【俺の背徳メシをおねだりせずにいられない、お隣のトップアイドルさま】 及川 輝新／緋月 ひぐれ MF文庫J
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第19回MF文庫Jライトノベル新人賞「優秀賞」の《メシ堕ち》ラブコメ!
“おせっかい”な高校生・真守鈴文はお腹を空かせて倒れていたマンションの隣人を助ける。
その正体は人気絶頂の女子高生アイドル・有須優月だった!
理想のアイドルでいるため、過度な食事制限をしていた優月。
だが心配した鈴文が手料理をふるまうと、
「……はああああああああああああっっ!」
「もう、無理ぃっ……!」
と幸せいっぱいの顔で完食! その食べっぷりに恋をした鈴文は、優月の大好物で誘惑して《メシ堕ち》させることを決意する。
豚丼、ラーメン、お好み焼き!
「ぜったい食べない!」と言いながら、優月は今日も鈴文のメシを欲しがってしまう──。
ちょっと特別なお隣さんのお腹とハートを掴む、メシ堕ちラブコメ!
アイドルさまが屈しておられる。
そりゃ空腹で倒れるくらいにお腹空かせているところに、ひたすら食い気を誘う視覚的にも嗅覚的にも暴力的とすら言えるスタミナ豚丼卵乗せとか眼の前で作られて、食べてどうぞと出されたら、食べますよそりゃ。世界の真理ですよ、それもう。
にしても、身体が資本のアイドルさまに対して、カロリー調整を完膚なきまでに無視したメシばかりチョイスしやがって、この主人公鬼畜である。タイトルに背徳メシなんて単語を出してしまうのも仕方のないくらい、あとで後悔するやつぅぅ！！
だが、食っているときにこれほど幸せな気持ちになれるのは、背徳メシならではなんですよね。おまけに、倒れるほどに節制してしまっている身にとっては、魂にまで染み込むような美味さでありましょう。
とはいえ、それでも相手がアイドルだと考えたら、料理作る方もある程度相手の事情とか忖度しちゃいますよね。色々と気を遣って体型の維持とか体重調整なんかに響かないようなメニューを考えてあげたり、とかしちゃいますよね。
だがしない！ この主人公の鈴文はそんな真似はしない！
なぜならば、彼は決してこのアイドル・有須優月のファンではないからだ。彼女のアイドル活動をサポートするために、プライベートでマネージメントをしようとしているわけじゃない。私生活をサポートすることで、お世話してあげることで彼女がよりアイドルに集中できるように、とそういう目論見からご飯を食べさせてあげているわけじゃないんです。
ただ、この女を。一目惚れしてしまった佐々木優月という一人の女の子を、自分のメシで惚けさせ蕩けさせ満腹感と幸福感で満たしてあげたいという欲望に殉じているだけなのだ。
堕ちろ、堕落しろ、我がメシに陥落しろ〜〜、とばかりに。
別に、アイドル活動の邪魔をしてるわけじゃないんですよね。アイドルとしてキラキラ輝き、目指す夢のために邁進する優月の事を心から応援しているのは間違いない。でも、そんな彼にとって彼女はアイドル以前に好きになった女の子だ。優先すべきは別にある。
この主人公、鈴文が料理を嗜むようになったのにはそれこそ大きく「家族の事情」というものがある。
端的にまとめるなら、ブラック企業勤めで擦り切れてしまった父のために、幼いながらも努力して一生懸命いろんな料理を作って食べさせてあげているうちに、父親のメンタルが回復してくれた上に、息子の料理と自分のために奮闘してくれたという愛情に感化されて、その後の父の人生にも大きな影響を与えたのである。
いやなかなかないですよ。子が親に影響を受けて、同じような生き方を目指すというのは決して珍しいことではないかもしれませんけれど、ここの場合、息子の行いに父親は感激して息子の想いに習いたいと、会社をきっぱりやめて居酒屋をはじめるわけですよ。メシで客を喜ばせてあげたい、息子に味わわせてもらったこの感動を他の人にも分けてあげたい、という心意気で。
お父さん、そしてそれを手伝うお母さん、両親の新しく歩もうとする人生に息子が先達として影響を与えたんですよねえ。
この鈴文はそれだけじゃなく、色々あって引きこもってしまった隣人の幼馴染のお姉さんに対しても、通い妻よろしく甲斐甲斐しく通ってご飯食べさせて上げ続けて、彼女の停止してしまっていた人生を彼の料理で動かしてみせたわけだ。
彼の料理って、本当に傷ついた心を癒やして、心の飢えまで満たしてくれる料理なんですよ。
一方で、カロリー爆弾ではあるんですが。欲望最優先で、健康とか一切考えない濃いめ料理なのですが。
鈴文自身、一目惚れしてしまった優月の助けになりたい、という想いもあったようですけれど、それ以上にあまりにも完璧なアイドル像を目指し自分を追い込みすぎて心身に軋みを生じてしまっていた優月の様子を目の当たりにして、かなりショック受けてるんです。
かつての父の様子を思い出した、というのもあったのでしょう。
そこに必死さや伏した怒りめいたものすら抱えながら、優月をもうあんな状態にはさせない、という前のめりさでカノジョにメシを食わすべくあれこれと手を尽くしていくんですよね。
メシの暴力で、殴る殴る殴る。もうやめてっ、勘弁して、と泣いても喚いてもイヤイヤしても許すこと無く、眼の前で食ったら太るであろう事間違いなしの暴力的料理を、美味いぞー幸せな気持ちになれるぞー、と差し出すのである。鬼畜以外のなにものでもない。
そして、アイドル様の見事な堕ちっぷりである。
この娘、アイドル稼業よりグルメリポーターの方が天職だろ。本能のまま叫ぶ食いながらのレポートが、まさに聞いてるだけでこれ絶対美味いやつぅぅぅ！ になってしまう表現力と勢いと嬌声なんですよねえ。ってか、無意識にめっちゃ語ってるよ、このアイドル。メシ食いながらメシについて語りまくるアイドル。
まあ餌付けされてる、とかメシに釣られている、というわけじゃないと思うんだけれど、かなり最初から優月さん、お隣さんになった鈴文に対して心開いちゃうんですよね。
あくまでアイドルとして、この隣人を屈服させたい優月なのですけれど、わりと初期からそれはもうアイドルがファン候補生に対してしていいスキンシップじゃねえだろう、という距離感にハマっちゃってましたしねえ。
アイドルはファンにお腹、素肌で触らせてあげたりしないから！ それ以前に、自室で水着姿の個人鑑賞会お触りつき、とかさせないから。
徹底して、自分を完膚なきまでのアイドル・有須優月に塗りつぶそうとしている真っ最中だった優月にとって、アイドルじゃない女の子としての自分を優先する鈴文という存在を、メシに屈して彼女は肯定してしまい、受け入れてしまった。それはメシを食べさせてくれるお世話係として、ではなく普通の女の子の自分を心配してくれて、気遣ってくれて、忘れないでいてくれる人として。
彼は色んな意味で、優月の特別になっていく、加速度的に。
だからこそ、アイドルとしての自分にブレを感じて、一時期迷走してしまうのですけれど。
そしてそれで、一度自分を分割して切り捨てて、より純度の高い完璧なアイドルになろうとしてしまうんですよね。それはイコール、ポテンシャルそのものを削減してしまう形になるのに気づかないまま。
なんのためにアイドルになりたかったのか。アイドルになりたい、というのは彼女にとって最大の欲望だったはずで、しかしそれを叶えるためにそれ以外のすべての欲望を切り捨てようとしたことで、アイドルになりたいという欲望までがすり減りはじめてたんでしょうね。欲望そのものが栄養失調になりかけてた。
それはそれとして、そんな状態のカノジョをわからせてわからせて、トドメに鈴文のご飯食べさせてくださいっ、とわざわざ言わさせる主人公、鬼畜である。
飢え乾いたアイドルに、あーんさせてその開いた口に自分の作ったメシを放り込む。そうか、これはシチュエーションによって誓いの口づけにもなるシチュエーションなんだなあ。
これもまた、この世の悦楽の極みの一つよなあ、と叡智を感じる今日このごろでありました。
あと、担当イラストレーターさんの数々のメシに堕ちたるアイドルのメシ堕ち顔は、どれも堕ちとるっ！という感じが嫌と言うほど出ている法悦顔で、素晴らしいものばかりでした。やりおるわｗ
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
