【無能才女は悪女になりたい ~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~】  一分咲/藤村 ゆかこ 電撃の新文芸

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「これは契約結婚だ」「はい、ありがとうございます!」「……は?」

類まれな能力を持ちながら、家族に“無能”と虐げられて育った令嬢・エイヴリル。素行の悪い義妹の身代わりに『好色家の老いぼれ公爵様』のもとへ嫁ぐことになるが、実際の公爵・ディランは、噂とは真逆の美しい青年だった。彼が望む「悪女を妻に迎え、三年後に離縁する契約」は、エイヴリルにとって未来の自由を意味する絶好の条件。張り切って“悪女”を演じる不思議な“才女”に、周囲は困惑しつつも次第に惹かれていく――

無能なのに才女とはこれ如何に。たった四文字で見事に矛盾を成立させてるんだよなあ。
当然、完全記憶能力を持ち父に代わって家の財政管理事務を行っていたように実務能力も非常に高く、ついでに使用人扱いされていたために使用人スキルまで異様に高いエイヴリルはもちろん「才女」というべきなのだろう。
……まあ性格のほうがかなりぽややんとしていて頭にお花畑でも咲いていそうな能天気ぶりといい、善良すぎて得意方面以外は鈍いことこの上なし、という頭がいいんだか悪いんだかわからないキャラクターはあんまり才女らしくはないのは確か。
そんでもって無能さについては、少なくとも「悪女」としては能無しの極みと言っても過言ではないでしょう。全くもって悪女の才能才覚一切なし、欠片もなし、一抹もなし。
それが必死に一生懸命、いっそ健気なほどに悪女として振る舞おうとして空回りして失敗している様子はこれなんて言ったらいいんでしょうね。
幼稚園児くらいの幼女が澄ました顔で大人の女性の真似をしてドヤ顔をしているのを見たら、微笑ましい可愛らしい、と思うアレですかね。
わかりますわかります、ここでちっちゃい子が頑張って真似しているのを、全然ダメっ、できてないよ!と辛辣に指摘する鬼畜さを発揮できる大人はそうそういないでしょう。
みんな、凄い凄い、よく出来ている、ほんとの大人の女性みたいだ、とやんやと喝采して持て囃すでしょう。
公爵家の人たちや、ディランの親しい友人たちがみんな全然悪女出来てないよ、などとぶっちゃけずに人の良さが出てしまってなんちゃって悪女にすらなれていないエイヴリルを「なんて悪女すごい悪女っぷりです、素晴らしい♪」と持て囃すのも、まあ気持ちはわからなくはない。というか、すごくわかるー。
シンプルに見ていて面白いですしねえ、エイヴリルの全然悪女らしくない無理矢理の悪女っぷりって。

それにちょいと調べればわかってしまった、エイヴリルが置かれていた境遇を思えば彼女の頑張りを無下にするのも可愛そうですし、本人もちょっとご満悦っぽい所もあるのでそこは尊重してあげて、ねえw
これエイヴリルが嫌々仕方なく悪女してたら可哀想にも思うんですけれど、本人悪女とかよくわからないですしリアル悪女な妹の振る舞いを参考にしつつあんなの自分には無理‐っ、と思いつつちょっと楽しんでいるふしもありましたし。どうやっても、彼女の善良さからして人に迷惑をかけるような、被害を与えるような、苦痛や嫌な思いをさせるような振る舞いは出来ませんし、そもそも発想がないですからねえ。彼女の思い描く悪女らしさが、全然悪女の範疇まで到達していないのが可愛らしいやら、そのくせ本人わりとちゃんと悪女やれてるつもりっぽいのがまた可愛いやら。

とはいえ、いい加減誰も彼もが彼女を愛でるばかりで甘やかし傾向にあったのも確か。いや、甘やかしてるというと語弊があるかもしれませんけれど、エイヴリルに対して突っ込んで何かを強く言う人がいなかったのも間違いなかったんですよね。エイヴリルの自分に対しての頑なさ、生来の扱いに端を発した自己評価の低さを基準にした思い込みや、人からの言葉の解釈を自分の都合の良いように……いや、都合は良くないんだけれど、自己評価を基準にしたものに勝手に変換して解釈してしまいがちだった部分、公爵家の人たちはそういうエイヴリルのネガティブな部分も今までの境遇に端を発したものだから、ここでの生活で徐々に変えていったらいい、自分たちが埋めてあげられていけばいい、という感じで受け入れて長いスパンで補正していけたら、みたいに考えていたっぽいんですよね。
旦那さんのディランも、自分のエイヴリルに対する想いを伝える言葉がそのまま通じない事を理解したうえで、いつか届くようになればいいくらいの結構腰を据えた感じで構えてる印象だったんですよね。
だから、エイヴリルの実家から一緒についてきたメイドのキャロルが、ビシッとちゃんと夫の心からの言葉を受け止めてあげないのは、旦那様が可哀想でしょう、とエイヴリルを叱ってくれたのは大変ありがたいことでした。意外とエイヴリルの周りには、こうやって叱ってくれるような人っていなかったでしょうし。
徹底して虐げてくる、人間扱いしないような家族か。逆に力を尽くして庇ってくれる使用人たちか、の両極端だったみたいですし、公爵家に嫁いできてからもわりとみんなエイヴリルの事を肯定してくれるか、真実を汲んでくれて勝手に助けてくれる人たちが大半でしたし。
キャロルに真っ向から叱られて、ようやくエイヴリルもディランをはじめとした自分を受け入れてくれた人たちに、真正面から向き合えるようになった気がします。

しかし、あの義妹はガチのろくでなしで頭わるいバカ娘だったんですけれど、王太子の婚約者さまとなったアレクサンドラ嬢にメイドとして引き取られたのは、やらかしのわりには随分優しい待遇だったんじゃないでしょうか。結婚式でエイヴリルを監禁して入れ替わりを図るとか、追放ですら甘いことやらかしてる気がするんですが。
これ。やる気のないバカな無能を教育しないといけなくなったアレクサンドラ嬢の使用人たちがちょいと可哀想な気もします。
キャロルが家族のもとに戻っちゃったのはちと残念でしたね。個人的には、エイヴリルにはズケズケと遠慮ない物言いが出来る人が身近に一人くらい居ても良さそうにも思ったのですが。いわゆるツッコミ役としてもw