【陰キャだった俺の青春リベンジ 6 天使すぎるあの娘と歩むReライフ】  慶野 由志/たん旦 角川スニーカー文庫

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タイムリープ青春リベンジラブコメ堂々完結!

タイムリープで高校二年生に戻った元社畜・新浜心一郎。
家族関係、勉学、学校生活。社畜力全開で取り組んだ二度目の青春はなにもかも充実していた。

何より一番の変化は憧れの美少女・春華と親しくなったこと。
誕生日パーティの月明かりの下、新浜に心からの感謝を告げた春華は突如その場で倒れこんだ。

原因不明の抜け殻のようになった春華は、うわごとでこの時代にはないはずの「スマホ」という単語を口にして――
新浜は春華を助けるため、あのブラックな未来へと戻る決意をする。

どんな困難もどんな運命も、必ず乗り越えてハッピーエンドを勝ち取ってみせる。
タイムリープ青春ラブコメ堂々完結!


これが! ハッピーエンド! 渾身の大団円だ喰らえーーっ!
と助走をつけてクリティカルスマッシュをぶち込んでくるような最終巻でありました。
……なに? 完結編だけど、おまけの7巻も出るだと!? 終いのトドメまで刺しにきやがった。こんなもん、文句のつけようがねえッッッ。
いや本当に近年稀に見る真正面からぶち抜いて見せる満了のハッピーエンドでありましたよ。
特筆スべきはタイムリープものだと通常捨て置かれがちになる、元居た時間軸……分岐した世界線の方まで悲惨な末路をひっくり返してみせたことであります。
春華が友達が誰も出来ない灰色の青春時代を送り、社会に出たあとも勤めた会社で苛烈な虐めにあった末に精神崩壊して自殺してしまった世界線。
新浜心一郎が何もしない灰色の青春時代を送り、ブラック企業勤めで心身まで社畜に成り果て、母を心労で死なせ、妹と絶縁し、自身も身体を壊した末に死んでしまった時間軸。
それは新浜くんが高校時代に戻り、そこで春華と友だちになり、全力で彩りある青春時代を掴み取った事で本来ならもう現れることのない未来だったはずでした。
でも時間SFものらしく、それはやり直しによって消滅する未来じゃなくて、やり直しによって分岐した事で別の未来が生まれて、しかし本来の時間軸は二人とその家族が救われぬまま残ってしまっていたんですね。
多分、このまま何事もなく話が進んでも、春華と新浜くんはハッピーエンドを迎えられたのでしょう。でも、そうはならなかった。
分岐し切り離されたはずの世界線から逆流してきた向こうの世界の自分の記憶が、痛みが、悲鳴が、春華を蝕みカノジョの心を殺してしまった。

ここで試されたのが、新浜くんの愛と勇気なんですよね。
春華の事を抜きにしても、この新しい過去で彼は母と妹との関係を損なわず、それどころか以前以上に家族として良い関係を築くことが出来ている。学校でも旧友だけじゃない新しい友達も出来て、とても充実した素晴らしい学校生活を送れている。きっと未来も順風満帆でしょう。
でも、そこに春華はいない。
感覚的に、今の春華を救うためには自分はあの暗黒の世界線に戻らなくてはならないと悟ったとき、彼は同時に理解したはずなのです。
春華を救うためには、ようやく取り戻せたこの「今」を捨てなくてはいけないかもしれない。もうこの世界線には戻れないかもしれない、ということに。
あの絶望の世界に立ち戻り、この幸せに満ちた今と、家族と別れなければならないかもしれない。絶望の味を覚えているほどに、それがどれほど恐ろしいことか否応なく身に沁みてわかっているでしょう。嫌でしょう、怖いでしょう、怯え竦み震えてやまないことだったでしょう。
でも、彼は震えながらも微塵も迷いませんでした。春華のために、春華を救うためならば、彼に迷う余地など一切存在しなかったのです。
これを愛と呼ばずしてなんという。

そうして再び、あの社畜世界線へと立ち戻った新浜くん。戻った地点は春華がすでに自殺していない、母も心労で亡くなり、自分もまた身体を壊して死ぬことになったあの絶望地点、ではなくまだ取り返しのつく新浜デッドラインの数年前でありました。
これ、春華血族の運命力半端ないですよね。力を継いだ春華を幸せにするためならば、ここまで鍵となる新浜くんをここぞという時間に放り込めるんだから。
逆に言うと、タイムリープなんて法外の手段を繰り返し使わないと、しかも執行そのものは新浜くんという外部の人間に丸投げして託さないといけないくらい、春華のバッドエンドは揺るがしがたかったわけだ。まあ、春華ママの方も時宗さんに全賭けして託す、みたいな形になっていたので、運命力はそもそもそういうものっぽいんだけれど。

ここで未来に戻った新浜くんが、これまでこの未来で培った社畜力をふんだんに用いて新たな高校時代を別物へと変えていったのとは逆に。
今度はその高校時代で培った若さと勇気と経験と確かな愛で、かつてはどうにもならないと諦め受け入れていたものを、なんてことはないようにぶち破っていく、強くてニューゲームならぬ、強くてニューゲームして帰ってきたウルトラマンみたいになっていたのは、なんとも痛快でありました。
いや、一応この未来も新浜くんのたどった時間からすると過去にあたるので、強くてニューゲーム2くらいにはなるのかもしれませんけれど。
でも、死んだ時からダイレクトにこの6巻の時点に戻ったとしても、彼は何も出来ないまま同じ事を繰り返すことになっていたでしょうから、つまるところ大事なのは春華との時間であり、愛だったのでしょう。
そうして未来で再会した春華は、過去を繰り返した新浜くんと違って、青春時代のトラウマを抱えたまま。自分を肯定できない自分、自分の価値を認められない自分を抱えたまま、大人になっても余計に苦しみを痛みにまで昇華させてしまいながら、その痛みに耐え続けることが大人になること、自分を肯定できるようになるために必要な儀礼だと思いこんで、耐えて耐えて、そして壊れかけている。
彼女に必要だったのは、家柄に関係なく、紫条院という素晴らしい家、素晴らしい両親とは関係なく春華という個人を見てくれる、それも見た目上辺じゃない、本当の自分を認めてくれる、肯定してくれる、受け入れてくれる……一心に見てくれる存在だった。そして、それが新浜くんであり、運命力が連れてきた二周目の時間軸を経験した彼は、まさにその役目を果たすに足る経験と勇気と、何より春華への愛を蓄えた決定打であり、ラストエリクサーだったんですね。

そうして、大人時代でも新浜くんは、なかなかに頑なな春華を相手に奔走して、破滅するはずだったこの時間軸での自分たちをも救います。それだけでも文句なし以上のハッピーエンドなんですけれど、この未来の自分と新浜くんの行動を、意識を失っていた過去の春華も薄っすらと認識して見ていた、というのが結構重要なポイントなんですよね。
誰にも知られるはずのない、新浜心一郎という青年の尽力を、奮闘を、勇気と愛を、未来の自分をも救ってくれたことを、過去の自分を救いに来てくれたことを、春華だけはこうして全部見届け理解したわけですよ。
これ、大事よ。好きな人に自分の頑張りを全部わかってもらえるって、これほど報われることはないですし、春華からしても、これたまんないですよ。
新浜くんが元の未来の時間軸に戻らなくても二人はゲージ満タン溢れんばかりのハッピーエンドを迎えられたでしょうけれど、こんなんもうゲージから溢れに溢れて幸せで溺死しそうなくらい、両者ともに想い極まるハッピーエンドじゃないですか。

ちゃんと、春華が目を覚ましてから本当の恋人同士になり、落ち着いて学校でみんなにバレてというか報告して、デートしてまでをしっかりじっくり描いてから……あと、お義父さんとなる時宗さんにギギギと歯ぎしりされながら殺意突き刺されながらも、春華との仲を認められるシーンまで描く丁寧さですよ。
想い結ばれたことをじっくり味わったうえでの、あの未来とは違う未来でのハッピーウエディング。プラスあの未来でも育まれていく大人になった二人の関係。
こんなん文句のつけよう一部の隙もないじゃないですか。大団円、まさに大団円の幕でありました。
これだけ応援してあげたくなる好青年と純真少女のカップルはそうそういませんでしたけれど、これだけ幸せにならなきゃダメなんだよっと思ってしまう二人が、ちゃんと完膚なきまでに幸せになってくれることの多幸感、素晴らしかったです。

もうこれ、この二人に問題が起こるとしたらあとは……娘を奪われる事に新浜くんに対してキレまくっていた娘ラブすぎるお義父さん時宗さんですけれど、貴方実は新浜くんの事気に入っている以上に実は大好きになっちゃってませんか? という見事なツンデレ具合だった時宗さん。
義理の息子好きすぎて新浜くんの事、娘からNTRしはじめないか、という心配くらいである。いや、真面目な話、新浜くん将来時宗さんが社長してる書店会社に勤めるでしょうから、下手すると時宗さんつきっきりで新浜くん連れ回しそうな未来とか想像できるんですよね。高校生の時点で新浜くんの仕事力には惚れ込んでましたから、それこそ、新浜くんが春華といっしょに過ごす時間を上回る勢いでずっと一緒に仕事してる、とかなんかありそう。
何気に新浜くんの方も時宗さんの事、義理の父とかいう以上に親しみ感じてる素振りありましたし、とっと距離感バグってる感じすらありましたし、むしろ春華相手より遠慮なくイチャイチャしてない?という場面も、今まで結構ありましたしねえ。
以前とは逆パターンで春華ママと春華に時宗さんが激詰めされて家族会議!くらいしか、もう問題起こんないんじゃないだろうか。

こうして新浜くんと春華の青春リベンジラブコメは、満了の完結をみたわけですけれど、シリーズ自体はこれで終幕、ではなくおまけの7巻が出るそうです。凄いな、よっぽど人気ないとそんなん出ないぞ。後日談か、はたまたキャラ立ちまくってたサブキャラクターたちの方のお話か、いずれにしても最後まで楽しく幸せな気分にさせてもらえそうで楽しみであります。


慶野由志・作品感想