【転生したら皇帝でした 6 ~生まれながらの皇帝はこの先生き残れるか~】  魔石の硬さ/柴乃櫂人 TOブックス

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
他国の侵攻が止まらない。奇襲からの総攻撃に防戦一方が続く。 帝国はこれくらいで揺るがないと示すため余裕のふりをするカーマインだが、 内心は(ナディーヌとの結婚式中なのに最悪……)とブツブツ。なんとか戦略を立て直すなか現れたのは──「任務完遂するので、好きにさせてくださいね♪」 戦が大好きすぎて、死も厭わない脳筋姫騎士!?予測不可能な状況に忠臣達すら慌てるなか、一騎当千の彼女と兵2500で敵1万に挑む。「余のために敵1万を討て!」 (こいつに任せて大丈夫か…?) 敵の奇襲を跳ね除け、“伝説の大勝利”へ!? エスプリ幼帝が天才(?)に賭ける、痛快王政サバイバルファンタジー第6弾!

帝国国内の内乱が片付きつつあることで、ここから周辺国との紛争が激化しはじめるんですね。
内乱による混乱に乗じて、というのもあるし、新皇帝が急速に国内を統一して帝国の国力が大国に相応しいものへと回復しはじめていることへの危機感もあるわけだ。
これ、かなり世界地図重要になってくるよなあ。今も地図と作中の内容を見比べながら確認中。
これブングダルト帝国って西側こそ海に面しているけれど、北東南全部領土紛争抱えているのか。しかも、北の騒乱にここで南側に面する三国が兵を動員して戦争を仕掛けてくる予兆。
いやこうしてみると、大きな反抗勢力をカーマイン自らの親征でだいたい叩き潰せて置けたのは幸いというかギリギリだったんじゃないだろうか。内乱勢力抱えたまま、ここから対外戦争はきついなんてもんじゃなかったはず。
正妃のロザリアが大陸の北西端に位置していて、反乱独立勢力のテアーナベ連合とトミス=アナクシィを挟んで存在しているベルベ‐王国の姫である事などが大きな例としてあげられるけれど、北部も南部もちゃんと遠交近攻、遠くの国と仲良くして近くの国に対抗しよう、という外交の基本政策の一つを着実に実行しているのが面白い。
そういう他国との外交を、ナディーヌとの結婚式という他国の使節を多く招いて行われるイベントの場を利用して、というかそれを目的にして.でしっかりやっているあたりも、戦記ものらしくて面白いなあ。同時に、皇妃の一人となるナディーヌの勉強の場としても活用しているし。ロザリアとナディーヌ、そしてヴェラと皇妃となる三人とはプライベートのパートナーだけではなく、政治や軍事の場においてもパートナーとして一緒にやっていく、という趣なのがよく見えるんですよね。

さらに面白いのがこの皇帝カーマイン、かなり積極的にナディーヌの父であるワルン公、そしてヴェラの父であるチャノム伯に領土をあげて、大貴族として遇しようとしていること。思いっきり外戚なんだけどむしろ皇帝の側から権力をわけて積み上げさせてるんですよね。
カーマイン自身、中央に集権して皇帝独裁を図ろうという目論見がないという事を明言している。
自身、生まれたときから傀儡としていつ利用価値がなくなったら謀殺されるか、という危険に耐えながら臥薪嘗胆し続けたていたカーマイン。帝国の政治を壟断していた摂政派アキカール公、宰相派ラウル公。この二大貴族派閥を粛清して権力を奪取した、という経緯を得ているにも関わらず、だ。
普通なら、苦労して取り戻した皇帝の絶対権力をむしろ強化して国の意思統一を図ろうとするだろうに。
ところがこの少年皇帝、歴代の皇帝の中で中央集権を図り皇帝独裁を行った皇帝の悪政、そのデメリットを考えた上で、権力のバランスを取ろうとしてるんですよね。
同時に、政敵であり自分の人生も生命も握っていたアキカール、ライル両公のことを国を保つ政治家としては相応に評価している、という事も明言しているのだ。権力争いで帝国の権威や領土などすり減らしていたり、何なら売国行為も行っていたわけだけれど、それでも敵対する二大派閥が争うことで均衡が保たれ、各自自分の領地ではちゃんとした治世を敷いていたようでもありますし。
ちゃんと皇帝と意思疎通していて、尊重するバランスの取れた複数の権力基盤が存在した方が、国としては安定する、という考えのようなのだ。これはそれだけワルン公爵とチャノム伯の事を信頼している、それに足る人物だと判断しているから、というのも大きいのだろうけれど。そんでもって、自分のあとの世代はあとの世代がちゃんとやれ、と考えてるあたり割り切ってるなあ、と。
少なくとも、今のロザリア、ナディーヌ、ヴェラの皇妃三人は姉妹以上に仲良しさんなので、後宮で代理政争なんてのは起きづらいでしょうし。
少なくとも十年単位で宮廷が安定するのは大きい。ここからしっかりと対外戦争に立ち向かえる体制が整いつつある。
まあそれを追い立てるように国際情勢も悪化の一途をたどっている……というかそれ以前から世界中これ戦争しすぎだろう、というくらいどこも隣国と戦争してるな、これ。

そんな中で、カーマインの帝国側にとんでもない将帥が現れた。エクタク伯。親族一同で男と偽って伯爵家を継承させてしまった男装の姫騎士さまだ。手続き的にどう考えてもアウトなので、本来なら女伯爵とかも今の御時世だとありだったはずなのに、公式にしてしまうとどうやっても処罰しないといけなくなるので公然の秘密にしないといけなくなった、というなんだこれ、という一族である。誰か止めろよ、いや止まらんかったのか、一族全部頭脳筋すぎて。ずっと政治関係でわちゃわちゃやって謀殺しあってた帝国で、よくまあこんな武辺一辺倒の脳筋一族が生き残っていたよなあ、と思えるくらいバカの巣窟である。
そのバカの筆頭こそが、このエクタク伯。そして、このエクタク伯がヤバい、相当にヤバい。
これ騎兵の権化だ。騎兵という概念の極みだわ。
騎兵っていうのはこれ調べれば調べるほど、特殊な兵種であることがわかってきます。戦闘ユニットとして使い方があまりにピーキーで難しいんですよね。使い所を間違えると途端に不良債権とかしますし、雪が溶けるように戦力が消滅してしまう。遊兵となって意味をなくしてしまう事も多い。極めて限定的で、しかし強力極まりない決戦兵器なわけです。……これを決戦兵器として運用できた将ってどれだけいるんだろうか。大体、相手の騎兵を相殺するための抑え駒として使うのがせいぜいだったんじゃないだろうか。ポーランドのフサリアなんてのは特殊も特殊の極みでしょうし。あと、アホみたいにお金がかかる。維持するだけで死ぬ。金食い虫の極みである。そんなアホみたいにお金がかかるくせに、一当てするだけで溶ける。負けたら全壊、勝っても半壊ってなもんじゃなかろうか。司馬遼太郎は、その小説内で日本陸軍騎兵の父秋山好古将軍にガラスぶん殴って粉々になったガラスと血塗れの拳を見せて、騎兵とはこれだ! と言わせてましたけれどこれって実際にあった逸話なのかそれとも司馬遼特有のそれっぽいフィクションなのかどっちなんでしょうかね?
ともあれ、これは確かに実にわかりやすい表現だと思う。
そんな騎兵運用の天才性の粋で権化みたいなのが、このエクタク伯なんですよ。まさに純粋騎兵。単体の騎兵としても誰よりも強く速く長く走れ、指揮官としても天性の勘所を持っている。
この巻であげる彼女の戦果は、ちょっと尋常じゃなくて明らかに将器が今まで登場した指揮官クラスの中で突出しています。ってか作品の作風の中ですら異端ですよ、彼女だけ。
一方で彼女はあくまで騎兵であって騎兵でしかなく、騎兵である事以外本当に何も出来ないしアホです、頭悪いです。政治なんてさっぱり出来ませんし、軍事ですら騎兵を動かすこと以外なにもできないでしょう。騎兵をもっとも効率的かつ効果的に動かす、という意味では戦局を誰よりも見通せるかもしれませんけれど、これそれ以外は全然何にも出来ないし観点がそもそもないですし、考えるという発想もないでしょうね。まさに彼女自身がピーキー極まる騎兵そのものな存在になってる。
本作、主人公のカーマイン含めて名将と呼べる戦争の天才ってほぼ存在しないんですよ。カーマイン防衛戦には定評が出てきてますし、実際親征で劣勢を覆して大勝しているように戦場指揮官としても有能な部類なんでしょうけれど、多分100点満点中70点台の部類だと思うんですよね。
他の戦巧者とみなされてる人たちも、わりとオーソドックスな指揮官が大半だと思うわけで。しかもそれも少数、味方の大半はそんな戦強くない。内乱でも今回も味方、負けてえらいことになってる場面多いですし。
そんな中で、エクタク伯のそれはちょっと異常なレベルで英傑なんですよねえ。でも、ほんと騎兵しか出来ないあたり、バランスは取れてるんだろうなあ。普通、騎兵の名将って他の作品でも出てはくるんですけれど、名将である事を求められるわけですよ。つまり、騎兵であること以外の様々な要素でも能力を求められて、それに応えている人が多くて…ほんとに騎兵しか出来ないキャラって、ここまで純粋騎兵なキャラってかなり珍しいんじゃないだろうか。
それでも、これから対外戦争増えてくる中で、外国の優秀な人材がどんどん見えてきている中でエクタク伯みたいなのが陣営に加わったのは大きいですよ。ジョーカーのあるなしは全然違う。

と、今回は本格的な帝国包囲網のはじまる前段階、準備回みたいな感じで、北の戦線に大きな楔を打ち込んだ、って所が今回の見所だった、と思ったところでラストに凄まじい爆弾が投下されてしまいましたよ。相変わらず、予期せぬところで事前のカーマインの計画が破綻するw 取らぬ狸の皮算用というわけではなく、堅実に計画立てているはずなのに、毎回最後に予想外の所から吹っ飛ぶよなあ。ご愁傷さまである。