【いつもは真面目な委員長だけどキミの彼女になれるかな?】  コイル/Nardack 電撃文庫

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真面目なはずの委員長、二人きりの時だけワル可愛い!

何となく家にいづらい俺は、夜の繁華街でバイトをしている。ある日、暴漢に絡まれているギャルを助けたら……その正体は、クラス委員長の吉野紗良さんだった!
「いつもきっちりしてると疲れちゃうんだ。だからたまに、素の自分に『変身』してるの」
仲間意識を持った俺たちは、素顔を見せあえる秘密の友達関係に。

「と言っても、まさか高校生にもなって女子と石投げ遊びをするとは」
「いいじゃん、楽しいし! あ、一緒に駄菓子屋にも行きたいな!」

実は無邪気で子供っぽい吉野さん。自然体で過ごす「ちょっと悪い」友達関係が始まる!

ああ、普段の委員長な紗良はこれ、おさげして堅めの大人しい格好してるのか。
あまりに美人で可愛い見た目しているので、あんまり真面目で品行方正って印象持たなかった。これで本気で化粧してちょっと派手めの装いしたら十分二十歳以上に見えるよなあ。

作者のコイルさんの作品は電撃の新文芸から刊行された【オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!】のシリーズを読んだんだけれど、あちらもかなり母親と溝がある関係だったんですよね。
本作の方も主人公の陽都もヒロインの紗良も、母親に対して大きな隔たりを感じている。一見しては家庭環境に問題があるわけじゃないんだけれど、あくまで傍から見てであって内実は違っていて、子供である陽都と紗良は大きな圧迫と閉塞感を感じていてストレスを溜め込んでいる。
特に紗良の方は母親からかくあるべしと品行方正な振る舞いと意識、常に高いレベルの結果を要求され続けていて、頑張っても頑張っても終わりのないゴールに向かって走らせられ続けているような感覚にどんどん追い詰められていっている状態なんですね。
自分のやりたいことを考える余裕すら無く、周りの期待に応えるために仮面を被り、学校でも家でも気の休まる時間がない。
そんな中で派手な装いで普段と全然違う自分に変身して、水商売同然のメイド喫茶でバイトをする時間というのは紗良にとって、唯一の自分自身を開放するガス抜きの時間だったわけですな。
でもそれですら、普段と違う自分に変身するのではって、本当の自分を曝け出すのとはまた少し違っているものだし、たった一人切りでこっそりと自分を開放していても効果は限定的でしか無く、彼女は刻一刻と精神的な限界の瀬戸際まで追い詰められつつあったわけだ。
そんなおりに、強引な客に半ば襲われかけていたところを助けてくれたのが、同じクラスの陽都。
元々中学の時に部活のトラブルで人間不信になり引きこもりになっていた所で、破天荒な祖母のツテで繁華街でバイトをスルことになり、そこで出会った様々な境遇の大人たちとの交流から自分自身を確立しなおして、引きこもりを脱却して高校に進学できた彼。不良とかでは全然なく、学校では目立たない普通の大人しい生徒として振る舞っているものの、相変わらず夜まで繁華街でバイトをしていて、夜の世界の濃淡に触れて様々な知見を持っている少年である。年相応の可愛らしい子なんだけれど、学校の世界だけじゃない社会の世知辛さや大人の強さ弱さを見知っている子でもあるんですね。
そして、母親の不理解に苛立つ少年でもある。
だからこそ、家庭環境に苦しんでいる紗良への理解度と共感度が高く、助けられたこともあって普段の自分と違う素の自分を彼に見せることを紗良は自分に許してしまうのである。
初めて得られた、自分の苦しみを理解してくれる存在。自分がどれほど頑張っているかを褒めてくれる存在。そして、もう自分が頑張れないと、一杯一杯でもう逃げ出したいという気持ちを、許してくれる存在。無責任に何の考えもなくただただ肯定してくれるんじゃなくて、ちゃんと苦しいポイントをわかってくれた上で、共感を示してくれて、そんな自分を肯定してくれる。
我慢に我慢を重ねて本当にもう精神的に限界だった子にとって、それは決壊するに十分なものですよ。
実際、紗良の精神状態って自傷に及びかねないヤバい状態でしたからね。陽都が本当に悪い男だったとしても、キレイに真っ白に繕われた自分を穢して壊してくれる相手ならついていってしまったかもしれないくらいに。
まあ、その陽都と来たらそれはもう手厚くケアしてくれて、世話してくれて、甘やかしてくれて、と至れり尽くせりのお相手だったのですけれど。学校でも紗良が何も言わなくても、真面目で品行方正である事を期待されそれに否応なく応えるしかない彼女が貧乏くじを引かされる中で、率先して自分も彼女を手伝えるポディションについて、紗良のメンタルを労ってくれましたからね。
今までバイト先でしか止めていた息を吐く時間がなかった紗良にとって、家と同じくらい窒息していた学校で、彼の隣という呼吸する余裕ができた。人の目さえなくなれば、彼が自分を甘やかして凝り固まった心を解きほぐしてくれる。今にも張り裂けそうな嫌気を晴らしてくれる。
どれほど救われた思いであったでしょうか。
もう何度も何度も、彼女の置かれた環境と状況が彼女の精神を痛めつけ、追い詰めるんですけれど、その度に陽都が間髪入れずそれをケアしてくれるんですよ。
陽都の方も、最初の方から紗良のことを好きな女の子として認識してしまっているから、彼の原動力ってもうシンプルに「好きな子のために頑張る」と「苦しんでいる好きな子を助けたい」「もう頑張れないと泣きそうになってる好きな子に優しくしてあげたい」という、恋する男の子の気持ち全開で、これがむしろ初々しくて気持ちが良い。

親と子は家族だけど別の人間。別にこの母親たちは、子供たちを自分の所有物だ、みたいな極端な見方はしていないし、彼女らとしては普通に心配し子供の為を思ってしている事も多いのでしょう。
特に陽都の母親の方はああいう胡乱な繁華街に出入りして欲しくない、関わってほしくない、という気持ちはよくわかるんですよね。ただ、そこに祖母との対立、感情的反発という陽都には関係ない軸を持ち込んで、陽都のためという建前と自分の考える普通が一番正しいというレッテルを貼り付けて、貴方は間違っているから止めなさい、と強いてくるから、そりゃ息子も反発するよね、と。引きこもって逼塞していた彼を救ったのは祖母であり、バイト先で出会った大人たちとの交流だったわけですから尚更にね。

一方の紗良の方はもっとたちが悪いというかなんというか。紗良は頑張ってるんですけれど、酷く無理して頑張ってようやく求められている水準を維持している状態。一方で母や妹は紗良以上に頑張って、それが当たり前だと思っているから、紗良としては尚更文句言えない状態になってるんですね。
母親としてはそれが当然のことと思っているし、自分はもっときつい状況をガンガン攻めて頑張っているわけで、娘に対してそれほど高いものを求めているつもりはないのかもしれない。そして、妹の方は今の環境も自分に求められるものも平然と受け止め、むしろ楽しげに余裕たっぷりにこなしている。
姉の紗良との仲もとても良くて、この妹ちゃん別にプレッシャーかけてくるわけじゃないし、姉に何かを求めているわけでもない。むしろ、色々と気を使ってくるし、めっちゃ懐いてすらいる。
でも、持てる人であり出来る人である妹は、苦労を苦労と全く感じていなくて、だから姉が自分とまったく違ってとてもツラい思いを我慢してこらえていることに全く気づいていない。どれほど優しくても仲良くても、甘えてきて懐いてくれる可愛い妹でも、ある部分で徹底して断絶してしまっている、非理解者なのだ、この妹は。これはツラいですわ。嫌いになれない大好きな妹だからこそ、これはツラい。
そして母親の上からの圧。この人が一番自分の子供を独立した人間として見ていない感がある。自分の子供という枠組みの範疇以外で見ることが出来ていない、というべきか。紗良には紗良の人生があるという認識を持てていない感じで。
これ、和解というかお互いを理解し合えるんだろうか。立脚点が違いすぎてて、最終的に距離を置くしかないんじゃないだろうか、と考えてしまう。
【オタク同僚と偽装結婚した結果〜】の方は旦那さんがバケモンレベルのコミュ力で、母子の橋渡しは無理としても完全な断絶を防いで自分と義母の交流ラインを維持するなんて真似をしていたけれど、陽都くんにそこまで求めるのは酷も酷だしなあ。
二人の交際が認められるか、という所からでしょうし。二人の関係そのものは良好どころじゃない無くてはならない甘やかなものになってますけれど、その周りの環境がなんとも溝だらけで2巻どういう展開になるんだろう、気になる。