【ホラー女優が天才子役に転生しました 3 〜今度こそハリウッドを目指します!〜】  鉄箱/きのこ姫 ガガガ文庫

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ホラー女優が転生した天才子役、最強へ!

貧乏育ちの苦労人ホラー女優の鶫(30歳。努力の甲斐あって演技力はピカイチ)が、自動車事故で即死。転生した先は碧眼ハーフの超美少女つぐみ(5歳)で、ドのつくお金持ち令嬢だった!!天使そのもののつぐみの身体を得た実力派ホラー女優鶫は、その奇跡に感謝し、誓った。
「今度こそハリウッドを目指します!」。
3人の仲良し子役美少女、凛、珠里阿、美海とはぐくむ幼い友情。中でもめきめき頭角を現してきた凛の前に、彼女の天才的演技力を利用しようという怪しい大人が現れ、つぐみとの演技対決を仕組む!!
「なぜ、親友と争わなければならないの?」
悩むつぐみにできることは、しかし、凛からの勝負の申し込みを受けて立つことだった!!物語はついにクライマックスへ!!



なんで寄ってたかって桐王鶫の後継者じゃなくて、鶫そのものを復活させようとするんだよw
これやってるのがマッドサイエンティストとかじゃなくて、役者がやってるんですよね。そりゃ役者というのは、何かになりきって演じることが本業ですけれど、そのなりきりを極限にまで刷り込んで所作振る舞い演じ方性格などまで、まだ自我がはっきりと確立していないだろう幼女に対して入力していくというのは、もう精神の変容まで至るんじゃないだろうか。桐王鶫という人格のインストールである。いや、さすがに人格や記憶までは同一人物に出来ないだろうけれど、それでももう一度桐王鶫を再誕させようなんて考えてしまうくらいに、鶫という人に入れ込んでしまっている人が出てきてしまったのだから、鶫さん若くしてしまったせいで大惨事ですよ。
いやまだこれ、一人だけならその人がおかしい、で済むんだけれど、まったく関係ないところで二人も似たようなことを考えて実行に移し掛けてたんだから、鶫の死がどれだけの傷跡を残してしまっていたのかが伺い知れるというものである。
その両者が同じ夜旗凛という娘に目をつけてしまったあたり、凛ちゃんホントに天才だったんだなあ。実際、CMオーディションでツグミを上回ってみせたわけですし。桐王鶫の経験というバックボーンがあるツグミと違って、凛の方は本当に彼女個人の生来の才能でしたからね。とはいえ、それもツグミとの切磋琢磨の中で磨き上げられた部分が多々あり、はたしてツグミの存在がなかったら凛もその才能を順調に開花させることが出来たかどうか。
どうも桜架さんも玲貴も本来凛が持つ俳優としての長所を伸ばす方向ではやってなかったみたいですし。

思えばツグミの演技というものは、一人で突き抜けて他を置き去りにしていく孤高のものではなく、同じ演者や現場のスタッフたちも巻き込んで、すべてを一緒に高みへと巻き上げていくものでした。
まだまだ原石以前の自分の役者としての魅力も伸ばしどころも知らない子役たちに、方向性を自ら気づかせていったのもツグミの演技でした。彼女の世界に同期することで、自然と自分が見えてくるかのように彼女ら原石は自らを研磨し輝きを掴み取っていったのです。それはツグミが与えたものじゃなくて、同じ世界を共有することで自分で見つけていったんですよね。
あれはまさに、同じ舞台に引き上げられる、といった感じですらありました。
このツグミの演技のシーンは毎回毎回、その世界に読んでいるこちらまで引きずり込まれるような凄い感覚だったんですよね。監督含めて舞台を作り上げていた人たちも、しばし自分が何をしているのかも忘れて魅入っていたのと同じように。そして、同じ舞台に立たされる役者たちならなおさらに、現実と演技の境目が消失したようにその世界に引きずり込まれる。
これは、鶫がホラー女優であったからこその特質でもあったのでしょう。彼女の演技の方向性というのは、いつだって同じ演者たちを巻き込み、それを見守る人たちを、観客視聴者たちをその世界に引きずり込むものだったのですから。
だから、その演技は独り善がりにならず、周りを置いてけぼりにしてただ圧倒するものではなく、同じ演者同士で完結するものでもなかった。
ほんと素晴らしかったのは、ツグミが訴えかけるのはいつだって演技によってだったことでしょう。演じることで、何よりも雄弁に思いを伝えていた。特に感受性の強い子役たちには、特に特に輝かんばかりの宝石だった凛とは、お互いに感化しあうように螺旋を描いて高みへと駆け上がっていったのです。
面白いのは、鶫という前世の記憶と経験を持ちながら、つぐみ・星空・ローウェルという子が既に完成された役者ではなかった、という所なのでしょう。
伝説のホラー女優として、彼女を伝説のように思い返す往年の名優たちですけれど、鶫だってまだまだ30歳の俳優としては飛躍の時期であり、そして未だホラー女優という枠組みから脱却できていたわけじゃなかった。
つぐみは、前世の鶫が幼いつぐみには見せまいとしていた鶫という人間の人生の暗がり、痛み、苦悩を子供だからと目を背けず、凛という親友と真正面からぶつかるためにも、自分の中の鶫と向き合い直視しようとするのです。そうやって、鶫とつぐみは本当の意味で一人の人間として融けて混ざって一つになっていく。かつての経験を踏まえた上で、つぐみ空星としてもっともっと高い世界を見るために。
はからずも、かつての自分の再演となろうとしている凛と共演することで、二人で桐王鶫を超えた新しい世界へと羽ばたいていくラストステージは魅入られるばかりでした。ほんと、つぐみの演技に導かれて演じるという事の楽しさに目覚めて、羽化するように演者として花開いていく凛の姿には感動させられたのでした。

この作品の演技シーンは全部心鷲掴みにされるような感覚で、なんか中毒になりそうなくらいの楽しさだったんですよね。だから、もっともっとずっとこの役者たちの物語を、この子たちが心から楽しく演じていく姿をいつまでも見ていたかったのですけれど、残念ながらこの物語はこれで幕。惜しい惜しいと思いつつも、大満足の大団円でありました。
うんうん、ほんと良かったぁ。