【バズれアリス 2 【追放聖女】応援(いいね)や祈り(スパチャ)が力になるので動画配信やってみます!【異世界⇒日本】】  富士伸太/はる雪 オーバーラップ文庫

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「聖女アリスの生配信」に新聖女がデビュー!?

追放先の迷宮で異世界――現代日本に繋がる鏡を発見し、レストランを営む青年・誠の協力で配信者デビューを果たした聖女アリス。
念願の収益化を達成し配信者として絶好調な彼女のもとに、「地の聖女」セリーヌが訪れる。
親友であるアリスの無事を喜び、一緒に邪智暴虐の王を倒そうと彼女に協力を求めるセリーヌ。
しかしアリスが「動画配信で生きていく」と断ってしまい、口論の末に2人は互いの気持ちを吐き出し合う。
その結果、セリーヌも配信者デビューをしたり、アリスの将来を賭けた「決闘」を配信したりすることになり……!?
「聖女」兼「配信者」がバズって戦う異文化交流コメディ、第2回配信開始!


私は動画配信で生きていく! とか、ユーチューバーで食っていくんだ!
ってセリフって一昔前だと働かないニート様とか紐の人が宣言する言わばダメ人間御用達のセリフだったよなあ、と再会して再び聖女として一緒に立ち上がろう、暴虐の王を倒そうと誘われて、私は動画配信で生きていくのです、と断るアリスのセリフを見て思わず吹き出してしまったのでした。
でもアリスはこれから動画配信はじめようと思ってるとか、幾つか動画作ったけど視聴者数一桁、とかのまだ何もなしていない動画配信者じゃなくて、既にバズりまくってる世界的トレンドの配信者なので、立ち位置が違いますわなあ。
それはそれとして、世界を救う聖女を止めて動画配信で食ってくんだ、というのもまたセリフだけ聞いてると面白いことこの上なしなのですが。しかも、地球サイドと違って異世界側にはまったく存在しない概念ですもんねえ。
にも関わらず、異世界側の面々適応が速すぎるw
既にアリスだけじゃなくて、スプリガンも自分のチャンネル立ち上げてるし、セリーヌもちょっと説明されただけで概要を把握、したどころかむしろアリスよりも動画における自分の見せ方というのを心得ていて、すぐに初心者とは思えないアリスとは全く別のタイプの動画をアップしだすし。

最終的に、アリスを追放して野垂れ死にさせようとした暴君を倒すためにも、アリスがこのダンジョンの最下層まで達するのと、動画配信でチャンネル登録者を集めることはアリスのパワーアップにも繋がって、セリーヌの目的とも本来は食い違いはないわけだ。
セリーヌの聡明な理解力によって、異世界側から見て訳がわからないだろう地球サイドの異次元に発展した科学文明も、すぐに飲み込んでなんなら速攻で使いこなしている始末。最初から理解するつもりを放棄したこっちの年寄りよっぽど柔軟である。
なので、セリーヌとの対立要点って未知に対する拒否感とかでもないんですよね。
ここらへんのアリスとセリーヌのわだかまりというのは、最初の再会の際に大方語られているのだけれど。
無二の親友であるからこそ、お互い生きて再会できた事を心から喜びながら、お互いにこれ以上なく理解しているからこそ、アリスがもっとも苦しいときにセリーヌがアリスを助けに行かずに見捨てたことがどうしてもわだかまりになってしまってる。
これは状況を考えれば極めて正しい判断であり決断であり、アリスの追放はセリーヌをおびき出す罠でもあっただけに、この罠に飛び込むというのはすべての破滅に繋がる情勢でもあったわけだ。そして、冷静に政治状況などから判断するならアリスは聖女という立場上その場で殺されることはなく、死地に追放される。アリスならそこでも生き残れる、という分析もあったんですよね。アリスは殺されない、その一点にセリーヌは賭けていたわけだ。この判断はアリス自身も自分が同じ立場なら同じ判断をするだろうと認めている。
でも、正しい事に納得できるか、というと人間そう簡単なもんじゃない。むしろ、より納得できずに懊悩していたのはセリーヌの方だったんじゃないか、というくらいには正解=納得じゃないんですよねえ。だからこそ、セリーヌは情勢が許す状況になった途端に単独で砂漠地帯を横断してアリスの捜索に来たわけですし。
実際、アリスはここで鏡越しに誠と運命の出会いをしなければ自死しかねないくらいメンタル病んで絶望に侵されてたのですから、本当に危なかった。ダンジョン自体は管理者たちの意向から極力死人が出ないような安全が図られていたわけですけれど。
とはいえ、わだかまりこそあるもののアリスがセリーヌを恨んでいるという事は一切なくて、セリーヌの申し出を素気無く拒絶したのはむしろアリスのセリーヌへの甘えみたいなものもあったんじゃないでしょうか。聖女としての自覚を得て以降のアリスだったなら人のため世界のため、ときっとセリーヌの申し出に迷いもせずに応えたのでしょうけれど。
そうやって自分のワガママを感情のまま素直にぶつける、という行いそのものがはじめてセリーヌに出会った頃の幼い頃。まだ天真爛漫な柵も立場も何も知らない子供だったからこそ、年上で自分の面倒を見てくれた姉代わりでもあったセリーヌに対して思うがまま感情をぶつけて笑っていた頃。今の聖女としての呪縛から解き放たれ、誠やスプリガンたちと自由に楽しく今を生きるアリスはそんな幼い頃に立ち返ったように、セリーヌにもそんな自分を見せられたわけだ。
セリーヌとしては複雑ですよ。いつしか畏まった現実に沿った正しい姿しかセリーヌにも見せなくなったアリスがかつての幼い頃のような姿を自分に曝け出してくれるのは嬉しいことこの上ないけれど、そんなアリスを取り戻したのは自分じゃなく、この異世界の誠とかいう男であることへの悔しさ。もちろん、それ以上にアリスを助けてくれた、その心を救ってくれた彼への感謝もあるし、彼の作るご飯は美味しいし、彼の世界のあれこれは本当に面白い。でも自分を置いてけぼりにしたアリスとのあの親密な関係…妬ましいし恨めしい。アリスへの罪悪感も相まって、もう複雑怪奇にグチャグチャの心境にもなりますわ。
彼に対しての決闘の申し出は、誠をどうこうしようというのでもなく、アリスを無理やり連れ戻すなんてつもりもなく、自分の落ち着かないメンタルに一つの決着をつけるため、セリーヌには必要不可欠の一手順だったんじゃないでしょうか。
その結果が、まさかの新キャラ。シェフ・ラビットちゃんの爆誕だったわけですが。

このあたりのアリスとセリーヌのお互いを大切に思う尊い気持ちと相手の立場や想いへの深い理解。同時にどうしても抱いてしまうネガティブな感情や自分の知らない所で始まっている新しい関係への負のストレス。そうしたものへの割り切りや処理の仕方。それを踏まえた上でやっぱり二人が無二の親友であるという真実を実感していく流れがねえ、良きですわ、良き。
なかなか自分でもままならない自分の心の置所。アリスのそれを意外なことに親身に相談受けて解きほぐしてあげていたのが、ダンジョン幽神霊廟の守護精霊……階層ボスの一人であるランダなんですよね。この娘、原作のウェブ版には登場していなかったのだけれどこの二巻、実はかなりの分量書き下ろしなんですがその分ランダが凄くいい仕事してるのである。アリスの周囲ってスプリガンなど気のおけない友人となってくれてる連中もいるし、誠ももうべったり一緒にいるのだけれど、何気に同性の相談相手っていなかったんですよね。誠の従姉の翔子が同性の友人と言って良い立ち位置ではあるんだけれど彼女は地球側にいる以上、気楽にいつでも話をってわけにはいかないですし。鏡越しだとだいたい誠が居ますからね。
そういう意味でも、ランダってむしろ当たり強いくらいで忌憚なくズケズケと物言ってくれますし、そのくせ意外なほど面倒見良くて辛辣な物言いながらもアドバイスしてくれたり愚痴にも付き合ってくれるし、実は聖女としての先達の側面もあるみたいで、先輩として親身になってくれるし。
攻略の前に立ちふさがる中ボスとしても真面目なんだけれど何だかんだと親切を欠かさないあたりがホントいい人なんだよなあ。素っ気なさの中にある優しさが沁み入るキャラクターだ。
今回、かなり親身にアリスの支えになってくれたような気がします。

そしてもうひとりの書籍版のみの新キャラクター、シェフ・ラビットちゃん。つい最近、ウェブ版でも後日談編で追加投入されたシェフ・ラビットちゃんですけれど……なに、この敏腕Vチューバーw
誠さん……あなた、実はロールプレイの才能の塊だったのか。バーチャル美少女受肉・すなわち「バ美肉」して、これほどあざとく男としての気配を一切見せずにナチュラルに演じきる才能、そして配信者としても自分の見せ方を心得まくった辣腕っぷり。
この人、アリスともし出会わなくてもなんかの拍子にユーチューバーじゃなくてバ美肉したVチューバーとなってたら店の売上カバーできるくらい盛大に売れたんじゃなかろうか。
というわけで、セリーヌとの決闘のためが発端ながら、スプリガンのお遊びもあって、アリスの側の世界で作られた人形に憑依してダンジョン攻略の一員として裏方だけじゃなく、実際に配信者としても活動することになったシェフ・ラビットちゃん。……大丈夫か、これアリス食いかねないくらい人気出てるんだがw
なんか、ランダとシェフ・ラビットちゃんが思いの外存在感が爆発してしまった感がある。おかげで、けっこうセリーヌが割食っちゃったんじゃなかろうか、と心配になってしまった。アリスの同性の親友として、の部分にランダが食い込み、さらに何気にアリスよりもこなれた見せ方をよくわかってる動画配信者、というポディションもラビットちゃんがガンガンと侵食し、結構セリーヌの出番というか持ち札持っていかれちゃったんじゃなかろうか。
とはいえ、今回あんまり自分が動く出番がなくて解説ばかりしていたアリスとともに、正規加入なった次回からこそがセリーヌの本番なんでしょうが。
今回は異世界からの配信、という情報の爆弾に地球サイドがどんな影響を受けてどんな騒ぎになっていくか、というあたりの話も新規書き下ろしの分少なくなってた感もあるので、次回はそこも増しましで味わわせてほしいですねえ。
原作のウェブ版の方はそんな長い話でもなかったので、さくっと終わるのかなと思ってたらかなりガンガンと書き下ろししてくれて物語自体が分厚くなってきてくれて、これはもう嬉しいばかりですわ。
良かった、面白かった!