【創成魔法の再現者 6.新星の玉座 ‐世界を変える恋の魔法‐】  みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ文庫

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この世界は、恋(ボク)の魔法で壊してみせる

王国北部の反乱に立ち向かうも、大司教ヨハンの未来予知の力によって行動を読まれ続け、苦戦を強いられたエルメス。
窮地に立たされたリリアーナ陣営だが、エルメスはひとり冷静に反撃への緻密な作戦を創り上げていく。
その作戦の重要な鍵となるのは、“最も弱い”リリアーナで――!?
一方家族を人質に取られてエルメスと敵対することを強いられていたニィナは、ヨハンの持つ予知能力の真相を知るとともに、自身もその力を手にしてしまう。
そこで見たのは「次の戦いエルメスが死ぬ未来」で――!?
その未来を自らの力で壊すため、ニィナは孤軍奮闘するが……!?

うわぁ。前回の感想の終わりに次回はニィナが沢山ヒロインポイント持っていきそう、と書いてたんだけれど、それどころじゃないニィナ回でした。
この娘、登場当初は剣の達人でありながら一歩みんなから退いた所にいてどちらかというとサラの脇を固めるポディションにも見えたんですよね。実力者であるけれど、物語としてはヒロインのサポート役ともなるサブヒロイン的な。
彼女が実質敵サイドのスパイ的な存在であることが発覚して離脱してしまってからも、カノジョに注目が集まる前にリリアーナ王女の方にスポットが当たってしまいましたからね。エルメスも、カティアが嫉妬するくらいリリアーナに夢中になっていましたから、洗脳された味方の中で孤独に耐えているニィナはどちらかというと後回しになっていました。カノジョに手を差し伸べるにしても、それ以前に味方の体制を整えないとどうにもならないくらいに追い詰められた状況になってましたからね。
登場した当初からどこか諦めを内包していたニィナ。その極限状態の悲惨な境遇は無視できないものでエルメスもどうにか彼女が囚われている問題の糸口を探っていたようですけれど、何しろ黒幕であった大司教ヨハンがどんな風にしてニィナに言うことを聞かせているのか。やつの能力自体が不明でしたからね。エルメス自体、常に後手後手に回らされてピンチを凌いでみなを連れて逃げ延びるので精一杯。とてもニィナの方まで手が回らなかった。ニィナも、大司教の手駒として動かされていましたしね。
そうした数々の問題をどうにかリリアーナの力を借りることで解決し、ヨハンの能力についても確信を得たのがようやく前巻のこと。
つまり、この巻からようやく反撃開始のターンに入れたわけで、いやまじであの魔術師としての途方もない強さ以上に、分析力とプランニング、指し手としての能力に秀でたエルメスがこれだけ有力有能な味方に囲まれながら、ここまで一方的に追い詰められっぱなしで反撃に移るまでにここまで掛かってしまった、というだけで大司教ヨハンがどれだけ強敵だったのかがわかります。
彼との戦いは個々の強さがほとんど意味をなさない、盤上で駒を動かし合う何十手も先を読んで謀を仕込んでおくような戦いでしたからね。
その上で、ヨハンの能力は未来予知と洗脳。完全に思う通りに動く駒を事前にわかっている情報に基づいて動かすだけの簡単なお仕事、でしたからね。ラプラスたちが、最終的にラスボスとして立ちふさがるのはコイツだろう、と危険視していたほどの敵だったわけですから。
それにヨハンって、単に未来予知で先のことがわかっているから手に負えないんじゃなくて、その得た情報の活用の仕方、手に入れてからの対応力、対処能力が図抜けているのである。いくら先に情報を知ることが出来ても、エルメスは周囲の力も借りて辛うじて予知を崩してくる中で、さらに先々に至るまで手を打ってエルメスたちが動ける余地を限定した上で、自分の望む方へと敵を動かす戦略にまで長けていたのですから。
もっとも、エルメスはヨハンが未来予知の能力を用いてくる、という情報を手に入れることで分析のピースを埋めて、さらに未来予知の精度が落ちるケースを厳選して、ヨハンの視線が届かない人物と要素をかき集めて筋道を構築していくのだから、まあとんでもない男である。
この場合、ヨハンは未来予知を用いてしかも当人の能力が高いだけに、ほぼほぼエルメスを倒すための正着の手を選んでいくわけです。これにはエルメスたちの思考パターンにヨハンからの誘導も加わることで、エルメスたちが仕掛けてくるだろう未来予知の裏をつくような謀略をすら盛り込んで、追い詰めるための棋譜を構築して行ってるわけですけれど……。
エルメスはエルメスなのでエルメスの思考パターンを誰よりもわかってるんですよね。だから、自分の思考を読まれて状況からヨハンが誘導しようとしている結果を事前に予測したうえで、つまり裏の裏まで読んだ上で逆転へのルートを構築していたわけである。
あとでルキウスとの決闘での話を聞いていると、エルメスってこのルートが失敗に終わったとしても挽回、ヨハンを打倒するための作戦をまだ幾つか準備していたっぽいので、一発逆転を狙った分の悪い賭けとかじゃなかったみたいなんですよねえ。恐ろしい主人公である。
この大司教ヨハン、師匠のローズを追い詰めに追い詰めて人の社会の中で暮らせないようにしてしまったほどの、ある意味ローズに勝った相手だったのに。
個の力としては究極の存在であるローズが勝てなかった相手に、こうして自分以外の力を借りて頼って勝利した、というのはとてつもない大きな事なのでしょう。
とはいえ、その勝利を手繰り寄せるための重要な役割に、ニィナの心にあれだけ働きかけるやり方を選ぶとは思いませんでしたけれど。いや、勿論あれほどの諦めに縛られていたニィナです。その諦めをニィナ自身が吹き飛ばして自力で立ち上がる事が出来るように、敵味方別れたところからでもエルメスがなんとかして手を差し伸べるとは思っていましたけれど。それがあれほど、ニィナの恋心にガソリンぶちまけて燃え上がらせるような形になるとは思わんかったんですよね。
それだけ、ニィナの血統魔法へのトラウマ、自分が相手の事が好きになるほど魅了がかかってしまう、という呪いに等しい魔法に、ヨハンに縛られる前から生き方そのものがへし折られていた証拠でもあるのでしょう。今の家族に引き取られ本物の家族にも与えられなかった深い愛情を注がれたことで、それ以上ひしゃげることはなかったにせよ、彼女にとって恋する事そのものが忌避すべき事だったわけですから。
でも、どれだけ忌避していても恋する事そのものにとてつもない焦がれがずっとあったのでしょう。自身の恋にまつわる魔法を呪いながら、しかし恋する事に憧れ続けたニィナにとって、エルメスの差し伸べてきた手というのはその一番柔らかい部分を激烈にしかし優しく刺激する愛撫されたようなもんだったんじゃないでしょうか。
肯定と受容、許され受け入れられ好転させられたことで、彼女は自分の魔法を否定する必要がなくなった。ニィナにとって、許されなかったはずの恋が解放された。
このニィナの中で噴き上がる熱量というのは、それこそ当人にしかわからない領域なんでしょうね。またエルメスくんはとんでもないものの蓋を開けちゃったぞ。
その熱量の凄まじさを伝えてくれるものこそ、あのヨハンに対してさえ魅了魔法がかかってしまったことでしょう。あれほど嫌悪し怒り憎んだ幾ら殺しても飽き足らないだろう相手である、ヨハンは。でも、彼の企みに動かされたからこそ、エルメスと出会えた。それが悍ましい謀にただの都合の良い駒として汚い手で甚振られ動かされた結果だとしても、ただ一点エルメスと巡り合わせてくれた、というそのただ一点をもって、あれほど憎んだヨハンに一抹の好意を抱けてしまうくらい、それくらいにニィナにとってエルメスへの恋は熱く重く無二のものになってしまった、とわかってしまうんですよね。
まったく、どれだけエルくんの事が好きになっちゃったんだよ、この娘ってば。
恋する乙女は強いです、物語上でもこれほどの熱量をこれほどの手間をかけて構築されてしまったキャラクターは絶対的に強大で無視できる存在じゃありません。存在強度がえらいことになってしまう。
前巻に引き続いて奮迅の活躍を見せて、健気で初い姿をこれでもかと見せつけた上でエルメスが掛り切りになって面倒見てくれる機会を逃さず掴み倒したリリアーナ王女がヒロインとしてここで確固たる足場を築いたのも相まって、ここでリリアーナとニィナというちょっとやそっとでは揺るぎのないヒロイン双璧が誕生してしまいました。
挙げ句この二人、カティアに対してまったく遠慮するつもりがない。
これまでずっとエルメスのただ一人のヒロインとしてのワンサイドゲームを続けていたカティアにとって、ローズ師匠さえ凌げばなんとかなると若干幼馴染でエルメスの主人で元婚約者で現状すでに二人の間も雰囲気良くて、もう誰も追いつけないよね、とエルメスに近づく相手を威嚇していただけで済ましていた対応を、そろそろ本気で考え直さないといけない時期に来てしまったのかもしれません。
最後、もろにニィナにダメ出しされてましたし。そうだよねえ、貴女がどうこうしないといけないのはエルメスに近づいてくる相手じゃなくて、エルメス当人なんだよなあ。

王位争いに端を発した騒乱も、エルメスたちが北部連合を味方につけることでようやく足場が固まり、岐路を迎えたわけですけれど、カティア様にとってもここらへんが分水嶺になってきたぞ。この2巻ほど全然存在感見せられなかったもんなあ。
戦闘でもルキウスに完全にやられちゃいましたし。いや、あれはルキウス兄様が剣士としてヤバすぎるんですが。ヨハンに思いっきり洗脳されてたにも関わらず、ニィナへの妹への愛情だけはいっぺんの揺るぎもなかった、というだけで頭おかしいのに、剣の方もこれ規格外とか天才とかいうレベルじゃないし。いや、この人味方になっちゃっていいの? 大半の敵相手ならこの人ぶつけたら普通に勝っちゃうと思うんだけどw