【男子禁制ゲーム世界で俺がやるべき唯一のこと 4 百合の間に挟まる男として転生してしまいました】  端桜 了/hai MF文庫J

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絶対に百合にはなり得ない、新感覚の学園バトル&ラブコメ第4弾!

寮長ミュールが誘拐された――冒険者として行方不明者の捜索に当たっていた俺、ヒイロのもとにそんな情報がもたらされる。
どうやら犯人の正体は、俺の命を狙う三条家の一味と魔神教フェアレディ派の混合勢力。
仲間たちと敵のアジトに潜入し、妹を餌に誘い出されたクリスの姿を認めた俺は、奇襲をかけてミュール奪還に成功した……かに思えた。しかしその直後、精神に干渉する「夢畏施の魔眼」を操る魔人、烙禮のフェアレディが復活してしまう。
「さぁ、夢限の格子においでなさい」
残酷で甘美なフェアレディの「夢」に囚われた俺とクリスの運命は――!?

クリス・エッセ・アイズベルト、3巻に引き続いて4巻でも表紙を飾る連続登板だ!
そりゃそうだよね、この4巻で描かれるエピソードは、まさにクリスメインヒロイン回だ。彼女、ゲーム本編では殆どが憎らしい敵方のまま死んでしまうか、生き残っても改心せずに憎まれ役なのでサブヒロインですらないんですよね。
ちなみに、スノウに緋墨というヒイロの線引してる内側に入り込んじゃっている二人も、そもそもゲーム本編では存在している事すら不明なくらいのキャラクターなんだよなあ。

2巻で長女の死を発端にして拗れに拗れきってしまった三女ミュールと次女クリスというアイズベルト家の姉妹の仲を、本来お互いに誰よりも慈しみ合っていた姉妹の破綻と破滅を体を張って撚り戻してみせたヒイロでしたけれど。
実のところこの段階では、ついに姉が振り向いてくれて自分とちゃんと向き合ってくれて、閉じ込めてしまっていた愛情を取り戻してくれた事でミュールの方は救われていたんだけれど、肝心のクリスの方は心の弱さに負けて誰よりも守ろうとしていた愛する妹を虐げていた事実を……ずっと自分で自分の傷口をミュールを罵倒し踏みにじることで広げ続けていた事を自覚して、罪悪感と自分への失望や怒りにのたうち回り、いまだ傷は痛み続けていたわけだ。
ミュールはその光で、クリスが自分を守るために見に付けていた鎧を粉々に打ち砕いてみせた。でもだからこそ、今のむき出しで無防備なクリスにとってミュールの光はあまりに強く眩しい。彼女の光は、それだけ今までの自分の罪を曝け出し照らし出す。それはクリスの後悔を浮き彫りにしていく。
ミュールは自分のできる最大限を使って自縄自縛に陥り妹を傷つけることで己も傷つけていたクリスを救ったんだろうけれど、そのミュールにこれから支えられてこれから姉妹の仲を取り戻していくのだろうけれど、それはクリスにとって自分の罪を見続けることにも繋がるわけだ。
苦しかろう、辛かろう。それは必然の罰であり禊であろうけれども、クリスが罪悪感も後悔も抱かない、自己否定を助長しない、無防備に純粋に寄りかかれる、支えてもらえる相手が居たっていいじゃない。
クリスとミュールの姉妹百合に、何の曇りも痛みも辛さも伴わないように、クリスの心をもっと救える者が居たっていいじゃない。
居たんだよ、ここに。対等で、衒いもせずにぶち当たれて、本音をさらけ出せて、自分を守る鎧を脱いで抱きしめら抱きしめ返してくれる相手が。
愛してくれて、愛することの出来る相手が。

いや、本来それは起こり得ないはずだったんですけれどね。少なくともその男は、どれほど百合という関係を状態を絆を愛でて貴び尊んだとしても、その百合の間に少しでも挟まるような真似は絶対に避ける百合絶対至上主義者。
そんな彼が、一人の女性を男して愛するのは真理に反する、その男の生きざまに反する、その男の信仰に反する。
でも、彼はそれが泡沫の夢として消えるものだと承知していたからとはいえ、本気で男として愛する事を選んだのだ。一人の男として愛されることを受け入れたのだ。

それは魔人フェアレディの作り出した夢の中。「主人公」であるフェアレディの自己愛によって形成され、その思うがままに成立する世界。そんな中で、偽のミュールによる偽りの姉妹百合の沼に引きずり込まれそうになるクリスを救うために、魔人フェアレディを倒すために、三条燈色はクリス・エッセ・アイズベルトと恋人に……なるのだ!!
ここ、ここですよ、ここでヒイロってマジのガチで自己催眠紛いのこともして、本当に本気でクリスと恋人になるんですよ。フェアレディの世界という現からハズレた時間感覚もなにも曖昧な空間だからこそ、振りだったはずの恋人という関係は加速度的に本物の色を帯びていく。
あのヒイロが真面目にガチで、百合の方向へといなしたり捻じ曲げたりせずに、真っ向から本気の愛の甘い言葉を女性当人に向かって囁くのは、実際ここだけなんじゃないだろうか。
フェアレディの世界から抜け出せば記憶が消えるはず、という前提だからこそ、というのもあるんだけれど、現実と夢があやふやな世界だからこそ、本気で恋人として振る舞えば振る舞うほどにそれは魂そのものへと刻まれていってしまう。
「お前を泣かせたやつをぶちのめしに行くんだよ」
なんて言われてみなさいよ。どう考えても君がとどめ刺しまくってるんだよ、ヒイロくんよ。
後悔を乗り越えて、暗闇にうずくまる自分を立ち上がらせて、彼女は妹が望んだ本物の主人公になる。それこそが、クリスの呪縛の終焉、彼女が本当の意味で救われる、立って歩き出せる、ミュールを守れる姉になる最後の一歩。
ヒイロが信じてくれる限り、一緒に歩んでくれる限り、彼女は姉として、もう一度主人公になれる。
このラストシーン、イメージが完全に一生添い遂げることを誓い合うプロポーズだったんですよね。
百合に挟まるんじゃなくて、ミュールを間に挟んで手を繋いでずっと歩んでいくような。
世界の果てで愛を叫ぶ二人。これもう完全にクリスがメインヒロイン以外のなにものでもないだろう、という他ない熱い熱いフェアレディ決戦でありました。
実際問題、ガチ家内のスノウにガチ嫁の緋墨を上回る勢いの「ガチ彼女」が爆誕してしまうんだよなあ。

しかも、未だアイズベルト一家解放編は終わらず続くのだ。こうしてみると、アイズベルト一家ってめちゃくちゃ物語内の比重が重いよなあ。
そして、もういつの間にか完全に相棒枠として以心伝心にすら見えるアルスハリヤである。ここぞという決める場面で、ヒイロがアルスハリヤの名を叫び、それに応えるアルスハリヤのコンビ感、ちょっとたまんないんですよねえ。
にも関わらず、ヒイロがアルスハリヤをガチで憎み呪っているのはなんか笑ってしまう。フェアレディを前にアルスハリヤに向けて憤怒と憎悪を吐き出すヒイロ、あれアルスハリヤの存在を隠すという建前放り投げてガチ本気でしたもんねえ。
それなのに、誰よりもアルスハリヤを信頼しているし、信用していないのになぜかアルスハリヤのアドバイスは疑わずに従ってしまう(そして百合が破壊される)、この意味不明な関係の相棒関係ほんとなんか好きなんですわ。
さらに、さらっとサブキャラ枠であり続けるのに何気に重要というか、表パートでずっとヒイロのサポート役みたいに近い位置に居続けることになる委員長が、挿絵でも描かれて嬉しい。
スノウは相変わらず内助の功というか、仕方ないですねえ、と何もかも分かったうえで受け入れてくれるような包容感が素晴らしいですし、緋墨のばーんと背中叩いて送り出してくれるような全部わかってるよ、というちょっと幼馴染感すらある嫁っぷりがまた素晴らしい。
ここにクリスが加わることで、もういい加減ヒイロも百合に逃げられないヒロインが揃ってきて、ラブコメ濃度がやばい事になってきてるんですよね。ヒイロ自身もかなり百合本能を踏み越えてぐらつかされる場面も増えてきて墜ちかける事も増えて、つまり甘酸っぱくキュンキュンさせられるシーンも増大してくるだけに、ラブコメ方向からも手がつけられなくなるのが、もう楽しみです。
そして燃えに燃える三寮戦は今度こそ次になるのか? あの激戦はほんとに見どころばっかりで脳焼かれるので、がっつり読みたいことこの上なしですわ。