【魔王と勇者の戦いの裏で 4 ~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~】  涼樹悠樹/山椒魚 オーバーラップ文庫

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王都に潜む不穏な影――「知謀」で暴き迎え撃つ。

転生したゲーム世界で死亡する未来を回避するため、前世の知識をフル活用するヴェルナー。
マゼルの家族を魔物から守った後、なぜか伯爵家で面倒をみることに。
さらにマゼルの妹・リリーもメイドとして働く事になったようで……?
一方、魔王軍襲撃後の内政処理をこなしているヴェルナーのもとに王都で不審な動きをした者がいるとの情報が入ってくる。
いち早く状況を理解したヴェルナーは、敵の正体を突き止めるため大胆な作戦に打って出る!!
そして新たな職務の準備を進めるうち、不可解な点にヴェルナーは気が付き――?
伝説の裏側で奮闘するモブキャラによる本格戦記ファンタジー、第四幕。


今回は大規模戦争はなく内政パート、と言いたい所だけれど表の攻防が行われない状況では逆に光の当たらない場所での暗闘は激化する。
ヴェルナーによってもたらされた魔族が既に王都内に侵入している可能性、という情報を受け取った王太子を筆頭とした王国上層部の動きがまた凄まじいのなんの。
これに関しては門外漢のヴェルナーは殆ど関わっていない(断片的にもたらされた情報から色々と察した上で自分の出来る範囲であれこれ支援策練ってるあたりがこの主人公のとんでもないところだけれど)なかで、時系列見ても尋常じゃない短期間で王都内の不審な人の動きや出入りの流れを洗い出した上で潜伏していた魔族を軒並みターゲティングした上で、魔族の工作員に不審に思われない形で殲滅用の戦力を集めて配置して作戦組み立ててやがるの。欲張らずに期間を絞って損切までして。
……これ対スパイ作戦、防諜の機密作戦の粋と言っていいくらいの鮮やかさなんですけど。
王太子ヒュベルトゥスが主導しているらしいですけれど、それにしてもこの王国の防諜組織の有能さは尋常じゃないですわ。大英帝国のMI5かなんかですか!?と思えるほどの組織力である。
一部の貴族が手柄を焦って先走っていらん被害を出したみたいですけれど、ちゃっちゃと火消しには成功してますしね。ここらは貴族の力が強い世界故の瑕疵ではあるんだけれど、むしろ王太子はそういう貴族の独断専行などを逆に利用して粛清と内部統制ちゃっかり進めてますし。
ヴェルナーは突出した功績もあって叙爵もされて出世頭として色んな意味で注目を集めているのですけれど、彼の有能さを活かすというだけじゃなくて彼をそういう立場に置くことで迂闊な貴族の動きを誘う釣り餌としても利用しているなど、多重の意味合いでヴェルナーの事使い倒してるんだよなあ、上の人達。そしてその利用加減をまたうまくコントロールしているのが、ヴェルナーパパなのである。ヴェルナーをちゃんとフォローしてくれつつ、お父さん自身もヴェルナー利用してるし、また後継として鍛えようともしている。みんな何十もの意味合いを行動や判断に込めてるのがもう怖いくらい凄い。政治である、これが政治ってやつである。
毎巻毎巻読むたびに実感がどんどん積み重なっていくのですけれど、原作ゲームどおりに王太子が王孫とともに戦死して王国軍壊滅して王都機能がほぼ不全状態になってしまったの、ほんとに取り返しの付かない詰みだったんだね、というのがヒュベル様たち王国上層部の有能さ優秀さが傑出している事例を巻を重ねるほどに実感させられてしまうんですよ。
主人公のヴェルナーは確かにめちゃくちゃ優秀……ってか、この手の内政モノの主人公としては比べる相手がなかなか見つからない半端ないレベルのゼネラリストなんですけれど、恐るべきはそんなヴェルナーを使い倒せるような人材がこの王国にはジャガポコ揃ってるんですよねえ、まじかよ。王太子は言うまでもないですけれど、軍部のどこにも紐づけされてない大将軍に外戚の大貴族に文治派の重鎮でもあるヴェルナーのお父さんに、と軒並み光栄の「信長の野望」とか「三国志」なんかのゲームで言うところの能力値90オーバーが出揃ってるみたいなキャラクターばっかりなんよー。
丁度、小説と同じ日にコミカライズ版の3巻が発売されてたんですけれど、これの表紙絵がヒュベルトゥス王太子なんですが、もう見て笑ってしまいましたよ。



つよい(確信)

いやこれ魔王じゃないんですよ? ラスボスじゃないんですよ? 味方です。王太子殿下です。でも見るからにつよい。実際につよつよなのですけれど。そして何よりセクスィ。王太子、つまり王子とはいえ既にまだ幼いとは言え1巻の戦いで初陣飾るほどの嫡子がいるくらいの年齢で、既に政治的にもヒュベル殿下が主導になって動かしているので、まさに国の要というべき人物なんですよね。そんなのがこんなバケモノレベルの怖いぐらいの超有能って怖いんですけど!
こういう化け物レベルの人たちと比べたら、そりゃまだヴェルナーは雛ですよ。まあ同世代の連中がまだ卵から孵ってすら居ない程度、よほどの出来物で卵のカラをお尻にひっつけてるくらいなんで、既に雛として立派に活動している時点でぶっちぎりではあるんですけどね。でも、上澄みの上澄みな人たちからすると、まだまだ鍛えなければならん、という対象なんだなあヴェルナーは。ただ、鍛えれば鍛えるほど仕上がる上に予想だにしないものをどんどん繰り出してくる、という意味でもうヴェルナー、上の人達に見込まれちゃっているのですけれど。ってか、まだまだと言いつつ嫁がせられる血族が居たらすぐに婚約させたいくらい、ってもう最上級の評価だと思うのですけれど。
確かに、この人たちが言うようにヴェルナーって性格が良すぎる上に野心もないし名誉欲も皆無、という事でガツガツ食らいついてくる相手に対して政治で綱引きできるアグレッシブさやパワフルさは乏しいんですよね。食わせ者とかクセモノらしい癖がない、得体のしれない怖さがない。そういう意味では政治への理解力や対応力はあってもセンスはあまりないのかもしれません。あんまり向いてない、って感じで。ただそれだと、足を引っ張って陥れよう嵌めようという輩への対応がどうしても甘くなってしまう。むしろ、そういう意図ある陥穽に対しての察しは敏いものがあるのですけれど。思慮深いんで、何らかの意図ある動きはしっかりと見咎めるんですよね。
なので、うん確かにこれは鍛えればなんぼでも政治やれるようになるだろうなあ。

とはいえ、そのあたりまだまだ未熟なのをしっかりとフォローしてくれている父上が、今回はほんと頼もしいなあこの人、と思わせられる回でもありました。
マゼルの妹のリリーがメイドとして屋敷で働くようになってる展開も、これ単にヒロイン候補がついにヴェルナーの間近に、とかだけじゃなくて、様々な意味合いが込められているわけですよ。王家とヴェルナー・パパの意図も重なってたり違ってたりする部分ありますし。
まさか、リリーの件すらもアホな貴族を釣る餌になってるとは思わんかったですし、餌になってる事にヴェルナーが気づいて怒る、怒った結果生じるあれこれについてまで想定した上でのリリー・メイドとか深遠すぎません!? 面白っ、面白っ。
しかもこれ、ヴェルナーパパってリリーに施す教育の内容からして、最終的にヴェルナーに嫁がせることまで想定してるっぽいんですよね。
なるほど、勇者マゼルが将来功績から叙爵されて、姫のラウラを娶ることになった場合、新たに王家に連なる貴族が誕生するわけですけれど、その王族が降嫁された新貴族の当主の妹が何の庇護もなく放置されていたら、政略結婚を狙ってハゲタカみたいに他の貴族が集ってきますわなあ。
そういう意味では、マゼルの家族を守るという意味でも王家に影響力を持つ貴族に変な紐がつかないようにするためにも、リリーの相手ってヴェルナーが一番安全なんですよね。ツェアフェルト家としても勇者マゼルとラウラを通じて王家とも血縁となるのは大きいですし、王家としても次期当主のヴェルナーの将来性を見込んで彼の野心のなさにどれだけ取り立てて出世させて使い倒しても危険はなさそうと判断しはじめてるでしょうから、ヴェルナーパパの意図に気づいていても承知しているか黙認くらいはしてそうなんだよなあ。王太子らが気づいてないはずがないですし。
リリーはリリーでマゼルの妹というブランドだけじゃなく、本人が非常に賢く有能な資質をどんどん見せて言ってるので、雇われて即座にメイドの中でも上級職、家の看板にも成り得るパーラーメイドに抜擢されても充分こなしてる上でヴェルナーの側近的な役回りも担えるようになってきている。おそらく使用人間でも認識は共有されつつあるんじゃないかな。
これは将来のツェアフェルト伯爵夫人の目もあるぞ、と。その頃には伯爵で済まなくなってそうでもあるが。なんか、使用人教育だけじゃなくて、使用人を使う教育も行う、なんて話をパパと筆頭執事がしてる時点で、ねえ?
知らぬはヴェルナーばかりなり、ってか。この主人公、そういうのほんと全く気づいてなさそうだし。そういうところだぞ、まだまだ未熟と言われるのは。
……この主人公が未熟呼ばわりされるの、ほんと人外魔境だと思うんだけれど。わりとぼんくらな貴族も少なくないので、上澄みが凄いんでしょうけれど、その上澄みの人達の期待値求める値がめちゃ高いからなあ。まあ上澄みの人たちの実際に立っている高さをこうも見せつけられると、ぐうの音も出ないのですけれど。
頑張れヴェルナー。高尾山に登るくらいでいいやと思ってる君が登ってる、或いは登らされようとしているのはK2だ。まあそんなぽややんな意識のくせに、しっかり事前に最高峰に登れるだけの装備や準備を整えちゃおうとしているのだからこの青年も大概なのだけど。その上誰も知らない新装備や新概念をぽんぽん生み出すんだからねえ。上の人が有能であれば有能であるほど、絞れるだけギューッっと絞り出したくなりますわ。だって絞れば絞るほど出てくるんだもん。使えるやつほど使い倒されるのがどれほど世界が変わろうとも変わらない真理であります。まあこの主人公、わりとワーカホリックっぽいので放っておいても自分で自分を絞っていくんでしょうけれど。