【聖女先生の魔法は進んでる! 1.落ちこぼれの教室】 鴉 ぴえろ/きさらぎ ゆり 富士見ファンタジア文庫

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私たちの先生、強すぎ!? 規格外先生×落ちこぼれ達のガールズラノベ!

最強の聖女だったにもかかわらず、とある事情により異端として王都から追放されてしまった聖女・ティア。
彼女は落ちこぼれだった聖女候補3人の先生になったが――

「先生、王都に竜で飛んで行ったら問題になります!」
「どうかしてるのは先生よッ!! 今のは一体何なの!?」
「私も最強を目指したくなっちゃいました。指導してくださいね、先生?」

ティアによる聖女魔法を”組み合わせる”技で、作物の超速育成や竜の飼育、一騎当千の戦闘に至るまで桁違いの指導が連発。

「私の全力で、貴方たちを導きます」
規格外な聖女先生を慕う少女たちは、国さえも驚く最強聖女へと成長していく!

『転生王女と天才令嬢の魔法革命』
コンビによる
『聖女』×『教官』ガールズファンタジー、登場!



規格外の先生が、落ちこぼれだったり落第生ばかりを集めたクラスを担当して、生徒たちの力を伸ばして導いていく、という先生モノ、教官モノは既にひとつのジャンルを形成するくらいにはたくさんの作品が出ています。
でもそう言えば、その先生・教官が女性というパターンの作品は覚えがないぞ?
これはなかなか、盲点をつかれた感があります。
なるほど、あらゆる類型パターンは百合へと変換でき得るのか!

というわけで、本来後方で回復や支援などを担当する戦闘力がないはずの聖女という役割ながら、攻撃力のないはずの聖女魔法を応用しまくり単独戦闘を可能にする戦闘術を編み出し、また官吏と武官の資格も持ったおかげでワンマンアーミーと化し、異端とされて辺境に追放されてしまったティア。
まあ詳しい経緯はまたちょっと違うのだけれど、そんな彼女に預けられることになった落ちこぼれの生徒二人と、辺境の地でティアが育てていたトルテという一番弟子の三人の娘たちを指導し、自分の後継者にしようとする物語である。
まあ初っ端からとっ捕まえた亜竜に騎乗して王都までひとっ飛びしてくるような、規格外も規格外。常識ハズレのバケモンっぷりを見せつつ、或いはひたすら一番弟子のトルテにツッコミを押し付けつつ舞い降りる聖女先生なわけですけれど。
確かに、やることなすこと既存の聖女の在り方とはかけ離れていて、それでいて自分が特別だとか常識外れだとかいう意識がない、人の話は基本聞かない、という意味ではトルテが絶叫するように確かに何から何までおかしいんですけれど……実のところティア先生ってそこまで頭おかしい人ではないんですよね。むしろ、ベーシックは良識的ですらあると思う。その価値観は歪んでないし尖ってもいない。
いわゆる狂気の川を渡ってしまっているような人物ではなく、ネジがハズレてしまってるヤバい人、というわけじゃない感じなんですよね。むしろ、マトモな部分がにじみ出てしまっているくらいだと思う。
こういう常識ハズレで周りを振り回すような人物でも、本当にヤベー奴は「あ、こいつガチだわ」という理解不能、頭の中身見てもさっぱりわからない系統の危なさがあるもんなんですけれど、このティア先生はそういう意味では極めて良識の側に立っている人物だと思うんですよね。
そりゃ、ティア先生の規格外の言動に振り回され、悲鳴を上げることになるトルテ以下の生徒たちにとっては勘弁してくれ、というくらいぶっ飛んでいるティア先生ですけれど、そのぶっ飛び方も正方向で意味不明の領域には向いていないんですよね。
彼女がおかしいのは、言ってしまえば目的に達するためのもの以外は「一顧だにしていない」という点なのでしょう。
それ以外に関しては本当にまるで眼中にないんですよ。一心不乱に、ただただ目的を達するために突き進んでいるから、一般常識とか聖女としてあるべき姿とかもう考慮すらしていないし、自分と他者を比較するような手間すら惜しんでいる。だから、自分のやることが規格内か規格外かなんてどうでもいいと思っているから、そして突き進むことが至上命題になっているから、普通なんですよ。ティア先生にとって自分のやっていることは、普通以外のなにものでもないわけだ。
そして余計な話は聞こえても頭には入らないから人の話は基本聞かないし、そもそも理解する手間を重要と思っていないから人の心がわからない系のヤバい人だと弟子たちから言われちゃうんですね。
スルーしているから話通じないだけで、ちゃんと聞く気になったら話し通じてるんですよね、ティア先生。なので、頭おかしい意味不明のこれはヤバいやつだ系の人ではないんですよ。スルーしてしまえている段階でもうやべえよ、と言われると……そうかもねー、と日和ってしまいますがw
でもティア先生のその目的というのは、彼女の過去。彼女が喪ってしまった大切なものに報いるためのものであって、ティア先生の存在意義ってそういう意味ではこの上なく人間として真っ当なんですよね。一心不乱でありすぎるだけで。
ただその一心不乱さが彼女の人間性すら削ぎ落としかねないくらいのものになりつつあったのを食い止めたのが、トルテの出会いであり、彼女が自分の目的を叶えるためにただ自分ひとりの力を極めるのではなく、周りの手を借り生徒に自分の得た力の使い方を伝えることで後継者を増やす、というような自己の世界の拡充を行えるくらいには立ち止まって周りを見る余裕ができ始めたがゆえの、この物語のスタートだったと思われる。だから、本来到達していた地点よりティア先生はだいぶマトモになっていると思われます。生徒たちへの修行もスパルタですけれど、そこまでアレじゃないですし。生徒たちの精神が一度冥府に旅立って人外魔境になってようやく戻ってこれる、みたいなそれもう人として死んじゃってますよね?系のヤバい修行・試練じゃないですし。
修行の内容を思い出しただけで、反射的にギャン泣きして幼児退行してしまったり、トラウマが発動して目が死んだりとかしてませんし。穏当、とても穏当である。先生、普通ですよ、まともですよ、大丈夫自信を持ってください。
こういう場合、自分は常識的な人物であるという自負のもとに、先生のとんでも言動にツッコミを入れまくっている弟子の方も、実は他から見るとお前が言うな案件になってたりするんですけれど、トルテちゃん大変優秀だし、ティア先生の教えもあってなかなかぶっ飛んだ力を持ってはいますけれど、お前もやっぱり頭おかしいじゃねえか、というようなヤバい系生徒というわけじゃなく、ちゃんと真っ当な娘なので、やっぱり総じてみんな真っ当なんですよね、この登場人物たち。

肝心のあとから加わった公式落ちこぼれ生徒たちも、落第生を押し付けられた形になっていますけれど、それは建前ではっきり言って超有望だけど表には置いておけない生徒を肝いりでティア先生に預けた、みたいな形なので、才能資質はとびっきりの生徒たちなんですよね。エミーリエにしてもアンジェリーナにしても。それに二人共王族という立場もありますし。
落ちこぼれていたのも、無能とか彼女たちの持つ規格や価値観が既存のものとそぐわなかった、というのではなく、もうこれ当人たちのやる気がそれぞれの理由でなかっただけで、やる気出したら元々バリバリ超一線級の聖女になれていたような娘たちですからねえ。
それがティア先生の既存の聖女としての概念を覆すようなオンリーワンの指導を受けたからには、そりゃもうエラいことになっても仕方ないかと。元々ティア先生が想定していたよりも相当に優秀だったみたいですし。

しかしまあ、ティア先生の過去回想で起こったダンジョン攻略の失敗。これ明らかに策謀の匂いがしますけれど、これによって国の方針が変わってしまったこと、それ自体は無策で今まで通りのやり方を踏襲し続けるのも、それはそれで無為に戦力を消耗してしまう可能性も高かったように思えるので、国の方針を改めた王太子のそれは、それ自体は一概に間違いとも言い切れないんですよね。作中でもティア先生たちも、これを一方的に間違いだとは言っていないですし。
戦力が激減してしまったのに、各所に分散配置していたら各地で対処しきれずに無為に消耗していってしまう、というのは考えとしては間違ってないですしね。損切りは必要なときもある。
とはいえ、それで切り捨てられる辺境地域は溜まったもんじゃありませんし、普通は領地を持つ貴族たちが相当にごねそうなものなんだけれど、むしろ貴族たちが手動したみたいな事も書いてあるし……この国の統治形態はどういうものだったんだろう。
詳しい所はわからないものの、とりあえず裏で暗躍しているなにかがいるのは確かなようですし、それに対抗すべく密かに勢力を形成し探りを入れている、ティア先生の身近な人達もいるようですし、話が広がり、事情実情が詳らかになってきたらもっと面白くなってきそうな作品でした。