【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 9(上) ~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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駆け出し(レベル1)と中堅(レベル5)の狭間の物語!

幼馴染のマルギットと共に辺境の地マルスハイムで冒険者となったデータマンチ転生者エーリヒ。
彼らは同じく駆け出し冒険者であるジークフリートとカーヤの二人組と共に“忌み杉の魔宮”に挑み、二カ月にも及ぶ冒険の果てに帰還した。
しかし疲れ果てた彼らをマルスハイムで待っていたのは、厄介ごとの匂いがぷんぷんする組合からの呼び出しだった。
元雇用主に相談することで難を逃れるエーリヒだったが、この先も自らが望む冒険者であるために厄介ごとを振り払えるだけの力を付けようと決意し……!?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、第9幕スタート!


またウェブ版読んでても知らんキャラがおるーー、どころか表紙飾ってはる〜〜。
一瞬、ケンタウロスみたいな猫!? と、思ってしまったんだが普通に軟体なだけなんですね。今まで獣人系は当たり前に、虫人系のヒトもあのムカデ娘みたいに登場してましたけれど、このシュネーみたいな頭部までケモノ系の女子はメイン級キャラとしてははじめてかしら。
いや、牛躯人なエタンくんみたいにがっつりケモノ系はどんどん増えてくるのか。

まーーた書き下ろしである。9割5分新規ってそれもうほぼ全部書き下ろしですよね? しかも上下巻ですからね。うははは、がっつり読めすぎる。
内容の方なウェブ版では数年飛ばされていきなり結成されていたエーリヒが主催する氏族……氏族じゃないと主張してるんだったけか。でもエーリヒが主催主導する剣友会なる戦闘集団の発足誕生の軌跡である。
あれだけ一冒険者として「遊ぶ」ことを夢見てアグリッピナ師の下すら飛び出したエーリヒが、それなりにでっかい集団を率いる事になってしまっていたのは不思議ではあっただけに、その誕生の経緯については詳しく知りたいところでしたから、このパートの書き下ろしは非常にありがたいものでした。

しかしただの一人の冒険者として地道に活動するには、この男初っ端からアンダーグランドで暴れるわ、公でも地域最凶の賞金首を狩るわ、名にし負う大冒険を成し遂げるわ、とあっという間に吟遊詩人たちのネタにされてしまうほどには目立ってしまっている。ただ、まだまだ立場的には駆け出しも良いところなので、権力筋からは都合のいいように使い倒してやろうという手がどうしたって伸びてきてしまう。
まあこのエーリヒと来たら単体でもクセモノで帝都の魔窟の最奥で暴れていただけあって、政治謀略を手慰みでこなせる上にいわば指し手の才能すらある怪物である。その上、未だに今帝都で一番ぶいぶい言わせているアグリッピナ師とも懇意で、ヘルプ出したら即座にちょい顔出せやー、と助けてくれる仲ですからねえ。そりゃ、未だに懐刀扱いされても仕方ないわなあ。
エーリヒもピナ師もお互い緊張感ある関係を維持しているつもりなのかもしれないし、実際下手なことをしたらすぐさま縁を断たれるくらいには甘えを許さない関係ではあるんですけれど……いや、あんたら二人共そういうヘタは絶対に打たないじゃん。相手の意志を尊重して損なわないし、イイように扱き使っても道具扱いは絶対しないじゃん。そういう意味ではお互い、厳しくもだだ甘だよなあ。
エーリヒに下賜したキセル、ピナ師にとって本気で一番のお気に入りでそれ以降のキセルは長く手につかずに使い捨てにしてる、とかちょっとキュンキュンしてしまいます。そして、それに細かく気づいちゃうエーリヒにも。
エーリヒって基本他人の目とか気にしないしどう思われても頓着しないけれど、身内……特にピナ師に関してはこの人に失望だけはされたくない、と強く意識している素振りがあるんですよねえ。これは友人や家族とはまた違う強い念でエーリヒの行動理念を大きく縛っている。それだけ、ピナ師に対しては特別感があるんだよなあ。
それだけに、エーリヒは容易にはピナ師には頼らないようにしているのだけれど、その切り札を切らなくてはならない案件、権力の手が伸びてきてエーリヒの冒険者生活の自由が奪われる危険があった、それをエーリヒ単体では退けられない危険性が高かった、というのはエーリヒの夢もなかなか難渋して簡単にはいかない道である。
でも、どれだけ難渋していても、今まさにエーリヒにとってこの冒険者生活というのは夢の只中なんですよね。そして、目を覚まし起きたまま夢を見続けている狂人であることでもある。
世に生きるほとんどのヒトが、見たい夢と冷たいどうしようもない現実との差に苦しみもがいて、血反吐を吐いているにも関わらず。ナンナのあの望んだ夢を見せてくれる薬を使って、少し懐かしかったくらいですね、と述懐するこの男のアタマの中のイカレっぷりよ。エーリヒという主人公のヤバさイカれ具合を見せつけられる場面は幾つもありますけれど、このナンナに狂人認定されるシーンはその中でもとびっきりにゾクゾクさせられましたよ。

しかし、ヒトはそうした狂気の光にこそ誘われ集まってくる。ひとつのカリスマでもあるんですよね。
どうせわずか数人のパーティーで権力や陰謀の魔手を跳ね除け続けることは…エーリヒの手腕手練手管からすると、力任せから非合法の絡め手まであらゆる手段で可能なんだろうけれど、面倒くさい煩わしいことは間違いなく、マルゴットはともかくとしてジークやカーヤという仲間も一緒に守るとなると、エーリヒとしても少々気合を入れないと行けない。実際、速攻ジークの方に金絡みで首輪をつけよう、或いは分断策が仕掛けられてきてましたしね。……ジークくん、散財グセあるけれどカーヤに怒られたらちゃんと言うこと聞く素直さとアタマの良さあるし、酒に溺れないし欲望に負けないし、女に関してはカーヤ一筋で荒くれ者な冒険者というにはほんと根っこからキレイなんだよなあ。友情に厚く仲間思いで下の連中には面倒見が良い兄貴分で、と文句なしに英雄の資質の持ち主なんだよなあ。エーリヒのジーク推しがまた捗っておられるw
エーリヒとしては、同世代ともっと付き合いを増やせよ、と先輩方に言われてそれもそうだなあ、と納得はしてましたけれど、本当はジークとカーヤさえ仲間で入れば不満なかったんじゃないだろうか。
とはいえ、自分たちの身を守ること。そして大規模な冒険行を起こすにしても支援体制も含めてもうちょい人手が沢山あってもいいだろう、という判断もあって、少人数のパーティーで活動する限界を感じ、ちゃんとした氏族を作ろうか、なんて考え出していたわけですけれど。
まさか、その結果である剣友会がどちらかというと自然発生的に誕生したとは思わんかった。箱作ってからそこに人員詰めたわけじゃなかったのね。先にヒトが集まって、それをエーリヒが組織化したわけか。
にしても、まだ冒険者になって間もなく、数々の功績によってランクはあがったものの中堅冒険者にもなっていないにも関わらず、エーリヒに憧れ慕ってヒトが集まってくる、というのはそれだけでなんかとんでもないですよねえ。
しかし、後々剣友会の屋台骨を背負って立つ牛躯人なエタンくん、あんな真面目で豪放磊落というより黙々と堅い豪壮といった感じの男が、最初エーリヒにあんなイキって突っかかってきたのが出会いだったとは。むしろ、エタンくんにもそんな時代があったのね、という微笑ましさしか感じないけど。

エタンを発端にして、エーリヒに弟子入りする形で彼の強さを慕って集ってきた冒険者なりたての新人たち。エタンに小鬼のカーステン、人狼族のマチュー、そして人族のマルタン。この四人がいわゆる剣友会「最初の四人」になるのか。こいつらがいずれ、立派な冒険者となり剣友会の幹部となるわけで、その初々しい最初の時期をこうして目の当たりにするのは、なんか感慨深い。

一旦慕ってきた若者たちの面倒を見る、と決めたら徹底して面倒見るのね、エーリヒにしてもジークにしても。エーリヒはこれでも見どころがあると見たら親身にあれこれ行き届きすぎなくらい面倒見て世話しちゃうもんなあ。ジークも兄貴分気質だし。
そんなこんなで、どんどんと周りに人が集まってくる中で、同じように自分を慕って集まってきた面々に対して特に何もせずに頭目に持ち上げられてなんか知らん内に氏族になっていたロランスさんの所とは違って、エーリヒは性分としてきっちりしているのでついついカッチリと集団を組織化してしまうのは、なんともはや。ピナ師の所で散々死にかけながら鍛えられたお陰で、こういう組織化とか運営管理については下手な官僚よりよっぽどできちゃうからなあ、この男。
結局、辺境来て念願の冒険者になっても事務仕事してるぞ、この男w
ただ、その組織を作り上げたのが組織人じゃなくて粋狂人なお陰で、剣友会は組織のための組織ではなく理念のために組織へと純化していく。つまりは、エーリヒと同じ冒険狂、或いは武の高みを目指す剣狂い、そうでもなくても憧れや夢のために人生のすべてを捧げられてしまうような酔狂ばかりが集まる上澄みだけの戦闘集団へと磨き上げられていくのである。
完全にヤバい私兵集団の誕生じゃねえかw 他のアングラに足半分どころか腰まで浸かってるようなヤバい氏族たちも相当でしたけれど、剣友会は完全に戦闘特化ですからねえ。そのうえで高度に組織化されて運営管理もカッチリしていて、統制が取れている。そこらの冒険者みたいなならず者とは程遠く、むしろ軍隊に近いかもしれないけれど、騎士や兵士と違ってみんな狂人側だしなあ。エーリヒ単体でもイカレててやばいのに、なんかエーリヒが率いるイカレたやばい戦闘集団が誕生してるぞ!?
ただ、それなりに大きな組織として動き出したお陰で、エーリヒやマルギットという斥候や情報運用の個人では十分だった能力では、組織全体をカバーするのは不可能になってきていたんですね。正式な情報担当が必要だったところに、件の猫さん。シュネーという情報屋の登場ですか。
このひと、情報屋というだけあって胡散臭いことこの上ないのですけれど、もしかして今まで登場した人物の中で一番正義の味方に近い人なんじゃないだろうか。しかも、あくまで正しくあらんとして自分の都合でルール曲げたり法律を逸脱したりしませんし。誠実、なんですよね。それが、育ててくれた人たちへの信義だと規定している。
この人、ウェブ版では登場していないのだけれど、剣友会には必須な人なので将来的に所属してないとおかしいんだけれど、どうなるんだろう。一番ヤバい山場は越えたはずなんだが。
って、これでまだ上巻終わったばかりなんですよね。なんかこの辺境の暗部まで出てきちゃってますし、また定番のシティーアドベンチャーですか! あの帝都の暗部でエーリヒと色んな意味で火花飛ばしあった百足人のナケイシャさんほどの実力者は登場するんだろうか。ってか、そろそろもう一度ナケイシャさん登場しないかなあ。
もたもたしてたから、エーリヒついにマルギットに食われちゃいましたよ!? そうかー、結ばれたのはこのタイミングだったのですか……って、最初からはじめてのマルギットにそこまでやらかしちゃったの、エーリヒくん!? こいつ、この男間違いなく性豪の称号持ってるよね!?
食い散らかされたの、エーリヒじゃなくてマルギットの方ですよね。こりゃ、先々この幼馴染が音を上げるのはわからないでもないw
対してジークとカーヤの方はまだまだ初々しい関係のようで、もうしばらくはこのまま微笑ましい甘酸っぱい関係で居てくれそう。

ヘンダーソン・スケール1.0 Ver0.8のIFルートは、マルスハイムでの面倒を避けて河岸を変えた、拠点を移した場合の未来のお話でした。結局、北の地で剣友会よりもヤバい戦闘集団、アベンジャーズを率いて暴れ回ってるエーリヒである。海賊絶対殺すマンになってて、エーリヒ自身も復讐者になってるのか?と焦ったのだけれど、別にマルギットを喪ったとかそういうわけじゃなくて、相変わらず彼女は相棒としてエーリヒに寄り添い続けて、ミカやセスなど友人たちとも未だに交友が続いていて殺伐としながらもメンタルは荒んでおらず、エーリヒ自身は様々な神々の呪いを受けながらこの野郎ほとんど気にせず血みどろの冒険を満喫してやがるw この主人公のメンタルが壊れるのは、これもうちょっと想像できないなあ。