお父ちゃんがぬりかべになって娘に取り憑いちゃった、という突拍子もないお話でしたからねえ。
あと、主人公のるいちゃんを雇ってくれる事になった九十九字屋の若い店主がやたらと感じ悪いのが印象強かったんですよね。不器用な性格にも程があるだろう、というくらいには口も悪いし態度も悪い。まあるいがさっぱりした娘で、そういう旦那の感じの悪さに文句を言いつつも本気で傷ついたりもしないので、そういう意味でも相性はいいのでしょう。やたらうるさいぬりかべの親父がセットで憑いてくる……本人も意図せず憑いてきちゃうのでこれまでどの職場でも長続きしなかったのを、気にせず雇ってくれるのですから多少は物言いが悪くたって本気で悪意持って言ってるわけじゃないんだし、むかつくなあ、と思うくらいで済むんだからまあいいか、という感じなのでしょう。
このご主人、多少はデレるんですかねえ？
さて、今回九十九字屋に持ち込まれてきたのは、夜泣きする枕。どうも枕に赤ん坊の霊が取り憑いているみたいなのだけれど、不思議なことに幽霊を見ることの出来るはずの店主もるいも赤ん坊の姿を確認することが出来ない。にも関わらず、赤ん坊の気配は確かにあり、本物の赤ん坊みたくギャン泣きするのである。
これ、江戸時代の長屋なんて防音なんぞあるはずもない薄っぺらい壁じゃないですか。そういう赤ん坊の夜泣きとか許容してくれる環境だったんでしょうか。昔は地域全体で子育てしていた、みたいな話もありますけどさあ、人間の性質なんてそうそう変わるもんじゃないし、文句言ってくるおじさんおばさんは絶対居たでしょこれ。
まあ今回はそんな話ではないものの、もちろん子育ての経験なんぞないるいも店主も、ついでにぬりかべ親父もギャン泣きする赤ん坊枕には歯が立たず疲弊するばかり。今も昔も赤ん坊の世話は大変だわなあ。
まあこのままにしておけるべくもなく、枕が質入れされた経緯を辿っていけば容易に元の持ち主のところにたどり着き、そこで垣間見たのは婚姻間近の若い男女の泥沼の顛末だったのです。
幼馴染同士の両片想いなんて、青春ラブコメものだと甘酸っぱい嬉し恥ずかしのイチャイチャが繰り広げられ、いつくっつくか、とやきもきさせてくれるのが肝みたいな物語じゃないですか。
ところが、両片想いってのは結局お互い相手のことが好きなのに、その気持がまったく通じていないすれ違った状態なわけだ。好きが募って募って、しかしそれが届かない通じ合え無い、となると人間気持ちがどんどんと荒んでくる。甘酸っぱいどころか、どろどろに腐ってくる。愛すればこそ振り向いてもらえない事に憎しみが湧き、自分自身を見失っていく。捨て鉢になった果に繰り広げられるのは、男と女の泥沼の顛末である。
幼馴染同士、お互いの家どうしも仲が良くて、そのまま親を通じて結婚の約束まで結ばれていたというのに、女の方はもうひとりの幼馴染の女性の方に男の気持ちが向いていると思い込んで、つい勢いで行きずりの男と情交した挙げ句に他の男の子供を作ってしまい、男はそんな女の捨て身の自分の方を見てくれ、というアピールに向き合う勇気もなく、女に対して本音も語らず何も思いを告げることなく、すべて無かったことにして自分の子として育てようと事なかれに済まそうとした挙げ句に、流行病でぽっくりと言ってしまう始末。
挙げ句に、あれだけ女に気持ちを見せずに背を向けてきたにも関わらず、死んだ後になって自分以外の男に気持ちが向いてるんだと嫉妬を募らせ、未練がましくつきまとっていたのを赤ん坊に妨げられたのを逆恨みして、赤ん坊の魂を抜き取って枕に封じてしまった、と。
こうして顛末書き上げていると、ただただヒドイしろくでもないな。
本来ならこれ男の方は怨霊にでもなりそうだし、赤ん坊は魂抜かれてそのうち衰弱死しそうだし、女は精神やられてそれこそ生地獄味わいそうだし、と誰も救われない結末に終わってたんだろうなあ。
るいと店主が幽霊と話せて通訳できたからこそ、死んでしまって手遅れになりながらも何とか長年の気持ちのすれ違いが解消されて、お互い本当は両思いだったんだよ。気持ちが通じ合ってよかったね、これで男も成仏できて、赤ん坊も真実は知らないまま幸せに生きていけるね、となんだか良い感じにまとまった風に終わったけれど……考えてみるとやっぱりヒドイ話だよね！？ 赤ん坊の魂引っこ抜いて枕に閉じ込めちゃうなど、喫緊の問題は男の腐った根性が大半原因なのでるいちゃんが怒って江戸っ子気っ風で幽霊叱り飛ばしてケツひっぱたいて、勢い話まとめちゃいましたけれど、これ女の方も相当にろくでもなくて、本来どっちもどっちなんだよなあ。
両片想いは、ずるずる引きずるとろくでもない事になりかねませんよ、危険危険、という見地を与えてくれるお話でした……そんな話だったっけか？
もう一話は、若くして亡くなってしまった天才絵師が遺した遺作の絵。祭りの様子を描いたその絵が、ふと気づくと年々描かれている人が増えている。気味が悪いがこの絵が本当に好きなので、なんとか元の絵に戻してほしい、という依頼のお話。
その絵の中で増えた描かれた人、というのが店主曰く、今丁度開催中の富岡八幡宮のお祭りの中で絵と同じ場所にいるのだという。しかも、その人達は生きた人間ではなく幽霊。
この増えた幽霊の絵を消すには、実際に幽霊たちに成仏してもらうしかない。というわけで、るいは店主と二手に分かれてお祭りの中を駆け回り、一人ひとり幽霊たちと面と向かってそれぞれの未練を聞いてあげて成仏のお手伝いをするはめに。
皆がお祭りに大騒ぎして楽しんでいる中を、駆けずり回って御用聞きよろしくそれぞれの幽霊の事情に耳を傾け、お付き合いしてあげるるいちゃんのご苦労話でございました。いや、まじで大変だったな。とはいえ、厄介に拗らせた幽霊はおらず、ほんのちょっと家族との未練に居残っていたような人たちばかりだったので、実にまっとうな人情噺よろしくの展開だったのは、ほっこりでありました。ぬりかべ親父もなんだかんだと役に立ってましたからねえ。こうした家族を遺して旅立たねばならない未練、そして逝く者も残された者も寂しさを抱えていかなければならない事を改めて色んなケースで見せられると、ぬりかべになっちゃったとは言え娘を一人残していくのはしのびないと居残ってくれた親父さんの気持ちはありがたくて、そりゃるいも早々邪険にはできんですわなあ。迷惑かけられまくりですけれど、それでも寂しい思いだけはしなくて済んでいたんですから。
しかしこれ、幽霊の絵が増えていた原因が死んだ絵師の魂が絵に宿ってひたすら描き続けている、となると毎年この祭りの日に幽霊相手に話聞いて回らにゃならなくなりそうなのか。やっぱり大変だなあ。
巻数表記無い本ってこういう事があるのでホント困るんだよなあ。
今回は頑張っていちいちあらすじまで全部調べて、どの巻が２巻目か探しだして読んだんですよ。読み始めるまでに結構疲れた。
とはいえ、久々にも関わらずどんな話だったかは印象深くて覚えてたんですよね。何しろ、事故で死んだ左官のお父ちゃんがぬりかべになって娘に取り憑いちゃった、という突拍子もないお話でしたからねえ。
あと、主人公のるいちゃんを雇ってくれる事になった九十九字屋の若い店主がやたらと感じ悪いのが印象強かったんですよね。不器用な性格にも程があるだろう、というくらいには口も悪いし態度も悪い。まあるいがさっぱりした娘で、そういう旦那の感じの悪さに文句を言いつつも本気で傷ついたりもしないので、そういう意味でも相性はいいのでしょう。やたらうるさいぬりかべの親父がセットで憑いてくる……本人も意図せず憑いてきちゃうのでこれまでどの職場でも長続きしなかったのを、気にせず雇ってくれるのですから多少は物言いが悪くたって本気で悪意持って言ってるわけじゃないんだし、むかつくなあ、と思うくらいで済むんだからまあいいか、という感じなのでしょう。
このご主人、多少はデレるんですかねえ？
さて、今回九十九字屋に持ち込まれてきたのは、夜泣きする枕。どうも枕に赤ん坊の霊が取り憑いているみたいなのだけれど、不思議なことに幽霊を見ることの出来るはずの店主もるいも赤ん坊の姿を確認することが出来ない。にも関わらず、赤ん坊の気配は確かにあり、本物の赤ん坊みたくギャン泣きするのである。
これ、江戸時代の長屋なんて防音なんぞあるはずもない薄っぺらい壁じゃないですか。そういう赤ん坊の夜泣きとか許容してくれる環境だったんでしょうか。昔は地域全体で子育てしていた、みたいな話もありますけどさあ、人間の性質なんてそうそう変わるもんじゃないし、文句言ってくるおじさんおばさんは絶対居たでしょこれ。
まあ今回はそんな話ではないものの、もちろん子育ての経験なんぞないるいも店主も、ついでにぬりかべ親父もギャン泣きする赤ん坊枕には歯が立たず疲弊するばかり。今も昔も赤ん坊の世話は大変だわなあ。
まあこのままにしておけるべくもなく、枕が質入れされた経緯を辿っていけば容易に元の持ち主のところにたどり着き、そこで垣間見たのは婚姻間近の若い男女の泥沼の顛末だったのです。
幼馴染同士の両片想いなんて、青春ラブコメものだと甘酸っぱい嬉し恥ずかしのイチャイチャが繰り広げられ、いつくっつくか、とやきもきさせてくれるのが肝みたいな物語じゃないですか。
ところが、両片想いってのは結局お互い相手のことが好きなのに、その気持がまったく通じていないすれ違った状態なわけだ。好きが募って募って、しかしそれが届かない通じ合え無い、となると人間気持ちがどんどんと荒んでくる。甘酸っぱいどころか、どろどろに腐ってくる。愛すればこそ振り向いてもらえない事に憎しみが湧き、自分自身を見失っていく。捨て鉢になった果に繰り広げられるのは、男と女の泥沼の顛末である。
幼馴染同士、お互いの家どうしも仲が良くて、そのまま親を通じて結婚の約束まで結ばれていたというのに、女の方はもうひとりの幼馴染の女性の方に男の気持ちが向いていると思い込んで、つい勢いで行きずりの男と情交した挙げ句に他の男の子供を作ってしまい、男はそんな女の捨て身の自分の方を見てくれ、というアピールに向き合う勇気もなく、女に対して本音も語らず何も思いを告げることなく、すべて無かったことにして自分の子として育てようと事なかれに済まそうとした挙げ句に、流行病でぽっくりと言ってしまう始末。
挙げ句に、あれだけ女に気持ちを見せずに背を向けてきたにも関わらず、死んだ後になって自分以外の男に気持ちが向いてるんだと嫉妬を募らせ、未練がましくつきまとっていたのを赤ん坊に妨げられたのを逆恨みして、赤ん坊の魂を抜き取って枕に封じてしまった、と。
こうして顛末書き上げていると、ただただヒドイしろくでもないな。
本来ならこれ男の方は怨霊にでもなりそうだし、赤ん坊は魂抜かれてそのうち衰弱死しそうだし、女は精神やられてそれこそ生地獄味わいそうだし、と誰も救われない結末に終わってたんだろうなあ。
るいと店主が幽霊と話せて通訳できたからこそ、死んでしまって手遅れになりながらも何とか長年の気持ちのすれ違いが解消されて、お互い本当は両思いだったんだよ。気持ちが通じ合ってよかったね、これで男も成仏できて、赤ん坊も真実は知らないまま幸せに生きていけるね、となんだか良い感じにまとまった風に終わったけれど……考えてみるとやっぱりヒドイ話だよね！？ 赤ん坊の魂引っこ抜いて枕に閉じ込めちゃうなど、喫緊の問題は男の腐った根性が大半原因なのでるいちゃんが怒って江戸っ子気っ風で幽霊叱り飛ばしてケツひっぱたいて、勢い話まとめちゃいましたけれど、これ女の方も相当にろくでもなくて、本来どっちもどっちなんだよなあ。
両片想いは、ずるずる引きずるとろくでもない事になりかねませんよ、危険危険、という見地を与えてくれるお話でした……そんな話だったっけか？
もう一話は、若くして亡くなってしまった天才絵師が遺した遺作の絵。祭りの様子を描いたその絵が、ふと気づくと年々描かれている人が増えている。気味が悪いがこの絵が本当に好きなので、なんとか元の絵に戻してほしい、という依頼のお話。
その絵の中で増えた描かれた人、というのが店主曰く、今丁度開催中の富岡八幡宮のお祭りの中で絵と同じ場所にいるのだという。しかも、その人達は生きた人間ではなく幽霊。
この増えた幽霊の絵を消すには、実際に幽霊たちに成仏してもらうしかない。というわけで、るいは店主と二手に分かれてお祭りの中を駆け回り、一人ひとり幽霊たちと面と向かってそれぞれの未練を聞いてあげて成仏のお手伝いをするはめに。
皆がお祭りに大騒ぎして楽しんでいる中を、駆けずり回って御用聞きよろしくそれぞれの幽霊の事情に耳を傾け、お付き合いしてあげるるいちゃんのご苦労話でございました。いや、まじで大変だったな。とはいえ、厄介に拗らせた幽霊はおらず、ほんのちょっと家族との未練に居残っていたような人たちばかりだったので、実にまっとうな人情噺よろしくの展開だったのは、ほっこりでありました。ぬりかべ親父もなんだかんだと役に立ってましたからねえ。こうした家族を遺して旅立たねばならない未練、そして逝く者も残された者も寂しさを抱えていかなければならない事を改めて色んなケースで見せられると、ぬりかべになっちゃったとは言え娘を一人残していくのはしのびないと居残ってくれた親父さんの気持ちはありがたくて、そりゃるいも早々邪険にはできんですわなあ。迷惑かけられまくりですけれど、それでも寂しい思いだけはしなくて済んでいたんですから。
しかしこれ、幽霊の絵が増えていた原因が死んだ絵師の魂が絵に宿ってひたすら描き続けている、となると毎年この祭りの日に幽霊相手に話聞いて回らにゃならなくなりそうなのか。やっぱり大変だなあ。
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
