【虚ろなるレガリア 6.楽園の果て】  三雲 岳斗/深遊 電撃文庫

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絶海の孤島で暮らすヤヒロと彩葉。そして第七の不死者の影が!

冥界門の消滅から三年を経て、崩壊を免れた世界は緩やかな復興を続けていた。世界龍の力を手に入れたヤヒロと彩葉は現在も行方不明のまま。
そんな中、ギャルリー・ベリトは、消えたはずの魍獣が再び出現したという情報を入手する。
そのころ南国の名もない島に隠れ住み、スローライフを送っていたヤヒロと彩葉のもとに、謎の少女エリが流れ着く。
なぜか彩葉を警戒しつつ、ヤヒロの正体と世界の真実を知っているエリ。そんな彼女を襲ってきたのは、魍獣とは異なる新たな怪物“無名天使”だった――!
廃墟の街で出会った少年と少女が紡ぐ、新たなる龍と龍殺しの物語、第六巻!


あれから3年。八尋と彩葉の二人は俗世から離れて、名もなき無人島にて二人きりでのスローライフに明け暮れていた。
というわけで、まさかの第二部開始っ! と、思ったら開始と同時に終了でした。なんでさーっ!?
あとがき読む限りでは後日談ではないらしく、この世界が死後の世界、冥界である事実を踏まえたうえでさらに天界など他の世界の存在を示すと同時に世界間の攻防が、このまま続くならありそうな感じだったんですよねえ。
そのための埋伏されていた天使の設定だったんでしょうし。

まあともあれ、前巻のクライマックスで彩葉と八尋による世界そのものを一度消滅させ一から作り直す世界龍の理は、彩葉一人ではなく世界中の人々に願いを叶える権利を分割したため、既存の世界が永続的に継続する事になりました、負担も全世界に分担したので彩葉が長い年月の先に疲弊して、またぞろ新しい巫女を選出して世界刷新しないといけないのよ、という展開にはならなくて済むようになったので、概ねハッピーエンドという結末に終わったのでありました。
彩葉と八尋も世界の核として幽世に閉じこもらなくても済んで、この世界に残れるようになったわけですし。
とはいえ、いびつとはいえ世界を司る世界龍の力を八尋が宿しているのも確かで、その力を利用しようとする勢力から身を守るためにも、ベリト姉妹に力を貸してもらって、二人で無人島に引っ込んで隠れ住んでいたわけですね。
隠れ住む隠遁生活、と言っても機材や物資はロゼとジュリが定期的に持ってきてくれるので、無人島と言っても自給自足の原始生活ではなく、ちゃんと現代的な生活送れてますしねえ。彩葉は定期的に配信動画をアップしてたり、と完全に二人きりの悠々自適なスローライフである。羨ましい。
とはいえこの二人、もう出会ったときから殺伐とした状況から、追われ狙われしつつベリト姉妹の庇護のもとに旅から旅への生活でしたからね。考えてみたら、落ち着いて一緒に過ごすような暇も全然なかったんですよね。それに、八尋の方は妹の件もあって、精神的にもずっと切羽詰まってましたし。
それを和らげていたのもまた彩葉の明るさではあったんですけれど、ずっと非日常の只中にいたのも確か。
そういう意味では、やっと落ち着いて二人で穏やかに過ごすことで、今まで見えてこなかった彩葉の魅力なんかもさらに引き出されてる感があったんですよね。3年経ってちょっと大人になったかと思ったら、彩葉さん無邪気さというか天然パワーがむしろアップしてませんか? というくらい、遠慮なくグイグイくるアグレッシブで快活な女性になっちゃってるじゃないですか。孤児の子供たちを拾って守って育てていた、という事もあってママ役を全然こなせてなかったけれど担おうと奮起していたこともあってか、彩葉ってちょっと肩ひじ張っている部分もあったんですよね。
でも、八尋とふたりきりの生活というのはそういう子供たちを守って支えていかないと、という気を張る事もしなくてよくなったせいか、わがままも言うし八尋には甘えて絡むし、と結構好き放題やっててむしろ精神的には幼くなったんじゃ、と思えるような方向の明るさでもありました。
二人がイチャイチャするのって、こんな風なのかー、という納得も。
まあでも、ほんと今までよりも溌溂としてたなあ、彩葉。

3年の経過というのは、年嵩の人にとっては大した年数じゃないんだけれど、特に幼かった子供たちが成長するには十分な年月でもあるんですよね。というわけで、みんなそれなりにいっちょ前に大きくなり、前にもまして元気はつらつで、そして恋するお年頃だったり、抱いた夢にひた走る若さの突端でもあり、色々と将来が楽しみな子たちばかりでありました。
また、生き残りの巫女と不死者のカップルだったゼンと澄華の二人も、むしろ八尋たちよりも幸せそうなことになってて、いやあ良かったですなあ。
一番、精神面で落ち着いた大人になっていたのはこの二人だったんじゃないでしょうか。特に澄華さんは前からいい女でしたけれど、ほんと一皮むけて大人のいい女になった感があります。
子供たち、ロゼとかジュリはあんまり見習ったら行けないタイプの大人の女性ですけれど、目指すなら澄華だよ、これ。
ってかロゼあたりは、しれっと八尋に手を出すくらいするんじゃないかな、と穿ってたんですが、特に何もしてなさそうなんですよね。3年もあったのに、何もしなかったとは。

ともあれ、俗世から隠れ潜んで過ごしていた彩葉と八尋の暮らす無人島に、一人の記憶喪失の少女エリが流れ着いたことから、穏やかな生活が終わりを告げて、新たな世界の危機がはじまる、という流れだったわけですけれど……。
序盤のこのエリちゃんと八尋たちとの絡み、それに積極的に仲良くなりたい彩葉とビビって腰引けているエリとの距離感の描写といい、このエリという娘に関してはじっくりと描いていくような素振りが前半は見えたんですけどねえ。
それに、八尋に生き写しの姿をした、これも記憶を持たない同じ不死人の真藤シグレと、最初はさらわれた相手とさらった犯人という関係だったのに、心通じあわせてしまった絢穂とシグレの何かはじまりそうだった関係といい、これ第二部少なくとも数巻単位では続きそうな感触は描かれている様子からもあったんですけどねえ。
なんか急に中盤からパタパタと広げかけた風呂敷をたたむようにして、事件を収束させてしまった感じ。他の世界が存在するという話、また異世界からの侵攻、みたいな展開も伺わせていたので、けっこうスケールのでかい展開が待っていそうだったのですけれど。
いやそれにしても、あのエリちゃんの片付け方はさすがに性急だった気がするなあ。彼女が実際、八尋や彩葉に本心ではどんな思いを抱いていたのか。また、短いながらも一緒に暮らした日々から新しく生まれつつあった想いもあったでしょうに、けっこうばっさりと切り捨てられちゃいましたしねえ。

ともあれ、八尋と彩葉の二人が音信不通になりみんながバラバラになってしまうという若干ビターな風味もあった前巻のラストから、ちゃんと家族みんなと連絡取り合い、八尋たちも隠れて生きなきゃいけないという縛りも解いて、これからの日々をみんなで明るく過ごしていける、というしまい方は結婚式っぽい演出も相まって良い未来を感じさせるグッドエンド風味で、良かったねで終われるとても爽やかな読後感でした。

それはそれとして、八尋と彩葉の二人、ロゼとジュリからいい加減ただで養うの大変だし、ちゃんと働いて食い扶持稼げ、と就労させられることになってしまったのには笑ったw
二人きりのスローライフエンドから、労働エンドである。まあベリトの傘下で南の島のリゾート観光地の支配人という立ち位置はこれはこれで悠々と……なんか労働条件過酷とか言ってるぞw 毎年八千人の観光客を見込んでるって、かなり忙しいんじゃないのこれ!?