徒然雑記 : ただの門番、実は最強だと気づかない１　★★★☆

【ただの門番、実は最強だと気づかない～貴族の子弟を注意したせいで国から追放されたので、仕事の引継ぎをお願いしますね。ええ、ドラゴンや古代ゴーレムが湧いたりする、ただの下水道掃除です～１】　今慈ムジナ／竹花ノートサーガフォレスト

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「ようこそ、王都グレンディーアへ！」
王都グレンディーアでお決まりのセリフを言うこの門番は……あまりにもモブだった。
ある日、門番はある冒険者たちを注意するが逆に仕事をクビになり、国を出て行くしかなかった門番を名残惜しむ者はいなかった。
しかし、本人も誰も知らなかった。
彼が王都の下水道で超凶悪モンスターを狩りつづけ、最強になっていたことに。
そうとも知らない門番は、仕事探しの旅にでる。
可愛い弟子ができたり、人からは頼られたりと、身の丈に合わない（と思っている）出来事ばかりで門番は面食らう。
勘違いが勘違いが呼んでいき、門番は無自覚のまま活躍していく。
「俺、ただの門番なんだけどなあ……」

今慈ムジナさんというとあとがきでご自分でも仰っているように『重い・しっとり・ねっとり』が特徴である。と言ってもダーク一辺倒じゃなくてノリのよいラブコメなんかも書いてるんですけどね。しかしそれ以上に強烈でヘヴィな世界観と鮮烈な存在感を示すキャラクターたち、と読み応えのズッシリ感が伝わってくる作風だったのです。
だから、タイトルのあまりにも今どきなそれには「？？？」が飛び交いました。いやこれ実はタイトル詐欺だろう、はじまったら内容いつもの今慈ムジナ作品なんじゃないの、と思って読み始めると、やっぱりタイトルから来る印象通りの軽くてさらさらっと飲めてしまう重さの一片もない話で、あれこれ作者勘違いしてた？　と思わず確認してしまうくらい全然いつものと違った作品だったんですよ。

元々自分、あんまり勘違いモノとか無自覚モノってあんまり好みじゃなくて、正しい認識や自覚、ちゃんとした相互理解が出来ていない以前にそもそもするつもりもない、という感覚に面白みを感じられなかったりするので、こういうのちょい苦手なんだよなあ……と、思いながら読んではいたんですが。

中盤あたりから、どうもこのあたりの苦手な感触が変わってきたんですよね。勘違いや無自覚が緩和されたわけじゃないのです。むしろ、どんどんと悪化というか進化というかどこまで勘違いしていくのん！？　無自覚にも程がありませんかねえー！！？　というレベルまで主人公のそれが際限なく限界ぶっちぎり出すんですよね。
その頃になると、その章で大きな問題、災厄を引き起こす元凶として立ちふさがる章ボスを、開幕速攻で偶然遭遇したのを行きずりでぶち倒してしまってから、そのボスキャラに苦しめられ困らさせれ、絶望に打ちひしがれている人たちに出会い、義憤にかられて決意を固めてその脅威となる大敵を勇んで倒しに行く（もうお前が倒しちゃってるんだよ！）という毎度おなじみパターンが確立されているわけです。
パターンってのは一旦固まったらそれを繰り返すことでお話が安定する、という方法もあるのですけれど、別のやり方として一度固まったからこそそこから派手にぶっ壊すとか、同じパターンでも際限なく暴走させていく、なんて手法も使えるんですな。
そのへん、本作はエルフの森編を超えたくらいから段々とやりたい放題やりはじめて、安全速度を超えてギアチェンジアクセル全開に踏み込み始めるのである。
正直、獣人の集落編で主人公の門番くんと同じレベルの思い込みの強い勘違い娘が出てきて、誰も突っ込まない勘違いと思い込みのスパイラルがはじまったときには正直笑ってしまった。悔しいけど、笑ってしまった。

俺は魔術師だったのか！？！？！？

　はズルいよ！！
なんで信じるんだよ！！
全部わかった上で面白いからと思い込みを助長させた上で煽るロリエルフは邪悪ですｗ

ここまで来ると、完全にキレキレのコントである。
いやほんとに良質の面白いコントを見てるような感じでしたよ。
いざ門番くんの思い込み勘違いムーブがはじまってからの掛け合いのキレたるや、彼に歯止めがかけられないものだからスタートした途端からブレーキ一切踏まずで加速していくんですよね。思い込みに思い込みが重なってどんどんと取り返しの付かない勘違いまでノンストップで駆け上がっていく。ヒロインたちはいい加減後半になると門番くんが非常に思い込みが強くて独り合点して想像を羽ばたかせるタイプだともう理解しているんだけれど、外野でわりとキレのあるツッコミは入れつつも独占欲と享楽主義と同類の思い込みの強さで門番くん当人に対して積極的に勘違いを修正したりしないので、もう彼の思い込みを止めるものはいなくなってやりたい放題自分はただの門番という認識で押し通していくのである。
VS魔王戦では、門番でしかない自分に負ける程度なんだからこいつ本物の魔王じゃない、とついに最後の最後までどれだけ抗弁しても話聞いてもらえずに本物の魔王として認められないまま倒された魔王様、まじで可哀想だったんですが。あんなお前が言うな！的な諭され方されながら滅ぼされるとか、こんな惨めな退場のし方をした魔王はなかなかいないぞｗ

しかしこれ、ちゃんと主人公の思い込みの強さとモブキャラ感にはちゃんと理由あるんですよね。彼が頑なに自分はただの門番で兵士にすぎない、と思い込んでいるのには所以があって、彼自身にはどうしようもない力が働いているのである。つまり、彼自身の責任とか人間性に問題があるとかじゃない、強いられてるんだ！という部分が周りをちゃんと認識しようとしない彼に対して不快感を感じなかった理由なのかも知れません。真相を聞くと彼って完全に被害者でとばっちりでもあるんだよなあ。彼自身は無自覚で幸不幸なんか全然感じてないのでしょうけれど、彼が世界をありのままに見ることが出来ず、ありのままの彼を見てくれる人が限られてしまうのは明確な呪いとも言えるのでしょう。初代も女神様もなかなか酷なことをなさる。女神様だいぶ気にされてらっしゃるようですけれど。
でも、ヒロインたちはちゃんと彼のそういう性質をちゃんと承知した上でついてきてくれているし、そこにすれ違いがないのは幸いな事なんじゃないでしょうか。
当人が何も知らないのは、まあ何とも言えないけれど知らぬが仏、不幸でも在り幸いでもある、一応当人は充実した気持ちで人生送ってますしねえ。何も知らないけれど、本当のことは見えないのかもしれないけれど、本質の部分は決して見逃さず取り残していないからこそ、彼が主人公なのでしょう。
いやあ、終わってみると結局面白いじゃんかよー。それもちゃんと楽しい面白さでした。