【冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた 11】 門司柿家/toi8 アース・スターノベル

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父と娘の絆の物語
堂々完結! !

帝都での事件を解決し、仲間とともにトルネラへと帰郷するアンジェリンとベルグリフ。
陰謀と戦う冒険、父の過去を巡る長い旅は終わりを告げ、冒険者たちは穏やかな時間を過ごすのだった。

春告祭を終えると、アンジェリン達はオルフェンで冒険者活動を再開し一方トルネラでは日々の仕事に加え、ダンジョンへの備えや冒険者ギルドの設立など、にわかに忙しくなっていく。

新鮮な希望に満ちた日常が始まったかのように思われたが、ある日アンジェリンが見た悪夢をきっかけに、なにかが起こるような、不穏な空気が近付いていた。

冒険者になりたいと都に出ていった少女が、父に「ただいま」を言うまでのある親子の物語。



最終巻であります。
正直、もうここまで来るとやるべき事は全部やり終えてしまっている感もあったんですよね。
ベルグリフが若かりし頃に魔獣によって片足を奪われた事をきっかけに、バラバラになってしまったかつての仲間達。それぞれが後悔と苦悶を抱えたまま心を抉り取られるような人生を二十年以上に渡って足を引きずるようにして歩いてきた。
そんな暗闇を往くような人生が、ベルとの再会によって開かれて彼らはみんな喪ってしまった過去を取り戻して未来に向けて歩き始めることが出来た。サティとベルはようやく結ばれ、アンジェをはじめとした多くの子供達に囲まれて幸せな家庭を築くことになり、ベルはトルネラの村に生まれるダンジョンを管理するギルドのマスターとなるべく、コツコツとその準備をはじめている。
愛する父に、自分を産み出してくれた本当のお母さんであったサティがベルと結ばれて名実ともにお母さんとなってくれて、アンジェは故郷と家族をこよなく愛しながらも、もっと知らない世界を見たいという願いを強く持つようになって、より遠方の世界を旅することを目標とし始める。
かつて、父ベルたちが目指した冒険者の姿を叶えるように。

と、もう既に大団円と言って良いくらいの状態に落ち着きはじめていたんですよね。アンジェ自身が実験によって生み出された魔王の一つだった、という事実もその母体がエルフのサティだった事や、偶然ベルが赤ん坊だったアンジェを拾ったことで、サティとベルの運命を知らずながらも結びつけていた絆の象徴という意味合いになっていましたし。そういう意味でもアンジェの正体が魔王という事実はもう決着したものと思えていました。彼女自身、その根源が魔王と言っても他の魔王たち、今や人間の子供として安定しているミトや双子の子たちとくらべても、赤ん坊の頃から人間として育ってきたアンジェは魔王という存在の陰も見えない、ほんとうの意味で人になった魔王でしたからね。
残るは敵方の中で一人目的不明のまま姿を隠したシュバイツが何を企んでいたか、くらいだったんですけれど、今更彼一人がどう動いたとしても味方側はS級冒険者の有名所が勢ぞろいしていて戦力過剰なくらい。果たしてこれ以上なにか大変なことが起こるんだろうか、と思っていたら最後の最後に一番大きな爆弾が炸裂してしまいました。
そうなんですよね、しばらくベルグリフの過去を巡る旅が続いていましたけれど、本作の一番根本のところって、ベルグリフとアンジェの父娘の絆の物語。ならば、最後の試練はその父娘の絆を揺らがせるものだった、というのなら大いにうなずけるものです。
このお互いをこよなく愛する父娘の絆がちょっとやそっとで揺らぐはずもない、はずだったんですけれどね。最後に明らかになった事実は、アンジェこそが……サティの胎内に埋め込まれる以前の魔王の魂だった彼女こそが、若きベルグリフの脚を奪った魔獣だったというもの。
ベルグリフの輝かしい将来を奪った。かけがえのない仲間同士だったパーシバル、カシム、サティたちの希望に満ちた未来を踏みにじり、彼らのそれからの長い長い人生を苦しみの縁に落とした原因そのものだった、ということ。これ、シュバイツの企みに寄ってアンジェが夢という形でパーシーたちの人生を追体験させて魂にその苦しみを実感として刻み込むの、凶悪の一言である。今となっては愛する母であり、父の友人たちである以上にもう身内の叔父さんみたいな感覚だったパーシーやカシムたちの苦しみの原因が自分だったと知ったなら。何より、愛する父の人生を奪ったのが自分だとわかったなら。
そして、そんな父の人生の中にシレッと居座ってこの上ない幸せを貰い続けていた自分。ただ奪い去るだけじゃない、マッチポンプのようにしてどんな顔をしてそんな何もかもを奪った相手の娘となり仰せて幸せを吸い取っていたのか。
アンジェリンのベルグリフというお父さんへの愛情が深ければ深いほど、これ自分を許せなくなりますよ。どれほど心がひしゃげる事実だったか。
最後にして最大の試練が、アンジェに襲いかかる。
ベルの脚を奪った魔獣については、未だにパーシーが最後の未練というか落とし前みたいな感じで決着つけないと心の整理がつかない、と常々語り続けていたように、ベルたちの過去にとっては唯一残ったシコリではあったんですよね。まあパーシー以外はもうベルと再会できて、それぞれもう過去を改めて先へ歩いていけるようになったからそんな気にしてもいない様子だったのですけれど。
それに、ベルさんがそんな事実に揺らぐ事は一切あるはずもなく。片足を喪って冒険者として引退し、トルネラの村で一生懸命働きながらも未来への展望、将来への目標を喪ってどこか虚無のような日々を送っていたベルにとって、アンジェの存在はまさに生きる糧、生きる希望、未来への光そのものだったのですから。
これ、巻末のベルさんの赤ん坊のアンジェを拾ってからの育児奮闘記がまた尊くてねえ。そりゃ父一人で赤ん坊を育てるんですから、苦労なんて言葉じゃ足りないくらい苦戦しているのですけれど、この小さな赤ん坊の成長を見守るベルさんの、親としての無上の喜びが伝わってくるようなお話なんですよ。
これを読むと、ベルさんにとってアンジェの存在がどれほど大きなものだったか。親になって娘の成長を見守る人生がどれほど喜びに満ちたものだったか、それが嫌というほど伝わってくるんですよね。
だから、ベルさんが全く一切の躊躇もなく、アンジェを追いかけた姿に納得以上のものはないわけですよ。ベルさんの性格だけじゃない、彼の父としての実感がそこにある。

この作品の中で多くの迷い子たちを拾いあげてその大きな腕の中に抱き上げてきたベルグリフ。
シャルロッテやビャクをはじめとして、子供達はみんな多くの愛情を受けてただの子供として歪んだ迷い路から抜け出せて、すくすくとまっすぐに成長していってる。
そんな中で、唯一赤ん坊の頃からベルに育てられたからこそどこにも迷うことなくあるき続けられたアンジェリンの最初で最後の人生の迷子。どれほど立派になっても、大きくなっても、S級冒険者として大成したとしても。泣いて迷子になっている我が子を、お父さんが迎えに行くのはきっと当然の帰結だったのでしょう。そして、この物語の締めとしてこれ以上無い帰結でもあったんじゃないでしょうか。

まさにあらすじにあるとおり。
冒険者になりたいと都に出ていった少女が、父に「ただいま」を言うまでのある親子の物語。
でした。