【モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件】  駄犬/芝 GCN文庫

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少年は(全く望んでいないのに)最強の王へと成り上がる
たった一つの勘違いから始まる狂食英雄伝、開幕!

▼あらすじ
ファルーン王国の第一王子であるマルスは、12歳ながら暗殺に怯える日々を過ごしていた。

食事には高確率で毒が仕込まれているため、城外の森でモンスターを狩り、その肉を食べて飢えをしのぐ日々。

そんなマルスの前にある夜、大剣を担いだ赤髪の美女が現れ告げる。

「おまえ、見込みがあるな。私の弟子になれ」

たった一つの勘違いから、少年は(全く望んでないのに)最強の王へと成り上がる――。

投稿小説全ての書籍化が瞬く間に決まった驚異の新人、衝撃の2作同時デビュー!



角川スニーカー文庫から出た【誰が勇者を殺したか】の作者さんの別シリーズでした。
魔王討伐後に謎の死を遂げた勇者の、その末路の真相を追うファンタジーでありミステリーでもあった作品と、本作とはまた随分と毛色の違う作品でした。
いわゆる勘違いモノですね。主人公の意志を周りの人達が勝手に誤解して、どんどんと主人公の意志を無視して物事が転がっていってしまうお話。
そもそもタイトルが【モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件】ってどういう意味? と、随分と不思議に思ったんですよね。いやだって、モンスターの肉を食うのと王様になる事になんの繋がりもないじゃないですか。
これはつまり発端と終端をタイトルにしたお話なんですね、と勝手に合点してしまっていた。物語のエンディングで、こうして主人公は王様になったのでした、めでたしめでたし、という結末に至るまでの過程を、いわゆる下剋上、或いは成り上がりのお話でもあるのかなあ、と。
……主人公、王子だったのか。そりゃ、王位には就けますね。
とはいえ、本作の主人公である王子は周りから命を狙われていて、嫡子としての立場もいつ奪われるかわからない危うい立場。食事にはひっきりなしに毒が盛られて、生きるために王宮で出される食事には一切手を出さず、夜中に城を抜け出して近隣の森で狩ったクソまずいモンスターの肉を食うことで辛うじてしのいできていた、というなかなかエゲツない境遇の王子である。
ちなみに、夜中に城を抜け出して朝までに戻ってこれる距離にモンスターが跋扈している森がある王都って、何気に過酷な環境下にある国なんじゃないだろうか。
この魔物の森に国境を接している国々は、モンスター被害との戦いが国是みたいになってるみたいな事は書かれていましたけれど。
貴族も王都で権力争いなんぞしている余裕あるんだろうか。
ともかく、モンスターの肉は毒だしクソまずいのだけれど、これを克服して食べ続けると肉体や魔力が強化されてどんどんと強くなる、という特性があり、頭のおかしい狂人の師匠に巡り合ったというか森でとっ捕まった王子マルスが、その師匠の極悪すぎる指導によって化け物めいた力を有してしまい、おまけにモンスターの肉食ったら強くなるよという情報を隠さず開示したために、いつの間にか化け物じみた強さの集団のリーダーに収まってしまい、本人の意志とは関係なく周囲から神輿として担ぎ上げられ、修羅の国の王になってしまう、というお話でした。
面白いことに、この王子って最初から最後まで他人とちゃんと意思の疎通をしていないんですよね。自分の意見や意志というものを伝えられていない。あんまり当人にも伝えよう、自分の考えを聞いてもらおう、ちゃんと双方向の話をしよう、という強い意志や気概みたいなものもなかったみたいなんですけどね。王宮では誰が自分の命を狙っているかわからない状況で、母である王妃とその一派は権力争いに敗れて族滅に近い扱いされてるので、周囲にはそもそも味方もいなかった。
それで生きるために場外でモンスター肉食ってたわけだけれど、そこで出会った師匠も話を全く聞かずに自分の指導を一方的に押し付けてくるような人だったし、森の中で出会ったファイトクラブみたいなならず者たちも、思い込みが激しくて勝手に王子のことを斟酌して勘違いを加速していくだけ。
王子は王子で自分はそんな事考えてないんだけどなー、望んでないんだけどなー、とボソボソとつぶやいているのだけれど、積極的に間違いを正そうとはしないし、誤解を解こうという努力にはとんと興味がないようす。これまで誰にも構ってもらえず放置され、構われるケースとはだいたい毒殺くらいだった王子としては、自分のことを慕ってくれる連中には情も湧いているし、やつらが喜んでいるならそれでいいかなあ、という思いもあったのでしょう。主体性が著しく欠けている、とも言えるのかもしれませんが。
徹底して、流される事に徹しているわけだ。これで王子当人の戦闘力は完全に化け物レベルになってしまっていて、突き抜けてしまっている。本来なら、もう誰の言うことも聞く必要のないくらいに強くなってしまった人間であるはずなのに、彼は人の言う通りにしかしていないのだ。
まずいモンスターの肉じゃなくて普通のおいしいごはんが食べたい、というささやかな願いですら、ぐちっぽくつぶやくばかりで誰にも伝えないのだから、これも徹底しているといえるんじゃないだろうか。
面白いことに、番外編で描かれている傀儡として全く自己を主張せずに王座に座しているだけ。妻であった王妃が権力争いに敗れて殺された時も、息子であるマルスの命が狙われ続けていたときも、父王はずっと傍観し続けていて、何もしない言われたとおりにする、流される、というのが彼の処世術として徹底していたんですね。これ、よくよく見ると生き方としてマルスそっくりとも見えるんですよ。
モンスターの肉を食い、師匠に無理やり鍛えられたマルスが人外の強さを身に着けてしまった、という相違点を除けば、この父子って凄く血の繋がりを感じさせるそっくりさなんですよねえ。
こういう状況に孤独さや虚しさを特に感じていないっぽい所なんかも。おおむね、面倒くさいから、で済ませてるんだよなあ。
奥さんとなるフラウに関しても……いや、このヒロインに関してはある意味マルスよりも誰とも「話」をしない娘なんだが。
そもそも、幼い頃に一度顔合わせしただけにも関わらず、ずっと魔法でストーキングしてマルスの事何年も何年も覗き見していた、というだけでも怖いのに、一方的に見ていただけで実際対面したの随分と久々にも関わらず、ずっといっしょに育った幼馴染みたいな感じで接してくるの、ガチで恐怖なんですけどw
マルスからすると、婚約者にはなってたけれど殆ど初対面の相手ですよ、この娘。
ある意味お似合いの夫婦なんでしょうかね、これ?

何にせよ、せめて美味しい普通の食事をしたい、くらいはいくら面倒くさくてもちゃんと言った方がいいんじゃないかしら?