【この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した 2】  シノノメ公爵/伊藤宗一 HJ文庫

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フォイルという名を隠し、アイリスと共に救世の旅を始めたアヤメ。
そんなアヤメ達が訪れたのは、《大輪祭》と呼ばれる祭りの準備に沸く商業都市リッコ。祭りの目玉である巨大花火制作のための素材集めに協力する等、アヤメは街での交流を深めていく。
しかし、《大輪祭》を目前にして、恐るべき八戦将の一角が街にその魔手を伸ばそうとしていた――
街が「氷霧」に包まれる時、「ヒーロー」が全てを薙ぎ払う!!
「悪役」のはずの『偽りの勇者』のその後を描く陰の英雄譚!


改めてこうして振り返ってみると、救世主と書いてヒーローと読むの未だに慣れないですなあ。
救世主ってどうしても予言とセットみたいな所があって、宗教絡みのケースが多いですし、直接自分で戦う救世主ってなかなか珍しいと思うんですよ。
それこそ、救世主と書いてヒーローと読めるようなキャラクターって世紀末救世主伝説のケンシロウくらいしか思い浮かばないや。しかも、ケンシロウは自らを救世主と自称はしなかったですしね。
いや、自分を世を救う主である、と自称するのって結構度胸がいるというか大胆というか、地球大統領とか地球皇帝とか宇宙大将軍を自ら名乗るのに共通するいたたまれなさ・共感性恥辱心……観察者恥辱心って言うのかしら? を、いやこれらほどじゃあないんですけれど、微小に感じるんですよねえ。
とはいえ、アヤメは救世主と名乗っていますけれど、世界を救う人類を救う・世の中の苦しんでいる人すべてを救済しよう、なんて大仰大胆なことは考えておらず、ただただ眼の前の困っている人たちに手を差し伸べ、悪人を懲らしめるという身近な世直しに徹している。決して身の程を超えた夜郎自大に陥っているわけではない。それどこそか、勇者としての在り方を身を挺して親友に譲り、偽りの勇者として汚名を被って姿を消したように、むしろ謙虚ですらあるんですよね。
世を救済するというよりも、もっとシンプルに人を助ける存在でありたいと思っている以上、ヒーローの方がしっくりとは来ますよね。
そして、勇者であった頃は社会的な立場やメンツ、権威権力とのしがらみもあり自由とは程遠いガチガチに言動を制限された状態であったことの反動か、今のアヤメは自由に思う通りに助けたいと思った人を助けて回っている。貴族の横の繋がりや権力構造などに配慮を考えなくても良くて、悪いことをしているやつは相応の報いを与える事ができている。ちゃんと証拠揃えて私的制裁じゃなくて公的な罰則を与えられるように、また変に擁護入らない別の権威に投げてるあたり、独り善がりにならず強かに立ち回ってる、と思うけれど。
偽りの勇者として、女神から与えられた役割を幼馴染の親友に勇者を託したことで終えたアヤメは、それまで使えていたスキルを使えなくなっていたわけですけれど、努力を重ねることで天賦であるスキルが使えなくても地力でスキルに近い効果を発揮することの出来る技「絶技」を体得しはじめてるんですよね。
これって、世界にあまねく敷かれている女神のルールからも逸脱しつつある、という事なんだろうか。
アヤメ自身は別に女神に対してネガティブな感情を持っていないみたいなんだけれど、同行者のアイシアがアヤメにとって人生を捻じ曲げられる事となった偽りの勇者なんてものを強いた女神にえらく怒りを抱いてるんですよね。そのアリシアの種族であるエルフも、スキルを持たない、という事は女神の軛から抜け出ているわけで。
魔王軍とも女神とも異なる第三勢力的な立ち位置になっていくんだろうか。そういう第三勢力が大きくなっていった場合、救世主という名のりは十分大看板になってくるので決して大げさじゃなくなってくるんだよなあ。
とはいえ、そのエルフなアリシアは同時に女神から聖女という役割を与えられてしまってもいるわけで。さて、このあたりどうなるんだろう。
このままずっとアリシアとのふたり旅なのかと思ったら、魔王軍八戦将という大幹部の一人である氷霧のスウェイ、なんて超大物を拾うことになって。いや、この娘もまたダークエルフであると同時に家族からも理不尽な理由から見放され孤立して、ずっと迷子になっていたような娘なんですよね。いわば、彼女も追放された身の上。本来あるべき集団から追い出されて逸れ者として彷徨う羽目になった身。
アヤメと同じ逸脱者なんですよね。このまま、彼女みたいな逸れものが集まってくるんでしょうかねえ。
にしてもこのスウェイ、魔王軍の大幹部でありながら、性格もかなり歪んじゃているのに人間に対しては殺傷を忌避して被害を出さないようにしていたんですよ。まあ建築物とかは容赦なくぶっ壊して、街も破壊していたので戦果としては十分なのかもしれないですけれど、結構露骨に人の被害を避けて立ち回っていたので、よく魔王軍の大幹部にまで出世できたよなあ、と思うんですよね。明らかに魔王軍の中でもボッチっぽかったし。自分の部隊でも信頼できる副官とかいなさそうで、全部一人でやってたっぽいあたり筋金入りのボッチっぽいんですよ。
他の八戦将あたりから文句とか飛んでこなかったんだろうか。むしろ、これだけ人脈皆無っぽくて人死出さないように立ち回っていながら大幹部にまで出世できる魔王軍の人事はどういう仕組みになってるんだろうか。ちょっと興味がある。

一方で真の勇者のユウくんの方がアヤメことフォイルを死なせてしまったと思い込んでいることで精神の傷がいつまで経っても癒えずにどんどんと闇堕ちのフラグが立ってきている感じがするんですよね。
これに関してはフォイルの生存さえ知れば一気に改善すると思うんだけれど二人とメイちゃんが再び再会できるのはいつになるのか。アヤメの方も八戦将を倒していってるのでその存在は世間の話題にのぼってきそうなんだけれど。