【現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変 5】  二日市とふろう/じゃいあん オーバーラップノベルス

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現代悪役令嬢による日本再生譚、第5巻!

現代社会を舞台にした乙女ゲームに転生した悪役令嬢・桂華院瑠奈。
アメリカで起きた同時多発テロの際に政治に巻き込まれ倒れてしまうも、回復の兆しを見せる瑠奈は、激動の世界情勢を横目に、つかの間の穏やかな学校生活を送っていた。
生徒会活動に剣道大会、主演として映画撮影に臨むなど、政治や経営とは違った分野で活躍する瑠奈の前に、新たな世界経済危機の萌芽が現れる。
「お嬢様、サブプライムローンというのはご存じですか?」
イラク戦争以降のカネ余りバブル経済で注目された、優良債券と不良債権を分割統合してリスクを軽減した金融商品。
そのローンが破綻しバブルが崩壊することを知る瑠奈は、静観の構えをとるが――。
そしてイラク戦争が始まり、混沌とする世界情勢のなか、学園の中等部へと進級した瑠奈は、再び破滅回避の岐路に立っていた。
現代悪役令嬢による日本再生譚、第5幕!

だいたい一年ぶりになるのかしら。久々となる続刊となりましたが、イラストレーターがこれまでの景さんからじゃいあんさんに交代となってしまいました。景さんの絵は、特に既刊4巻の表紙絵が雰囲気にしても存在感にしても素晴らしくて、印象に残るものだっただけに非常に残念です。
新しく挿絵を担当することになったじゃいあんさん、どんな感じの絵を描く人なのだろうと思ったら5巻の表紙絵、劇画調かと思ってしまうようなやたらと濃い絵柄で正直絶句してしまったんですよね。瑠奈お嬢様まだこの時小学生なのに、こんなどぎつい顔になっちゃって、と。
ただこんなやたらと濃いデザインなのは表紙絵だけで、カラー口絵や中の挿絵の方は普通に以前の景さんのデザインや漫画の方の瑠奈お嬢様のそれに十分以上に寄せてあって、絵柄そのものも表紙絵のそれとは全然違う可愛らしいもので、ほっと安心した次第。

いやでもだったら表紙絵の方なんでこんなにデザイン変えてきたんでしょうね? ちゃんと調べてみたら、この絵師さん今アニメにもなっている【望まぬ不死の冒険者】の絵師さんじゃないですか。表紙の絵柄全然違うから気づかなかった。【望まぬ不死の冒険者】読んでる限りでは老若男女問わず非常に魅力的に個性的に描かれる絵師さんなんですよね。
カラー口絵のアンジェラ女史なんか出来る女性経営者という風情が素晴らしく出ていて、そそるくらいでしたし。神戸教授はちょっとイメージ違ったかも。もっと若々しくキレキレの……教授に関しては名前が同じなもんで、ドラマ相棒の神戸くん役の及川光博さんのイメージが若干混じってたかもしれない。でもこっちの神戸教授は口元のヒゲがセクシーな知性と品格を兼ね備えたダンディな感じになってるんですよねえ。やべえ、色っぺえぞこの教授。
そしてついに登場する桂華院瑠奈にとってのキーパーソン。神奈水樹。
この人、男性遍歴が物凄いを通り越してもう自他ともに認めるビッチの類いなんですが、同時に神奈一門という本物の占い師の一派の才媛であり、オカルトサイドの人間でもあるんですね。そしてオカルトサイドでありかつ本物の占い師の一派であるがゆえに、政治方面とも色濃く繋がりのある人物でもある。神奈一門自体がそういう集団なんですが、あくまで助言者に徹していて恣意を持ち込まないあたりがまた本物なんですよ。
これまでオカルトサイドの関係者って、座敷わらしにならなかった開法院蛍ちゃんくらいだったので、この子ヤバい案件になると直接助けてくれるんですけれど、水樹は先回りして助言くれたり俯瞰的な視点から示唆してくれるので、また違った意味で助けになるんですよね。
また瑠奈の人生そのものの行く先についても、占い師らしく重要な示唆をしてくれるので非常に重要な人物となってくるのであります。
まあそれ以前に、瑠奈にとって立場関係なく屈託なく交友できる貴重な親友枠になってくるんですけどね。他の娘たちは多かれ少なかれ主従という関係が間に入ってきますし、普通の友人先輩後輩にしても政治的な立ち位置を気にしなくてはならない、という部分がどうしても介在しますからね。
しかし水樹、デザインもっと派手で妖艶な色気撒き散らしているようなタイプかと思ったら、何気に清楚系にも見える佇まいに体のラインで、ちょっと意外。

さても、物語の方はというと瑠奈お嬢様は同時多発テロの際に精神的ダメージの蓄積と衝撃で倒れたこともあり、そこで恋住首相をはじめとした身内も含めた大人たちの制止もあって、これから起こるであろうイラク戦争への深いコミットから遠ざけられ、しばし政治的案件からは遠ざかって過ごすことになる。
なので世界情勢や国内の恋住劇場からは距離を起き、経済への介入も既存の計画にはバンバンとこれまで通りお金を注ぎ込むことになりますが、新しい動きは比較的少なく……趣味的にセガを救済したくらいか?w いやこのお嬢様、動かなくても事前に仕掛けておいたあれこれで、世界情勢が動くたんびに分けわからん規模のお金稼ぎまわってるんですけどね。件のイラク戦争からして、原油資源関連の先物買いなどで、僅か3ヶ月で50億ドルほど稼いでたりするし。原油関連だけだから、ファンド全体だと……。
でも、今は雌伏のとき、じゃないですけれど大人しくしているのです、これで。
なので、全国大会行きが決まっていた剣道の大会に出場したり、オペラの公演に参加したり、止めにゲスト出演していた深夜ドラマの劇場版で本格デビューしたりと政経分野以外でも大忙し。
このお嬢様、悪役令嬢スペックを活かしてほんとなんでも出来るんだよなあ。天才型の写真家や映画監督がこぞって彼女を天才と称し、それ以上の化け物として遇するのである。
このあたりの人たちは、自身天才であり芸術肌の人間であるから瑠奈という化け物を、自分の分野であますことなく表現したいという純粋な欲求のもとにアタックしてくるわけですけれど、そのスター性を……時代そのものを象徴するような輝きを消費して使い潰そうとする面々も当然のように現れる。
この時代、もっとも権勢を持ち栄華を極め傲岸不遜に振る舞ったテレビ業界こそが、瑠奈に目をつけハイエナのように彼女を舐め尽くそうと、その手を伸ばし始めるのだ。
瑠奈が強いのは、華族の令嬢であり、僅か数年でとてつもない規模のコングロマリットを作り出した怪物である、という所でしょう。途方もない金を持ち、途方もない権力を有している。幾らテレビ業界でも早々簡単に彼女を自由に弄ぶことは出来ない。逆に言うと、虎視眈々と狙われながらもその魔手を排除できずにあれこれと手を出され、獲物として扱われることをやめさせられないあたりに、この時代のテレビ業界の権勢が伺えちゃうんですよね。今丁度、令和になってその傲慢さが通用しなくなってきたわけですけれど、この時代はまさに絶頂期だったんだよなあ、というのが伺い知れるエピソードがあれこれと。
そんなこんなをしているうちに、瑠奈たちも小学校を卒業してついに中学生に。瑠奈だけじゃなく、攻略対象トリオといい、御学友の皆様といい、鼻水垂らして自由に遊び回っていられる小学生ではなかったんですけどね、これまでも。
それが中学生ともなれば尚更に。
学校の中でのお話ですらも、親絡み一族絡みの政治案件のみならず、学校内でのあれこれですら「政治」と呼ぶほかない駆け引き、交渉、取引が発生するんですよね。これはまあ瑠奈たちが通う学校がそれだけ特別である事も理由のひとつなんでしょうけれど、それだけじゃなく、組織が存在しその中に人が在籍しているならそれだけでもうどこであろうと「政治」というのは発生するものである、というのが一連のエピソードから見えてくるわけですよ。
ただ今使われていない花壇を利用するのを申請するだけでも、様々な組織間の政治的重心を意識した駆け引きが発生し、思惑が交錯し、それらをうまく解きほぐして時に繋ぎ直してうまく交渉し、望まれる成果を手繰り寄せて着地させられる人間たちが現れるわけだ。政治家というやつですね。
それだけ、政治ってのは特別で一部の人間だけが扱うものでもなくて、身近でありふれたものだ、というのを普通の人は忘れがちだったり気づかなかったりするんだよなあ、というのを学内政治のお話で考えてしまいました。
にしても、初等部の生徒会で扱うような案件じゃねえだろ、と思いつつ瑠奈を含めたこのカルテット、すでに学校外の大人の社会であほみたいな金額稼ぐ会社経営してるんだよなあ、と。

さて、瑠奈の動きが封じられた影響もあってか、彼女の持つ力そのものを削ぎ取ろうとする動きが桂華院の一族内からも、政府官庁からも顕著になってくるのがうかがえた5巻でもありました。
瑠奈が自分だけで稼いだ金と作り上げた会社を取り上げて自分たちのものにしよう、なんて一族のそれは論外なんですけれど、国からの株式市場への上場指示などはこれまで瑠奈という出る杭をうって自由を制限しようという意思がすけて見えてくるんですよね。
あまりにも大きな力を個人に持たせまいとするのもわかるっちゃわかるんですけれど、それを一から築き上げたのは瑠奈個人の力であり、そうして稼いだ金を国の再生のために湯水のように注ぎ込んできたのを知っていると、その力を彼女の手から奪い去ろうとする動きにはどうしたってモヤモヤするしかないんですよね。
そうして、瑠奈の手足となって動いてくれていた橘氏と一条氏が電鉄会社社長と金融ホールディングスCEOというトップから退く流れになるものの、以前から指摘されていた彼らの後継者問題が結局解決しないままここまで来ちゃったんですよね。
一条さんのあとは、CIAから出向してきていたウォール街の住人でもあるアンジェラ・サリバン秘書長が継ぐことになったわけですけれど、いや彼女はもうそれこそ瑠奈の腹心といっていい存在なんですけれど、それでもどうしたって出自が出自だけに外様扱いになっちゃうんですよねえ、会社グループからしたら。瑠奈からすると一番気心のしれた側近なのですけれど。
同じくアメリカからヘッドハントしてきた桂華電機連合CEOのカレン・ビオラとアンジェラ女史は、瑠奈にとっての懐刀と言って良い凄腕経営者と経済人でもあるんですけれど、この外様というのがどうしても引っかかってきちゃうのがまたもどかしい。
橘、一条さん、そして商事会社の藤堂社長が小学生のために表に立てない瑠奈の代わりに、巨大今ぐろマリッドと化した桂華グループの舵取りを行ってくれてたわけですけれど、これらを引き継げる瑠奈の意図をくんで動いてくれるような人材がほんといないんですよねえ。グループ内部もほんとこの短期間で一気に合併で巨大化したために、組織が固まらずに内部で混乱が続いているみたいですし。報連相をどこにしたいいのかわからない、自分の部署の上がどこなのか不明、とかこれ相当ですよ。
前巻で瑠奈お嬢様そそのかして48兆円ほどかき集めてきて仕手戦繰り広げた岡崎が、その後継者候補として一番にあげられているんですけれど、今はまだこの男山っ気が強すぎてトップに立てるのまだ時間がかかりそうってなもんで。
もう一人、ギラギラに野心と才覚をみなぎらせている人物がグループ内部からアンテナに引っかかって、瑠奈の共犯になってくるのですけれど。
まあいずれにしても、巨大化したグループに対して瑠奈の意志を汲めるバリバリ働きまくれるヤバいレベルの有能な人材がまだ乏しいのは確か。新興勢力の常なる問題があらゆる面で詰まってるのを、各種エピソードで垣間見ることが出来ます。

にしても、アンジェラさん、岡崎のことほんとにめちゃくちゃ意識してるんだなあ。いや、男女のあれじゃあなくて、瑠奈お嬢様の側近としてのライバル意識として。
だからって、岡崎が仕手戦であれだけのことをしでかしたからって、サブプライムローンの話を引っ張ってくるとか……それ、お嬢様破滅の引き金ですからー! リーマンショックのトリガーの一つですからーっ。
サブプライムローンって、名前は聞いたことあるけれど具体的にどういう問題だったの? というのをこの話を読むとかなりわかりやすく理解させてくれます。
そもそも、プライムローンじゃなくてなんで「サブ」プライムローンなの? という根本的なところから。
そして、ウォール街出身者のあの儲けるという事への貪欲さと無慈悲さと邪悪さも。
ってか、アンジェラさん言ってることが邪悪すぎてドン引きなんですけどっ。ドン引き通り越して怖くて泣いちゃいそうなんですけど!?
えっ!? アンジェラさん、これ破綻前提で話してるの? ウォール街爆発して吹っ飛ぶ前提!? こわっ! いや、前巻で岡崎と一緒にアメリカのITバブルふっとばしたお嬢様に、今度は私とウォール街ふっとばしましょう! ってアンジェラさん誘ってくるの、岡崎へのライバル意識としたらなるほどわかるっちゃわかるんだが、いやいやいやいやw

イラク戦争もついに勃発。こちらは史実通り、というかお嬢様が中東に事前に鉄道事業であれこれ網を張り巡らしたりもしてたから、史実よりもスムーズに決着するも、イラク戦争の問題はまさに戦後からはじまるわけで。史実以上の泥沼にして長い長い終わらない戦後が、混沌のイラク、そして中東情勢が始まってしまうのである。
そのイラク戦争勃発の際に、瑠奈が不良債権処理という歴史を変える、歴史に立ち向かう覚悟を決めた時に見つめていた一億円という現金……これ、そのままずっと保管してたんですね。…を前に岡崎と静かに語り合うシーンはなんとも印象的でした。彼女の初心というべき、覚悟と献身、自分の破滅を許容した象徴である一億円を前に、瑠奈の破滅に否を突きつけた大人たちの優しさを想い、そして結果アメリカとこの国がよりマシな未来へと歩み出せるターニングポイントを通り過ぎてしまった現実を噛みしめるお嬢様。

世界は、果たしてどこへ向かって進んでいくのか。そして、来たる破滅の未来が着実に近づいてくる。
小学校を卒業し、彼女は中学生になった。運命の日、リーマンショックのその日まで残りあと5年と少し……。