【転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件 ６】 雲雀湯／シソ 角川スニーカー文庫
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想いは言葉にしないと伝わらない――恋愛模様が動き始める秋祭り編
妹の親友を「女の子」だと意識してしまった。隼人に可愛く見られたいとはにかむ沙紀は、蛹が蝶へと羽化するように日々綺麗になっていく。
変化していく友達を横目に、春希は変わらない「相棒」の顔でいつものように隼人を揶揄って笑いかけた。
そんなある日、一輝の姉が人気モデルのMOMOだとバレてしまう。過去の経験から、隼人たちと距離を置こうとする一輝を引き留めたのは、姫子の飾らない素直な言葉だった。
秋祭りの夜、揺れ始めた一つの天秤が、他の天秤をも否応なく変化させて――
「……沙紀ちゃんに負けたくないな」
春希の中で無意識に封じていた感情も解かれ始める。
青春ラブコメディ、秋祭り編!
おいおいおい、沙紀ちゃんのイメージチェンジ、自分のそれまでの様式をひっくり返してまで挑んだ、妹の友達の後輩の娘じゃなくて村尾沙紀という女の子を見て欲しい、という彼女の勇気を振り絞った挑戦は、なんかびっくりするくらいに隼人に刺さってるんですけど！？
どちらかというと内気で人より前に出る事を怖がるような娘だった沙紀が、いったいどれだけの決心で前に踏み出したんだろう。自分の殻を破ろうと思い定めたんだろう。それもこれも、恋の力だ。それが一人の女の子をこれだけ変えてみせた。
もうびっくりするくらい覿面に効いちゃってるんですよね。思惑通り、と言っても沙紀ちゃんそこまで具体的にどうこうは考えていなかっただろうし、漠然ともっと隼人に振り向いてほしいなあ、というくらいの決心とは裏腹にそこまで明確に結果を欲していたわけじゃないように感じるんだけれど、隼人はもう完全にこれ、沙紀の事を異性として意識しはじめてる。沙紀の思わぬ姿を、洗練されたお洒落で可愛い女の子である事実を目の当たりにするたびに、動機が激しくなり顔が熱くなり、ドキドキしているのだ、まともに沙紀の事直視出来なくなっているのだ。
もうこれ、思いっきり好きになりかけてるじゃん！！
正直、ここまでクリティカルに隼人が反応すると思ってなかったので、衝撃的ですらあります。
いやー、元々めちゃくちゃかわいい子だったから、素材的にはいいものがあったんだろうけれど。愛梨のアドバイス、まじでクリティカルだったんだなあ。
そりゃそうだ、これは隼人ひとり目掛けて磨き上げた方向性だったのだから。そりゃ、隼人特攻で彼に刺さる刺さる。
にしても、刺さりすぎだろう、ってくらいにほんと覿面だったんですよねえ。
一方で、春希の方は未だに自分の心に蓋をしてそこを覗くまいと目を逸らし続けている。歪で空虚な自分にはそんな熱い感情は存在しないんだと否定し続けている。
周りに合わせて演じることで、虚ろな自分を繕ってきた。だからこそ、幼馴染として限りなく素に近い自分で接することの出来る隼人や姫子という存在はとても大切で、彼らと再会することで広がった同じくらい忌憚なく接することのできる友達との繋がり。
だから、女の子という立ち位置を奮い立たせて隼人との距離を寄せていく沙紀に、自覚なく対抗心と憧憬を抱きながらも、異性としてではなく「はるき」という隼人と無二の親友で幼馴染だった過去の自分を呼び起こすように、そちらの方向性で隼人との絆をより強めようとしていってるんですよね、春希。
でも、その気のおけない幼馴染という昔通りの関係に、それだけじゃない女としての色や空気を滲ませて印象付けてしまっているのも間違いなく、そこに隼人はこれまたドキドキを覚えているんですけれど。
でも、その春希の幼馴染という関係に比重を置いている方向性は果たして正しいんだろうか。
結局それは、どれだけ親密になろうとも現状維持なんですよね。春希にとって、それより先の、なりたい関係、たどり着きたい関係が存在しない。今こそが、現状の春希にとって既に到達点のようなものなのだから。だから、それ以上どこにも行けない。
一方で、沙紀の方はこれが違う、異なっている。彼女には明確にその先になりたい希望がある。明確と言っても、誰かを…春希を押しのけて自分が隼人のカノジョになりたい、なんて我は強くは持っていないのかもしれない。沙紀にあるのは、もっと自分を見て欲しいという原初の願望で具体的にどうこうなりたい、とまでは考えていないのかも知れない。それでも薄っすらと、思い描く理想、願望は胸の内に宿してるように見えるのです。
それが明確な春希との違い。これ、このままだと沙紀ルート行っちゃいますよ！？ ガチで、マジで。
まあ春希の停滞自体は春希自身の問題で、場合によっては外部からの刺激で、というか隼人の側から彼の意志で大きなアクション起こして春希に仕掛けていったとしたら、春希が自分の心から目を背けている場合ではなくなるかもしれないんだけれど……隼人と姫子に関しては家庭の問題というのが沈黙とともに横たわっているので、実のところこの兄妹側から劇的に動く余裕はないような気がするんだよなあ。
というわけで、なにか動き出すとしたらどうしても春希の側からになってしまうんだけれど、肝心の彼女が自分の心を雁字搦めにしているものだから、沙紀の猛アプローチという大きな展開にも動揺は大きいものの自身の有り様を覆すまでの後押しとまではならなかったんで、春希サイドはこの巻では動かないかな、と思っていたんですが。
まさか、姫子への一輝の恋の自覚がここまで春希に衝撃を与えるとは。
ある意味この巻のメインは、一輝という少年の根幹に根ざしていた対人関係のトラウマが、隼人や伊織、そして姫子の存在によって決定的に粉々に粉砕された挙げ句に、ついに一輝が姫子に本気で恋をしてしまう、という展開でありました。春希にとって自分と似た者同士、外面ばかりの中身が空っぽで御為ごかしの演技で周りを騙している同類だと思っていた一輝が、その胸のうちに生じさせた本物の熱、自分自身で持て余してしまうような強い強い感情の発露を、一番間近で目の当たりにしてしまい、あてられてしまうんですね。
それは、欺瞞の崩壊。果たしてそれが、春希にとって希望となるのか、それとも絶望になってしまうのか。自分と似たもの同士であった一輝が本物を手に入れることが出来たのだから自分にもそれが出来るんじゃないか、と思えるのか。それとも、自分だけがどうしようもなくダメなのだと孤独に落ちていってしまうのか。
既にもう、この娘も自分の中で燃えている炎の存在に気づいているはずなのに。まだ、それに向き合えるだけの強さを、二階堂春希は見いだせずにいる。
