【落第騎士の英雄譚(キャバルリィ)19】 海空りく/をん  GA文庫

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「では『母体』から不要なステラ・ヴァーミリオンの人格を削除する」
『完全な人類』を生み出すための母体として、《大教授》カール・アイランズに拉致されたステラ。彼女を救うべく、一輝と仲間たちはアイランズが待ち受けるラボを急襲する。
しかし、なみいる強敵を斬り払って囚われのステラのもとにたどり着いた一輝たちを待っていたのは、残酷な結末だった。
《落第騎士》一輝と《紅蓮の皇女》ステラ。剣で惹かれ合った2人、その運命の行方は――!?
「――僕の最弱を以て、君の最愛を取り戻す!!」
最終章クライマックス! 超人気学園ソードアクション、堂々完結!!


おおん、長かったよう。18巻が20年の6月刊行ですから3年半ですか。最終回直前にクライマックス。あのステラが攫われてえらいことになった、という所で止まってですからねえ。待ちましたよ。
この物語って、まあメインヒロインのステラ・ヴァーミリオンが他に割って入る相手の居ないオンリーワンのヒロインとして描かれると同時に、主人公の一輝の最大の好敵手としても描かれていたじゃないですか。それも、どちらかというと圧倒的な力を誇るライバルとして。
もちろん、実力的には一時一輝に引き離されたり、初対面では初見ということもあって一輝に負けていますし、それ以外の敵にも敗北は多いです。
しかし、その度に強くなり膝を屈しても立ち上がり覚醒し、とこのあたりはむしろ主人公的ですらあるのですけれど、ステラの強くなりかたってちょっと半端ない上げ幅だったりして、一輝が剣神と謳われるほど尋常ならざる成長を見せつつもそれがあくまで剣士という枠組みの延長線上であったのに対して、このステラの方は明らかに人外の方向性に突撃していて、人の形をした竜、みたいな方へと突っ走っていくんですよね。

ラスボス系ヒロイン、なんて言われてたりもしました。
このラスボス系ってのは伊達じゃなくて、単にラスボスのように強いというんじゃなくて、最終的に主人公の前に立ちふさがる最大最強の敵になりそう、という威風や立ち回りからそう呼ばれるわけですよ。
ステラもまた、そもそも一輝にとってはこの世で最も愛する人になっていくと同時に、最大の目標でもあったわけです。
でもって、あの七星剣武祭の決勝戦ですよ。この時点で二人は既に想い通じ合い、恋人同士になっていました。
その上で何より誰より勝ちたい相手としてお互いに剣を交えたわけです。裏切りでも強制でも因縁でもなく、ただ純粋にこの人と戦いたいという気持ちで限界を突破し、人外魔境の領域へと入る形で。
この際、ステラも一輝も夢中になって精神昂じていたとはいえ、完全に理性を保った状態でありながら、全力を尽くすことを優先してもし相手が戦いの末に死んでしまっても、殺してしまっても、それでも構わないと心に決めて戦ったわけですよ。
恋人同士でありながら、こいつらその果てが殺すも殺されるもまた好し、というガンギマリな戦いを繰り広げてるんですよね。バトルジャンキー極まれり。もうデロデロにまでイチャイチャしてるだだ甘の恋人同士という関係にまで至りながら、何の強制もなく純粋に相手に勝つために死んでも構わん、の精神で死合ったカップル、ちょっとすぐに他思いつかないです。
この巻読んだ際に思ったもんですよ。ああ、このシリーズの最後はまたこの二人が戦うことになるんだろうな、と。黒鉄一輝の最後の相手に相応しいのは、ステラ・ヴァーミリオン以外いないだろう、と。

だから、前巻でステラが攫われたときには、これは何らかの形でステラが敵となって最後の最後に一輝の前に立ちふさがるんだろうなあ、なんて想像したわけですよ。だいたい、あのステラが大人しく囚われの姫をやってるようなタマじゃありませんからね。
とはいえ、アイランズ教授が仕掛けたステラの人格抹消プログラムはえげつないなんてもんじゃなかったのですけれど。
でも、敵に操られたり乗っ取られたりされてるステラと戦うのは、それはまた違うよなあ、という思いもまたありました。仮にもラスボス系というのなら、自分の意志以外で主人公の前に立つのは解釈違いだよなあ、と。
とはいえ、純粋にただ相手に勝ちたい、戦いたいという気持ちでぶつかり合うのは、七星剣武祭で達成されているわけで。これを超える純粋な命を賭けるような勝負を、果たしてこのステラが攫われ、一輝たちが救出に向かうという展開から持ってくるのは無理じゃね?という理解もあったんですよね。
果たしてここらへん、どう物語ってくれるか色んな意味で楽しみでもあったのですが。

うん、うん、これか! これぞ! 解釈、解釈一致! いや、実際問題ここからステラと一輝が本当に死合うのはどうやったっておかしいんだけれど、それはそれとしてこの二人の関係は囚われの姫とそれを救う騎士でもなく、闇に落ちた恋人に必死に声を想いを届かせてようとする甘やかな悲愴を交わす同士でもなく。
そう、剣士と剣士。刃を以て交じる者。たとえその果てに相手を殺してしまっても、刃を通じて届く想いがあるのだから、そこに後悔などありはしない。まさにそれ。
愛を紡ぐ言葉でも目覚めを促す口づけでもなく、それで死ぬのなら構わないという本気の刃こそが眠り姫じゃない、眠る竜を起こすに相応しい。
ここのシーンはひたすら頷きでした。そう!そう!そう!って感じで。
ぶっちゃけ、アイランズ教授って敵としては格落ちなんですよ。最悪の敵はオルゴール。最難の敵は黒騎士。最強の敵はエーデルワイス。盛り上がりとしても、同盟と連合の争いは片がつきましたし、総力戦として今までライバルだった学生騎士たちが総出で戦う戦争編も大炎編などありましたし。
アイランズ教授自身はそもそも武人じゃありませんし、手駒であるエイブラハムもあれ再生怪人みたいなもんでしたしね。
だから、この最後のステラ救出編というのは純粋に武を競う、強さを叩き合うものじゃなく、アイランズが強いてくるロジックをどう攻略していくか、という展開でも在りました。
実のところ純粋な武人であり決して器用ではない一輝にとって、これ本領を発揮しきれない舞台でもあったわけで、そこを補い支援しフォローし、時に身体を張って企みをぶち破り、相手の想定を遥かに上回る予想外のことをやってのけ、この戦いの勝利に最大の貢献し続けたのは珠雫だったんですよね。
もう文句なしのMVP。誰がアイランズの野望を打ち破ったか、というので個人名をあげるなら文句なしに黒鉄珠雫でしょう。珠雫の気合の入りっぷりもある意味一輝に匹敵する熱量でしたし、妹キャラとして破格の活躍でありました。めっちゃ熱かったんよ、珠雫ちゃん。
あのエーデルワイスさんからも絶賛されてましたし。お兄ちゃんの方はメタメタに叱られてたのにw
救出メンバーには兄貴の王馬も加わっていたので、これって初の黒鉄三兄弟揃っての戦いだったんですなあ。ちょっと感慨深い。
後日談もあれは感慨深かったなあ。いや、多くの登場人物の近況なんかはともかくとして、最後にステラとの結婚を契機として、タイトルにもある落第騎士(ワーストワン)という黒鉄一輝にとっての原動力となったあり方を卒業して終わる、一輝の心の持ちようの問題なんだけれど。物語の終わり、英雄譚の幕引きとしてすごくしっくりとくる〆で、ああ終わったんだなあという感慨に浸ることが出来ました。
学園異能モノってそりゃもうわんさかと生えてきたジャンルなんですけれど、その中でもホント、剣の切っ先みたいに尖っていて、それでいてエンタメとしてもすこぶる痛快で面白いことこの上ない傑作で快作でした。