【百花宮のお掃除係 10 転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。】  黒辺 あゆみ/しのとうこ カドカワBOOKS

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後宮の危機を救うのは、失意から復活した異国の王子!?

再びやってきた花の宴の季節。昨年は変態皇子の大偉(ダウェイ)に髪を狙われて散々だったけど、今年は静(ジン)と一緒に満喫しようと雨妹(ユイメイ)は心を躍らせる。なのに、紛れ込んだ東国の刺客のせいで宴は大荒れ!

敵は宮廷だけでなく後宮内にも既に潜んでおり、皇太后派閥の計画をことごとく狂わせてきた雨妹も標的にされてしまい……!?

そのとき、祖国を滅ぼした東国を誅するべく、ダジャ王子が失意から立ち上がる!

阿片事件から続いた東国編、ついに完結!


雨妹狙われ、拐われる。
今まで雨妹の身に直接危害が加えられるような事は滅多となかったので、本当にピンチである。
とはいえ、これまで色んな事件に首を突っ込んで、皇太后一派の思惑を潰すのに一役も二役も買っていた雨妹は目をつけられても不思議ではなかったんですよね。
決して表舞台で派手に活躍していたわけじゃないですけれど、調べれば彼女がたびたび現場にいて何某かの役割を果たしていたというのはわかるはず。
でも、皇太后一派って単に権力に固執しているだけで、権力を得て何かをしようという目的がある集団ではないので、ちゃんとはかりごとを巡らせられるような策士とか政治的に辣腕を震える智者の類は全然いなかったっぽいんですよね。雨妹を目の敵にした宦官も、単にいつも現場にいたっぽい雨妹に八つ当たりで絡んできただけで、本当に彼女が事件を解決したり企みを防ぐのに活躍していた、なんて具体的に理解していたわけじゃないでしょうし。
皇太后当人は、いちいちそんな目下の人間に目を向けたりしないので、雨妹のことなんぞ全く関知していなかったでしょう。
これが雨妹が正式に皇帝陛下の娘として名のりをあげていたら、手を伸ばしてきたかもしれませんけれど。
そういう意味では父陛下が雨妹のことを、宮女のまま置いていたのも雨妹本人の希望というだけじゃなくて、その危険性も鑑みていたんでしょうな。その上、直属の影を護衛につけて常に守っているほどの過保護っぷりでしたし。
とはいえ、今回は宮城・後宮内で起こった東国の密偵達の騒ぎに乗じて狙われて、拐われてしまったわけで。これ偶然の要素が強いだけに運が悪かったとも言えるし、すぐに救出の手がでるタイミングで皇族の知己を得て刑部さんとツテが出来ていたり、近くにダヴィ王子が居たりしたわけで。散らばっていた運をかき集めたみたいに、幸運が集まってもいたわけだ。ほんと面白い娘である。

さても、今回は静をこの地まで護衛してきた奴隷にして元王子だというダジャルファードのこれまでの半生が語られたわけだけれど、これまで感じてきた妙な違和感、このダヴィって奴実は思ってる以上にダメ人間なんじゃないか? という疑惑がはっきりした回でもありました。
てか、その前半生見ているとどう言い繕っても無能王子なんですよね。裏切られて国を滅ぼされて、弟王子に奴隷として売り飛ばされ追放された、というのもこれ仕方ないんじゃないの? というくらい、彼は現実を見ずに周りの都合の良い言葉に左右されて、最後まで自分が何を間違えたのか理解できなかった。
奴隷という屈辱を味わいながらも、それでも彼の価値観は変わること無く、王子という出自に固執しこれまで教え込まれてきたものに囚われ、今はもう自分は奴隷の身分に過ぎないという事実をこの男はちゃんと理解できないまま、ここまで来たわけだ。
父陛下のこの元王子への対応がやたら冷たかったのも、こうやって具体的に彼の人となりを見せられると適切だったのだなあ、と納得させられる。
でもしかしだ。ここまで堕ちていながら自ら変わることの出来なかった、もうこの無能どうしようもないんじゃない? と見ていても思ってしまうような半生が語られたあとで、ちょこっとこの元王子に変化が生じてくるんですね。というか、それは何宇という雨妹と同類の転生者であるらしい少年、静の兄弟であるちびっこに、厳しく辛辣にその有様を叱責されて以来、彼の凝り固まっていた価値観にいつの間にかヒビがはいっていたわけだ。
これまでの価値観に脚は捕われていたものの、それでも疑問を抱くようになった。自分のあり方を振り返るようになった。
彼のことを知った雨妹は、よっぽど歪な教育を受けてきたんだろうなあこの人、と述懐していたけれど。静についてこの国に訪れた頃にはいつしか自分で物事を考え、これまで与えられた教育と異なる言葉も意見として、教えとして、新しい価値観として受け入れるだけの余地が生まれていたんですねえ。
ああ、人ってなかなか変わることなんて出来ないけれど、絶対に無理ってわけじゃないのか。人が新しい自分を見つけるってのは、こういう事をいうんだなあ、となんだか感慨深い気持ちになった次第。
このダジャという青年が本当にどうしようもない根っこの部分から腐るように育てられた存在だというのを前半でじっとりと見せつけられていたから、尚更に自分を立て直すきっかけを掴んでいった変化が印象的だったのです。それは劇的な羽化とか覚醒とか激変じゃなく、ベイビーステップなのですけれどだからこそ実を感じたんですよねえ。
それに、もう凝り固まった自分を疑いもせず固執し、周囲に害を撒き散らすしかないような存在が他にも散見されたからこそ、変わるきっかけを掴んだダジャ元王子に清々しいものを感じたのでした。
宇くん、これダジャに対してガチで孫目線みたいなのあったんじゃないのかしら。或いはダメな甥っ子たいな。
ってか宇くん、前世筋モノかよ。しかも人生全うした雨妹と同じタイプか。そら怖い人だわ。

後宮事情の方は、東国の間者が大量に皇太后のもとに潜伏していたことがこの事件で発覚して、自分の権力保持のために敵国の浸透を許してしまっていたというもう言い逃れができない罪状に、ついにアンタッチャブルだった皇太后の権勢に皇帝陛下の剣も届くことになりました。
てか思ってた以上に隙だらけで脆い牙城だったじゃないですか。権勢を削るどころか、一気に陥落しちゃったんですけれど。もう少し粘ると思ったら、粘れるような政治的手腕も権力者としてのカリスマもこの女にはなかったということか。
というわけで、思いの外あっさりと皇帝陛下の治世における最大のガンだった皇太后一派が排除できました、よかったね。
いやマジで、皇帝陛下自らが親征しなきゃいけないかも、という陛下不在の都で皇太后一派が好き放題しはじめる可能性を想像して、ゾッとしてましたからそれを事前に全部排除できたというのは実に大きい。
加えて、雨妹のアドバイスもあって、お酒を通じて明賢太子と美蘭徳妃の間もちょっといい雰囲気出るようになってきたし。
個人的には、一連の事件が収束して静の身も安全になり、陛下からのオーダーだった静に生きていけるだけの術を授けよ、というそれもこの上なくいい形で達成して。
静たちが後宮から去るのを見送りながら、父陛下が雨妹のことを褒めつつ、自分の娘とも取れる呼びかけをしたシーン、この巻でも一番グッときたんですよねえ。
お互い承知の上で、暗黙の了解でそしらぬフリをして仲良くしてきたのを、踏み込んできたなあ、と。
他人じゃなく臣下じゃなく、ちゃんと自分の娘によくやったぞ、と褒めてやりたかったんでしょうねえ。言われて嬉しそうな雨妹もまた良くってさあ。
この父娘の表には出せないけれど気持ち通じ合ってる仲良しな関係、すごく好きなんですわ。

いや、あんまりなんか綺麗に終わったんで、もしかしてシリーズ完結ですか? と一瞬心配してしまうくらい今回すっきり終わったんですけれど、あくまで東国編が終わっただけでシリーズはまだ続くとのこと。よかった。