【フルメタル・パニック! Family】  賀東 招二/ 四季童子 富士見ファンタジア文庫

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新たな任務は……家族との平和な日常!?

「フルメタ」が帰ってくる! 衝撃の新シリーズ、開幕!!

「やはり武器が必要だ。クローゼットにあるから取ってこい」
世界の存亡を懸けた最終決戦から約20年後――相良宗介は千鳥かなめと結婚し、平穏な日々を送っている……ハズだった。
「お父さん、いつものカービンとグレネードでいいのね?」
「また隠し持ってたのね!? 毎回毎回、『武器などいらない』って言っといて!」
「母さん、敵が来るから。文句はあとあと」
女子高生ながら父親譲りの戦闘力を誇る愛娘・夏美、小学生ながら凄腕ハッカーの顔を持つ息子・安斗――規格外な子どもたちまで加わった相良家の辞書に“平和”の文字は無く……!?
宗介ファミリーの刺激的な日常を描く、衝撃の新シリーズ!

フルメタル・パニックシリーズ、まさかの続編。いや後日談? それも、あのエピローグからおおよそ20年後である。宗介とかなめは結婚して、今や女ひとり男ひとりの子供が二人いる夫婦だ。若き十代だったあの頃は遠い昔、二人は大人になりいまやアラフォー。四十路手前の三十代後半である。

……あの宗介と千鳥が、二人とももうおっさんとおばさんだってよ〜〜わはははは。と、思わずニヤニヤと笑ってしまったんですけれど、彼らの年齢を見て真顔になってしまいました。
30代後半、30代……。宗介も千鳥も、高校生の子供がいるような大人になったのに、まだ私より年下じゃねえか。
いや、そりゃそうだよなあ。20年前彼らが高校生だった頃こちとらもう20越えてたんですから、そりゃ当然20年経ったらこっちの方が年上になりますよな。
地味に言い知れぬショックを受けてしまった。
ぶっちゃけ30代だったらまだまだ全然若いですよ。実際、宗介もかなめも波乱万丈の20年を夢中で駆け抜けてきたせいか、精神的にもまだまだ張りがあるように見える。ちょうど、人生の中でも相当にきつい山を超えてしんどい時間を耐えきって、ようやく家族一緒の時間を取り戻した所だったからかもしれないけれど。

二人共、あれからどういう人生を送っていたかは随分と気になっていた所でした。続編でも会ったアナザーではクルツとマオの家族はメイン張ってましたけれど、宗介たちについては一切言及がありませんでしたからね。
でも、二人が離れることはないだろうというそれだけは間違いない事実だと思っていたので、結婚してどこか海外で落ち着いて暮らしてるんだろうなあ、と考えていたのですが。
いや、全然落ち着けなかったのか。ウィスパードの狙われ具合ってこんなにえげつないものだったのか。
まさか、あれからずっとウィスパードの知識を狙うアルマガムの残党組織に狙われ続ける逃避行の日々を延々と続けていたとは。そのへんの安全はミスリルがなくなってもある程度確保されるかと思ってたんだけど。
それでも宗介とかなめにとって、愛する人と手に手を取って世界中を逃げ回る日々、というのは気力体力の充実している若い頃はむしろより愛を募らせ、盛り上がる張りのある日々だったのかもしれません。逃亡者の生活といっても、後援組織はティッシふくめて充実していますし、資金面もかなめがその才能でガンガン稼いで唸らせていたみたいですし、反撃もバチクソやってたんでしょう。追い詰められ先のない絶望を先延ばしにし続ける逃亡生活って感じの暗さはあんまりなかったんじゃないかな。
そんな中で長女夏美がお腹に宿ってしまったことで、二人の夫婦生活は出産と子育てという一大イベントのお陰で、逃亡生活も相まってまさに飛ぶように過ぎていく日々だったのでしょう。
その上、かなめは次子の安斗を産んだ直後にかなめの母の死因となった白血病の一種を患ってしまい、一旦は死の危険もあったほどの重篤な状態になり、かなりの長期間闘病生活を送ることになってしまったそうです。
この頃の話は詳しくは語られていないのですが、家族がバラバラになって暮らすことになり、宗介もかなめも相当につらく苦しい日々を耐え忍ぶことになったようです。そして、かなめは苦難の闘病の日々を勝ち抜き、寛解の診断を受けて、今ようやく家族四人で再び暮らす日常を取り戻した、と。
それがこの巻の宗介一家の状況でした。日常、といっても相変わらず偽装がバレて襲撃を受けるまでの短い平穏の日々なのですが。いや、短すぎるでしょう、どの土地での暮らしも一ヶ月もってないんじゃないのこれ?
宗介もかなめも、大人になった、子供がいる親になった、と言ってもだからといって精神の方も落ち着いて立派なオトナになった、なんてわけもなく。
当人たちに大人になったなんて実感はあまりないんでしょう。かなめも回顧してますけれど、夏美を妊娠してから今まで本当にあっという間のことで、気がついたら今に至っていた、みたいな感想をこぼしています。人間、大人の年齢になったからといって中身まで大人になるわけじゃないんですよね。ほんと、高校の頃と何が変わったって問われても何も全然変わらんよ、と成長なんかしとらんよ、と思うんですよね。これは大半の大人の人達も同じ感想だと思う。まあ変化はちゃんとあるんでしょうけどね。いい方向にしろ悪い方向にしろ。でも、当人の感覚としては全然大人になんかなってない、というのが少なくない感想なんじゃないかな。
だからかなめや宗介の、この周りの過ぎ去っていく日々に頭の中が置いてけぼりにされたような、ずっと戸惑いっぱなしのような、現実感があるような無いような。そんな感覚には共感を覚えてしまいます。もどかしいような、ままならない、満足とは程遠いけれどしかし何とかやれているような気がする日々。
そんな中で、宗介があの林水先輩とあの高校の屋上での別れ以来20数年ぶりに再会できたことは、二人であの頃と今のことを笑顔で振り返り、じっくりと話すことが出来たのは、彼自身のこれからにとってもとても大きい影響を与える出来事だったんじゃないかな、と思えるのです。宗介にとって林水先輩の存在って、彼の人生の中でもカリーニンに次ぐくらい大きいものだったんですよね。彼が平和な日常で暮らすという感覚を得る上で、もしかしたらかなめ以上に大きい存在だったのかもしれない。彼のもとで学んだ日々こそが、彼に平和の中で地に足をつけて生きる錨になっていたんじゃないだろうか、なんて思うんですよね。だからこそ、あの最後の別れで彼にもう無理だ、と言われた事はなんていうんだろう、どこか宗介の人生の中でずっと引っかかっていた事だったんじゃないかな。
だからこそ、この再会で今までの日々を振り返りながら語り合い、大きな苦労を背負いながらも今、妻となったお蓮さんと二人の間に出来た娘、そして美樹原の家を継いで守っている林水先輩に、自分もまた大きな苦労を経てかなめの夫としての姿、二人の子供がいる親としての自分を見せることができて、それを他でもない林水先輩に祝いで貰ったということは、これからの宗介にとってもとても掛け替えのない事だったんじゃないのかな、と思えるエピソードでした。
宗介とかなめ、ほんと波乱万丈の人生を送っているんですけれど、でも戦いの日々やウィスパードとしての力を駆使して大儲けして会社立ち上げて、みたいな騒ぎとか、そういう非日常側と言える慌ただしい日々は、二人にとってそこまで大変で困難な日々だった、という風の感想は二人の間からは出てきてないんですよね。
とかく二人にとって人生の山場、喜びであり夢中になってやり遂げるべきことだったもの、また苦しみとしても我慢、忍耐、歯を食いしばって側にいなくても心寄せ合って乗り越えるべき困難だったのが、出産と子育て、そして闘病生活だった、というのが二人の回想から伝わってきます。

二人の子供の長女の夏美、この娘の名前の読み方普通にナツミだと思っていたら、実は「ナミ」だったと本編読んでいて知った時はちょっと度肝を抜かれました。
ナミといえば、ミスリルが崩壊して宗介が一人で逃げ回っていた時に助けてくれたウィスパードの少女であり、宗介の力及ばず無惨に殺されてしまった娘の名前でした。宗介にとっては生涯背負い続ける癒えない傷となる名前でした。だから、よりにもよってその名前を娘につけるのか? と驚愕させられたのですけれど、その名前をつけるように提案したのってかなめだったんですよね。宗介は相当に難色を示したそうですけれど、そりゃそうですよね。自分の後悔の象徴である名前を、自分の娘としてずっと見続けていかなければならないのですから。
でも、初めての必死の子育てを続ける中で、成長を続けるナミを見守り不器用に必死に世話をして、その手に、全身に我が子がすくすくと大きくなっていく実感を味わううちに、宗介にとってナミという名前は呪いではなく、温かい祝福に移り変わっていったのでした。
のちに宗介がかなめにポツリとこぼした、この娘にナミという名前をつけて本当に良かった、という言葉には本当に胸打たれてウルウルきてしまいました。彼にとって、この娘がどれほどの救いになったのか。
そして、かなめの大病。家族が離れ離れになって暮らさないといけないほどの大難。宗介がどれほど無力感に苛まれたか。かなめがどれほど苦しみ、心細い想いに駆られたか。
そうした様々な経験を経て、今こうして宗介とかなめが相変わらずドタバタしながらも二人の子供の親として立派にやっているのだとわかってから改めてこの夫婦を見ると、改めて「ああ、二人は大人になったんだなあ」とじわじわと実感してきたんですよね。
これは確かに、大人になった二人のフルメタル・パニックなんだなあ、と。

とはいえ、今多くの山を超えてようやく落ち着いた(一般的に見て全然落ち着いていないんだけれど、二人からするとこれで平和なのだろう)環境になって、なんか宗介もかなめも新婚さんレベルで盛り上がってる感じあるんですよね。子供二人一緒とはいえ、それほど手がかからなくなって、ある意味ようやく夫婦ふたりでいちゃつく時間が取り戻せた、とも言えるわけで。
倦怠期なんて存在しませんよ、とばかりに。それどころかフルメタ本編の高校時代なんざ青い果実だ、と言わんばかりにラブラブでいちゃついてますよ、この夫婦。
いや、かなめさんアラフォーで人妻、という感じはあんまりしないですよ。かなりハツラツとしていて元気一杯ですし。病気明けで余計にアレなのかもしれませんけれど。高校時代の友人たちとの女子会でも、大人ならでわの騒ぎっぷりで人妻らしいしっとり感よりも相変わらずにピチピチ感の方が強いくらいで。
そして、性欲を知ってしまった宗介はこんなむっつりスケベになっていたのか。こいつ、まだ夏美が生まれる前の二十代前半までの頃、かなめと二人で世界中飛び回っていた頃はいったいどれだけエロエロの日々を送っていたんだろう。もう若さ全開だったんだろうなあ。
高校時代の制服を来た千鳥に興奮しまくる宗介にはもうなんというか笑うしかなかった。

しかし、これだけちゃんと落ち着いた生活が送れない家庭環境にも関わらず、子どもたち二人共グレたり家族に対して不満を持ったりする様子がないのは、ほんと幸いですよねえ。これ、学校も行けず友達も出来ず、って多かれ少なかれ親に対して不満拗らせそうなものなんだけど。マオとクルツの娘であるクララでさえ、ちょいちょい溜め込むものがあったのに。この夏美と安斗はわりと飄々と現状に適応していて、両親に対しても反抗期とかなく仲良いですし、今度もなんか子供って難しいみたいな感じにはならなさそうな子たちなんですよねえ。千鳥なんか相当面倒くさい子だったのにw

なんにせよ、懐かしくもあり大人になった彼らが新鮮でもある20年後のフルメタでありました。
続きがあるなら、今回登場しなかった面々の様子もまた見てみたいなあ。テッサも元気みたいですし。でも結婚とかしてなさそうだなあ、あの子。
クララももういい歳になってるだろうし、アナザーの主役であるタツヤとアデリーナについてもどうなってるのかしら、と気になる所はいっぱいあるからなあ。

賀東招二・作品感想