【人類すべて俺の敵】 凪/めふぃすと 角川スニーカー文庫

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第28回スニーカー大賞の頂点 一人の少女が為、世界に仇なせ

「人類は、《魔王》によって滅ぼされるだろう」
突如、全人類の前に降臨した神はそう告げた。
1ヶ月ほど前から無差別に発生した不審死により、既に八億人もの命が失われていた。《魂魄剥離》と呼ばれるその現象が、あどけない少女にしか見えない《魔王》によるものと神は言う。
厄災を阻止すべく、人類を代表する十人の天使が選出され、《人類》対《魔王》――《聖戦》の火蓋が切られる。
震撼する世界で、ただ独り高坂憂人だけは少女を知っていた。彼女が世界の敵に仕立て上げられ、助けを求め手を伸ばすか弱き存在であると――。
ひとりの少女が為、世界に仇なせ。


うーん、本作が大賞受賞作品かー。正直、だいぶ辛口の感想となってしまいました。


正直、前回の大賞作品といい個人的には完成度や練りが全然足らない、設定面でも物語の展開でも締まりがなくて物足りないと思ってしまいました。二年連続となるとなあ、うーん。


タイトルの通り、世界中を敵に回して一人の少女を守るために、人類の敵となった少年の孤独なる戦い、という構図である。
2000年代に隆盛を迎えた物語のジャンルの一つとしてセカイ系と呼ばれたものがあります。これ、定義づけるには意味合いが広範囲に渡っているのですけれど、まあその中の一つとして世界の命運を少数の個人的な事情の中に突き詰めてしまうというものがあり、さらにその中でもたった一人の少女の生命や存在が世界の行方を左右し、その少女を守るために世界の敵、人類の敵となって家族や親しい友人すらもその手にかけるような凄惨な戦いに挑まなくてはならなくなる主人公の物語、みたいなものもありました。
これ、主人公の置かれる立ち位置が本当に過酷すぎて、なかなか真っ向からこのテーマで描いた作品ってあんまり無いんですよね。歌の歌詞として取り上げられる題材ではけっこう見かけますけれど。
なので、本作のタイトルやあらすじを見た時には、直球でこの「世界を敵に回しても君を守る」というテーマに挑む作品なのか、と期待を膨らませたんですよね。
その上げた期待値からすると、ぶっちゃけていうなら肩透かしでありました。
いや、テーマそのものはまさに「世界を敵に回しても君を守る」なんですけどね。その中身はというと、その人類全体を敵に回しても守らなくてはならない少女、というのが主人公にとって掛け替えのない大事な存在などではなくて、思いっきり初対面の相手なんですよ。
たまたま、ガラの悪いチンピラみたいな男に殴られたりと暴力を振るわれていた幼気な女の子を助けようとしただけで。
しかも、強制的に意識を塗り替えられて少女を見捨てる、殺すという選択肢を選べなくなり味方にさせられる、というありさまで……人類の敵になる葛藤や覚悟もなんもなしですよ。
少女の方も、神様と名乗る存在に契約で魔王にさせられ、本人の意志ではなく人間の魂を抜く装置みたいなのにさせられただけで、完全に被害者なんですよね。主人公を使徒みたいなのにしたのも、洗脳じみた意識付けをしたのも当人が意図したものではない。信念やちゃんとした目的があって人類を滅ぼさなくてはならない、みたいな壮絶な覚悟や絶望があったわけじゃない。
自覚的に悪をなしている存在でもないわけだ。
おまけに、人類どんどんと数百万、数千万、億単位でどんどんと魂抜かれて死んでいっているんだけれど、魔王になった少女は直接手をかけて無惨に殺して回っているわけじゃないから、本当の意味で虐殺しているという実感もない。自分のやってしまっている事に恐れおののいているけれど、自分の目の前で人が大量に死んでいくとかいうシーンも目撃していないし、これは少女としてもなんかよくわかんないですよ。
一応、二人共神様から説明はされるものの、話は一方的で神様のいう人類滅亡確実というのもなんの根拠も示されていないし、こいつが言う事なんの実証もデータもなく信じるも信じないも何の拠り所もなくて、いやいったいどうせいって話なんですよね。
なんか、みんな根拠なく信じてるんですけれど。恐ろしく適当な話ですよ、これ。
そして、人類すべて俺の敵、というタイトルのわりに、主人公の友人二人は彼が置かれてしまった立場を知りながら心情的に味方で有り続けていますし、それを主人公に伝えてもいる。男の友人の方は彼を助けるために魔王を討つ使徒になってる、という複雑な立場に立ってるんですけれど、そのわりにどうしたらいいかわからずにいますよね、これ。また、主人公の母親も子供のことを心配してますし、立場的には逃げ回るしか無いんですけれど、主人公って本当に魔王の少女と二人きりで孤立しているわけじゃないのですよ。一般市民から憎まれ追い立てられている状況にもまだ陥ってないし、全然徹底して追い詰められてないんですよね。精神的にどんどんあとのないところまで追い詰められる、というヤバさが全然ない。これなら、国やら警察やら情報機関に追跡されて追い立てられる物語の方がよほど、切迫感や逃げ場がない絶望感、周りの人間誰も信用できない、という追い込みの壮絶さがあります。
魔王を討つために神様に選抜され特別な力を与えられた救世の使徒たちの方も、世界中で人類がどんどん死んでいるのを食い止めないといけない、という切迫感や覚悟が全然なくて、両サイドともなんか状況に流されてるばかりで、物語に締まりが感じられないんですよねえ。人類すべて敵、というわりに国やら警察やら軍やら公共機関やら報道も一般市民の目も、ろくに何も動いてないんだよなあ。
なんにせよ、折角のこの手のテーマにも関わらず、自分の全てをなげうってでも守りたいという凄絶な願いも、未来も友人も家族も捨ててたった一人を選ぶという究極の選択も……
主人公たちの内面を突き詰めていくような、ぐちゃぐちゃにすり潰していくような、或いは研磨して宝石のように磨き上げていくような、覚悟を問うような、絶望を乗り越えるような、そういうこういうテーマならではの肝心の部分がオミットされて取り除かれてしまっている。物足りない。

登場人物のキャラクターも、ちょっとそうあるべし、という枠組みから一歩も出ていない感じ。
主人公と友人二人の関係も、正直これちょっとどうかしていると思うんですよね。主人公の父親が起こした凶行に巻き込まれて、この友人二人の親がそれぞれ主人公の父親に殺されてるんですよ。
その上で三人は今も親友であり続けているのですけれど、この関係を維持するまでに至る葛藤や感情の克服、絆を再度結びなおすために乗り越えたもの、という重たいものがなんか見当たらないんですよね。
親の起こした事件は子供には関係ないというのは正しいし、友情が壊れずに続いているという事実は尊いものですけれど、だからといって何のわだかまりも気後れも隔たりもなく、それを克服する過程も描かれずに、この今の関係だけ描かれてもちょっとなんか受け入れがたいものがあった、というのが正直なところがありました。

うん、とまああれこれと理由もあり、新人賞の大賞受賞作品でしたけれど、自分には合いませんでした、という結論で。