【サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと 小冊子付き特装版】  依空 まつり/藤実 なんな カドカワBOOKS

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古代魔導具〈偽王の笛〉の影響下、上位精霊たちが牙を剥く危険な森で、七賢人は事態の収拾のため行動を開始した。

だが〈茨の魔女〉の植物操作、〈砲弾の魔術師〉の多重強化、そして〈沈黙の魔女〉の無詠唱魔術が飛び交う大激闘は、戦禍を呼ぶ笛に秘められた真の能力で、さらなる窮地に!

一方、学園ではある生徒にモニカが魔術師だと看破され――「わ、わたしの正体をばらすぞ、ってこと、ですか?」

風雲急を告げる第七幕。かくして、物語は大きく動き出す。


意志ある古代魔導具、今のところ出てきたの2つだけれど、2つとも性格が病んでるの性能以上にヤバいんじゃないだろうか。
前半は<偽王の笛ガラニス>に煽てられて暴走した七賢人の一人エマニュエルを、他の七賢人で寄ってたかってぶち倒すぞ、のクライマックス編。
いや、わりと善戦したんじゃないですか、エマニュエル爺さん。幾らこの爺さん殺しちゃダメよ、の縛りがあったとはいえ、そして彼がこもっている工房、いわば敵陣に攻め込む形になったとはいえ、他の七賢人全員を相手取ってわりと苦戦させたんですしねえ。
てっきり、七賢人で一番凡人で戦闘職でもないエマニュエルを相手に他全員で、なんですからもう一方的な袋叩きになるんじゃないか、とすら考えていたのに。
まあそれだけガラニスを使った結果が大したもんだったと言えるのですが。エマニュエル自身が卑下したり卑屈に思ってたり劣等感抱えてたりするほどじゃないと思うなあ。権力者のコネがあったにしても、七賢人に不相応だったかというと、どうなんだろう。
その点、エマニュエルの側から勝手に自分と同類だろ、と思われていたルイスなんかは、むしろ自分に大きな自信を持っているタイプ……いや、違うか? 自信家というよりも、勝つために手段を選ばず徹底的にやるタイプ。ともかく、勝つの大事で勝てばいいんだ、という迷いのない揺るぎのない芯があるから、ブレないんですよね。
……ちょっとしまったな。先にルイスの過去編の番外巻が出てるんですけれど、そっちを先に読んでおくべきだったかもしれない。今の彼の奥さんとの馴れ初めなんかもあるんだろうし。それに、ルイスという人物の奥の部分というか芯の部分がこっちの本編の方からだとまだ謎めいていて見通せないというか、どう判断したらいいか迷うところがあるだけに、彼の主人公の話を読んでもっと理解を深めておくべきだったな、と思うくらいに彼の行動というのはぶっ千切ったものがあるんですよね。
しかし、ここで本筋から脱落するかな、と思っていたエマニュエル爺さん、思わぬ人物に拾われたぞ。
謎めいているというと、一番その思惑が謎めいているのがやっぱりフェリクス王子なんだよなあ。
とはいえ、徐々にその素性も真相も一枚一枚ベールが剥がされていっている途中で、薄らぼんやりと見えてくるのがまた面白いんだよなあ。
今回、その真相の一端に大きく踏み込むきっかけになったのが、やはりブリジットの参戦でしょう。
これまで様子見というか、どこか外側からモニカが加わった生徒会の面々を伺っている様子だったブリジットが、ついに本格的に動き出す。
前回、モニカの素性を探っているっぽい調査の依頼主がブリジットだった、というのが明らかになっていたのだけれど、もっと慎重に…というか、搦手でも使ってモニカを押さえにくるかな、と思ってたんですよ。ブリジットという令嬢はもっとこう……陰謀家とは言わないけれど、策士で政治家で目的の為なら手段を選ばない……というのでもないなあ。なんというか、もっと湿度の高いじっとりとしたタイプだと思ってたんだけれど……。
いや、この人違うわ、水属性じゃないわ。むしろ、炎だわ。熱情の人だわ。その上で、燃え盛る炎をぐっと押し込めて、熾火を絶やさず外に漏らさずじっと抱え続けることの出来る我慢の人だわ。
それでいて、搦手使わず直球でモニカに協力を求めてくるあたり、物凄く明快な人でもあるんだよなあ。あれだけ今までずっと人生の半分くらいを費やして、本心を押し殺してきた人なのに。誰にもそれを見せること無く、隠し続けることの出来る耐える人なのに。
いざ動くと炎のように熱く、そしてカラッとしてるんですよね。
モニカに協力を求めるにしても、もうちょっとモニカの首根っこ抑えるやり方も幾らでも出来たでしょうに、ここまで公明正大に真正面から手伝ってほしいと求めてくるとは本当に思わなかった。
ここで今までのブリジットから感じていた印象がガラッと変わった、というのもあるんでしょうけれど、そうでなくても今まで息を潜めていたのが、実像を薄めていたかのようにあんまり存在感を見せていなかったのが嘘のように。
突然、やたらと濃度が高くて強烈なキャラクターを曝露しはじめるブリジット嬢。めちゃくちゃアグレッシブだし、多芸多才だし、てかあのカラー口絵の女性がブリジットとは本編読むまで全然思ってなかったんですけど。
そんなあまりにも強烈なブリジット嬢の情熱であり輝きの、そしてそれを今までじっと押さえて殺してきた、そして絶やすことなく臥薪嘗胆の心構えを失わなかった、その原動力となる恋。恋の炎。
それを目の当たりにしたモニカが、恋とはなんぞや、と思い悩みはじめるほどの強烈さでありました。

でも同時に、それが気になってしまうという事はモニカの中で恋というものが何なのかを知りたい、という欲求が生まれているということでもあったんですよね。それを知りたいということは、自分の中になにかそれに近いものが生まれているんじゃないか、というのを無意識に感じ取っているのか。
今までの反応からすると、それはシリル先輩の方に向けられている気もするんですけどね。フェリクス王子にも感じるものはあるみたいだけれど。
しかし、モニカには人の心に類するものは理解が出来ぬ。いや、今のモニカには十分人の心、人の感情を感じ取り自分のなかから汲み上げるだけの素養は出来ているようにも見えるんだけれど、まだ頭で具体的に理解するには及んでいない。そもそも頭の中の考え方のベースが数理的に寄ってて文理的じゃないんだろうけれど。そして周囲には同じように音楽的にしか解釈できない人間とか、チェスでしか解釈できない人間とかが普通に跋扈しているので、別にモニカだけが変じゃないのが……末期的?
まあ訪ねる相手が究極的に間違ってます、この場合。なので、普通にラナやクローディアという女友達に相談する、なんて普通、なんて当たり前なガールズトーク。こういうの出来るようになったの、ちゃんと女の友達に相談できるようになっただけでも、大いなる成長であるモニカさん。
二人から色んな恋とはなんぞや、という疑問に対する応答例の中で一緒にいると落ち着ける恋があってもいいじゃない、と言われて自分に照らし合わせて考えたモニカが、一緒にいて一番落ち着ける相手を思い描いて。
ラナかな、と呟いたあとのラナのニッコニコの反応が、挿絵付きで素晴らしかったです。尊し、なんという尊し。いやー、ラナさんめっちゃ嬉しそうじゃないですかw

さても、一連の捜査を通じて、モニカはフェリクスにまつわる真相に、これはおそらく辿り着いたのか。同時に、モニカの父の死もここに関わってきそうなのか。
いよいよ、状況が大きく動き出しそう。これは楽しみであります。