【悪役令嬢の矜持 3 〜深淵の虚ろより、遥か未来の安寧を。〜】  メアリー=ドゥ/久賀フーナ SQEXノベル

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悪の華(ウェルミィ)の“お戯れ”――未来の女主人を迎える侯爵邸の混乱と事件
社交界の悪の華ウェルミィ・リロウド伯爵令嬢と魔導卿ことエイデス・オルミラージュ侯爵との婚約が発表されてからしばらく。別邸で囲われていたウェルミィがついに本邸に入ることとなり、オルミラージュ侯爵夫人付き侍女の選抜試験の開催が決定した。侯爵邸内外から集められた人々の間では、これ以上ないチャンスを前に使用人としての栄転を望む者、他者を蹴落とそうと目論む者、主人の寵愛を狙う者、さまざまな思惑や噂話が飛び交っていた。ただの伯爵令嬢だった少女はたった一人で貴族の勢力図を傾けるほどの権力を掌握し、今度は侯爵家の女主人になる。今や社交界の誰もが動向を気にする存在であるウェルミィ・リロウド――彼女は一体、何者だ?書き下ろしストーリー「ヘーゼルとミザリ」を収録!


あのエイデスのお屋敷なんだから、上から下までビシッと規律の行き届いた使用人たちが揃っているのかと思ったら、案外とそうでもなくてあまり褒められたものではないレベルや心根の者も居て、これは本当に意外だったんですよね。エイデス、そういう使用人の存在なんて許しそうになかったですし。
ただ、これにはちゃんとした理由があって、ある種の福祉活動の一環でもあったわけだ。
エイデス個人の感傷めいた所以もあるみたいだけれど、これも持ちたるものの奉仕でもあるわけで、なるほどなあ、と。とはいえ、機会と時間を与えた上でその意味を履き違えているものに何時までも無為に与え続けるのはお互いにとっても不幸ですし。まあ色々と他にも理由があったにせよ、侯爵家の女主人となるウェルミィの専属侍女の選抜試験は、その選別ともなっていたようで。
まあその選抜試験に、当のお使えする当人であるところの奥方となる方が正体を偽って参加しちゃう、というのは昨今の令嬢もののあるある展開ですわなあ。そりゃあ、外から見るよりも一旦中に入ってしまった方が内情というのは嫌でも目の当たりに出来ますし、何よりお話として面白い。
と、思ってたら正体隠して参加するの、ウェルミィだけじゃなくて義姉のイオーナもなの!? 姉妹二人で侍女になるの!?
そう言えば、この二人は家族として暮らしている時はウェルミィが悪役として振る舞っていたので、表立って仲良くすることはついぞできなかったんですよね。1巻でようやくウェルミィの偽りの悪役令嬢としての振る舞いを終える事ができて、姉妹が本当の気持ちを表に出して付き合えるようになってからは、できる限り一緒に時間をとっていたみたいだけれど、それぞれ忙しい立場に立たされたこともあり、なかなかゆっくりとは出来なかったはず。
それが今回、身分を隠して侍女として選抜試験に参加することになり、まあ一緒の部屋で暮らし朝から晩まで一緒に仕事するわけですよ。いやまあ仕事場は離れちゃったりもするでしょうけれど、今までになく周りの目も気にせずに姉妹としてべったりいちゃつける時間が出来てしまったわけだ。本当の意味で姉妹水入らずの時間を。
もう少ししたら、二人共結婚してしまい、片や王太子妃であり片や外務卿の侯爵夫人ですからね。ゆっくりと二人きりで時間を過ごすなんてもう出来ないかもしれない。
そういう事もあって、二人共はじめてかもしれない姉妹の時間を堪能していたようで、良かったね、と。これ、旦那さん方ふたりの配慮もあったんでしょうね。ウェルミィだけじゃなくてイオーナまで、となると。本来イオーナ関係ないですし。男連中優しいですのう。
エイデスの方は自分の屋敷でもあるわけですから、新顔の侍女に手を出してイチャついていたようですけれど。浮気呼ばわりされてるw

さても、一応今回のお話の本筋というのは一連の物語からこぼれ落ちてしまった人たち。ウェルミィやイオーラがたどるかもしれなかった末路のその先に今いる人達のお話でもあったそうで。
それが今回、侍女選抜に参加していたヘーゼルとミザリという二人の義姉妹だったんですね。ある意味彼女たちこそがこの巻の主役……だったんですけどね。
彼女たちの壮絶な過去、さらに彼女たちが知らない彼女らを見舞った惨劇と悪意の真実。それらはヘーゼルとミザリが主役たり得るに十分な重さとドラマを抱えた物語ではあったんですけれど、そして彼女らの父と友人であったエイデスが積極的に関わるにも十分な理由のある話ではあったんですけれど。
端的に言うと、肝心のヘーゼルとミザリはこの物語の核心からずっと分け隔てられたままだった感じなんですよね。この家族の真相が二人に伝えるにしても何も生み出さない、より深い哀しみと絶望しか与えないものであったがために、彼女たちに何も伝えないまま片をつけてしまった、という事もあってか、ヘーゼルとミザリ、ついぞ主役にはなり得ないまま、今いる彼女たちの中身が掘り下げられないまま、外縁をたどってたどってハッピーエンドに到着した、って感じなんですよね。
ヘーゼルとミザリのお互いの関係についても、そこまで踏み込まなかった感じですし。心が半壊しているミザリが、それでもヘーゼルに抱いていた感情の複雑ながら純真な思い、とかこれ現状一方通行でこういうミザリの奥のこと、ヘーゼル知らないのがなあ、ちょっと勿体なく感じでしまいました。結局ヘーゼル、いろんなことを本当に何も知らないままでしたし。
今回は、ヘーゼルたちの事のみならず、ちょっと話の焦点がとっ散らかっていて重心というか主軸が不鮮明だった気がします。2巻はあれ、なんかマトリョーシカ人形みたいに、話が進めば進むほど中から新しい真実が現れて、とはなったんですけれど、流れとしては一貫していてわかりやすかったんですよね。
でも今回はあちらこちらに話が飛び散っていて、あっちで真相が明らかになり、こっちで実際の姿が開陳されたり、となんともキョロキョロと見回す感じになってしまいました。
全体的に、次回以降への準備回的な側面もあったのかもしれません。外国の、大公選定にまつわる政治事情なんかが急に話題となって押し寄せてきましたし、それにまつわるあれこれの企みやら影響の波及やらが押し寄せてきたもののそれらには答えが出ず、一方で2巻で仲良くなったカップルたちとの合同結婚式みたいな重大イベントも盛り込まれていて、物語の焦点が合わなかったなあ、と。
一度答えが出た展開に、実はさらに秘められた真実があり、その奥にさらに伏していた本意があり、というのは面白いのですけれど、あんまりやりすぎると一つ一つに重みがなくなっちゃったり、その前段階でのイベントでの攻防はなんだったのかという肩透かしを感じてしまったり、というデメリットもあると思うので、何事もやりすぎはどうかと思うところもあり。登場人物もどんどん増やすのは、自分としてはたくさん色んな人がいるの好きな方なんですけれど、ちょっと一気に出しすぎじゃないかなあ、と感じたり。
せっかく色々と掘り下げてきた2巻の面々も、ズミくんはじめとして今回あんまり出番なくなっちゃってましたしねえ。
結婚式前で、エイデスとウェルミィが改めてイチャつき方の濃度をあげていた、というかウェルミィが腰を据えてエイデスのかなりズブズブになってきている愛情を受け止めるようになってきたの、いい感じでしたけどね。さらにレオとイオーラがお似合いのカップルらしさを、こっちは漸くという感想を抱いてしまったんですけれど、同世代の気持ちの通じ合った初々しさもある恋人同士、的な雰囲気が出てて良かったなあ。レオくんの方にようやく頼りになる感が出てきた、という風に見えるのはウェルミィがやっとレオの事を認めて義姉を任せられると思うようになってきたからでしょうか。それともイオーラが照れ照れしてたからでしょうか。