【狼と香辛料 XXII Spring Log V】 支倉凍砂/文倉十 電撃文庫

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経済ファンタジーの金字塔、行商人ロレンスと賢狼ホロの旅の続きの物語!

湯屋をセリムたちに任せ、再び旅に出た元行商人ロレンスと賢狼ホロ。道中、小銭両替のため訪れたヴァラン司教領で、懐かしき人物――エルサとの再会が二人を待っていた。
司祭となったエルサは、教会の財産整理のため司教領に赴いたという。そして両替の見返りとして、一度踏み入れば生きては帰れない、呪われた山の調査をロレンスに頼む。そこには“錬金術師と堕天使”の秘密が隠されていて――!?
さらに、借金地獄に陥った町をロレンスが商人の勘で救う、経済ファンタジーの面白さが詰まった中編に加え、ホロたちの娘ミューリと、聖職者志望の青年コルの結婚式(!?)の書きおろし中編を収録。
幸せであり続ける物語、第5弾!

おお、エルサさんだ。実質、ロレンスとホロの仲を取り持ってくれたと言っていい大恩人のエルサさんじゃないですかー。そうかー、この人もエヴァンくんとちゃんと結婚できて、今や三人の子持ちのお母さんですか。にも関わらず、女司祭として正式に就任した上で、各地のトラブってる教会にヘルプ請われて支援に歩いて回ってるほど教会からも人々からも信頼厚い聖職者になってるとは。
実際、若い頃のあの頭固くて四角四面だった頃と比べても、厳格な佇まいにも穏やかさと柔らかさが混ざって凄くいい雰囲気になってるんですよね。懐も深く広くなって、ホロよりもだいぶ大人になったんじゃないだろうか。実際大人になったんだが。
この人がいなかったら、エルサさんが泣いて説教してくれなかったら、ホロとロレンスは自分の本音、相手のことが好きだという気持ちを伝えることなく、その人生の旅路を別れて歩んでいっただろう事を思えば、エルサさんって作中でも二人にとっての屈指の恩人なんですよねえ。懐かしいなあ。
寂れた鉱山の村の奥、閉鎖された山にどうやらホロたちと同じ動物の化身がいるんじゃないか、と訪ねた先で偶然、村の教会のヘルプで教会を預かっていたエルサと再会したロレンスとホロ。
村のために教会の不良債権を整理して処分しないといけないエルサさんにも頼まれ、謎の錬金術師の伝承が残り人を拒絶する魔の山の噂が広まる奥地へと足を踏み入れたロレンスたちが出会ったのは、遠い昔にこの地を離れた錬金術師たちを待ち続ける健気なとある化身の娘でありました。
と、ロレンスたちがまた残された謎を解きつつ、誰も損がしないようにウインウインの関係を作り出すお話になっております。
元々ロレンス自身情が厚くて他人をなかなか見捨てられない、切り捨てられない性格の上に、ホロがまた似たような境遇の相手にはやたらと感情移入してしまうたちなので、ロレンスは愛する奥さんの涙をとめるために毎度奮起しちゃうんだよなあ。
旦那さんのエヴァンと結婚するために大変苦労した上で今や三人の子供まで作ってラブラブ結婚生活続けているエリサさんをして、うちが仲悪く思えてしまいます、とまで言わしめるホロとロレンスのイチャラブっぷりである。あんたが頑なに閉ざしていた二人の心の扉蹴破って結びつけちゃったから生まれちゃったんだぜ、このラブラブモンスターズは。
かつてこの二人の固く握りしめられて離さない、繋いだ手と手を見て祝福の言葉を綴ったエリサさんですけれど、今や呆れる溜息しか出ませんかー、まあそうだよなあ。十数年経っても変わらぬどころか当時よりもアツアツに見える有様ですもんねえ。

とか言ってるうちに、この山の伝承に残っている、というか残してどこかに去っていったという錬金術師、なんか一番弟子に猫耳ついてた、という話が出てきてピンと来てしまったんですけど!?
そして、残されていた円盤に刻まれた一番弟子の姿絵の挿絵が猫耳の修道女で……完全にフェネシス
なんですけどー!? 【マグダラに眠れ】のヒロインちゃんじゃないですかー!!
と、そうかー。マグダラに眠れの方は時系列的に狼と香辛料より昔になるのか。フェネシスって確か猫の化身ではなく、ハーフであるミューリよりもかなり血の薄い血族のはずなんで、この地に戻ってくることはないんだろうなあ。ホロたちもそして待ち続けるターニャ自身も知るよしもない話だけれど、それがなんとも寂しい。

二話の方は、今度はコルの影響で健全化を図る教会が清く正しい事をしようとして門外漢のお金の事に口出ししてしまい、金の流れが詰まってしまい大混乱に陥っている街に、エルサと共に訪れることになったロレンスとホロのお話。
狼と香辛料って経済をテーマに書かれた小説じゃなくて、あくまで商売について描かれた作品だと思ってるんですけれど、今回のお話に関しては完全に経済のお話でしたね。特にお金の流れについて。
これって本来は行政が監督スべき問題なんだろうけれど、現在教会は不当な金のやり取りをして俗世にどっぷり浸かってしまっていた不良聖職者を一斉に排除して、まともな聖職者に入れ替えている真っ最中。ところが、聖職者としてマトモであることは政治経済に精通している事とはイコールじゃないんですよね。むしろ清く正しい聖職者であるほど、卑しい金のやり取りからは距離を置き、理解していない。これ、両方しっかり出来る人材こそが重要なんだろうけれど、それこそ希少な存在だろうからなあ。ともあれ、施政を担う側がお金についてさっぱり理解していない上に自分たちの理屈で物事を正そうとしたものだから、一気に街の金の流れが滞っちゃったんですね。街の商売に対しての、お金に対しての信用が失われてしまった。
これは本来金の流れの詰まりの円環の外にいる商売人からすると全体の構図を理解するということはボロ儲けのチャンスにもなり得るものなんだけれど、面白いことにこのロレンスという商売人は自己の利益、商売人としての成功よりも、自分の嫁さんを笑顔にして幸せにすることの方が嬉しい。自分の商売人としての才覚で、それをもたらせるのならなお嬉しい、というオンリーワンの商人だった、というところ。
誰にも損をさせず、さりとて自分が儲かるでもない、誰も傷つかない落とし所を見つけて手繰り寄せられる商人って、まあ商人である限りまず居ないんですよね。だからこそ、ロレンスしかこういう事出来ないんだろうなあ、と感心してしまいました。
まあこの奥さんと来たら何百年も生きている古老の上に最近じゃあ娘まで生んで温泉宿の女将として年輪も重ねて、熟年夫婦もいいところの関係を十何年も続けているにも関わらず。
娘のミューリよりもよっぽど打たれ弱いし傷つきやすいし、十代の思春期の女の子かというくらい脆い繊細さを抱えているし、すぐに自分のせいだと落ち込んで泣いちゃうし、でロレンスとしては目が離せないんだろうなあ。少女かよ、このお母さん。そしてそりゃもう手厚く言葉を尽くして慰めまくるロレンスである。言葉だけじゃ足りんだろうと、颯爽と商人としての格好良さを見せつけた上で、自分は十分満たされてるよ、と結果と成果で示す格好良さ。まあうん、ホロがべた惚れなのも無理からんわね、これ。ここまでべったりだと、ほんとにロレンスが亡くなったあとが心配になるんだけれど。既に覚悟完了していると本人は主張してますけれど、この狼メンタルよわよわだからなあ。
まあロレンスの方も、奥さんがいないと2日程度でめげてしまうあたり、二人共お互いのこと好きすぎてヤバいです。そりゃエルサさんも辟易するわw これ見習ったらあかんやつ。

最後は主人公変わって、コルとミューリのお話。狼の結婚式なんてタイトルだから、ロレンスとホロの結婚式の話がコルたちに絡んでくるのかと思ったら全然関係なかったよ。
ホロとロレンスを取り持ったエルサさんよろしく、じゃないけれど結婚式までこぎつけながら一人ひとりの誤解と勘違いと思い込みにとってみんなが成功を願いながらもみんながぶち壊そうとしていた結婚式を、コルとミューリが成功にまで導くお話。
まあ結婚式ともなると、ミューリからのチクチクとした私トモ結婚して攻撃がチクチクとコルに打ち込まれるのだけれど。
でもほんといい加減、コルはそろそろ観念してもいいと思うんですよね。エルサさんと再会したのがホロたちの方で幸いだったんじゃないだろうか。
なにしろエルサさんって、聖職者としてのコルの師匠であり、一時期はホロたちと分かれてエルサと旅していた時期もあったくらいの関係なんですが。
この聖職者としてのお師匠様。なんと司祭の座を賜りつつも、結婚してるし子供もいるわけですよ。信仰の厚さに関してはコルを上回るくらい厳格な聖職者であり、周囲からも高く評価し信頼されている人物。にも関わらず、結婚してる! 結婚してるのである。
コルが信仰のために婚姻は結ばない、という主張に真っ向から、んなもん言い訳にもならんわ!というのを体現するような存在である。これ、ミューリとエリサさんが出会っちゃったら、ミューリがもう容赦してくれなくなりそうw
幸い、エリサさんはこの件が片付いたらいい加減夫や子供達が待つ家に帰る、と仰っていたので、旅先でコルたちとも偶然に再会、とはなかなかならんと思うけれど。
でもミューリじゃなくても、エルサさんという実証存在がこうして現れてくれると、コルの言い分受け入れなくていい余地がストーリー上にもしっかりと描かれた、という安心感が得られたので良かったです。