【魔界帰りの劣等能力者 12.幻魔降ろしの儀】  たすろう/かる HJ文庫

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幻魔降ろしの儀の成功にむけて、祐人とニイナは力の限りを尽くす!

想定外の襲撃の連続により起きてしまった秋華の暴走。祐人の力でどうにか最悪の事態は回避したものの、幻魔降ろしの儀はすぐ3日後に行われることに。
儀式を行う秋華の覚悟を知った祐人は、少しでも危険を減らすためスパルタで秋華に修行をつけることに。
一方、秘書として襲撃者の情報を精査し犯人を絞り込むニイナは、祐人の隣で自分なりに戦う内、ある違和感にたどり着き――
(この堂杜さんの表情。どこかで私は見たわ。いつ?)
最弱劣等の魔神殺しが秘密を抱えた少女を育てる、第12弾!!

秋華の暴走を目の当たりにした祐人は、このままでは「幻魔降ろしの儀」は失敗すると判断して、秋華と琴音に自分が修行をつけることを決断する。
「幻魔降ろしの儀」の強行も誰かが理不尽に無理押しした結果の避けられた悲劇じゃなくて、むしろどうしても強行しなくては秋華の身が危ない、とされているようにこの一事だけじゃなくて、おおむね正当な理由があり、理性的な判断合理的な結論、場合によっては冷徹とすら言える客観的な決断をもって行動していて、誰も我欲や面子などで判断を誤ったり感情的になって冷静さを欠いていたり、無茶無理無謀をゴリ押ししているわけじゃないので、話し合いがちゃんと通じるのは何気にわりと珍しいんじゃないだろうか。
これ、祐人が秋華と琴音にやろうとしている修行って、精神面の強化と意識改革である。こういうメンタルだの精神力だのの修行ってどうしても感覚的なものになりがち、というイメージがあるんだけれど、祐人のそれって彼の説明を聞いていると一から十までロジカルで具体的なんですよね。
彼女たちに足りていない部分、それがどうして足りていない状態になっているかの理由、一族のつける修行の効果の適切さと盲点、秋華個人の持つ問題によって生じている瑕疵などひとつひとつわかりやすく具体的に、誰が悪いとか間違っているとかじゃなくて、どうしてそうなっているかの筋道立てての原因解説がほんとわかりやすいんですよ。
そして、自分の修業によってなにが改善されるのか、何が補強されるのか。どうしてそういう効果が得られるのか。など、大系立てて説明してくれるので納得もしやすい。
これ、当事者の秋華たちには言葉で説明してしまうと感覚を捉えにくくなってしまうからか、具体的には説明せずにやり方重視で修行しているんですけれど、秋華の家族に対してはちゃんとこのあたり詳細に説明して許可を得ようとしてるんですが、勝手に強行せずにちゃんと修行の許可を取ろうとする当たり偉いよなあ、と。
ちゃんと黄家の人たちが話を聞いてくれる人たちだ、という理解あってこそではあるんでしょうけれど。
にしても、一族伝来のもっとも大切な儀式を前に、横からこういう茶々を入れられて、話を聞いてくれるだけ黄家の人たち大した人たちなんですよねえ。それだけ、秋華の状態、儀式の成功の可能性に危機感を覚えていた、というのもあるんでしょうけれど、古くから続く術師の大家なんですからここは頑なになっても不思議ではないだけに、やはり器の大きい家なんだなあ、と。
それでも、祐人の説明にちょっとでも不鮮明な点があったら許可なんか出さなかったんでしょうけれど、あれだけ具体的かつ自分の危険も顧みず、の内容を提示されたらなあ。

とまあ、ここで祐人が秋華の欠点でもあり長所でもある部分、周りに気を遣う性格というのを一言だけじゃなくて色んな側面からどういうものなのか、そうした性格が及ぼすプラスマイナスの影響などについてあれこれと話してくれたお陰で、秋華という一見自由奔放でワガママにも見える少女の解像度がぐいぐい上がっていたのですが、この修行を通して彼女が、そして琴音がどんなふうに変わったのか。メンタルが強くなったとは具体的にどんな形で?というのが、かなり詳細に伝わってきて、この二人の少女の掘り下げにもなってたんですよね。
振り返ってみると、秋華のこれまでの言動もまたちょっとずつ色が変わって見えてきますし。
その上で、まだまだ幼く未熟だった秋華と琴音が見違えるように心が健やかに伸びやかに育ち変わったことが、その変化が具体的に伝わってきたんですよねえ。ああ、見違えたなあ、と。
逆に、この娘たちの成長に一喜一憂し、自分の至らなさに苦悩する祐人の方に君もちょっと落ち着け、と言いたくなるくらい二人の少女がしっかりしちゃって。

面白いことに、この巻では祐人に他人にこれほど何かを教える、根っこから変化を与える指導者としての格があるのだとわかると同時に、まだまだ若いなあ、と感じさせる粗忽さというか感情的な部分が垣間見えるんですよね。
まあその若いなあ、と感じさせるのは同年代の黄英雄との衝突だったりするんですけれど。ふたりとも男の子だなあ、と。自分のままならない主張をぶつけるのに、言葉だけじゃなくてついつい身体使ってぶつかってしまうあたり、なんというまっすぐな青春してるんでしょうね、この二人。
お互いに自分への葛藤を抱えているからこそ、それを外に発散することで、受け止め合うことで自分なりの答えを見つけることが出来る、反発以上の得難い共感を得る関係になる、とまあ男の子だなあ、と。
なんか、一悟以来の同性の親友になるんじゃないですか、英雄。なんだかんだと、お互い認めあえる間柄っていいもんですなあ。妹以上に、お兄ちゃんも成長しちゃったじゃないですか。
出てきた当初は噛ませ以外の何者でもなかったのに。こういう噛ませキャラが後でこういう頼もしい友人になるのって、展開としてやっぱり嬉しいしニヤニヤしてしまいます。

さて、物語の方は祐人も黄家の人たちもニイナも誰も判断を過たず、最善を尽くしていて、実際秋華の儀式は一気に成功の可能性が出てきていたものの、むしろその秋華の急成長がトリガーを引いてしまい、祐人とニィナが進めようとしていた内偵と黄家への注意喚起がギリギリで間に合わず、敵の手引によって儀式が強行されてしまうことに。
本来行われるはずだった儀式の日程から考えるなら、祐人たちの行動は遅いわけじゃなかったはずなんですけどね。誰が悪いというわけじゃないんだよなあ。相手が行動を繰り上げたのも秋華の状態の変化からの思いつきみたいな感じですし。

さて、展開も一気に佳境に。単に敵を倒す、じゃ済まなくなったのは潜んでいた敵だけじゃなくて、秋華に宿ってしまった妖魔をどうにかしないといけないのと、さらに秋華が保険で呼んでいた天衣無縫が状況を一筋縄ではいけないものにしちゃってて、これ三つ巴の争いになってしまうのか?