【忍ばないとヤバい!】 藤川 恵蔵/猫屋敷 ぷしお MF文庫J

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お前、忍者のクセに目立ちすぎだろ!?

忍者は今も日本に存在する。そして、日本の治安を陰から守っているのだ──
そんな忍者を目指している16歳の少年、影山忍は最終試験の真っ最中。試験内容は、正体が隠して普通の高校を卒業することだった。
最初の一年、クラスで誰よりも目立つことなく過ごせた忍。このままあと二年過ごせば無事合格するはずだったが──やたらと忍に絡んでくる金髪ギャル転校生・白石雪の正体は実は忍者だった!
しかも抜け忍である彼女は忍の家に転がり込んできて!?
「今日からこの家に泊めてくれない?」って、それはマズいだろ!
果たして忍は無事高校を卒業できるのか!? 新感覚現代学園忍者ラブコメ、開幕!


ニンジャーー!!

これは、日の当たる世界に紛れながら現代の闇に生きる忍者たちの物語である。
ヤミーって感じ一切ないけどね。ラブコメだよね。
とはいえ、忍者として暗部とも言うべき仕事を請け負う組織に属している事も確かであり、戸籍のない孤児から育て上げられている、という一つ間違えれば愛を知らぬ殺戮機械となり得る境遇でもあるんですよね。
公的機関じゃない方の民間忍者組織の方は半分以上犯罪結社っぽい感じですし。
正規の忍者たる超忍の認定を受けるため、市井に混じり1高校生として正体がバレぬように三年間を過ごす最終試験を受けている真っ最中の主人公影山忍。
その彼が身を潜める高校のクラスに転校生として現れた雪という少女、彼女こそ敵対組織から抜け忍として逃げ出してきたくの一だったのである。
というわけで、この作品、一応忍者が一般の高校に紛れている、という設定であるのに登場人物全員忍者である。一般人一切でないよ! そのあたり、いっそ潔くて良い。正直、一般人の友達に正体がバレるバレないといった繊細な人間関係とかのお話じゃないからねえ。
そして、あらすじ的には全然忍んでないぞコイツ、という扱いなのはギャルまっさかりな雪なんだけれど。雪の方はちゃんと普通のギャルやってて実のところ明るいキャラクターで目立ってはいるんだけれど、それは一般人として目立っているのであって、忍者としては十分市井の中に紛れているのである。
むしろ、忍べてないの、忍の方なんですよね。高校生になっちゃいるけれど、一年間すごして誰とも友達になれていない、どころか事務的な会話すら行われていないという極限のぼっち。
これで当人、紛れているつもりである。しかも、わざと孤立しているのではなくて、なんか知らん内に誰からも近づかれなくなり、自分から何も行動しなかったためにぼっちになってしまっているという典型的ダメぼっちである。自分からは何もしていないにも関わらず、なんか知らんけどこれうまくやれてるんじゃね?と自信を深めているあたり相当にダメである。積極的に誰とも絡まないようにして孤立することで、正体がバレないようにしている、あたりだったらやり方はアレだけれどもちゃんと自分で考えて結果を手繰り寄せようとしているからまだイイんですけどね。忍の場合流されるまま、何もしてなかったもんなあ。
そして、彼と同じく試験で高校に通っているという同輩の深山茜と葵の姉弟。彼女らの方は一応ちゃんとクラスに馴染んでいるらしけれど、それでもその容姿やオーラからやたらと目立っているのは確かで。いや、そっちは全然構わないんだけれど、安易に発砲事件を起こしたり考えなしに忍びとしての力を使いまくったり、と全然忍んでいないのはこっちも同じ!
雪の方も暗示使いまくって非正規の手段で高校に転校してきたというあたり、アレではあるんだけれど、わりとちゃんと忍ぼうとしてるし抜け忍として身を隠すつもりはちゃんとあるしまだマシな気がするぞ。
そもそも忍者って隠密であり、情報収集や撹乱など諜報活動が主だった仕事であり、直接の戦闘能力というのはメインじゃないと思うんだけれど、この子ら完全に脳筋で戦闘能力全振りなんですよね。
彼らが悪いんじゃなくて、これ間違いなく教育方針の問題なんだけれど。
しかも、忍は組織でも最古参で創始者に名を連ねる超有名な忍者を師匠に持つ有数の選良であり、深山姉弟も孤児が多い組織の中で頭領の直系というサラブレッド、と三人とも将来組織を背負って立つようなエリートなわけですけれど。
途中からポロポロとこぼれだすように明らかになっていくんだけれど、この子らって任務外のこととなると全然頭が回らない、というか思考停止になっちゃうんですよ。指示された範疇から状況が逸脱してしまうと、何をどうしたらいいのかわからないし、機転を利かすことが出来ない。
どうしたらいいのかどう行動したらいいのか全く思い浮かばなくなって棒立ちになってしまうシーンがあるのです。
これ、何気に将来指導者層になろうというエリートが、指示待ちの言われたことしか出来ない人間になってる、ってかなりあかん成長曲線を描いてたんじゃないでしょうか。組織の一歯車に徹するというのなら、使い潰される部品としての下忍ならこれで良かったんでしょうけれど。いくら戦闘能力が高くとも、これ育て方だいぶ間違ってたんじゃないでしょうかね。
おまけに茜は短絡的で人の話を聞かずに口より先に手が出るタイプ。
忍は慎重を通り越して臆病で保守的。ビビリってわけじゃないんだけれど、根本的にヘタレ。メンタルよわよわ。彼がマオ師匠に鍛え上げられて、未だ正式に超忍にはなっていないものの組織「半蔵門」でも有数の戦闘力を持つに至っているのだけれど、それもマオ師匠におだてられ宥められ煽られすかされ、とりあえずモテるから頑張れ、で頑張ってしまったくらいに流されやすく意志薄弱。
おまけにモテたいから忍者として鍛えてきたのに、こいつモテるための行動を一切取ってないんですよね。ボッチになってしまった過程も自分から行動を一切しなかったからなんだけれど、モテたいと思いつつモテるための行動を一切していない。いや、忍者として鍛えることが彼にとってモテるための活動だったのかもしれないけれど、異性とろくに喋れないのにそれを特に問題視もしてないもんなあ。
コミュ障であることに自覚のないコミュ障である。
なんかわりとボロカス言ってしまった気がするけれど、決して不快な人物ではないのだ。意外ともどかしいと思うこともない。メンタルはあれなんだけれど、けっこう首尾一貫していて流されやすくて意志薄弱と言っても八方美人とか決断力がないというわけじゃないんですよね。
何だかんだと付き合いいいし、ギャルな雪に臆することなく何だかんだと親切だし。好人物ではあるのだ。ダメなだけで。
そんな彼が、組織関係なく任務関係なく、ただ自分の思うがままに自分の望むべくを自分の責任で自分の意志で掴み取ろうとする、そんな自分の脚で踏み出すきっかけこそが、雪との生活であり自由人な彼女との交流であったのです。
明るく闊達な雪ですけれど、かなりヤバい組織であり半蔵門の敵対勢力である忍者組織から家出、抜け忍として逃げ出してきたわけで、常に追手を警戒している怯えもまた彼女の中に内包されていたのでした。
また彼女、忍者としてもかなり特殊な立ち位置で、マオ師匠は保護するつもりだったのだけれど、組織の半蔵門としてはこの雪をかなり危険視することになるんですね。
社交的でコミュ力強者である雪を通じて、同門同輩でありながらあんまりちゃんと交流なかった茜と葵とも仲良くなり、一般人全然周りにいないけれど忍者ばっかりだけれど、ようやく高校生らしいスクールライフを楽しみ心躍らせる日々を過ごすようになった中で、突然突きつけられる敵も味方も雪を狙うという板挟みの状況。
今まで通り任務に従うままに組織の命令通りに動くのなら、自分たちの手で雪を抹殺しなければならない。自分で考えることをこれまで選択の中に入れることなく、言うなれば楽に過ごしてきた忍や茜たちにとって、それは初めて突きつけられた自分で考え自分で判断し、自分の意志で選択しなければならない状況。
思えば、自分の組織が嫌で逃げ出してきた、というだけですでに雪はもう自分の意志を持ち、それを貫いていたんですよね。そんな彼女に、言ってしまえばあてられた忍たち。めっちゃ情に流されている、非情の忍びとしてそれはどうなの、と思う所もあるのだけれど、指示待ち人間になりつつも組織に対しての忠誠なんて全然持ってない忍たちとしては、それもまた自分なりの忍者像だったんじゃないでしょうか。まあ、そもそもあんまり忍者というものに対してのこだわりもなさそうですけれど。
それに、将来上に立つ人間なら自分で考えるようにしないとね。我を通す、というのはやりすぎるとあれだけれど、どういう立場に立つにしろ大事な要素なのだと思う。
それに、そもそもモテたいから忍者やってんだから、その行動規範はモテそうだから、でいいじゃない。まあ今回の行動にモテたいからなんて考えどこにもなかっただろうけれど。でも結果としてうん、それはモテる格好良さだよ、モテる忍者だよ、忍くん。
というわけで、全体的にドタバタなコミカルさが妙にハマる面白さでありました。このノリ、なんかイイんですよね、なんか好きよこんな感じのラブコメ。