【断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す 5】 楢山幕府/えびすし  TOブックス

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
王太子・シルヴェスターにより早急に婚約式の用意が進められる中、クラウディアを襲ったのは突然の“拉致”だった。貴族派の陰謀かはたまた、人身売買か。黒幕の分からぬまま、自分を嗅ぎ回っていて巻き込まれたらしい少年探偵・キースと共に、謎めいた「しあわせな村」に軟禁されることに。村人からは歓迎されるも、その場所には絶対に犯してはならない『掟』と、『儀式』に怯える少女たちの姿があり……? 「さぁ、ここから皆で脱出しますわよ?」 元娼婦の令嬢が「悪」で正義を貫く、痛快ラブファンタジー! 書き下ろし番外編&巻末にコミカライズ3話試し読みを特別収録!


「しあわせの村」って。完全にカルトである。ナイジェル枢機卿、あんた教会の重鎮にも関わらずこんな一団すらプロデュースしてたのかよ。
一応、ナイジェルの影響力を国内から排除できたことで、今まで表に出ていなかったこの怪しげな集団の存在が浮き彫りになってきたわけですから、一応一応ナイジェルに対してリードを取る? 攻撃に転じている? 勢力影響力を着実に削っている? と見て良いと思うんだけれど、今彼の動向が聞こえてこない事でなんか全然有利取ってる気がしないんだよなあ。不気味すぎる。今見えてこない所で何を企んでいるかわかったもんじゃないだよなあ。
それはともかくとして「しあわせの村」である。シルヴェスターが国王陛下からくだされた課題の中の一つとして示されていた国内に存在する不穏分子が集まる村。
最初、てっきり王族やその地域を支配する貴族に対して不満をためている不遇な村人たちとか、外国から大昔に移住してきていた国外の王族の血を密かに伝えていた落人の村が表に出てこようとしている、とかそういうたぐいの話を想像していたのですが。
まさかのカルト集団である。
しかもこれ、一村落の話じゃなくて複数の村にまたがる勢力になってるんですよね、ヤバいよ、そりゃ国王陛下も早めに対処するべき、と判断しますわ。
自分は少し前に有名になった映画「ミッドサマー」はあいにくと見ていないのですけれど、いわゆる外界から情報を閉ざした村の中で、その村独自の価値観を育て上げ、村に関わるもの以外の外の世界を敵視、それ以上に触れたり知ろうとするだけで魂が汚れる、肉体すらも汚染される、みたいな感じで関わろうという意志そのものを奪って、交流を断絶させているような集団。まあそんな感じの閉鎖的なカルト集団のお話なんですねえ。
いきなり、えげつない代物がネタとして出てきたなあ。
おまけに、薬物などを使用しての洗脳。セックスを多用してモラルを破壊し、共同体意識を強固にするという手段。
シンプルにヤバいです。
んで、念願のシルヴェスターとの婚約式を前にして、偶然そんな連中に攫われてしまったクラウディア。
いや、まじで偶然なんですよ。クラウディアが狙われた、というわけじゃなく。ナイジェル枢機卿を通じてクラウディアの存在自体はカルト側も重要視していたみたいなんだけれど、別に彼女を略取しようとは毛頭考えていなかった。
それが、貴族の依頼で独自にこのカルト集団、とある薬物の製造元を調査していた少年探偵キースをたまたま助けたことで、巻き添えを食ってしまうのである。
このキース少年、口癖が「なんて運が悪いんだ!」ってなもんで、とかくバッドラックの塊みたいな少年なのである。これは平穏に生活していても向こうからとんでもないトラブルが飛び込んできてしまうから、自分から飛び込むことで不運を打開してやろう、ということで少年探偵なんてことを始めている極めて聡明で活発で快活な勇気ある少年なのだが、実際彼が死中に活を求める、じゃないけれど最終的にどれだけ不運に襲われても良い形での結末を迎える事が多いみたいなんですね。
まあ、それだけ人事をつくしている、という事でもあるんですが、その前向きな姿勢が不運の中から幸運を発掘していく、みたいな作用もあるみたいで。あそこで、偶然グラウディアと遭遇し、事故で護衛と引き離されて、クラウディアと共にカルトに連れ去られてしまうというのは、運が悪いなんてもんじゃなかったんだけれど、かなりの死亡フラグが立っていたキースとしてはここでクラウディアと知己を得た上に一緒にカルトに攫われる、というのはまさに生存条件だったんでしょうね。クラウディアにとってはえらい目に巻き込まれた以外のなにものでもないのですけれど、近い将来シルの配偶者として、王妃となってこの国の民を幸せに導く責務を負う以上、ここで国内にこんな妖しい集団が存在して、その中で助けを求めている娘たちに出会えた、というのは彼女にとっても幸いだったのでしょう。
自分の目の届かないところに、まだこれだけ救いを求めている無力な存在がいることを実感と実体験を伴って知ることが出来たのですから。
また、一人で攫われて異様な環境の中に置かれるのではなく、一緒に連れ立ったキース少年がえらい頼もしい機転のきく子な上に可愛らしい男の子で、その明るさも相まって必要以上に怯えることもなく、彼と相談しあいながら状況を確認しつつ待つだけの余裕が得られましたからね。これ幾らクラウディアでも、一人ならちょっと耐え難いものがあったはず。
まだ小さい男の子という事もあって、異性として意識したり警戒したりする必要がなくリラックスして一緒に居られる相手だった、というのも大きいでしょう。その割に小さいからって自分が守ってあげないと、と気負う必要のないくらいしっかりとした子でしたしね。
まあキースの方はけっこうドキドキしっぱなしだったみたいですけれど。これが初恋になってしまったんだろうか。二人だけで居る時は身分とか考えずに姉と弟みたいな距離感で付き合えていましたしね。
まあ、これはほんとこの期間だけなのでしょう。元の世界に戻れば、クラウディアは公爵令嬢。おまけに、王太子殿下の婚約者である。何よりシルがたとえ相手が小さい男の子であろうと、クラウディアに近づく男は平等公平に処す!と言わんばかりの粘性の高い男だからなあ。
まあでも、本当にとびっきりに有能なので、キースくん。今後もお抱え探偵じゃないけれど、クラウディアからは色々と頼りにされそう。
あと、クラウディア誘拐という非常事態を通じて、ヘレンとクラウディアのお兄様との距離感が思いの外近くなった気がするので、これはヘレンが本当のクラウディアのお義姉様になる展開はあるんだろうか。
なかなか特殊な雰囲気というか空気感が続く緊張感ある展開の巻でありました。これまじでキース君がいなかったら、もっと妖しい雰囲気に酔うことになったかもしれない。この子の陽気には色んな意味で浄化機能があった。
でも、これ村の中で正気を保っていた少女たち、そのまま村自体は存続という形になってそこに引き続き住む事になったみたいだけれど、カルトが崩壊してじゃあその渦中に居た、どっぷりその異常を異常と思わない環境の中で暮らして、その常識のままにモラルぶん投げていた村人たちがもとに戻れるか、というと……。村というコミュニティーも家族という最小単位のコミュニティも、とてもじゃないけどグチャグチャになりすぎてて修復不可能だと思うんだけれど、どうなんだろう。少女たち、望んで家族と村に住み続ける選択をしましたけれど、これ違う形の地獄再びになるんじゃないかとちと心配である。
あの頭のおかしくなるような環境で正気を自我を保ち続け、外から連れてこられたクライディアたちに助けを求め、或いは身を挺して助けようとした強い子たちなので、なんとか頑張ってほしいけれど。