【あと1ヶ月で転校する僕の青春ラブコメ】  絵戸太郎/雪丸ぬん MF文庫J

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「もっと軽い感じに転校したい、って思ってるでしょ? 後悔するよ、それ」

四月。クラス委員長の誠治は急に転校が決まったことをクラスメイトたちになかなか言い出せずにいる。そんな誠治のクラスに遅れてやってきた転入生は、偶然にも幼馴染の悠乃だった。小学校以来となる突然の再会に仲間たちと盛り上がり――ついでに転校することが悠乃にバレてしまう。
「内緒にしておいてくれ」「ごめん、私、やっちゃったかも……」
「!!!!!」……詰んだ。
その結果、誠治の予想以上に周囲の反応が変わっていき……!
これは、転校まであと1ヶ月を切った僕に巻き起こる、刺激的な“青春ラブコメディ”!

超お久しぶりの絵戸太郎さんの完全オリジナル新作だーっ。デビュー作の【境域のアルスマグナ】以来じゃないですか。
自分、あのシリーズは絶対にMF文庫の看板になる!と思ったくらい滅茶苦茶面白かったんだけどなあ。
それ以降、一度ノベライズを手掛けたくらいで音沙汰なく5年半。
こうして直球の青春モノを携えて帰ってきてくれるとは。嬉しい限りであります。

でも、直球とは言ったけれどこれ、ストレートでありつつボールが揺れまくるムービングファストボールさながらじゃないですかい?
まずもって、これは主人公が一身上の都合から生まれたときから暮らしていた慣れ親しんだ街を離れて、引っ越す話である。子どもの頃からの友達、幼馴染たちに別れを告げて転校するまでのお話である。
それでいて、子供の頃に転校していってしまった幼馴染の少女が、一身上の都合からこの街に帰ってきて、同じ学校に転校してきて同じクラスになる、という再会の物語でもあるのだ。
まさに転校と転校のクロスカウンター。再会と別れのタップダンスだ。
この設定だけでも面白いのに、作中でもこの再会と別れ、というか転校してきた者と転校する者。幼い頃からお互いよく知っている幼馴染であり、しかし違う街でそれぞれに違う時間を過ごしてきた者同士という要素が見事に物語の本筋に大きな意味をもたせ、構成を彩っているんですよ。正直、すげえなあとちょっとあっけにとられたくらい。
それでいて大仰に構えた構成です、というどでかい顔して存在感を見せているわけじゃなくて、自然にコロコロと転がっている高校生たちのお話に、心情に沈んでいてあんまり目立たず寄り添ってる感じなんですよね。
この自然な感じは、いわゆる青春の青さにも感じられるんですよね。
正直自分、青春しているぜーっ、と全力でキラキラと主張するような青臭さって苦手な部類なんですよね。
転校する友達に対して、思い出づくりのイベントごとをみんなで企画して盛り上げて、盛大に感動的に送り出してやろう、なんてのは本来ちょっとついていけないなあ、という気分になる展開なんですよ。そうやってキラキラした感動的なイベントをやってやることが大正義、みんな喜ぶに決まっている、一生の思い出になるんだから、というの……なんか押し付けがましく感じる、というんでしょうかね。
積極的な好意善意をしんどく感じてしまうというのかなんなのか。
そういう意味では、誠治が薄っすらと思っていただろう「もっと軽い感じに転校したい、って思ってるでしょ? 」という悠乃の指摘は、さもあらん、そうだろうなあと思える心情だったんですよ。
彼女の指摘する誠治の転校するにあたっての心境は、転校の当事者が思うだろう気持ちとしては物凄く理解できて納得できて、共感すら抱けて。
でも、それを悠乃は「後悔するよっ!」とさらにぶっ刺してきた。
転校という出来事を直前に経験してきたからこその、経験者の言葉の説得力ですよ。上から目線の押し付けがましい善意じゃなくて、同じ立場に立って寄り添ってくれたからこその言葉の実感ですよ。
勿論、それだけで誠治も安易には悠乃のアルバム作ろうという提案を受け入れられないんだけれど。
なんていうんでしょうね、別れをイベントとして消費してはいさよなら、じゃない。お別れというものに対して、誠治も友達や幼馴染たちもちゃんと向き合う心構えみたいなものを、悠乃は作り出してくれた感じがあるんですよね。
これは、転校生だからこそ。そして転校生でありながらも、子供時代を共有していた親しい幼馴染というダブルの要素を持った悠乃でなければなかなか成せない役割だったように思うんですよね。
お別れに際して、心を整理して区切りをつけるためのイベントでもない。
悠乃自身、昔引っ越しして転校してしまったあと、今の誠治たち幼馴染とは一度もう疎遠になっちゃってたわけですよ。それが今、こうして転校してきたら、最初はどう接したらいいかわからない戸惑いがあり、ぎこちなさがあり、遠慮があり、出会ったら一瞬で昔の通りの距離感に戻れました、なんて風にはいかないリアリティがありつつも。でも、ぎこちなさや微妙な空気感を堪えて一緒の時間を過ごしていたら、昔みたいに家に集まって遊んだら、いくつもいくつも共有している思い出があふれてきて、ちょっとした部屋の様子や小物なんかから話がはずんで、一緒に昔のゲームなんかで遊んで盛り上がっていたら、遠慮や戸惑いはいつの間にか払拭されていて。
そう、ちゃんと昔みたいな幼馴染に戻れていた。
一度離れてしまっても、別れてしまっても、こうして昔みたいに戻れる。それを、悠乃は誠治が転校して去っていってしまう前に、その身をもって実証してたんですよね。
そして、昔の共有した思い出というのは、どれだけ時間が流れてもお互いをもう一度結びつけてくれる鎹になってくれる、というのも実証していたわけだ。
悠乃が誠治の転校の事実を知ってから訴えかけたアルバムを作ろうって提案。単なるお別れイベントじゃない。区切りをつけるものじゃなくて、むしろこれから先もずっと繋がりを切らさないためのものなんだ、というのがわかってくるんですよ。
過去と今を繋いで、今と未来を橋渡しするためのものとして。

親を通じて悠乃にバレてしまった誠治の1ヶ月後の転校。それは、悠乃がパニクって他の幼馴染たちに確認して回ってしまったために、一瞬にして広まってしまったわけだけれど。
それをきっかけにして、誠治も幼馴染たちもクラスメイトたちも学校の友人先輩たちも、ずっと一緒にいた友達が遠くに行ってしまう…別れという事実にちゃんと向き合うことになる。
いつも一緒にいた人の喪失が、自分にとって何をもたらすのか、をじっくりと考える時間を得たことにもなるんですね。
そして、アルバムづくりのための作業は、今までの自分たちの軌跡を振り返ることにも繋がり、当たり前だと思っていた今までの関係を、もう一度ちゃんと噛み締め振り返るきっかけにもなっている。
このへんの描き方、とても自然で無理矢理感がなくて、登場人物たちの心情的にも感情的にあっぷあっぷしながらも地に足がついた、それぞれに考える時間があって、なんか凄く柔らかくも味わいぶかかったんですよね。

そうやって悠乃がもたらしてくれた、なあなあで自然消滅させないというみんなのやる気は、誠治の泣かされた分そのまま逆に一発かまさないと気がすまないといういい意味での仕返しの意気も相まって、悠乃にも戻って来るんですね。これ、還元されるとでも言ったらいいんだろうか。
誠治に活を入れる理由にもなった悠乃の引きずる後悔を晴らす形で、前の彼女の学校の部活仲間、友人たちとのお別れをやり直す機会を、誠治がガンガン動いて作ることになるんですよね。
これも一方的に押し付ける形での再会だったら悠乃の心が追いつかなくて、気まずいまま余計に縁が切れてしまう形になりかねないけれど、悠乃の側が誠治に発破をかける原動力として自分の中の後悔をしっかり自覚し言語化し具体化したうえで、君は自分みたいなそれをやっちゃダメだよ、とまで言って彼女自身が積極的に動いていたこともあって、もうちゃんと自分の後悔と向き合っていたから。
誠治たちの好意であり逆襲であるそれを、もう受け止められる下地が構築されてたんですよね。
その上、悠乃と元の学校の子らとの再会という事例が、転校したことで縁が切れてしまうわけじゃない。いつだってすぐに立ってまた会える、という事実を誠治の転向前に実証してみせたことになるわけで。
今こうして、誠治と幼馴染たちがクラスメイトや先輩たちにも手伝ってもらってアルバム作ろうとして奔走していることが、お別れのための儀式なんかじゃなくて、離れ離れになってもまたいつでも会えるし、幼馴染であり続ける。生涯、屈託なく笑って付き合える友達付き合いになれるんじゃないかなあ、という実感を形にしていくためのイベント、イベントというとなんか感触が違うかもしれないんだけれど、出来事?過程?
ともかく、もっともっと大人になっても先に繋いでいくための大事なプロセスみたいになっていってるのが、凄くいいなあ、素敵だなあと感じられたんですよね。
僅か一ヶ月の、でもとても濃密な時間。幼馴染という元からの関係はあったにせよ、悠乃にとってはアウェイだったはずの転校先が、あっという間に慣れ親しみ大切な場所になってしまったほどの、本当に濃厚な時間だし、これまでずっと一緒だったはずの千亜希と翔との関係も、ずっと変わらないからこそぼんやりと曖昧で空気みたいで、それで思いっきり良かったはずの関係なんだけれど、この濃密な時間の中で鮮明化していく部分があって。
さらに、中学時代からの友人で生徒会仲間だった文学エルフこと真木アイリですよ。
タイミングが悪かったというか誠治が気が利かなかったというべきか。誠治の転校を直接ではなく人伝に、それも一週間くらい遅れたタイミングで知ってしまった彼女の怒髪天。
これ、アイリさんほんとどういう心境ゆえの行動だったんですかね? 怒り?発奮?
なにはともあれ、この時にアイリが一発あの不義理な男に一発かましてやる、とばかりに変身した中でのヘアサロンでの美容師さんへのあのオーダーですよ。
あれはひっくり返った。イカすどころじゃない女のプライドを漲らせたようなあのキレッキレのオーダーは格好良すぎて昇天するかと思いましたよ。ほんと、こっちが腰抜かすかと思った。

そうして濃密で濃厚で夢中になって積み上げていく時間が、お互いの関係がより親密になっていく時間が、皮肉なことに余計に別れへの寂しさを募らせていく。
そのまま転校を迎えていれば、ほんのちょっとの時間すれ違った、再会できて嬉しかった昔仲が良くてもう一度仲良く慣れた幼馴染との寂しい別れ、で済んだはずだったかもしれないのに。
濃密な時間が、共有した時間の少ない幼馴染という関係を、別れを前提とした関係をどんどんと掛け替えのないものにしてしまっている。

まだアルバム作成も途中で、しかも小さい子供時代の写真を今同じ構図で再現しよう、なんて要素も盛り込んでいることから、昔の思い出を掘り起こす話にもなっていて、そこに誰だか誰も覚えていない一緒に遊んでいたっぽい子供の姿が映った写真から、果たしてこれは誰なんだろうという人探しの様子なんかも加わってきて、物語としても青春モノとしても学園モノとしてもとても濃厚かつ活発で明るくも情緒を揺さぶってくれるお話で、彼らのお別れがどんな形を迎えるのか、それが気になっても仕方がない、つまるところとても面白い、ほんとに面白いウキウキさせてくれる作品でした。
いやー、これは続きが気になる気になる。

絵戸太郎・作品感想